俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十七話

 ついにこの日がやってきた。

「ふぅ……睡眠時間は9時間とったし、復習した……あとは全力を出すのみ」

と息巻くのは良いがまだ時刻は朝の6時半。昨日、9時半に寝たのは良いが思いのほか早くに起きてしまい、ボーっとするのもあれなのでとりあえず今日の教科を復習する。

 大志と分かれた後、すぐに川崎姉に短期のバイトをするという旨のメールを送るとテスト終了後3日ほど入ってほしいと連絡があった。

 とりあえずその3日までに川崎姉の心情を聞きだして……いや、他人から聞かされるよりも本人から聞かされた方が良いかもな。

 ただ一応、俺なりの推測はたてた。大志が言うように中学までは真面目で進学校の総武高校に行くくらいの真面目な奴が高2になって急に不良化したと言う事は理由ありきなもの。

 多分……多分だが川崎姉は塾の費用を稼いでるんじゃないかと推測した。2年にもなれば教師からも進学の話が出てくるし、そういった広告なんかも多く投函されるから嫌でも目にする。それに仮に川崎姉が大学に進学したいと言う事で総武高校に来たのであれば辻褄は合う。

 そんなことを考えていると7時にアラーム設定したスマホがなった。

「7時か……もう起きただろ」

 部屋を出てリビングに向かう途中、凄まじい寝癖に半眼の我が妹・小町が洗面所の前でうつらうつらとしているのが見え、ちょっとイタズラ心が湧いた。

 グヘヘヘ……食らうがいい。

「ひゃぁぁ! な、何すんのお兄ちゃん!」

 冷凍庫から大急ぎで氷を取ってきて小町の首筋にピタッとくっつけると凄まじい勢いで目が覚めたらしく、半開きだった目は完全に開いた。

「どうだ。俺特製覚醒手術は」

「手術っていうかもう拷問だよ……あ~びっくりした」

「朝飯、作ってくれ」

「なんか会話だけ聞いたらニートだよね」

「悪かったな」

 リビングのソファにぐでっと座り、テレビをつけて適当なチャンネルにし、ニュースをボケーっとしながら小町が朝飯を作る音を耳に入れながらも見る。

「お兄ちゃん、大志君のお姉さんのこと大丈夫なの~?」

「どういう意味だよ」

「だってお兄ちゃん雪姉くらいしか接する人居ないからキョドるんじゃないの? やめてよ~。小町がバイトし始めた時にすでに有名なキョドり具合が噂になってるなんていやだからね」

「なんで俺とお前が同じ場所でバイトすることが前提なんだ」

 バイトなんてあんなの人間関係をうまく継続できるリア充みたいなやつにしかできないものであって俺みたいな人間関係をまともに築きあげれない奴がするべきものじゃない。

 ほんと最悪だった。なんで先輩面した年下にパシリにされなければならんのだ……いやね。社会に出たら……まぁ専業主夫希望だけど仮に社会に出たとしたらそりゃ年下の奴が上司なんてことは大いにあり得ると言う事はネットからもリアルからも情報が入ってくるからいいとしてもだ。なんで年下の奴にジュース買って来いとか飯買ってこいとか言われなきゃなんねえのかね。2日で辞めたわ…………まぁ、そこで辞めずにそいつ以上に働けたら何も問題はないんだろうけどさ。

「お兄ちゃ~ん。朝ごはんできたよ」

「ん、ありがと。いただきます」

 テーブルにつき、パンと卵を挟んだサンドイッチを食す。

「今日からテストなんだよね? 頑張ってね」

「どうも。お前の方こそテストいけんのかよ」

「小町はお兄ちゃんよりも評価が甘々だから大丈夫!」

 そんなどっかのペコちゃんみたいな顔で親指たてられても反応に困るわ。

「お前、まさか総武高校に来たいのも」

「そっ! お兄ちゃんの甘々な評価を受け継ぎたいのです。イージーモードが一番!」

 こいつ、絶対に俺以上に引きこもりニートになる確率が高いんじゃねえの。

 いやだぞ。兄妹揃ってご近所さんからひそひそ白い目で見られるのは……でもそう言えば何故かご近所さんからあまり俺に対しての評価はダメなものは聞かないよな……なんでだ?

「ところでさ」

「あ?」

「雪姉とはいつ結婚するの?」

「ぼはっ!」

 そんなことを言われて思わず食べていたものを吐き出してしまった。

 こ、こいつは朝から何言ってんだ……お、俺がゆ、雪乃とけ、け、結婚だなんて……い、いやね? 俺だってそりゃしたいさ……したいけどまだなんだよ。そう言う話は。あいつと同じ場所に立ってようやくそんな話ができるんだ……ふぅ。

「とにかくその話はまた今度だ。遅れるぞ」

「うわっ! やっばー! お兄ちゃん早く!」

 皿を台所に置き、カバンを持って家を出て後ろに小町を乗せて学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日目の今日の教科は数学と物理という理系科目。

 問題用紙を配られて問題を見た瞬間にほとんどの問題の答えとその解き方の道筋がパッと頭に浮かんでくるので試験が始まってから35分ほどで全てを埋め、残りの15分で見直しを3回もした。

 そんな感じで数学は自信満々に終了し、次の物理でも少し手こずったがそれでも40分ほどで終了し、見直しも完了し、自信満々で終えた。

 2日目、3日目とテストをこなしていき、そしてようやく1週間のテスト期間が終了した。

「疲れたー! ヒッキーお疲れ!」

「おう。悪いけど今日奉仕部休むから」

「へ? なんか用事なん?」

「まあな。雪乃にはもう言ってある」

「オッケー」

 廊下で由比ヶ浜と分かれ、下駄箱へと行くと不機嫌顔の川崎姉が立っていた。

「遅いんじゃないの」

「まだ待ち合わせ時間じゃないんだが」

「……早く来なよ」

 駐輪場から自転車を取り、川崎姉の案内のもと連れられたのは超高そうな雰囲気を醸し出しているホテルでキョロキョロと周りを見渡してみるとさっきからスーツをビシッと着こなした男性や女性が電話しながらパソコンを足に乗せてガードレールやベンチに座って忙しそうに指を動かしている。

 そのままホテルに入り、エレベーターに乗り込むと上のボタンが押され、扉が閉まって静かな音をたてながらエレベーターが上に上がっていく。

 目的の階に到着し、扉が開かれると広がっているのはバーラウンジ……バー?

「え、お前バーでバイトしてんの?」

「悪い?」

「い、いや別に悪かないけど……ていうかこんな時間に制服できていいのか? お前年齢詐称してるんだし」

「この時間は誰もいないし。こっち」

 川崎姉に案内のもとバーラウンジの奥の方にあるstaff・onlyと書かれた扉に入り、慣れた手つきで着替え用のロッカーを開けるとバサッと俺に制服らしき服を投げ渡された。

「それに着替えて。営業時間までまだ時間あるから必要なこと全部教えるから」

「…………」

 一瞬、俺は川崎大志のお願いと短期バイトの申し入れを承ったことを軽く後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト休みの期間は本来は2日間なんだが今回はたまたま祝日が挟まるために3連休となったのでほとんどの連中は喜んでいるが正直、俺は喜んでいない。

 最初の1日目は川崎姉にスパルタの様に徹底的に必要な知識と動作を教えられ、その日の営業時間からバリバリ働かされ、ミスったら怒られはしなかったが川崎姉にめちゃくちゃ睨まれた。

 あいつ眉間に皺寄せて睨み付けてくるからほんと怖い……マジで怖い。

 だがそこはあの完璧超人雪乃に追いつくために努力に努力を重ねて中途半端にハイスペックな俺。2日目にはそんなミスは一切しなかった…………何故かそれでも睨み付けられたけどな。

 そして短期バイト2日目の業務が終わった真夜中、俺は川崎姉と帰っていた。

「あんた中々やるじゃん」

「そりゃどうも…………ところで聞いていいか」

「何を」

「なんで年齢詐称してまで働いてんだよ」

 今回の依頼の核心部分を尋ねると川崎姉は一瞬、歩くのを止めたがまたすぐに歩きはじめるが俺の方からは顔を逸らしてこっちを見ようとしない。

「……別にあんたには関係ないでしょ」

「…………何もなかったら俺だって聞くどころか短期バイトなんてもん承らねえよ」

 今回は運が良かった。川崎姉が俺に短期バイトを提示してきたのと川崎大志の依頼が重なったからな。そうじゃなかったらこんなもん絶対にやってないわ。

「あんたなんか大志から言われてんの」

「中々鋭いな…………まあな。姉貴が最近帰ってくるのが遅いし親との仲も微妙だからってことでお願いされたんだよ。そうじゃなきゃバイトなんかしてない」

「はぁ…………」

 川崎姉はため息をつき、頭をガシガシと掻き毟る。

 多分、こいつは小遣い稼ぎのために深夜のバイトをしてるんじゃない。もしそれだけなら深夜に働かなくても日中に働けば十分に小遣いは稼げるし、土日で十分なはずだ。でも平日のこんな夜遅くまで働いていると言う事は小遣い稼ぎではない何かの理由があるはず。大志が知りたいのはそこだ。

「……別におかしな理由なんてないし」

「じゃあ大志に話してやれよ。別に話せない理由じゃないんだったら親にも妹や弟にも黙ってバイトする意味はないだろ。むしろそれはお前にとっては逆効果なはずだ。家族関係がギクシャクするからな。違うか?」

 そう尋ねるが相変わらず川崎姉の表情はこちらからは見えない位置にあり、うかがい知れないが少なくとも何も反論できないのは確かだ。

「……」

「……俺にも妹がいるから言えることなんだが……案外、何かを秘密にしてるときって大体バレてるぞ」

「いきなりなに?」

「ソースは俺。中学の時、エロ本読んでたらいつの間にか……リビングのテーブルの上に置かれていました」

 流石にあの時は泣いた。久しぶりに泣いた。ていうか恥ずかしさのあまり泣いたのは人生で初めてだった。

 なんであいつあんなにも極悪非道なことができるの!? 男子ならエロ本を秘密裏に購入してそれを読むなんてことは誰だって通る道じゃん! あの時のかあさんと小町の蔑んだ眼差しは辛かった。あと何故か親父にラーメンをごちそうしてもらったけどな。

「は? だから何?」

「要するにだ。被害を被る前に喋った方が後々楽だってことだよ。家族関係のギクシャクって結構長く残り続けるもんだろ。それに……長男・長女は下の妹とか弟とかに心配かけさせないっていうことも仕事の内にあるんじゃねえのって話だよ」

「…………」

「まぁそれでも話さねえって言うんなら別にどうでも良い。他人の俺が他人の家族のことまで首を突っ込む訳にもいかないし。そういうこと……じゃ」

 分かれ道で自転車に跨り、ゆっくりと家へと向かって漕ぎ始めた。


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