魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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それは小さな冒険でした。

初めて尽くしの旅行。
幸せすぎて、夢なんじゃないかと思うほど。

魔法少女リリカルなのはFはじまります



019話

 

 

 さて、日本国内は全国的に連休や。

 わたしと士郎さんにはあんまり関係がないけども。

 士郎さんはアルバイターですし、わたしは自宅療養ですし、って。……温泉療養なんていうのもあるらしいし、問題ない、はずや。

 

「はやてー、準備できたかー」

 

「ちょい待ってー」

 

「まだまだ時間はあるから忘れ物はしないようになー」

 

「はーい」

 

 二泊三日分の着替えと薬はすでに準備してある。

 問題なのは何の本を持っていくか。

 非常に悩ましい問題や。

 

 目の前には十数冊の本。

 でも、持って行くのは図書館から借りた本だけになりそうなんだけど。

 

 

「士郎さんの準備は終わったん?」

 

「うん?まあな。

二泊三日程度だしなー」

 

 確かに世界中を旅していたという話だから今更二泊三日の旅行なんかではどうということはないのかもしれない。なんかちょっと騒いでいるわたしが恥ずかしい気がする。

 

「でも、まあこういう旅行というのはあんまり行ったことがないから楽しみなのは間違いない」

 

 こちらを見て行ってくれた。

 

「うん、わたしも初めてだから楽しみ!」

 

「何事も準備は万端に。

不測の事態にも対応できるようにするのが大切だ」

 

「うん」

 

 ようは忘れ物をなくして、お金を少し多めに持っていってればいいわけやな。

 了解や。

 

 

「うん、これは多すぎだな」

 

 士郎さんに荷物を見られて賜った一言。

 

「でもでも、これくらいはいるんやないかと」

 

「とりあえず、本はそんなにいらないし、服もこんなに要らないから」

 

 とのたまいながらわたしの荷物を漁っていく。

 

 そして五分後にはわたしと士郎さんの荷物はスポーツバック一つに収まっていた。

 

「本ははやての車椅子の荷物入れに入るだけな」

 

 という宣言を受けて泣く泣く持っていく本は三冊に絞った。

 

 

「「いってきまーす」」

 

 士郎さんががちゃりと玄関を閉めた。

 

 ガスの元栓は締めたし、洗濯物も干して畳んだし、ってなんか士郎さんがブツブツ言ってるけど気にしない。

 

 

 最寄りのバス停からバスに乗って駅に向かう。

 

 駅に着いたなら遠見駅に行ってそこからバスの移動になる。

 

 

「お願いしまーす」

 

「はい」

 

 切符にスタンプみたいなものを押してもらう。

 

 士郎さんは普通に自動改札を通って待っていてくれた。

 

 電車に揺られている時間はそんなに長くはなかった。

 だけど、これからが本番。バスに揺られる時間はなんと一時間半。

 

「酔い止めもエチケット袋もあるから問題ないぞ」

 

 いやいや。

 

 バスもそれなりの人数が乗っていた。

 近くにちょっと有名なお寺があったり、そこ一帯が温泉郷を成しているらしくて結構な賑わいだそうな。

 

 はじめは士郎さんとお話してたりもしてたんやけど、このバス特有の振動というか揺れが眠りを誘ってきたので仕方がなくまぶたを閉じた。そしたら次の瞬間には目的地までもうすぐになっていた。隣を見ると士郎さんも寝ていた。

 

 少し揺らすと、すっと目を開けた。

 

「ん、もうすぐで着きそうだな」

 

 時計を確認しながら言ってきた。

 確かにあと5分ほどで目的地に着く予定だ。

 

 バスが止まって次々に人が降りていく中、わたしたちは一番最後に降りた。

 

 運転手さんにありがとうございましたを言って降りていく。

 

「おおー」

 

 バス停から少し歩くと雑誌にあったような景色が見えてくる。

 見た感じお土産屋さんと食べ物屋さんが並んでいる感じ。

 

 奥の方に見える建物が泊まる所らしい。

 

 あとは何かもう山というか森というか。いわゆる盆地だろうか。

 

「とりあえずチェックインして荷物置いてから見てまわろうか」

 

 それには賛成。

 

 歩くと趣がある大きな建物が見えてきた。

 

 入ると中は大きく、物腰の柔らかそうな着物を着た女性が立っていた。

 その人に言われるまま士郎さんがチェックインをした。

 

 部屋はそれなりに広くて二部屋からなっていた。

 景色もちょっとした高台にあるこの旅館ではなかなかよい、と思う。

 

 荷物を適当に置いて部屋を出る。

 

 

「まずは昼飯からかな」

 

「これ!っといったものが食べたい」

 

「とは言ってもこういう所のはがっかり飯が多いんだよな。

そこははやてが決めてくれ」

 

「む、むむむむー」

 

 ここは無難なものにしておくか否か。

 

「で、瓦蕎麦なわけか」

 

「瓦っていう響きがなーんか気になって」

 

 

「で、どうだった」

 

「う、うーん」

 

「ま、そういうもんだって」

 

 美味しいはおいいしかったけど、瓦の意味がわからんかった。瓦の上に蕎麦を乗せとるから瓦蕎麦?それなら安直すぎるやろ。

 

 で、今はというと、お腹も膨れたので散策をしている。

 

「なんかすごい古いゲームとかも売ってる」

 

「おおっ、なんか懐かしい感じがするな」

 

 士郎さんは一つを手にとってみている。

 

「士郎さーん。次、次」

 

「そんなに急がんでも」

 

「時間は待ってくれんのやで」

 

 そうだけど、と苦笑しながらついてくる。

 

 

 いろいろ試食したり、ぶらりとまわってたら結構な時間が経っていた。

 

 あー疲れたー。

 

「多少疲れたし、風呂にでも行くかー」

 

「おー。

ってわたし一人じゃ入れないんやけど」

 

「男女別も十歳以下なら大丈夫だし、混浴もあるらしいから。混浴に行けばいいだろ。

明日は家族風呂ってのも頼んでみたし」

 

 ふむふむ。

 

「準備していくぞー」

「了解や」

 

 

「痛いから髪は引っ張るな」

 

「士郎さん!あれあれ!」

 

「痛い痛い。

しばくな」

 

 士郎さんはふらふらせずにしっかりした足取りで歩いている。

 うん、わたしはそんなに重くない。

 

 でも、士郎さんに肩車してもらっていつもとは違う視線っていうのは新鮮だ。

 

「ここだな」

 

 暖簾に湯って描いてある。

 

 士郎さんはおじいさんおばあさんがほとんどだから気にするなって言ってた。時間的には人は少ないだろうということも。

 

「おおー!」

 

 これが噂に言う露天風呂。

 

 なんていうか湯気がすごい。

 そしてなんといってもお湯が白い。なんでも若干泥があってすべすべしている水質とか。

 

「まずは体洗ってからだぞ」

 

「わかってるって」

 

 士郎さんに為されるがままのわたしには拒否権なんてないですから。

 

「う、なんかきすきすする」

 

 髪洗ってるとなんていうか。あと、石鹸の泡立ちも悪い気がする。

 

「アルカリ性だからじゃないか?

アルカリ性だと泡立ちとか悪くなるって聞いたけど」

 

 ふーん。

 

 ざーっと士郎さんが髪についたシャンプーを流してくれた。

 ぶるぶる。

 

「わっ。

散るから大人しくしてろ」

 

 絞ったタオルで頭をぐしゃぐしゃにされてしまった。

 これが女の子に対する態度だろうか。で、そのタオルは絞られて髪の毛を束ねられた。

 そのまま近くの湯船につけられる。

 

 はふー。

 

 思わず声が出てしまうほどの気持ちよさ。

 ちょっとぬるぬるしているように感じる。

 

「ちゃんと掴んでるんだぞ」

 

 士郎さんはそう言って自分の体を洗いはじめる。

 

 ちゃぽん。

 

 空を見上げると、雲一つない、とは言えないけども。それでも真っ白な雲が気持ちよさそうに空を泳いでいる。ほんと、メレンゲのようだ。

 ぽけーっとしながらちゃぷちゃぷしていたらとなりに士郎さんがきた。

 

「もう少し奥に行こうか」

 

 入り口付近で邪魔になってる。だから移動というわけやね。

 

「あっちの屋根があるところとか良さそうやない?」

 

「影になってるし、いいかもな」

 

 私はお湯の底に手をついて、顔だけを出して。

 ふらーふらーと移動する様は当にワニ。

 ワニさん泳ぎである。誰がなんと言おうとも。

 

「はやてけつが浮いてるぞ」

 

「えっち」

 

「はいはい」

 

 

 そのまま奥まで進んで屋根のあるところにつく。

 日差しが遮られて水温とも相まって何時間でもお湯に浸かって入れるような気がする。

 

 ふん、ふふふん、ふんふふふん。

 

 士郎さんが鼻歌を歌っている。

 ちょっと音も外れているし。

 

 温泉にはわたしたち以外の人影はなく、湯気は空に向かってその存在を小さくしていく。

 士郎さんの少々音外れな鼻歌も空に吸い込まれていく。それがとても心地よい。

 

「士郎さーん」

 

「ん?」

 

 空に顔を向け目を閉じたまま返事をしてくる。

 

「なんでもない」

 

「そうか」

 

 ちゃぷちゃぷ。

 

 ふん、ふふん。

 

 お湯の落ちる音と士郎さんの鼻歌だけが場を支配する。

 心地の良い空間。

 

 それでも、終わりというものはやってくる。

 

 空の端っこが青から橙に色が変わってきていた。

 

「そろそろ出ようか」

 

 唐突に言い出した。

 

「うん」

 

 これだけ。

 それだけでこの心地よかった空間は霧散してしまう。

 

 わたしはタオルを巻いて士郎さんに抱えられて出て行く。

 

 

 ガラッ

 

 士郎さんがドアを開ける前に内側から開けられた。

 

 出てきたのはお姉さんの集団だった。

 ちゃんとタオルは巻いているようだけど、タオルの上からでも体のラインって結構見えるものなんやね。

 

 士郎さん何見てやがってんですか。

 鼻の下伸ばしているようにしか見えない。

 

「士郎さん」

 

「あ、ああ。ごめん」

 

 そして気がついたら浴衣に着替えさせられていた。

 

「おばちゃん、牛乳二つ」

 

「はいよ」

 

 お金を渡して牛乳をもらうと、そのうち一つを私に渡してくれた。

 

 ぷはー。

 おいしい。

 

 少し暑くなっている体に冷たい牛乳は砂漠に水をまいたように吸収されていくようだ。

 

「次はフルーツ牛乳飲んでみたいなー」

 

「まあ次な」

 

 牛乳の他には、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳があった。

 

「ちょっと癖のある感じだけど美味しいといえば美味しいしなー。

だけど、断然牛乳が美味しいと思うんだ」

 

「誰に言ってるんや?」

 

「誰にって、はやてに?」

 

「なんで疑問形?」

 

「そういう時もある」

 

「そういうもん?」

 

「そういうもん」

 

 おばちゃんに牛乳瓶を返してから備え付けの椅子でちょっと涼む。

 扇風機がまわっており、首が振られて時々風がきてきもちいい。士郎さんは置いてあったうちわをぱたぱたと扇いでいる。

 

 少しうとうとしていたようだ。

 

「部屋に戻ろうか」

 

 という士郎さんの言葉に頷く。

 

 士郎さんにおんぶしてもらって、心地よい振動で瞼が重くなってしまった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 扇風機を前にして、あーなんて声を出したりしたりしていたはやてがうつらうつらしているのをみてこえをかけた。さすがに今日一日はかなり動いて疲れているのだろう。おぶったらすぐに背中からスースーと寝息が聞こえてきた。

 

 起こさないように、といっても起きる気配はないのだが、それでも起きないようにと部屋まで戻る。

 部屋に戻ると既に布団はしかれていた。そこにはやてを下ろして布団をかける。

 特にすることもないので、ちゃぶ台の上に乗った新聞を開き、テレビをつける。テレビからは声が垂れ流され、新聞をさっと読む。特に筆頭すべきことはなかった。

 

 テレビを動かし、窓際の板の間に置かれた椅子に座った状態でも見ることができるようにする。椅子は座り心地がよく高そうだった。

 窓から見える景色は山と温泉街。

 近くに小さいながらも川がある。

 

 ぼーっと眺めていると備え付けの電話から音がした。

 食事の準備をしても良いかという電話だった。

 

 十分もすると食事が運ばれてきた。

 そろそろはやてを起こそうかと思って立ち上がる。

 麩を開けるとはやてはまだ寝ていた。

 なんというか、すごい寝相をしている。暑かったのだろうか。

 

 はやてを起こしてから食事をする。

 食事は非常に美味しかったとだけ言っておく。

 

 食事を下げてもらい、各々に好きなように過ごす。

 はやては本を読み、それならいつでもやっているような気がするのだが、ねっころがっている。

 外は既に闇が支配していてその様子は見て取れない、なんてことはなく温泉街は街灯が爛々と輝き、その一帯を明るく照らしている。そこにいる人も多く、まだまだ賑やかそうな感じだ。

 

「士郎さん、もういっかい温泉に行きたい」

 

 そう言われてそれもいいか、と思う。

 て早く準備をしてはやてを連れ立って温泉へ向かう。

 

 途中、昼よりも多くの人に出会った。

 夕方を過ぎて入ってきた人たちと結論する。

 

 昼には昼の、夜には夜の温泉の良さがある。

 

 混浴だが、入っている人はご年配の方々ばかりである。

 

 今回はそれほどつからず、人が徐々に増えてきたことを考えて早めに上がった。

 

 部屋に戻って先ほどと同じように各々過ごした。

 二時間もするとはやても眠たくなったのか、寝ようと言ってきたので就寝することにした。とくに眠たいわけではないが、はやてに習って早く寝るのも悪くはないだろう。

 

 





これ以前の話は二次ファンで公開していました。


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