俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十話

 俺が思うに青春とはつまり恥ではないだろうか。君達にはこんな経験はないか? 小学生のころ、女の子と一緒に折り紙やお話をしていたり、一緒に帰っていたりすると男子から夫婦、夫婦とちょっかいをかけられたことは無いだろうか? 他にも中学生の頃、仲良く喋っていると「お前たちの小指に運命の赤い糸見えるわ~」みたいなことを言ってくるバカな男子。これらは全て奴らからすれば恥であるからちょっかいをかけるのではないだろうか? ゆえに奴らがちょっかいをかけてくるという事はそれが青春であるということの表れではないかと。つまりそんな経験をしたことがある俺は青春を満喫しているのではないかと。それは否定しよう。何故か?

 青春とは互いにWINーWINな関係である時に成り立つ関係であり、片方がデメリットを受けていればそれは一方的な青春であり、青春ではない。つまり俺みたいなやつだ。凸凹夫婦、才能が無い、そんな風評被害を俺は彼女に与えてしまった。これがもしも隼人ならどうだろうか? お似合い夫婦、才能あり、そんな評価に早変わりするだろう。俺は彼女の幼馴染だ。これは変わらない。だが俺は彼女の幼馴染に相応しい人物にならなくてはならない。これ以上、彼女にマイナスな評価を出させないためにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が学校の体育は3クラス合同で行われ、60人を2種目に分けて体育の授業が行われる。それは月によって変わるが今月からはテニスとサッカーであり、ジャンケンの結果、俺は無事、テニスというボッチの俺に相応しい種目になった。だが心はあまり晴れやかではない。何故か? トラウマがあるからさ。

「すいません。体調悪いんで1人で壁打ちしときます」

 体育教師の厚木の答えを聞かないまま俺はラケットを持って1人、ペコペコと壁に向かってボールを打ち付け、帰ってきたものを軽く撃ち返す。

 あれは小学校の頃の話だ。雪乃からテニススクールに体験で行ってみないかと誘われ、仕方なしに行ってみたんだ。その期間は確か3日か4日だったな。その間に雪乃はなんとコーチよりも上手くなってしまったのだ。もちろんそんな奴と自主練まで一緒にしていた俺も技術が上昇し、雪乃レベルではないがそのテニスサークルの中では強い部類に入ってしまった。それによって自信を喪失した連中がいたらしく、ゾクゾクとサークルから姿を消していき、最終的に体験が終わると同時にそのサークルは無くなってしまったのだ。

 あれ以来、運動はしないと心に決め、一切運動していない。まぁ、一度学んだ技術が体からはなかなか消えないので今でも準備期間を設ければあの時と同じくらいにはできるだろう。

 あの時のコーチの絶望顔は忘れられないわ……ご愁傷様です。

「すっげぇ! 今の何!?」

 そんな声が聞こえ、そちらを見てみると隼人を中心にして2ペアがラリー練習をしており、その中の茶髪でロン毛の奴がやけに騒いでいる。

 同じクラスなんだけど名前なんだっけ?

 クラスの連中の名前なんて隼人と由比ヶ浜以外あまり覚えていない。

「今のは少しスライスしただけだよ」

「スライスとかぱねーわー。やっぱ隼人君ぱねーわ」

 はっ。スライス位なら俺もできるぞ……あ、でももう何年もやってないからできねえかも。

「んじゃ俺も! スラーッッイスッッ!」

 うるせえ。

 俺の目の前にバウンドしながらテニスボールが転がってきてそれを取り、後ろを振り返ると打った本人らしき金髪の男子が俺に謝罪のつもりなのか俺に手を上げていた。

 1つため息をつきながら隼人がいる方向にボールを投げた時、申し訳なさそうにこちらを見ている隼人の表情が見えた。

 あいつも大変だな。人に人気の立場にある奴っていうのは……久しぶりにやってみるか。

「あらよっと!」

 壁に軽くボールをあてて帰ってきたボールをボレーで全力で打ち付けた瞬間、凄まじい音が響き、すさまじい勢いで帰ってくるがラケットに当て、俺よりも後ろに行かないようにする。

「…………イテテテテ」

 ボレー1回だけやっただけで痛むってどんだけ俺の体弱いんだよ。マジで痛ぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、運動しなさすぎじゃない?」

「かれこれ5年以上はしてないです」

 体育終了後、早々と着替えた俺は保健室で氷を貰い、痛んでいる個所を冷やしていた。

 流石にボレー1回しただけで痛めたとは言えないので体育で痛めたと言って氷を貰ったがどうやら保健室の先生にはバレバレだったらしい。

 にしてもマジで痛い。

「とりあえず氷はあげるから」

「すみません」

 保健室を出て氷で痛む個所を冷やしながら部室へ向かおうとした時、後ろからパタパタと小走りで向かってくる音がしたので何気なしに後ろを振り返ると体操着を着たままの女子が俺に向かって近づいてきていた。

 …………ふっ、騙されんよ。俺と見せかけて俺の前にいる友達に話しかける、これが落ちよ。

「あ、あの!」

「…………え、俺?」

 そう言うと女の子は小さく頷いた。

「え、えっと何か」

「えっと、比企谷君だよね?」

「まぁ、そうだけど」

「戸塚彩加です。よろしくね」

「あ、こちらこそ」

「あの……初対面でいきなりこんなこと言うのは失礼なんだろうけど……その」

 女の子は恥ずかしそうにモジモジしながらまるで捨てられた子犬の様に潤んだ瞳で俺を上目使いで見てくる。

 ……こ、これはなんだ…………雪乃とは違う可愛いさ…………ま、まさかこれが癒しなのか? まるで小さな女の子が遊んでいる様を見ている時のようなこの温かい気持ち……。

「うん、いいぞ。落ち着いてみ?」

「うん…………ふぅ。比企谷君ってさ……その……テニスとか興味ある?」

 テニスと聞いて俺の頭の中にはトラウマしか再生されないけどな。あのコーチの雪乃に負けた瞬間のあの絶望の表情は未だに忘れられん。

「俺、あんま運動には興味とかは」

「そ、そっか…………比企谷君が良ければなんだけどね」

「うん」

「テニス部に入ってくれないかなって思ってたんだ」

 …………え、俺ついにモテ期到来? 新入部員歓迎会で声すらかけられなかった俺が高校生活2年目にしてようやく声かけてもらった…………モテ期というには遅すぎる気はするけど。

「あ~。悪い、俺もう部活入ってるんだ」

「そっか…………あ、ごめんね、いきなり話しかけて」

「うん、良いけど」

「じゃあ、またね。比企谷君」

 そう言い、女の子は手を振って去っていった。

 …………マスコットキャラだな。なんか癒されるわ~。

「八幡」

「っっ! お、おどかすなよ」

 後ろからいきなり声が聞こえ、驚きながら振り返ると雪乃が立っていた。

「貴方が遅いから迎えに来たわ」

「あぁ、悪い」

「ところで彼は?」

「彼? 彼って誰」

 さっきまでいたのは女の子だしな……。

「さっきの戸塚君よ」

「…………戸塚……君?」

「ええ。その外見で勘違いしそうだけれど彼は立派な男の子よ」

 …………おのれ神様ぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その放課後、俺は雪乃と2人っきりで昔、約束した分厚い外国語の本を読もうということを実践しており、近くの机の上には分厚いイタリア語の辞書があり、それぞれ用意したメモ用紙にはおびただしい数の単語が書かれている。流石に高校生にでもなれば英語の本は軽く読めるので今回はイタリア語の本をチョイスした。

「懐かしいわね」

「そうだな。これ、その単語じゃねえの」

 メモ用紙に書かれている意味とそのページにある前後の単語を組み合わせ、1つの文を完成させ、それを読む。途方もない作業に見えることでも雪乃とすればどこか楽しさを感じる。

 にしても……やっぱり近くないですかね。

 椅子がぴったりと合わせられていることに関してはもうこの際何も言わない。ただ何故、傍から見れば肩に頭を乗せているように見えるくらいの近さにまで頭を近づけているのでしょうか。いや、髪の毛から良い匂いがするから別に……ってこれではまるで変態ではないか。

「やっはろー!」

「「っっ!」」

 突然の大きな挨拶に2人して肩をびくつかせてしまう。

「あり? 2人ともどしたの?」

「いきなりでかい声で挨拶するな。驚くだろうが」

「あーごめんごめん。あ、そうそう! はいって!」

 由比ヶ浜がそう言うと少し開かれたドアの隙間から恥ずかしそうに身をよじらせて体操着姿の戸塚彩加が入ってきた。

 半袖短パンから覗く手足はまるで女子の様に白く、もしも戸塚が女装をしていたら真正面から見ても男子には絶対に見えないだろう。

「依頼人連れてきたよ!」

「それは構わないのだけれど由比ヶ浜さん。貴方は奉仕部の部員ではないのだけれど」

「ほぇ? そうなの!?」

 あ、そうなんだ。てっきりクッキーの一件以来入り浸っているから部員なのかと。

「ええ。入部届も貰っていないし」

「書く書く! 入部届くらい書くよ!」

 そう言い、机にカバンを置くとそこからルーズリーフを取り出して走り書きで一番上に入部届と書き、自分の名前を書いていく。

「あ、比企谷君ってここの部員さんだったんだ」

「まあな」

「知り合い?」

「同じクラス」

 ていうか俺、結構同じクラスの奴の名前知らないな。由比ヶ浜も知らなかったし、戸塚も知らなかったし。

「それで依頼というのは?」

「あ、うん。由比ヶ浜さんからここの噂を聞いてね……テニスを強くしてくれるって」

 その瞬間、雪乃のジトーっとした視線が由比ヶ浜に突き刺さるが当の本人は全く気付いていない。

「由比ヶ浜さんからどのように聞いたかは知らないけれど私たちはあくまで手助けをするだけであって生徒のお願いを聞く場所ではないわ」

「え、そうなの?」

「一回言ってたじゃん」

 由比ヶ浜が依頼しに来た時に雪乃言ってたじゃん。しかも目の前で言ってたじゃん。こいつも小町みたいに忘れっぽいのかよ。

 でも何故にテニスを強くしてほしいんだ?

「……それはともかくとして何故、そのような依頼を?」

「う、うん。実はうちのテニス部って弱くてね。今度の大会が終わっちゃうと3年生の先輩が引退して人数も少ないから僕が自然とレギュラーになっちゃうんだけど僕、下手くそだから後輩の子たちのモチベーションがあまり上がらないっていうか」

 なるほどね。人数が少なければレギュラーになれる確率は高まり、各々で努力することもなくレギュラーになれるからどっかの強豪校みたいにレギュラー争いはなくなるし、練習にも身が入らないと。しかも先輩がへたくそならなおさら1年は練習に身が入らないわな。

「それであなたが上達すれば1年生の練習にも身が入ると」

「うん」

「単刀直入に言えばそんなことはあり得ないわ。十中八九ね」

 バサッと切り捨てたな…………まぁ、先輩が上手くなれば一部の連中は憧れっぽいものを抱いて熱心に練習することもあるが大部分の奴らは「あ、先輩に任せればいいじゃん」ってなるだけだしな。事実、俺と雪乃が体験で入ったテニスサークルの連中は大体は雪乃の上達ぶりを見て肩を落とすか消えるかしかしてなかったしな。

「たとえ一人が上手くなっても大勢の部員はその一人に押し付けるでしょうね。テニス部全体が上達すればまた話は変わってくるでしょうけれど」

「……そっか…………でも、僕はこのまま下手くそで終わりたくない。テニス部の士気とかそういうのはよく分からないけど上手い先輩がいるのといないのとじゃ違うと思うんだ」

 まぁ、そりゃいたほうが違うだろうけど……。

「八幡。どうしましょう」

「え、俺? ん~……まあ戸塚の言う通り、上手い奴が部内にいるのといないのとじゃ違ってはくるだろうし、少なからず憧れっぽいものを抱く奴だっているだろうし」

 ソースは俺だ。雪乃の上達ぶりを見て俺はあの時、尊敬にも似た感情を抱いていたと思う。だから嫌いな運動であるテニスも毎日、行ったし……まぁ、雪乃と一緒だったからっていう部分もあるだろうけど。

 雪乃は少し考えるように目を瞑るが結論を見出したのか目をゆっくりと開き、戸塚の方を見た。

「分かったわ。その依頼、承りましょう」

「ほんと!? ありがとう、雪ノ下さん」

「ただし…………私は優しくはないわよ」

「うん。どんな練習でも耐えてみせるよ」

 ……なんかスポ魂マンガに見えてくるのは俺だけか?

 


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