俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
テスト休みの3日間も過ぎ、今日ついにテストの結果が返ってくる日だ。
楽しみにしているのかは知らないが今日起きたのは朝の5時半だ。
どれだけ楽しみにしてるんだよ、俺は。
スマホゲームで時間を潰し、小町が起きる7時に居間に行くとちょうど朝飯を作ってくれている最中らしく、良い匂いがする。
「そう言えばさ、お兄ちゃん職業体験どこ行くの」
「電子機器メーカーだってさ。多数決なんて数の暴力だ」
「そんな腐った眼をしながら顔だけきりっとさせて言わないでよ。出来たよ」
そう言われ、テーブルに着くといつものスクランブルエッグとパンに今日はハムとチーズが付いた結構豪華めな朝食だ。
全ての具材をうまい具合にパンにはさみ、塩コショウを少しかけていただく。
でもあの意見集約力はすげえよな、隼人の。バラバラだった意見が一瞬にして電子機器メーカーに集めたからな……これぞ真のリア充にのみできるとされている技か。
「あ、そう言えばお兄ちゃんちゃんとお菓子の人と話せてたんだね。小町安心したよ~」
「……お菓子の人? 誰だよ」
「あり? 言ってなかったっけ?」
「あぁ、聞かされてないな。自分にはどうでも良いことはすぐに忘れる小町さまの記憶力の前にお菓子の人の名前なんて聞かされておりませぬ」
そう言うと小町は嫌なところを突かれたのか乾いた笑みを浮かべながら頭をかく。
そんなにプリティーな笑顔を浮かべながらこっちを見ても俺は許さん。DVD返しに行ってくれと言った入院中にレンタルビデオ店から催促の電話がかかってきたときのあの憎しみわな。
おかげで延滞料金盗られたし……許すまじ!
「で、誰なんだよ」
「結衣さんだよ。あのお団子ヘアーの」
…………由比ヶ浜があの事故の時に俺が助けた女の子か……まさか同じクラスだったとわな。
「そっか」
「うん。あの時結衣さんの顔見てビビッと来たの」
「初対面の時に名前を憶えておけよ」
「いや~。その時お菓子が美味しいってことくらいしか覚えてなくて」
とりあえずこいつは1回、脳改造手術を受けることをお勧めしてやりたいわ。
「…………」
あれから1時間と30分後、俺は答案用紙を片手に驚きのあまり、椅子に座ったままボケーとしていた。
別に点数がめちゃくちゃヤバかったわけじゃない……むしろ逆だ。超絶良かった。人生の中で一番と言っても良いくらいに点数がいい。
全教科96以上ってやべぇ……俺の時代が来た。
だが重要なのはそこじゃない。この点数で雪乃に勝っているかどうかだ。それを確かめるのは職業体験が終わってからカフェで落ち合ったときだ。
「ヒッキー!」
「っ! いきなりでかい声出すなよ」
「ごめんごめん。見て!」
そう言うと由比ヶ浜は答案用紙の下の方をもって扇子のように広げ、俺に点数の部分をこれでもかというくらいに見せつけてくる。
ほとんどの教科が70越えだが数学だけ何故か50を下回っている。
あんなに雪乃と数学やって50切るって……勉強会やってなかったらヤバかったんじゃねえの。
「こんなにいい点数取ったの初めて!」
「へーそりゃよかったな」
「ヒッキーは……え、なにこれ!?」
俺から答案用紙を取ってパラパラとめくっていく度に由比ヶ浜の表情が驚きの色に染まっていき、全部見終わったころにはあり得ないとでも言いたげな表情で俺を見てくる。
「全部90以上とか……ヒッキーって本当に頭良かったんだ」
「何気に酷いぞお前……そりゃお前、目標にしてる人がヤバいからな」
「目標って……ゆきのん?」
そう言う由比ヶ浜の表情はどこか悲しそうだった。
「まあ……そうだけど」
「そっか…………そろそろ行こっか」
「そうだな」
昼休みを迎えるとそれぞれ希望した企業へと向かう。
本来は俺と戸塚と隼人の3人グループだったはずが隼人というキャラがいることにより、クラスのほとんどの女子がこのグループに乱入してきて凄まじい大所帯になってしまった。
いったいどこの大名行列ならぬ葉山行列だって話だ。
そう言った行列での俺のポジショニングはいつも通りの最後尾。前を見れば楽しそうにキャッキャウフフと喋りながら歩いている連中がいるがどいつもこいつも俺と隼人が小学校からの腐れ縁の仲だという事に気づいている者は誰もいまい……由比ヶ浜を除いてだが。恐らく奴らはこう思っている……葉山君みたいな人が比企谷みたいなやつと親しいわけないじゃん……と。そう言うフィルターを最初に張っておくことでさらに葉山隼人というイケメンを輝かしく見せるのだ。フィルターというよりもゴーグルと言った方が良いか。まぁ、そんなもんだ。小学校のときだって俺と隼人が知り合いだと言う事を知った奴らは全員が全員、驚いていた。
まさかあんな奴が葉山君の友達だなんてってな……逆に雪乃と隼人が昔からの馴染みだと知った時は妙に納得していたな。
企業に到着し、職員の話を聞くがその際のポジションも連中の一番後ろ。
職員の説明も終わり、自由に見学の時間になり、1人で機械が動くさまを見ていく。
さっきの職員さんも言っていたが機械にも無駄な部分を入れることがあるらしく、そうすることで機構自体に余裕が出来て耐用年数が上がるんだとか。
無駄な部分ねぇ……俺の関係で言えば雪乃と隼人という一直線にピタッとくっついている小さな球みたいな感じだな。でもそんなことで俺の耐用年数が上がるかと言われたら否定するしかあるまい。
人間関係で無駄な部分は確かに誰にも触られないから壊れることはあまりない…………でもそれ以上に厄介なのは自分自身で勝手に壊れることがあると言う事だ。今の俺みたいに雪乃の評判を気にしすぎて最終的に雪乃に心配をかける……そんな感じだな。
「お、比企谷もここにいたのか」
「先生……見回りっすか?」
「まあ、そんなところだ……いや~。日本の技術力は素晴らしいな。私が生きている間にガ〇ダムとかI〇とかどこでもドアとか開発されないだろうか」
え、何この人……こんなに目がキラキラしてる人久しぶりに見たわ……先生、少年の心を忘れてないんだな。
「ところで比企谷」
「はい?」
「そろそろ一月が経つわけだが正式部員として入部するか?」
「…………」
そう言えばそんな理由で奉仕部にぶち込まれてたな……雪乃と一緒にいる生活が楽しすぎてそんな設定頭から弾かれてたわ……そう考えるとやっぱり、俺は雪乃にゾッコンだな。
「そう言えばそんなことありましたね……まぁ、正式入部したいっすけど」
「よかろう。部活に人が増えるのは良いことだからな。活性化するというものだ……ところで比企谷よ」
「なんですか?」
「…………あの許嫁とか言うのは本当なのか?」
そう言う先生の瞳は何故かさっきのキラキラは消滅し、おどろおどろしく、混濁とした闇の色に変化しており、その瞳を見ているだけでどこか吸い込まれそうな感じがしてたまらなく怖い。
な、なんだこの混濁とした瞳は…………先生、そんなに結婚したいのか。
「ま、まぁ許嫁といいますか……小学生の頃に婚約届けを書いたといいますかひゃぁ!」
肩に回されている先生の腕に力が加えられ、痛みが走る。
「……うぅ」
「は?」
「なんで将来の夢は専業主夫とか書く奴には婚約者っぽい奴がいて私にはいないんだー!」
えぇぇぇぇっぇ!?
突然先生は目から大粒の涙をポロポロ流し、号泣し始めた。
「ぐすっ! 公務員で給料も安定しているし料理だってちょっとはできるし自慢じゃないがスタイルもいいのになんで……何でこんなやつばかり結婚していくんだ!」
「し、知りませんよ……そ、それに先生だってまだ泣くくらいに急ぐ必要は……あ、でも焦る必要はあると思いますけどまだ先生は物件としては最高です!」
「……そうだな……焦る必要はあるな……ハハハハ…………じゃあ比企谷君、実りのある職業体験を」
そう言いながら先生は右に左に体をフラフラさせながら去っていく。
…………大人の社会の闇の一端を垣間見た気がした……やっぱ大人の社会の闇って怖い……つうか怖い。
見学を終え、エントランスまで戻ってくると見慣れたお団子ヘアーが見えた。
「あ、ヒッキー遅い!」
「そこまで怒るなよ……隼人たちとは行かなかったのか」
「まぁ、ヒッキーを待っていたっていうか……ほ、ほらどうせテストお疲れ様会でカフェ行くし!」
いつからそんなお疲れ様会みたいなものになったんだ……まぁ、別に主旨は間違っちゃいないから別にいいんだけど……いや、間違ってるのか?
とりあえず外に出て雪乃との集合場所であるカフェに向かって歩き出す。
「……ねえ、ヒッキー」
「あ?」
「その……今度の日曜日、ちょっと付き合ってくれない?」
「…………まぁいいけど」
断ろうとしたがどこか由比ヶ浜の表情を見ていると断ることが出来なかった。
「行こ、ヒッキー。もうゆきのんも来てるだろうし」
「あぁ、そうだな」
そう言い、俺達は早歩きで集合場所へと向かう。
「あ、ゆきのんやっはろ~」
「こんにちわ、由比ヶ浜さん、八幡」
「おう」
カフェの前で待つこと5分ほどで雪乃がやってきた。
どうやらここから少し離れた所から小走りできたらしく、少し額に汗が出ているのが見えた。
…………なんかエロく感じるのは俺だけか?
息を少し切らし、髪をかき上げる動作を見ていると何かいけないものでも見ているかのような感覚を抱き、つい目をそらしてしまう。
「どうしたの? 八幡」
「あ、いや。なんでもない……行くか」
3人でカフェに入り、店員に開いているテーブル席に案内され、俺の隣に雪乃が座り、それに対面する形で由比ヶ浜が座る。
「じゃじゃーん! あたし今回超良かった!」
そう言いながら由比ヶ浜は自分の答案をバン! とテーブルに叩き付ける。
「いや~もうゆきのんとヒッキーのお蔭だよ! お母さんに写真送ったらケーキ買ってくれるって!」
どれだけ低空飛行な成績を続けていたんだよ……うちの家族なんか小学校の頃から成績良いからもうテスト見せなくていいぞって公言するくらいだぞ。そのくせして親父は小町が90以上取ったら盛大に喜んで外食とか普通にするのに俺が平均90以上だったとしても「へ~。で?」っていう親父だからな。あの甘々親父め。
さて、問題はこっちだ。
チラッと雪乃の方を見てみるとちょうど目が合うが彼女の口角が少し上がる。
「な、なんだか2人の間に火花が散ってる」
「さあ、八幡。まずは英語から」
「あぁ…英語からな」
そう言い、同時に答案用紙をテーブルに出すと右上には100という数字が書かれている。
ふっ。流石は帰国子女……だが俺だって雪乃と一緒に英語の本を読むために英語を勉強したんだ……これくらいのテストなんて100点は何らおかしくはない。勝負所は次だ。
「うそ!? 2人とも100点!? な、なんでテストで満点とか取れんの!?」
「さあ、次は何を出しましょうか」
「数学だ」
「ええ……では」
テーブルに出すと俺が96点、対して雪乃は99点……ていうか数学で99ってもう漢字間違いとかくらいしか点数引くところねえだろ。
チラッと間違っている部分を見るが証明問題で必要ない部分を省略したにもかかわらず、教師の判断で必要だと言う事にされて1点が引かれているというなんともうざったい理由だった。
実質100点か……ふっ。俺の本領はここからよ。
「次は国語だ」
俺、98に対して雪乃、96。これでマイナスは残り1点だけ。
そこからも勝ったり負けたりが続いていく。物理では雪乃が勝ち、化学は同点と言った感じで勝負は続き、最後は社会だけになってしまったがここまでの点数差は俺が2点、雪乃に負けている。
ちなみに由比ヶ浜はもう諦めたのかコーヒーとケーキを頼んで食べている。
「ふぅ……八幡。食らいつくわね」
「当たり前だ……お前に勝つために勉強してるようなもんだ……最後だ」
「ええ……」
互いに最後の答案用紙をゆっくりとテーブルに広げる。
「…………96と98…………」
「引き分けね」
プラスマイナス0となり、俺と雪乃の合計点数はまさかの同じという勝負を始めて以来、初めての事態に陥ってしまった。
勝てはしなかったが…………引き分けと言う事は同じ土台には立てたってことか…………ふぅ。今まで頑張ってきた甲斐があったな。
「あ、終わった? どっちが勝ったの?」
「引き分けよ」
「……え、じゃあヒッキーゆきのんと同じ1位ってこと!?」
「そうなるわね」
「……ヒッキーって見かけによらず本当に頭いいんだ」
「ヒデェ。俺の立ち位置下じゃね?」
まぁ、教室じゃ一部の奴としか喋らず、ただひたすら静かに暮らしてるせいもあるけど。
「まあ、とりあえずテストも職業体験も終わったし! お疲れ様会はじめちゃお!」
そう言うと由比ヶ浜はコーヒーカップを持ち上げ、俺に近づけてくる。
チラッと雪乃の方を見てみると困惑した様子ながらも呆れ気味に小さくため息をつき、カップを軽くぶつけたので俺も軽くぶつけた。
「お疲れ様」
「ん、お疲れ」