俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十二話

 特別棟の4階、グラウンドを眼下に望む場所に奉仕部の部室はあり、今日も外の部活の練習の声がよく聞こえるくらいに部室の中は静かである……ただし、音声に限ればの話だ。

 部室の空気はまるで嵐のように暴風が吹き荒れ、声を出すことを憚らせる。

 俺の隣にはもちろん雪乃が座っており、以前からやっている外国語の本を2人で読んでいるんだが俺達の目の前に座っている由比ヶ浜は頬を少し膨らませている。

「由比ヶ浜、お前何怒ってんだよ」

「そう? やっぱりあたし、怒ってるって顔してる?」

 お前はどこの電車ライダーのラスボスだ。

「怒ると皺が増えるっていうけれどあれは本当かしらね」

「さ、さぁ? どうかな?」

 …………なんか由比ヶ浜と雪ノ下の間に凄まじい火花が散っているような気がするんだが……ていうかこの2人に挟まれている俺が一番可哀想じゃないだろうか。

 由比ヶ浜がポケットから携帯を取り出し、画面を見たその時、一瞬だけ嫌な顔をしたのが見えた。

「どうかしたの?」

「あ、ううん。ちょっと変なメールが来ただけ。無視してるからいいんだけどさ」

 変なメールか……。

「それ、チェーンメールとかか?」

「な、なんで分かったの?」

「流行ったからな~。昔」

「そうね流行ったわね」

 顔も名前も見せずに匿名で不特定多数に送れるようになった昨今、チェーンメールの悪質性は異常なまでに変容している。中には全員で回してるやつもいるだろうが大半は悪意を持った奴が送っているに過ぎない。

 チェーンメールは小学校の時、うちのクラスでも流行ったけど一瞬で消されたからな……今、俺の隣にいるお嬢様の手によって。

「八幡に対してのチェーンメールが送られた時は最悪だったわ。佐川さんや下田さんにとって何のメリットもないのに。ねえ、八幡」

「そだな」

 いったいどうやってこいつは発信元を特定したんでしょうかねぇ……ただ、雪乃を助けるためとはいえそのチェーンメールに書かれるような原因を作ったのは作文大会での俺の行動だ。大本を潰したのは良いけどその時も雪乃の評判にダメージが行ったし…………あれが最善策だったんだろうかって今でも考える時がある。

「まぁ、いいよ。こういうの時々あるし、気づいたら無くなってたし」

「貴方がそう言うのならばいいのだけれど」

「それよりさ! もうすぐ中間テストだけど2人は勉強してる?」

「一応はな」

「してないわ」

「なんで!?」

 雪乃は学年トップであるために彼女にとって中間テスト程度などはルーチンワークでしかないからテスト前にノートをペラペラと確認するだけで学年トップを取ってしまうくらいに頭が良い。ほんと、小学校まで俺の方が頭がよかったのが嘘みたいだ。

「雪乃にとってテストなんてものは俺達で言う小テストみたいなもんだ」

「す、凄い……でもヒッキーも今くらいからしてるって意外」

「酷くね? 俺だってちゃんとやるわ。これでも俺は学年2位だからな」

「……ウソだ!」

「嘘じゃねえよ」

 雪乃に追いつくためには勉強面でも頑張んなきゃなんねえんだよ。手なんか抜いたら雪乃に追いつくどころか足元にすら到達できないんだ。

「ヒッキーって頭いいんだ。いつも変な本読んでるからてっきり」

「ひでぇ。ていうか英語の本を変な本ってお前英語圏の人に謝れ」

「なんで?」

 ダメだこりゃ。

「うー! 勉強ってどうやるの? 数学なんかもう訳分かんないし」

「勉強のやり方なんてものは他人から教えてもらうのではなく自分で見つけるものよ」

「ていうかよく総武校に入学できたな」

「酷い! ゆきのーん!」

 由比ヶ浜は半泣きになりながら雪乃に抱き付く。

 雪乃は小さく暑苦しいと呟きながらもとりあえずはそのままにしておくことに決めたらしく、特に由比ヶ浜を離すようなことはしなかった。

 一応、雪乃の中で由比ヶ浜は知り合いと言う事になってるのか。

「そうだゆきのん! 勉強会しよ!」

「べ、勉強会?」

「そう! 学年1位のゆきのんがいればもう百人力だよ! お願い!」

 由比ヶ浜の懇願に困った表情で俺の方を見てくる。

 勉強会ねぇ…………そう言えば勉強会なんて小学生の時以来だな。まぁ、学校の外なら同じ学校の連中に出くわすことも少ないだろうし、別にいけるか。

「良いんじゃねえの? 由比ヶ浜に教えながらお前も復習できて一石二鳥だろ。それに1週間前にはいったら部活もなくなって午後は暇だろうしな」

「流石ヒッキー! ね? だからゆきのんお願い!」

 曰く、学習というのは何も知らないゼロの状態の人間に理解できるように教えれるような状態のことを学習したというらしい。要するに自分で出来たと思うのはあくまで主観であり、客観的に見なければ本当に学習できているかは分からないと言う事だ。

 雪乃は少し考えた後、諦めたように小さくため息をつく。

「分かったわ。勉強会、しましょう」

「やったー! これで赤点回避決定!」

 えらく信頼されてるんだな。

「そう言えばゆきのんって大学はどうするの?」

「志望としては国公立理系だけど」

「頭いい単語だ! つ、ついでに聞くけどヒッキーは?」

 俺はついでかよ……ま、ついでかもな。雪乃と隼人と何故かいつも一緒にいる男子って感じでしか俺のことは知られてなかったし、俺に関してはあまりいい噂はなかったしな。むしろ俺が一緒にいるせいでデメリットしかない噂が雪乃に立ったりしたしな……。

「八幡?」

「あ、あぁ悪い。で、何だっけ」

「だからヒッキーの大学」

「大学か…………一応、俺は文系も理系もいけるしな……とりあえず私立受けて学費免除とか?」

「うわぁ。ヒッキーも頭いい系の単語だ。まぁ、とりあえず今週から勉強会! OK?」

 小首傾げながら言われてもアホっぽく見える……いや、これが由比ヶ浜の魅力なのか? よくアホっぽい女の子を護りたいとか言ってるバカな男がいるし。

 こいつ、まさか策士……由比ヶ浜に至ってはそんなことないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間テスト2週間前、ファミレスに集合した俺達は試験勉強を行っているがどこか由比ヶ浜の表情は怒っており、納得いっていないような感じにも見える。

 さっきまで雪乃の説明を聞いて納得していた奴が何怒ってんだか。

「由比ヶ浜、お前何怒ってんだよ」

「うん。やっぱりあたし、怒ってるって顔してる?」

「まぁ」

「あのね…………何で2人は1つのイヤホンで音楽聞いてるわけ!?」

 俺も左耳に1つのイヤホンが伸びており、雪乃の右耳から伸びているイヤホンと途中で合流すると机の上に置かれている音楽プレイヤーに繋がっており、さっきから静かなクラシックが流れている。

 音楽が聞こえないくらいがちょうどいい集中というので試しているんだがこれが中々に効果がある。自分がどれだけ集中していたかは曲が何曲進んだかで分かるしな。

「なんでって……ねえ、八幡」

「まぁ……なあ」

「うぅぅぅぅ……やっぱり幼馴染というアドバンテージは高い……でも負けちゃダメ」

 何やらブツブツ由比ヶ浜は呟きだす。

「由比ヶ浜さん。さっき出した問題、解けたのかしら」

「うっ。も、もうちょっとで」

「にしては白紙だな」

「ヒッキーデリカシーなさすぎ!」

「何故に!?」

 なんで白紙であることを指摘しただけでデリカシーが無いことになるんだよ! それだったら漫画家の担当者が白紙の紙を指摘したら訴えられるぞ!

「そこはデリカシーではなく、気遣いじゃないかしら」

「あ、そっか。気遣いなさすぎ!」

「言い直さんでいい」

 プリプリ怒りながら由比ヶ浜は再び、問題を解きにかかる。

 俺も中間テストの最終調整をしないとな……今度こそ雪乃に勝つ……雪乃に勝って同じ土俵に立たなきゃ意味がないんだ……。

「あれって小町ちゃんじゃない?」

 雪乃にそう言われ、レジの方を向くと確かに小町がいた。

「……ほんとだな……とうとうあいつに彼氏が出来たか」

 レジの近くにいる小町の隣には同じ学校であろう男子生徒が立っており、外から見ての感想だが二人は楽しそうに見える。

 とうとうあいつにも男の匂いが付く時が来たか……でもそうなると親父がうるさくなるな。なんで小町には彼氏はいないなんてことを前提条件にしてるんだか……。

「そっか~。小町ちゃんも彼氏できたか~……あたしも早くしないと」

「ていうかなんでお前、うちの妹のこと知ってんだよ」

「へ? あ、え、えっと……小町ちゃんから聞いてない?」

 小町から……まず由比ヶ浜という名前すら出たことないぞ。

「いや、何も聞いてないけど」

「そっか…………」

 そう言ったきり、由比ヶ浜は白紙だった答案用紙に鉛筆を走らせていく。

 この前の廊下の時といい、今といい……知り合ったことないのに何故か俺のこと知ってたり、小町のこと知ってたりと不思議な奴だ……。

 


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