俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十四話

 ドアがノックされて部室内に入ってきた奴はイケメンで茶髪にゆるくあてられたピンパーマにオシャレなフレームの眼鏡をかけ、部活終わりなのかエナメルバッグを肩から下げているイケメン男子生徒。

 頭が上がらない人物の1人であり、雪乃に続く俺のもう1人の幼馴染であるスクールカースト堂々の1位を保守し続けている葉山隼人が入ってきた。

「こんな時間に悪い。試験前だってことで中々部活を抜けさせてくれなくてさ」

「釈明はいいってーの。ちゃちゃっと用件言えよ」

「相変わらず八幡はつれないな」

「生憎これが俺なんだよ。バーカ」

「え? え? ヒッキーって隼人君とも仲良いの?」

「八幡とはかれこれ小学校からの付き合いだよ」

「人はそれを腐れ縁という」

 そう言うと隼人は乾いた笑みを浮かべながら俺の方を見てくる。

 周りから見れば変な感じに見えるだろうがこれが昔からの俺達の挨拶みたいなもんだ。まぁ、いわゆるなれた仲だからこその空気ってやつだ。実際にこいつと付き合いが長いおかけで大体はアイコンタクトで分かるという腐女子の格好のネタのような能力までつけてしまったからな。

「で、用件は?」

「あ、そうそう。平塚先生から悩みを相談するならここが良いって聞いてさ。これなんだけど」

 そう言い、隼人はポケットから携帯を取り出してカチカチッと素早くボタンを押して俺たちの方に見せると画面にはある一通のメールが表示されていた。

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた。中学生から金を巻き上げ、寄越さなかったらボコボコにする屑。見つかってないだけで実は万引きをかなりしている』

「あ、これ」

 どうやらこの前、由比ヶ浜が言っていたチェーンメールとやらがこれらしい。

 ていうかかなり個人的過ぎるな……下手したらこれ警察沙汰にもなりえるんじゃないのか?

 チェーンメールの対処の方法はいくつかあるけどこの場合は素直に先生に話して大人に対策をしてもらった方が良いと思うけど平塚先生にここを進められたってことはもう先生たちが知ってるってことだろう。

 ただチェーンメールの大本を突き止めるのはかなり難しい。最初は2人に送ったとしてもその2人からドンドン枝分かれしていくからな。

「で、お前が望む最終ゴールは?」

「できればチェーンメールを送った奴を探し出して送らない様に言いたいんだけどそれは難しいと思うから戸部の疑惑を晴らしたい」

 疑惑を払拭することほど難しいことは無い。ご近所さんとかならまだしも今回の舞台は総武高校全体と言っても過言じゃない。

「つまり事態が最悪な方向へ行く前に収束させたいと言う事かしら」

「そうなる。頼めるかな? 俺も手伝う」

 雪乃は少し考える素振りを見せ、口を開く。

「そうね。チェーンメールは人の尊厳を踏みにじる最低な行為。その大本さえ叩けばいい話よ。ねえ、八幡」

「そうだけど難しいんじゃねえの? 大本の特定って」

 まぁ、俺の隣にいる雪のお嬢様はそれを成し遂げたんだがな。リアルにどうやって成し遂げたんだ……多分、あの最高峰の頭脳を駆使して見つけ出したんだろうな……でも俺だってあの時の様にもう幼くはない。雪乃がやるといった以上は俺も頭脳を働かせねばな。

「そうね。でも今回は至極簡単よ。犯人は八幡のクラスにいるわ」

「え、なんで? 他のクラスかもしれないじゃん」

「他のクラスの奴が顔も知らない他クラスの奴1人をピンポイントで誹謗中傷のチェーンメール送るか? 普通、チェーンメールってある程度そいつのこと知ってないと送らないだろ」

「それもそっか」

 恐らく雪乃の言う通り、今回の首謀者は俺と同じクラスの奴だろう。ここまでひどく戸部個人のことを書き連ねるほど戸部のことを憎んでいるってことは相当なことだろうし、ある程度は交流のある奴だろう。

 ただ戸部は誰かを苛めるような奴ではないのは確かだ。ズカズカと入ってくる点を除けばそこらへんにる普通の男子高校生と何ら変わらない。

「その戸部君とか言う人の印象を教えてくれるかしら」

「あぁ。戸部は俺と同じサッカー部なんだ。金髪で一見怖そうに見えるけど実はいい奴でグループとかで一緒になると盛り上げてくれるムードメーカーだな。文化祭とか体育祭で盛り上げてくれる良い奴だよ」

「そう……じゃあその戸部君の嫌なところは? もしくは鬱陶しいと思う所など」

 雪乃の次なる質問に爽やかな笑みを浮かべていた隼人の顔から笑みが消え、驚いたような表情をしながら雪乃のことをじっと見る。

「え、えっと一応聞くけど何でそんな事」

「簡単な話よ。チェーンメールのつるし上げに選ばれると言う事は彼のことを鬱陶しいと思っている人が少なからずいると言う事。つまり彼にはそう思わせる一面があると言う事よ」

 表があれば裏があるように良い顔をしている裏には必ずと言っていいほど悪い顔がある。この世界に良い顔だけしかない人間しかいないのならば雪乃のような正直者が生きにくい世界にはなっていない。悪い顔を持っている奴がいるから生きにくい世界になっているんだ。

 そんなことなど考えたこともないのか隼人は言い出せずにいた。

「どうしたの? 早く言ってくれないと対策は打てないわよ」

「あ、あぁ…………」

 普通なら友達の裏の顔なんてものは考えない。こんな質問をされて答えられる方がおかしい。

「由比ヶ浜さんは?」

「あ、あたし? ん~。あたしは戸部っちと一緒にいてそんなこと思ったことないかな~」

「そう……八幡は?」

「あいつと喋ったことはないが外から見てる限りではズカズカ入り込んでくるところが俺は嫌いだ。良いように言えばだれとでも隔たりなく接することができるんだろうけど悪いように言えば入ってほしくないところまで平気で入ってくる」

 隼人の表情はあまり良いものじゃないが自分でも気づいていたのか俺の言ったことに何か言い分をしようという風には見えないし、由比ヶ浜も何も言ってこない。

「つまり空気を読めないと言う事ね」

「まぁ、そうなる」

 ただ1つ解せないのはチェーンメールの送り主はそこまで戸部に憎しみを抱いているのかと言う事だ。確かに戸部はズカズカ入ってくる鬱陶しい奴だが少なくともメールに書かれているような屑なことはしない男だ。

 もしも真実ならば隼人がそんな奴と友達になるはずがないしな。

「犯人を捜すということなのだけれど……どうしましょうか」

「とりあえず同じクラスの俺達が様子を見るしかないな」

「そうだな……」

 隼人の表情は少し暗い。

 誰だって同じクラスの連中を疑いたくないものさ……でも、時にそれは首謀者からすれば都合のいい性質になってしまうことだってある。

「そんなに長くは日は設けられないわね」

「1日か2日ってところか」

「あ、あたしはどうすればいいかな?」

「とりあえず由比ヶ浜さんは軽く探りを入れる程度でいいと思うわ」

「うん、分かった」

 ふと、時計を見てみると既に最終下校時刻を5分ほど超えている。

「今日はこの辺で終わりね」

「あぁ、ごめんな。こんな遅い時間に来て」

 隼人はそう言うとエナメルバッグを肩にかけ、そのまま部室から出ていき、俺達も鍵を返して由比ヶ浜はバス、俺と雪乃は自転車に2人乗りで家路へと着く。

 もう恒例となってしまったこの2人乗り。腰回りに感じる温もりのことを考えるたびに自然と口角が上がってしまう。

 俺も末期症状だな…………早く、雪乃の隣に立てるくらいに俺も変わらねえと……。

「ねえ、八幡」

「ん?」

「八幡のチェーンメールが回った時のこと覚えてる?」

 忘れるはずがない。俺は持っていなかったが他の連中の大半は子供ケータイなるものを持っており、そいつらを中心にして俺を誹謗中傷するそれはまあ酷いチェーンメールが出回ったらしい。実名はもちろんどこのクラスか、出席番号は何番と全て出たらしい。クズだの死ねだの悪魔だのと小学生らしいものだったらしい。

 それでそのメールがたまたま何かの手違いで雪乃のもとにも届いたらしい。

「あぁ、覚えてる。それがどうした?」

「今回、私はクラスが違うから何もできない……だから八幡にアドバイス。放火魔の特徴って知ってるかしら」

「確かあれだろ。ただの野次馬は燃えているものを見てるけど放火魔は野次馬を見てるってやつだろ」

「そう。それがチェーンメールにも当てはまるの。私はそれを拡張して大本を見つけ出したの」

 ……マジでこいつ、将来プロファイリングの専門家としてテレビにでも出るんじゃねえの? それによくそんな事気づけたな。

「すげえな。よくそんな事気づいたな」

「八幡の為だもの」

 そう言い、ギュッと後ろから俺を抱きしめるように力を入れる雪乃。

 …………俺は雪乃にどれだけ迷惑をかければいいんだか。


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