俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十一話

 次の日の昼休みから雪乃大先生によるテニススクールが開催されたわけだが何故かは知らないが俺も強制参加となり、雪乃大先生が考案した鬼の様に厳しいトレーニングを昼休みにすることなった。

 まずは筋トレから始まり、腕立て伏せ・腹筋・スクワットなどの基礎トレ、次に素振り。これをローテーションするらしく何セットもやる。ボールを打つことなど一切せず、ただひたすら基礎トレのみ。

 戸塚と由比ヶ浜がやるのはともかくとして何故、俺まで参加なのだろうか。

 そんな基礎トレ期間は3日ほど続けられ、4日目からようやくボールを使った練習が始まる。

 まずは壁打ちから始まり、雪乃が打ってくるのをコートを走り回って撃ち返す。ていうかこれスポ魂だろ。

「少し休憩を取りましょう」

 休憩に入り、近くのベンチに座ると隣にスポーツ飲料を持った雪乃が座った。

「お疲れ様」

「ぷはっ……何で俺まで」

「あら。久しぶりにテニスをするカッコいい八幡を見たいだけよ」

 ……頬を少し赤くされながらそう言われると頑張っちまうだろうが。

 ここ数年のブランクにより、忘れかけていた技術や勘などが徐々に思い出してきた感じもしてきたし、今なら昔の全盛期の俺ともいい勝負できんじゃねえの? ただ雪乃には勝てる気はしないけど。

「でも忘れてはなかったみたいね」

「……そりゃ、あれだけ自主練してたら忘れねえだろ」

 あの日、サークルの練習が終わっても雪乃と一緒に近所の公園に行って日が暮れるまで一緒に自主練習をした日のことは今でも楽しい思い出の分類に分けられているし、確かにしんどかったのはしんどかったけどまぁ、その……雪乃と一緒にやってたから楽しいとも思っていたし。

「ヒ、ヒッキーよくこんなしんどい練習付いてけるよね」

「そりゃお前、昔からいろいろ振り回されたからな」

「あら。振り回してなんかないわ」

 よく言うぜ。テニスの体験もそうだけどルーム長を一緒にやった時も行事の実行委員をやった時もみんな雪乃からの誘いから始まったからな……まぁ、断り切れない俺の優柔不断なとこもあるけど一番悪いのは雪乃の笑顔が可愛いことだ! あんなもん見せられてお願いされたら断れねえよ。

「比企谷君やっぱり上手なんだね」

「だよね。てっきりヒッキー引きこもってばっかだと思ってた」

「半分正解半分間違いだ。テニス以外運動は体育しかやってない」

 むしろ運動やるよりも勉強してたり本読んでたりしてたからな。

「雪ノ下さんも上手だね。昔やってたの?」

「ええ。3日間の体験しかやっていないけれど」

 むしろ体験しかしていなくてコーチ以上にうまくなる奴の方がおかしいわ……まぁ、そこらへんも含めて雪ノ下雪乃なんだろうけど。

 …………そんな完璧な雪乃に比べて俺ってどう見られてるんだろうか…………一応、勉強に関しては雪乃にも負けないレベルまでにはなったけどその他に関しては全然下だ。料理も運動も先生からの評価も…………はぁ。中々俺の前には壁が多いような気がするわ。

「では休憩はここまでにして戸塚君」

「う、うん」

 すくっと雪乃が立ち上がり、戸塚をコートまで連れてくると次々にボールを打ち込んでいく。

 コートのギリギリ端に撃てば次は真逆の場所に、今度はネットすれすれの所に落とせばその次は高くボールを上げるなどして徹底的に戸塚の体を苛めぬく。

 …………何回見ても厳しい監督だわ。でもそれに反応してる戸塚もまた凄い……それだけテニスを本気でやっているということの表れか。

「ね、ねえ」

「あ?」

「ゆきのんって容赦ないよね」

「妥協なんかを一切許さないからな。やるなら全力でトコトン突き詰めていく。他人にも自分にも同じくらいに厳しいからな…………まぁ、それが雪乃なんだろうけど」

「……そ、そっか。ヒッキーよく知ってるね」

「何年一緒にいると思ってんだよ」

 ただ年数で言えば隼人の方が一緒にいる年数は長いし、プライベートなこともあいつの方が多く知っている。俺が知らないこともあいつの方が数多く知っているしな。最たるものが小学校の卒業式の日だ。隼人には海外へ行くという連絡が来て、俺には来ないという所を見るからに家同士のつながりは深い。俺はただ単によく一緒に遊ぶ友達程度だったからな。家同士ってことで見ればだけど。

「…………ヒッキーってゆきのんのこと……」

「なんだよ」

「やっぱりなんもない」

 そう言い、乾いた笑みを浮かべる。

「あ、テニスしてんじゃん」

 そんな声が聞こえ、外の方を見ると隼人一派の姿があった。

 うわぁ、面倒くさい時に来たもんだ。

「あーしもしたいな。混ぜてよ」

「え、えっと今は練習中だから」

「え? 何聞こえないんだけど」

 三浦は意識してないだろうがあいつは人の話が聞こえなかったときは語気を強くして相手に迫ることが多く、女王・三浦が恐れられているのもその点があるからだろう。

 三浦の語気の強くなった発現に戸塚は小動物の様に縮こまってしまう。

「ごめん優美子。今、練習中なんだ」

「あ、結衣ここにいたんだ~。練習してんのは見ればわかるけどさ~。でも男テニでやってるわけじゃないんでしょ? 部外者居るんだし。あーしらも混ぜてよ」

 それはごもっとも。

「優美子。今は戸塚君たちが使ってるんだし、また今度でも良いじゃないか」

「えー。あーしは今したいんだけど…………あ、良いこと考えた。練習してるっていうなら試合すればいいじゃん。あーしテニス超得意だし、練習の成果も発揮できるしであーしも結衣たちも一石二鳥じゃん」

 バカっぽいながらあぁいう所だけは頭が回るところを見れば由比ヶ浜とは種類が違うバカっぽさだな。

 でもそれはそれで困る気がするが雪乃は何か思うところがあるのか少し考えており、俺と戸塚を交互に見ている。

 ……なんか超絶に嫌な予感がする気もしないんだが…………多分、俺の予想では雪乃は三浦の考えを受け入れるだろう。戸塚の依頼の最終フェイズとしてな。元々、予定としては対人戦はするつもりだったし。

「三浦さん」

「なに?」

「その提案、乗らせてもらうわ。試合をしましょう」

 だよな。となると戸塚と三浦の試合になるのか……でも今の今まで練習して体力を消費している戸塚が試合をするとなると少し、不公平感があるけどな。

「なーんだ。雪ノ下さんって結構話分かるんじゃん」

「ただし、ダブルスということでいいかしら。戸塚君はさっきまで練習して体力も消耗していることだし。あと貴方の話を理解してるわけじゃないわ。こちらの有利なように条件を出しているだけよ」

「っっ……別に良いし。あーし超得意だからダブルスでも超強いよ」

 三浦は雪乃のチクッとした発言にイラついたのか一瞬、眉をひくつかせる。

 …………仕方がない。ここは戸塚のためにひと肌脱ぐか。

 三浦がテニスウェアに着替えに行っている間に隼人を呼び寄せ、話しの内容を聞かれない様に集団とは少し距離を置く。

「久しぶり、八幡」

「何が久しぶりだ。同じクラスだろ」

「こうやって話をするのがだよ」

「はぁ…………とりあえず」

「分かってるよ。全力を出さず、戸塚君に合わせるんだろ」

 流石は友達が多いイケメン隼人君。話が分かる。

「今回は戸塚のための試合だからな」

 そう言っている間に三浦がテニスウェアに着替えた状態で帰ってきたので作戦会議を終了し、ラケットを持ち、俺が前衛に入って戸塚が後衛、隼人側も隼人が後衛で三浦が前衛に入る。

 後は俺が前衛で隼人の方に打ち込めば適当に戸塚のためのショットを打ってくれるだろう。

「じゃ、始めようか。よろしく、優美子」

「オッケー」

 相変わらず甘い声ですね、隼人にだけは。

「よっ!」

 隼人のサーブが俺の横を通り過ぎていくが戸塚によって打ちかえされ、向こう側へ飛んでいく。

 三浦が構えたところで俺も体勢を取ろうとするが一瞬で構えていた向きを逆にし、打ちかえしてくる。

 ふっ、甘いわ!

 逆に打ちかえされるが俺は冷静に対処し、ラケットで軽くボールを打ち上げ、隼人の方へ上げる。

 根暗でボッチな俺に打ちかえされたのが相当ショックでイライラするのか聞こえるくらいに舌打ちをする。

 大体、人がフェイントするときって顔に出ないけど根性ババ色の奴は相手を騙してやろうという気持ちが顔にまで現れるから見切りやすい。

 隼人も隼人であの少ない会話だけでこの試合の趣旨を理解してくれたらしく、戸塚がギリギリ取れそうな場所に上手く打ち込んでくる。

 ほんとなんでもそつなくこなすよな、あいつ。言うなら男子版の雪乃みたいな存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから5分ほど経ったが試合は俺と隼人が協力していると言う事もあってか拮抗状態が続いており、さっきからラリーの応酬が止まらない。

 チラッと戸塚の方を見るとさっきの練習からいきなり試合に入ったせいかいつもよりも息が荒く、かいている汗の量もいつも以上だ。

 このままダラダラ続けてもオーバーワークになるだけだな……ここはもう決めるか。

「こんの!」

 三浦が全力で打ってきたボールをコツンとラケットに当てると三浦とは正反対の方へボールが飛んでいき、ラインすれすれの所でバウンドし、コートの外に出た。

「ハァ、ハァ……キツ」

 流石に俺の体力もヤバい……まさか雪乃の奴、戸塚と試合形式をすることをあらかじめ折りこんで俺も練習に参加させていたのか。やるなら徹底的に……雪乃らしい。

 でも練習で思い出したのは技術や勘だけ。体力だけは全盛期と同じまでは戻らない。

 全力を打ちかえされた三浦は相当悔しいのか地団太を踏む。

「もう時間も時間だし、最後にしようか」

「絶対に取ってやる」

 な、なんかすげえ三浦から闘志を感じるんだが……まさか負けず嫌いか? 

「戸塚。最後、頑張ろうぜ」

「うん」

 隼人が数回、ボールをバウンドさせ、全力のサーブを打ってくる。

 ボールが俺の傍を物凄い速度で突き進み、後衛の戸塚に向かって飛んでいく。

 後ろからは戸塚の姿は見えないが同じ前衛の三浦の構えている方向を見れば大体、戸塚が打ちかえそうとしている場所は分かる。

 その時、俺の耳元すれすれの所を何かが通り過ぎて行ったのを感じるとともに三浦が構えていたところとは逆のところにボールが飛んでいき、ラインぎりぎりのところでバウンドしてコートを抜けていった。

 ふぅ…………終わった。

「や、やった……やったよ比企谷君!」

「お、おう」

 戸塚の喜びようにまるで幼い子供が大はしゃぎしているのを見ているような暖かな感情に包まれている自分に若干、引きながらも戸塚とハイタッチをする。

「お疲れ、優美子。なかなか上手かったと思うぞ」

「は、隼人……う、うん! 帰ろっか」

 隼人がイケメン爽やかスマイルを三浦に送ると女王・三浦の堤防は決壊し、あっという間に恋する乙女・三浦に変貌し、スキップ交じりに出ていく。

 超ご機嫌の三浦と一緒にテニスコートから出ていく隼人に手をあげて軽く礼をすると向こうからはとびっきりのイケメンスマイルと親指を立てられた。

 リアルにあいつはイケメンだ。

「彩ちゃんすごーい! どうやってやったのあれ!?」

「分かんないけどこう感覚的にというか」

 由比ヶ浜と戸塚が話し始め、俺はそこから離れると雪乃にタオルを渡され、それを受け取って汗を拭く。

「お疲れさま、八幡」

「お前やっぱすげえな。短期間であそこまで上達させるか」

「私はただキッカケを与えただけ。そのきっかけを自分のものにしたのは彼自身の力よ」

 あの一発は偶然なのかもしれない。他人からすれば偶々成功した一回きりのことなのかもしれない……でも、その一回を偶然できるようにした雪乃はもっと凄い……ほんと、一生追いつけないくらいだ。

 その後、俺達は教室へと大慌てで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イダダダダ!」

「お兄ちゃんってホントバカ? 小学生以来してないテニスをなんで今頃やるかな~。しかも試合形式だなんてこうなることは分かり切ってるじゃん」

「う、うるせぇダダダダ! 小町! もっと優しく湿布張ってくれよ」

 その日の晩、俺は筋肉痛に苛まれていた。

「はぁ。お兄ちゃんのバカ。小町チョップ」

「イダー!」


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