魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな願いでした。

また昔のように4人で、優しい母さんと一緒に暮らしたい。

その為にはジュエルシード、それが必要。

それを集めて。



魔法少女りりかるなのはFはじまります



023話

 

 

「ねえ、フェイトは食べないの?」

 

「私のことは気にしになくていいから」

 

「と言ってもねえ。

食べないと力でないよ?」

 

「うん、わかってる」

 

「広域探索の魔法はかなりの魔力と体力を使うんだよ。それなのにフェイトはほとんど食べてないし休まないし。そんなんじゃ倒れちゃうよ」

 

「それもわかってる」

 

「なら、」

「私ね、早く母さんに昔みたいに笑ってほしいんだ」

 

「……しかしあれだね。この世界も食べ物に関しちゃ悪くないね。

このドッグフードってやつ?なかなか美味しいよ」

 

「アルフはそれが好きなんだね」

 

「フェイトは好きな食べ物とかなかった?」

 

「美味しいものもあるけど」

 

 味気ないんだ。

 母さんと昔みたいに。……いけない、使い魔は聡い。殊更主人のこととなれば言うべくもない。また、その心理状態は使い魔に影響を与えることも多分にある。リニスから教わった。

 

「今はちょっとほしくないかな。

お腹空いたらちゃんと食べるから安心して」

 

「そう言うんだったらいいんだけどさ」

 

 アルフは心配そうに私を見てくる。私の大切な優しい使い魔だ。

 母さんの為にもアルフの為にも頑張らないといけない。

 

「そろそろ行こうか」

 

「そりゃフェイトは私のご主人様で、私はフェイトの使い魔だから。行こうって言われたら行くけどさ。でもさ、帰ったらちゃんとご飯食べるって約束してよ」

 

「うん、帰ってきたらちゃんと食事をするから、ね」

 

 まだちょっと不満があるらしかったけど、ちゃんとついて来てくれる。

 

 

 二手に分かれて街を広域サーチしていく。

 この方が効率的だからだ。

 

 私は第431区画以降で、アルフは第421区画から順にサーチをかける。

 既に第436区画までサーチを完了させた。大まかなサーチなので精度に問題が有り漏れがある可能性も存在するが、発動する前に回収しようというのがそもそも難しいのだ。

 アルフの方はどうだろう。

 

「アルフ、お疲れ様」

 

 通信をする。

 

『フェイトー』

 

「遅くまでごめんね。

そっちはどう?」

 

『第424区画までサーチは終わって発動前のジュエルシードを見つけたよ』

 

 スクリーンに映し出されたアルフはこちらにジュエルシードを見せる。

 

「ありがとう。

私はまだ発見できてないんだ。でも、この調子なら今夜中にもう一つくらい発見できるかな」

 

『どうだろうねぇ。第430区画までは今夜中にサーチすることがでそうだけどさ。

でも、気になるのは先日のこの二人。管理局じゃないよね。今のところ追われるようなことはしてないし』

 

 アルフの声が真剣なものとなり、目の前のスクリーンに私と同じミッドチルダ式の魔導師と使い魔が映し出される。

 

「違うと思うよ。魔法の使い方もあまり上手じゃなかったし」

 

 戦闘を思い出す。

 自身の魔力量による力任せな攻撃。魔力量だけならそれなりだけど、技術に関してはお粗末なものでまるで素人のようだった。

 一撃一撃は重たいけど、堅実な戦闘を心がければ怖いことはない。

 

『使い魔の方はかなりの練度だったから心配したけど、フェイトが言うんだったらそうなんだろうさ。

ま、いざとなったら私がボコボコにしてあげるからフェイトは心配することはないよ』

 

「ありがとう、アルフ」

 

『あと、この男。どう思う?』

 

 アルフの髪の色に近い頭髪の男の人。私よりはいくつか年齢は上のように見受けられる。

 

「魔導師ではないみたい。魔力はあるようだけど、私達が戦っていたのにバリアジャケットも展開してなかったし」

 

『あのなのはってのを受け止めた時だって転がっていたし。魔導師なら魔力で姿勢制御と運動量を相殺できたはずだよ。でも、あの身のこなしはかなりやる。って言っても、私ほどじゃないし、魔導師ですらないなら問題外だね』

 

「うん。私も特に問題はないと思う。

それじゃアルフ、もう少し頑張ろう」

 

 

 その後、夜が明けるまでジュエルシードの探索をしたけど見つけることはできなかった。

 そう簡単にジュエルシードを見つけることができれば苦労はしない、か。

 

「フェイトがちゃんと食べるまで見てるから」

 

 少しだけどお腹に入れた。

 

 

「アルフ、もうお昼になりそうだよ」

 

「フェイトー、まだ眠いー」

 

「アルフー」

 

 ゆさゆさ、と体を揺すって起こすのはこちらに来てから毎日見ることのできる光景だ。

 

「うう、眠い」

 

 本当に眠たそうにしている。

 

「ご飯も用意したから」

 

「はーい」

 

 寝惚けながらリビングへ向かうアルフは愛嬌があった。

 

 

 外は予想以上に暑かった。

 それにだんだんと気温が上がってきている気がする。

 

 でも、些細なことだ。

 やることがあるのだから。

 

 日が高い内はあまり魔力の共鳴がよくないから本格的にするのは暗くなってからだけど。それでも探さないといけない。

 

「私は第51区画から行くからアルフは第71区画からお願い」

 

「まかせて。

フェイトも無理しちゃダメだよ。あんまり食べてないんだから」

 

「大丈夫だよ。

私、強いから」

 

 もう一度アルフに念を押されて私達は別れた。

 

 

 1時間、2時間と歩いただろうか。

 

 それにしても人が多い。

 

 私より小さい子が母親に手を引かれて歩いている。

 聞こえるのは今夜の夕食の話。

 

 羨ましくないと言ったら嘘になる。

 母さんとリニスと一緒に暮らしていたあの頃。

 

 きっとジュエルシードを集めたら母さんはあの頃の母さんに戻ってくれる。

 くよくよ考えない。

 

 頭を振って、考えを散らす。

 

 きっと気が散っていたのが悪かったのだろう、前から歩いてくる人に気づくのが遅かった。私はとっさに避けたけど、やはり力の入らない体では躱すことは難しかった。歩いてくる人とぶつかってしまった。ぶつかったといってもほんの少し掠めたくらいだけど。

 私は足元がおぼつかず、近くの電柱に手をついた。

 振り返ると、その人は身形をきちんとした男の人で、私を一瞥すると無言で立ち去ってしまった。私は謝ろうとしたけど声を出すことができなかった。

 音が聞こえなかった。

 そして、歩きだそうにも力が入らなかった。

 そのまま少しずつではあるけど、視界が狭くなっていくような気配がした。

 

「大丈夫か?」

 

 その一声で徐々に視界がクリアになる。時間が再び動き出したかのような錯覚に陥る。

 見上げても日の光が眩しくて顔がよく見えない。ただ、特徴的な橙の髪。

 

「おーい」

 

 目の前で手が振られる。

 きっと心ここにあらずといった顔をしていたんじゃないかと思う。

 

「だ、大丈夫です」

 

 思わず顔を下に向けてしまう。

 アルフにあれだけ言っているのに情けない。

 

「本当に大丈夫?」

 

 情けない、という顔をしていたのだろう。その人は先ほどよりも心配そうな顔で、私と同じ目線で聞いてきた。

 

「いえ、本当に大丈夫です」

 

 私はその場からすぐに立ち去りたくて、自分でも驚く程冷たい声が出ていた。

 

「そんな顔で大丈夫と言われても、はいそうですか、とは言えないな」

 

 そう言って頭をポリポリと掻いている。

 その仕草が少しおかしくてつい弛緩してしまったのがよくなかった。

 

 きゅるきゅると私のお腹が抗議の音を出した。

 私は恥ずかしくなって俯いてしまう。

 少しの間無言が続いた。

 

「少し時間があるかな」

 

「え、えっと」

 

 言い終わらないうちに私は手を引かれて歩いていた。

 どうしてこうなったのかわからなかったけど、一件の店の前に立っていた。ほんの2,3分程度のことである。

 

「ここだから」

 

 と背中を押されて扉を開ける。

 

 ちりんちりん、と軽やかな音がした。

 

「いらっしゃい。

士郎君ですか。と、…?」

 

「すみません、俺の知り合いです」

 

「そうですか。

ゆっくりしていってください」

 

 人の良さそうな白髪交じりの男の人が言った。

 後ろの人は私をカウンターの端の席に案内した。私は席に座ったものの、どうしたらいいのかわからなかった。

 店内を見渡してみると、落ち着いた雰囲気で耳障りでないほどにゆったりとした音楽が流れている。

 

 カタリとカップが置かれた。琥珀よりも更に濃い色をした液体が入っている。

 ほわっと嗅いだことのない香りが立ち込めた。

 

 顔を上げると、男の人がこちらを見ていた。

 

「あ、あの、お金持っていません……」

 

 相手に聞こえるか聞こえないかのような声を出してしまった。

 恥ずかしさなのか緊張なのか私にもわからない。

 

 この世界では何かを得ようとするならばそれ相応の対価を支払わなければならない。その最たるものがお金だ。アルフと一緒に食料を購入した場合もそうだったし、現在の拠点にしているところもそうだった。

 いつもならばいくらかのお金は持ち歩いているはずなのだが、このところの疲れのせいか持ってきてはいなかった。アルフには出る前に確認をしたはずなのに自分が忘れてしまっては笑い話にもならない。

 

「大きい声では言えないけど、俺からのおごり」

 

 そう言って人懐っこい笑顔を見せた。私は答えた。

 

「ありがとうございます」

 

 これも小さな声だった。

 それが聞こえたかはわからなかったけども、その人は歩いて行った。

 

 どうして優しくしてくれるのだろう、と思いながらもカップに口をつけた。

 甘く、決して甘ったるくない爽やかな味が舌を刺激する。思わずほっと息をつくくらいに。

 

「これも」

 

 と出されたのはお皿に盛られた黄色いこんもりとしたもの。

 食べ物とはわかるのだけど、何かわからなくて顔を上げる。

 

「ん?」

 

 その人は首をかしげて食べていいよ、とだけ。

 目の前のお皿からはいい匂いがしている。

 もう一度その人を見る。

 

 その黄色いものをスプーンですくって口に運ぶ。

 

 美味しい。

 とても美味しい。

 

 気がつけばお皿の上は綺麗になくなっていた。

 

「おいしかった?」

 

「はい」

 

 と、心の底から言えた。

 

 私は席を立つ。

 

 ちりん。

 

 入ってきたと同じ音がした。

 

 お店から外に出るとまだまだ暑かった。でも、疲れがとれたみたいだった。

 

「大丈夫そうだね。

ご飯はちゃんと食べないとダメだぞ」

 

 と優しく言われてしまった。はい、と言葉にできたかどうかわからないけどその人を見た。

 

 橙色の髪を持つその人は笑顔だった。

 

「ありがとうございました」

 

 今度はちゃんと言葉に出せたと思う。

 

 少し歩いたところで呼び止められた。

 

「俺が持っていても使わないから」

 

 手を出すと、そこに何かを渡される。

 手を開かなくてもわかる。

 

 ジュエルシードだ。

 

 私の心は一瞬にして凍りつく。

 

 世界が色を失う。

 手を開くと、未封印のジュエルシードが顔をのぞかせる。ぎゅっと握り込む。

 

 見上げた先には困惑した顔の橙の髪を持つ男の人。

 その橙だけがやけに鮮明に映る。そう、あの夜、私の邪魔をした人だった。なんで忘れていたんだろうか。それとも優しくしてもらったからそう思いたくなかっただけなのか。わからない。わからないけど、わかりたくない。

 ただ一つ言えること、それは目の前の人は私の敵だということだ。

 

 私は睨むと、そのまま走った。

 後ろから声はしない。

 

 もうだれも信じないし、頼らない。

 私がもっと強ければいいだけの話だ。

 目の前に立ちはだかるというのなら倒していけばいい。

 

 走って走って公園に入ってベンチに座って空を見上げた。

 空には真っ白な雲がゆっくりと流れている。

 次第に呼吸も落ち着いた。

 

 何時間そうしていたのだろうか。

 アルフから通信が入って気がついたけど、空は茜色に染まっていた。

 

『フェイト、どうしたんだい?』

 

「ううん、何でもない。

アルフこそどうしたの?」

 

『ある程度ジュエルシードのありそうなところを絞り込んだから報告しようと思ってね』

 

「そう。

私は、ほら」

 

 アルフに見えるようにスクリーンにジュエルシードを映す。

 

『おおー、さっすがフェイトー』

 

 嬉しそうな声が聞こえてくる。

 私はちくりと痛みが走った。

 

「一度合流してそれから一緒に探そう」

 

『りょーかい』

 

 

 通信後にこうしてアルフとビルの上に立っている。

 

「確かにこのあたりに反応があるね」

 

「でしょ。

でも、これだけゴミゴミしてちゃ特定も一苦労だよ」

 

「私でも細かい位置を特定するのは難しいかな。

ちょっと乱暴だけど魔力流を撃ち込んで強制発動させるよ」

 

「待った、それ私がやる」

 

「大丈夫?」

 

「この私をいったい誰の使い魔だと?」

 

 アルフの言葉が素直に嬉しい。

 

「……いや、私がやるよ。

もし邪魔が入ったりしたらアルフにも戦ってもらわないといけないし」

 

「フェイトこそ大丈夫?」

 

「平気だよ。

だって私はアルフの主人だからね」

 

 

 ―――見つけた!

 

「あっちも近くにいるようだね。

気づいてる」

 

 広域結界が張られていくのが確認できる。

 あの子達よりも早く封印して手に入れなければ。

 

 ビルを蹴り、一直線にジュエルシードを目指す。

 

 あの子達の方がジュエルシードに近かったか。

 でも、手に入れるのは私達。

 

『Sealing Form, Set up.

Spark Smasher.』

 

 私とあの子の封印魔法がジュエルシードに直撃する。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

『アルフ、使い魔の方をお願い。

使い魔はあの子よりもよほど厄介だから』

 

『任せて』

 

 ジュエルシードを挟んであの子を見下ろす形になった。

 

「この間は自己紹介できなかったから。

私、なのは。高町なのは。私立聖祥大附属小学校3年生」

 

「……」

 

『Scythe Form.』

 

 なのはって子が息を呑むのがわかった。

 でも、

 

「ジュエルシードは諦めてって言ったはずだよ」

 

 魔力弾を形成して撃つ。

 

 こちらの行動を読んで飛び上がるけど、空戦なら私に分がある。

 

 

 互いに魔力弾を撃ち合うけど決定力にならない。

 それに前よりも動きが良くなっている。たった数日しか経ってないのに。でも、まだまだ私には及ばない。

 

 アルフは、あちらも大丈夫そうだ。

 

 少し目を離した隙に魔力が収束していた。

 なのはは先天的に魔力収束に長けているようだ。

 

「シューット!」

 

 この距離、速さだと避けられない!

 

「バルディッシュ!」

 

 バルディッシュを前にして受け流してはいるけども、圧力がすごい。

 一撃一撃が重たい。それにバリアも硬い。

 

 決して侮れる相手ではなかった。

 慢心していたのは私の方。気を抜けば落とされる。

 それ故に砲撃後、私に追撃しなかったことを訝しんだ。

 

「話し合うだけじゃ何も変わらない、って言ってたけど。言葉にしないと、話し合わないと伝わらない事もあるんだよ。

目的があるから、ぶつかりあったり競い合ったりするのは当然かもしれない。

でも、何もわからないままぶつかり合うのは嫌なの。私も言うよ、だから教えて。どうしてジュエルシードが必要なの?」

 

 なのはがどうしてジュエルシードを集めているのか、その理由がわかった。

 私は。

 少し、心が揺らいでしまう。

 

「フェイト!」

 

 アルフの声が届いた。

 私は私の為に。

 誰に理解されなくてもいい。その必要はない。ならば答える事は何もない。

 ジュエルシードを捕獲する、ただそれだけ。

 

 なのはの後方にあるジュエルシードに目をやる。

 この位置からでは少し不利かもしれないけど、私の方が早くたどり着けるはず。

 

『Photon Lancer.』

 

 撃つと同時に加速を始め、着弾と同時に進路変更を行う。

 弾着による衝撃と予想外の行動だった為か、僅かなタイムラグができる。しかし、立ち直りも早い。私の目的がわかると迷わず加速をする。迷いが全く感じられない。

 

 厳しいか。

 

 このままだとほぼ同時にジュエルシードにたどり着くだろう。

 風を切る音が唸りを上げる。

 

 そして、バルディッシュとなのはのデバイスが交差した。ジュエルシードを挟んで。

 

 ジュエルシードが脈動したかと思うほど、魔力が不安定になった。その一瞬後私達お互いのデバイスに無数の亀裂が入った。

 あの子のはともかく、バルディッシュはかなりの魔力を無茶な使い方をしても破損しない程には頑丈だ。ににも関わらず亀裂が入った。ジュエルシードに蓄えられている魔力は恐ろしいほどの量だ。だから母さんもそれを欲したんだ。

 数瞬遅れて空間が揺らいだ。

 そう思うほどの魔力の放出があって私達は後方へ飛ばされてしまった。無理にその場に留まっていればリンカーコアにもダメージがあったかもしれない。

 

 ジュエルシードを中心にして魔力の柱が雲を突き抜けて立ち上がっている。

 一瞬だけど、空間が、次元が揺れた。

 危ない。

 

「バルディッシュ……」

 

 コアが点灯を繰り返している。コア自体も破損している。

 

「ごめん。

戻って」

 

『Yes sir.』

 

 音にもノイズが走っている。

 

 デバイスを格納して自己修復にあてる。

 でも、私にはまだやることがある。

 

 前方のジュエルシードを見据える。

 周辺の魔力濃度が高すぎて空間が揺らいでいるように見える。魔力を解放したせいで暴走状態から脱したとは言え、未だに小康状態。

 

 バルディッシュの支援なしであの小康状態にあるジュエルシードを封印できるだろうか。頭に過る。

 それでもやらなければならない。

 

 意を決してジュエルシードに近づき、手を伸ばした。

 

 あと3 m。

 

 そこで目の前のジュエルシードは砕け散ってしまった。

 

 魔力も跡形もなく霧散してしまい、周りは静寂に包まれた。

 

 一瞬何が起きたのかわからなくて私はその場に立ち尽くしてしまった。

 

 それからどれくらいの時間が経ったのか。一秒だったのかもしれないし、一分後だったのかもしれない。それでも我に返ったのはアルフのおかげだった。

 

「フェイト……」

 

「帰ろうか、アルフ」

 

 顔を上げ虚空を見つめる。

 

「フェイトちゃん……」

 

 後ろから震える声がした。

 

 私はそれに一切反応せずに空を駆けた。

 

 

「バルディッシュ……ごめんね」

 

 反応はない。自己修復を最優先でやらしているから当然のことだろう。

 

「はい、フェイト」

 

「ありがとう」

 

 温めたミルクをアルフが持ってきてくれた。

 手にとってその暖かさを感じ取る。

 

「残念だったね」

 

「うん……」

 

「……これ見てよ」

 

 スクリーンに映し出される私の必死な表情。

 そして、駆け抜ける赤い線。

 スローにしてはじめてわかる。

 そして、砕け散るジュエルシード。

 

 音の速さの二倍の速度は出ているだろうか。

 ジュエルシードを砕いたことも然ることながら、魔力さえも霧散させてしまったことがわからない。

 

 わからないことが多すぎる。

 

 それでも、ジュエルシード手に入れられなかったという事は純然たる事実。

 

「明日は母さんに報告に行かないとね」

 

「ああ……」

 

 アルフの顔が歪む。

 

「そんな顔しないで。

母さんは不器用なだけだから」

 

「そう……?

報告だけなら私が行って、」

「ううん、ジュエルシードも持っていかないといけないし。

それに、母さん。アルフの言うことあんまり聞いてくれないし」

 

 母さんはアルフのことが嫌いみたい。

 こんなに優しい使い魔なのに。

 

 いつか、またリニスも一緒にまた4人ですごせるかな。

 

「で、でもさ。こんな短期間に4つもジュエルシード集めたんだからフェイトはすごいよ。

邪魔さえなかったらもっとたくさん集めることができたのにね。きっとフェイトの母さんだって褒めてくれるよ」

 

「うん。

そうだといいな」

 

 明日は母さんに報告だからちょっと早いけど今日はこれくらいにしておかないと。

 

「それじゃアルフ、明日は早いからちゃんと寝るんだよ」

 

「それはフェイトにこそ言うべきことだよー」

 

 口を尖らせて拗ねたように言ってくる。

 

 母さんに早く会いたいな。

 

 


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