俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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今日は2話更新で行きます


第十三話

 翌日の休み時間はいつも以上に騒がしい気がした。まぁ、それも仕方がない。昨日の終わりのHRで先生が言っていた職業体験のグループ決めが明後日にあるので連中は誰と行くか、そしてそいつらとどこへ行くかでさっきからキャッキャウフフ、ワイワイガヤガヤと楽しそうに喋っているが俺からすればそんなことはどうでもいいのだ。

 ボッチであるがゆえにグループ決めなどでは一件、不利のように思われるがそれは誤りだ。コミュ障でもない限り、すでに出来上がっている影の薄いグループに混ぜてもらえばあとは自由行動のようなもので誰とも喋らずに行動ができるのだ。これこそボッチの特性……今回ばかりは雪乃とは別行動だがな。あいつのことだからどっかの研究職かシンクタンクにでも見学に行くだろう。俺としては家事ヘルプサービスを展開している業者さんに職業見学に行きたいのだが却下されてしまったのだ。平塚先生から又聞きした話ではなんでも職業体験の理念に反しているらしい。まったくふざけるなって話だ。少子高齢化、女性の社会進出が叫ばれている昨今では介護・家事においてしたくてもできないという状況が山ほどあり、それを手伝う業者が今、話題だというのに何が職業体験の理念に反するだ。反するどころか今最先端の職業だろ…………ハァ。行きたかったな~。家事ヘルプサービス。

「うぉ!? まじかっけぇ!」

 そんなデカい声が聞こえ、後ろを振り返ると長髪の戸部とか言うやつが後ろの方でゲームをしていた連中と肩を組んでゲーム画面をマジマジと見ていた。

「すげえじゃん! 俺もこれやってるけどなかなかこれ落ちねえんだよな! ちょっと見せてくんね!?」

「う、うん」

 若干嫌そうな顔をしながらも戸部にゲーム機を貸す名も知らぬ男子。

 戸部はガチャガチャとゲーム機を弄り、時折すげぇとかの声を上げるが満足したのか礼を言ってその男子にゲーム機をすぐに返してまた隼人を中心としたリア充お話しグループの中へと戻る。

 いるよなあぁいうやつ。ろくに喋ったこともないのに共通の話題を見つけたらまるで長年の友達の様に喋りかけてくる奴。俺もああいうやつは嫌いだ。戸部はそれが少し強すぎる。まぁ、それが良いっていうやつもいるんだろうけど俺は大嫌いだ。

「比企谷君。おはよ」

「…………癒される」

「え?」

「あ、いやおはよう」

 戸塚が満面の笑みを浮かべながら挨拶をしてくれた瞬間、さっきまで俺の中にあったイライラが一瞬にして浄化され、さらに気分が高揚してくる。

 本当にこの子は何なんだろうか……まさか天使の生まれ変わりとかかな? いや~でもほんと……癒されるわ。

 あのテニスの一件以来、ちょくちょく戸塚が話しかけてくれるようになった。これで教室の奴らの名前を知っている人数は隼人、由比ヶ浜、戸塚の3人になったわけだが戸塚は友達ポジションではない。では何か。

 癒しを提供してくれる天子様だよ。アーメン。

「比企谷君は職業体験どこ行くか決めた?」

「いいや、まだ。1回提出したけど何故か拒否られた」

「どこ書いたの」

「家事ヘルプサービス業者」

「……ようはお手伝いさんってこと?」

 そう言いながら小首を傾げる戸塚の姿はまさしくチワワ、いや子猫と言った小動物のような可愛さがある。何とも不思議だ。これが俗にいう癒し系か。癒し系なのか!?

「まぁ、そんなとこ」

「そうなんだ……もしかしてもう行く人とか決まってる?」

「いや、それもまだ。適当なところに潜りこんで現地で自由に行動するつもり」

「それだったら……僕と一緒にならない?」

 その言葉の威力はまさにメガトン、いやギガトンパンチにも匹敵するほどの威力で今まで抱えてきた俺のイライラなどが一瞬にしてすべて浄化され、もう天国の昇天する勢いで俺の体が清く美しくなっていく。

 ……神様天使様戸塚様! アーメンアーメンナンマイダー!

「お、おう。班一緒に組むか」

「うん!」

 あぁー! 神様、この前は憎み口叩いてごめんなさい! こんな癒し製造機である戸塚彩加様を生み出した貴方のご功績、いやご両親を生み出してくださった、いや戸塚家の祖先を生み出してくれたご功績は一生この男・比企谷八幡の胸に刻み込み、一生! 永遠に受け継いで色褪せぬようにすることをここに誓いまする!

 なんだろうな……ほんと雪乃とは違うまた違う形のの愛が……ゲフンゲフン。

「あ、そういえば」

「どした」

「雪ノ下さんと比企谷君って幼馴染なの?」

「まぁ、そうだけど。それがどうかしたか?」

「ううん。互いに下の名前で呼び合ってたから仲いいんだなって」

 ……そう言えばいつ頃から下の名前で呼び合いだしたんだっけ……なんか気づいたら互いに下の名前で呼び合ってたよな。

「雪ノ下さんってどんな人だったの?」

「知りたいのか?」

「あんまり雪ノ下さんの話しって聞かないからどんな人なのかなって」

 まぁ、当たり障りのない部分なら大丈夫だろう。

「雪乃ってさ今は学年トップの成績だけど実は小学校の頃は俺の方が頭良かったんだぜ?」

「へ~そうなんだ」

「昔はよく遊んだもんだ。案外、あぁ見えて虫とかには驚いてたけどな。目の前にカブトムシとか飛んできたらキャッ! とか言って俺に抱き付いてきたり、猫を見かけたらたとえそれがどんな状況であっても中断して猫の頭を撫でにいったりしてたな。その時のあいつのにやけた顔もまた可愛いんだよ。あとあいつ、猫は好きなのに犬は嫌いなんだよな。犬が近づいてきたら俺の後ろとかに隠れたりしてまぁ、またそこが可愛かったんだけど。イタズラで犬の近づけたりしたらプンスカ怒ったりしててさ。またその表情も」

「あ、あの比企谷君?」

「あとジェットコースターとかに乗った時さ、隣にいる俺の手をギュッと握ってきたりしてそれもまた可愛いんだよ。クールに見えるけど実は意外と怖がりな部分もあったりするんだけどまたそこが良いんだよな。あと料理がめちゃくちゃ美味い。下手したら店でも出せるんじゃないかって言う位に美味くてさ。大体、その時はお代わりは2回以上はするな。特にパエリアが美味くて」

「…………ふふっ」

「ど、どした」

「いやね。比企谷君って雪ノ下さんのことが本当に好きなんだなって」

 そう言われた瞬間、さっきまで喋っていたことが何故か急にフラッシュバックし、恥ずかしくなってきて自分でも顔が赤くなっているのが分かるし、汗もかいてきた。

 し、しまった……ついマシンガントークしてしまった。は、恥ずかしい!

「い、今の話は内密で」

「えーどうしよっかな~」

 戸塚はそう言いながら小悪魔的な笑みを俺に向けてくる。

「ふふっ。冗談だよ。僕と八幡の秘密」

 ウインクをしながら唇の近くで人差し指を立てて秘密と言ってくる戸塚の姿にもう限界突破してしまった。

 あぁ、マジで神様のご功績は偉大だ。南無阿弥陀仏、アーメンアーメン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、いつものメンバーで部室に集まっていた。

 俺の隣に雪乃が座り、それをジト目で見てくる由比ヶ浜が目の前に座り、携帯をポチポチ、俺はそんなジト目を華麗なるスルースキルで回避しながら以前から読み続けている外国語の本を読んでいる。雪乃と一緒に。

「にしても……誰も来ないね」

「行列ができるほど並ばれてもこの学校ヤバいだろ」

「そうだけどさー。やっぱり思春期だから悩み多いじゃん?」

「お前とは違うってことだよ」

「それどういうことだし!」

 いや、むしろ由比ヶ浜は悩みが無さすぎるのかもな。

「でも思春期と呼ばれる期間であるがゆえの悩みを見ず知らずの人に打ち明ける人もいないでしょう」

「そりゃそうだけどさ~。もっとこうドーンって感じでやりたいっていうか」

「意味わからん」

 やはり由比ヶ浜結衣はアホである。だがそのアホは可愛いなどという言葉の範囲内なので特にイラつくこともないがやはり少し鼻につく。

 相変わらず由比ヶ浜のマシンガントークに雪乃はタジタジになりながらも一つ一つ対応しているがその表情はどこか楽しそうだ。

 ……やっぱり雪乃は笑っている方が良い。それが表情に出ていないとしても長年ずっと一緒にいる俺は分かる。今この瞬間、雪乃は笑っているのだと。

 だが…………俺は雪乃を笑わせてやるほど何かを出来ているのだろうか。いつも雪乃にしてもらってばっかりではないだろうか。基本的に俺から雪乃にしてやれることなんてものは無い。大体はあいつが1人で手に入れるからな。なら俺には何ができる。由比ヶ浜の様に雪乃を笑わせる魅力があるわけでもないし、隼人の様にキャッシュを数多く持っているわけでもない。そこら辺にいる少し頭が良いだけの学生だ。

 結論を言おう。俺は彼女の傍にいるにはあまりにも平凡ではないだろうか。

「ところでゆきのんは職業体験どこ行くの?」

「私は研究機関かシンクタンクかしら」

「し、しんくたんく?」

 平凡であるがゆえに俺は色々と変わろうとしたさ。バイトやお洒落とかな。でもどれもこれもすぐに燃え尽きてしまい、1か月以上続いたことは無い。

 バイトは働き始めた当初はよかったが後々、職場関係が悪化したことで辞めたし、オシャレはさっぱり分からなかったのでその日で終わった。勉強だって頑張っているけど雪乃に高校生になってからは一度も勝てていない。

 ならば運動ならどうだと思い、部活は体験入部はした。それが一番長く続いたな。2週間ほど続いたが2週間もしていると昔習ったこととかをだんだん思い出してきて新入生と3年生による紅白試合みたいなもので先輩に圧勝してしまったことから人間関係が悪化して速攻で辞めた。

 結局のところ、俺はその程度の人間でしかないんだ。人間は変われない。底辺で生まれた人間はずっと死ぬまで底辺なんだ。

 …………だったらどうすれば俺は雪乃の隣にいても彼女に何の迷惑もかけない奴になれるのだろうか。ボッチの俺がそんな奴になれるのだろうか。変わろうとして変われなかった俺が最後に出来ることは…………。

「八幡?」

「っ! おわぁ!」

 声をかけられ、我に返るとすぐ近くに雪乃の顔があり、驚きのあまりイスから転げ落ちてしまった。

「大丈夫? どこか具合でも」

「あ、いや大丈夫だ。ちょっと考えことしてただけだ」

「大丈夫? ヒッキー」

「あ、あぁ。まあな」

 考えすぎてたか……ふぅ。

 そんなことを考えているとドアがノックされた。


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