魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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魔法少女リリカルなのはFはじまります




029話

 

 

「騎士甲冑?」

 

「ええ、我らは武器は持っていますが、甲冑は主に賜らなければなりません」

 

「自分の魔力で作りますから、形状をイメージしてくれれば大丈夫ですよ」

 

 わたしの疑問にシグナムとシャマルが答えた。

 だけど、そう言われても、

 

「わたしはみんなを戦わせたりせぇへんからなぁ」

 

「そういっても、中には悪い奴もいるかもしれないだろ。そこに颯爽と現れるあたし。

へんてこりんなのだと格好つかないじゃん」

 

 ヴィータの言うことも最もだけど、そんな状況になるのか疑問や。

 

「それなら格好良いほうがいいよなぁ。そやけど、資料なしにはなんとも言えんところやな。

録画されてるのにあったかな」

 

 わたしは部屋を出てリビングに向かった。

 

「士郎さん、甲冑が出てくる映画とかって録画されてるっけ?」

 

「あーっと、なんか外人が侍になるやつとか、かな。夜に大河ドラマ見たらいいんじゃないか?

今は豊臣秀吉だろ。甲冑くらい出てくるだろ」

 

 なるほど。

 

「ところで、士郎さんは騎士甲冑って聞いたら誰を思い浮かべる?」

 

 騎士という言葉を聞いて少し遠い目を士郎さんはした。

 

「アーサー王とか、ジャンヌ・ダルクとかいろいろあるからな。

まだ録画されたのは消してないから見てみるのもいいかもな。当時の騎士がどんなものだったのか、防具はどうだったのか。フィクションが入るだろうけど、少なからず何かしらの参考にはなるだろうよ」

 

 士郎さんは言いながら掃除を再開した。

 

「なんだったら図書館へ行くのもひとつの手だな。資料として分厚い本とかがあると思うけど」

「それや。士郎さんありがとう」

 

「どういたしまして。俺はそろそろ出るけど、図書館に行くならお昼をバスケットに入れて持っていけばいいよ。家で食べるなら少し足りないだろうから、適当に足してくれ。

ああ、あと、図書館に持って行くなら事前に連絡をくれたら賄いもらってから行くから」

 

 ほう。

 

「ほならホットサンドな!」

 

「期待に添えるかどうかはわからないぞ」

 

「けちー」

 

 暫くして士郎さんはバイトに出かけていった。

 

「わたしらは録画されとるやつを見てからええ時間帯に出ようか」

 

「はい」

 

「はやてー、やり方わからないー」

 

「はいはい。ちょいまってな。

このボタンをな、こう」

 

 ヴィータ達はわたしのリモコン使いに惚れ惚れしとるようやな。

 最初にちょっとCMを挟むのでオープニングが始まる前にお茶と煎餅を持ってきた。シャマルに手伝ってもらってザフィーラを除く、みんなの前にお茶が配られる。

 映画を見るっていったら、やっぱり飲み物とおやつは必要ですから。

 

「何を見られるのですか?」

 

 というシグナムに対してて、わたしは

 

「ジャンヌ・ダルクっていう人の伝記? そんな感じの映画や。

女性が主人公やから騎士甲冑の見本になると思って」

 

「さすがはやてちゃん」

 

 さすがの意味があまりわからんかったけど、スルーしとけばいいんやな。

 そろそろ始まるし。

 

 見た感想としては、なんともいえない。

 散々利用されて最後は火炙りとか。

 

「騎士道を貫いた彼女は素晴らしいですね」

 

「利用された挙句にこんなじゃな」

 

「彼女は不本意だったかもしれませんが、このように後世に語り継がれてますからね。さらにひどい扱いを受けた人もたくさんいたんでしょうね」

 

 三者三様の思いを述べていた。

 

「感想はおいといて、甲冑なんかはあんなのでよかったん?」

 

「少々動きを阻害してしまいそうな感じでしたが、概ねあのような形です。ただ、面を覆ってしまうのは視野が狭くなってしまいますので。そこだけを注意して頂ければ問題ありません」

 

「シグナムの言うことも一理あります。私たちの構造は人間を模して作られています。最も重要なリンカーコアは胸の中に。そこが重要ですからできれば胸当てはほしいところですね。魔力で甲冑は生成しますが、はやてちゃんのイメージに沿った防御が甲冑には含まれますから」

 

「なんか難しいなぁ」

 

「そんなに考える必要はねーよ。おんなじような甲冑を用意してもらえばあたしらはそれを身長にあわすから、それに今までの主だってあたしらの甲冑はほとんど同じ形のだったからな。別にあたしら個人に合わせた甲冑を考える必要はないんだ」

 

「せやけどな、せっかくだし。みんなにはそれぞれの甲冑を送りたいんや」

 

「そのような。

勿体無いお言葉です」

 

 シグナムが頭を垂れた。わたしはすこし恥ずかしい気持ちになる。

 

「はやてー、士郎の言ってた時間って」

 

 そこまで言われてわたしは時計を見た。

 11時と30分を過ぎたころ。時間がなくはないけど、もう少ししたら家を出ないといけない時間ではある。

「ヴィータ、ナイスや。

みんな、一旦ここで区切りを入れて出かける用意や」

 

 

「図書館で見た資料以上の成果はこの映像からはわかりませんね」

 

「映画っちゅうのは娯楽やからなぁ」

 

「エンターテイメントである以上、細部まで再現する必要はなく魅せなければならない、ですよね」

 

「ああ、図書館で得られた資料からは確かに華美であるものもあったが、この映像のように実用に耐えないものは少なかったように感じたな」

 

「そこは偉い人の装備だけが現代に伝えられたってのもあるかもしれんし、そういうのは出さんのかもしれんし、ようわからんわ」

 

 私達が映画よりもその格好について話していいると士郎さんが口を開いた。

 

「なんにせよ、これだけ有名になるような人物は普通の人生を歩めないってことだな。英雄だなんて言われてるけど、その人物のハッピーエンドになることはなかなかないからな」

 

「しかも激動の時代。幸せを噛みしめる奴がどんだけいたかって話だな。争いがなけりゃ平和なのにな」

 

 ヴィータのぽつりと漏らした言葉がすっと響き渡った。

 わたしが生まれてこのかた、戦争や争いに巻き込まれていない。それがどんだけ幸せなことなのか。でもこういう生活を送っている以上、それを実感できる場面は少ない。

 

「まぁなんや、続いて大河ドラマ見るから! シャマル、お茶のおかわりや」

 

「はいはーい」

 

 シャマルは立ち上がるとパタパタとお茶を取りに行った。

 

「お茶請けは何がいい?」

 

「ケーキ!」

 

「はい、却下ー。独断と偏見で芋けんぴになりましたー」

 

「えー」

 

「ヴィータ、ものには相性っちゅうもんがあるんや。紅茶や抹茶ならまだしも、煎茶になるとな、あまりあまったるいのは合わんのや。それにケーキなんて常にあるわけちゃうからな。

 わたしの誕生日だったからやで。つまり特別な食べ物や。特別な食べ物がそうそうに食べられてしまったら特別やなくなるやろ。ありがたみなくなるやろ」

 

 わたしの言葉にシグナムは頷いていたが、ヴィータは眉間にシワを寄せたままだった。

 

「そんなに変な顔しとったらいかんよー」

 

 ヴィータの鼻をつつくとくすぐったそうにしていた。

 

「幸せっていうのは慣れてしまうもんらしいで。美味しさもそうや。たまに味わうからいいんやで。もちろん料理の話な」

 

「でもー、はやてー」

 

「言いたいことはわかる、でもな、人間はデブるんや……」

 

「はやて、人間って不便だな……」

 

 それを言ってくれるなや。

 

「ま、それはいいんや。デブるつもりはないから。

あと悲しくなるからその話題はなしやで。ここらへんで主らしい命令をこれにしといたろか」

 

「そ、そのような命令されずとも、ヴィータ以外はそのようなことを言いませんから」

 

「そうですよー。お仕置きするのはヴィータちゃんだけにしてくださいね」

 

「シグナム、シャマル、お前ら裏切るのか!? 頼りになるのはザフィーラしかいないぜ」

 

「私に助けを求めるのもいいが、言の責任を果たすのも騎士だろう。

食事のランクを下げるのはヴィータだけで良いと私は思う」

 

「ザフィーラ、食事のことは言っちゃいけなんだぜ!?

だって、あの美味い飯が食べれなくなったら困るじゃん。あたしが!」

 

「俺の料理はそんなにうまかったか?」

 

 士郎さんは顔に似合わないニヤっとした視線をヴィータに送っていた。

 

「ちげーよ! 美味いのははやての料理だけっての!」

 

 シャマルはその光景を面白そうに眺めながらお茶を足していった。

 

「あー、もう。

今から見るんやから静かにな」

 

 各々から声がかえってきた。

 

 

「このように胴を守る鎧というのはあまり見ませんが、理にはかなっていますね。

重量がありすぎるという欠点はありますが、それは甲冑全体に言えることですし」

 

「ま、そういう話もいいけど、そろそろいい時間だしな。

いい子は寝る時間だ」

 

「士郎さんはわたしのことをいい子だと思ってるわけやね」

 

「俺はいい子にしかお菓子をあげないからな」

 

「あたしはいい子だし! はやてもいい子だし。

はやて、早く歯磨きして寝ないと。睡眠不足はなんとかってシャマルが言ってたぞ」

 

「はいはい。でもな、ちょっと早すぎると思うんやけど」

 

「寝ればいい案も浮かぶかもしれないし、一晩考えてみるのもいいんじゃないか。

甲冑っていてもな、はやてに丸投げはあんまりだと俺は思うし、自分である程度の考えは持ったほうがいいぞ」

 

「ああ、主にも言われている。我らも部屋に戻るか」

 

「私は洗い物をしてから戻りますね」

 

「ああ」

 

 わたしはヴィータにせがまれて歯磨きをして部屋に戻った。

 

 

 

 いつもよりも早い時間に目が覚めてしまったのは、ヴィータに夜更かしして本を読むことを許してもらえなかったからだ。

 主の健康にも気を使うのが騎士だって言ってたけど、あの目は本当のことを言っていないと物語ってた。だってこっち見て言ってなかったし。

 

 隣で気持ちよさそうに寝ているヴィータのほっぺを、恨みを込めて優しくつついたけど、全く反応を示さなかった。こんなことでわたしを守れるんかいな、とも思わなくもない。

 きっとその場になったら力を発揮するタイプなんやな。

 

 できるだけ音を立てずに部屋からでてリビングへ向かう。

 包丁を操る軽快な音が響いている。

 とんとん、っと。

 

 わたしはその音に少しほっとし、少し口元が緩むのを感じた。

 

「おはよう」

 

「おはよう、はやて」

 

「おはようございます、主」

 

 ザフィーラの言い方は少し硬い。

 

「もう、ザフィーラ。主、じゃなくてはやて、もしくははやてちゃん、はやて様って言ってくれないと」

 

「おはようございます、はやて様」

 

「ごめん、主でいいわ」

 

 ザフィーラは尻尾をひと振りして窓の外に視線をやった。

 

 士郎さんがわたしがいつもよりも早く起きたことについて言ってきたけど、原因はヴィータだって言ってやった。

 

「なるほどね、っと。

顔拭いてさっぱりしてらどう」

 

 冷水でひんやりしたタオルでひゃっとなる。

 でもこの感じは嫌いじゃない。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。

もうすぐで朝食の下拵えも終わるけど、はやてはどうする?」

 

「そやねぇ。

ちょっと手を加えて朝食をさらに美味しくするっていうのはどうやろ」

 

「その考えはいいな。なら、ここからは一緒にやろうか」

 

「任しとき」

 

「ザフィーラ、今日の散歩はないけど、いいかな?」

 

 士郎さんがすまなさそうにザフィーラに言ったが、ザフィーラは心得ている、と一言言っただけやった。

 

 

「鯖もそのままじゃなくて西京焼きにしようか」

 

「それじゃぁ、味噌汁にもひと手間っと」

 

 士郎さんがちょこちょこと動き回って、私は一品に手直ししたりとしていたら時間がすぐさまさっていく。

 一人で料理するよりももっといい。

 

「おはようございますぅ」

 

 と寝癖を直さないままふらりとやってきたのはシャマルやった。

 

「シャマル寝癖寝癖」

 

「え、あっ」

 

 とこちらを見るなりぱたぱたと走っていってしまった。

 シャマルはこっちへきて、わたしが起きる前に起きて、牛乳を用意してくれるようになっていた。士郎さんがいつもは用意していたんやけど、せっかくだからということで。士郎さんも、早朝ランニングの時間が伸びるって言うので快諾していた。

 

 多方仕込みが終わって、朝のニュースを見ていた。

 

「あれから、考えはまとまったのか?」

 

 士郎さんの言葉に素直に答えた。

 

「いんや。

よく考えても、わたしは騎士たちに戦って欲しくないし、そんな命令もせんと思うんや」

 

「そうだよなぁ」

 

「それにあんなにのっぺりした甲冑? もあんまりやろ。

ヴィータにあんなのは似合わんやろ」

 

「いや、意外と……」

「ないわー」

 

 わたしは思っていたことを士郎さんに言っていた。

 

「もっと女の子らしい甲冑とかないんかな」

 

「だったらさ、いっそのことドレスを基調とした甲冑なんてどうだろう。

もちろんあまり華美でないドレスだけど、それに篭手、胸当てなんかつけてさ、下に楔帷子なんてのもいいと思うし」

 

「ドレス、それは考えんかったわ。

あ、なんか思いついたかも。ありがとう士郎さん!」

 

 わたしはその考えがとても素敵なものに思えた。

 

 






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20161105  改訂


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