Black Bullet 〜Lotus of mud〜 作:やすけん
「まだだッ、まだ終わってないぞ逆鬼‼︎ こんなもんで終わると思うなよ」
鬼気迫る表情で呪詛を吐きながら半蔵は立ち上がる。
「貴様にだけは、負けたままでは気が収まらん。刮目せよ逆鬼。俺が新たに編み出した型をッ‼︎」
漆原棍操術–––『
半蔵はまるで演武を披露するように目にも留まらぬ速さで棍を回転させると突然止まる。従来の構えに戻るが……
「これは俺が対ガストレア用に編み出した型。侮れば真っ二つだ」
半蔵の持つ棍の穂先には、黒く禍々しい輝きを放つ湾曲した刃––バラニウムブラックの刃が取り付けられている。棍は瞬く間に鎌のような形状へと変化した。
「俺はこの型で天童式神槍術から1本取っている。そうやすやすと破れるようなものではないぞッ」
「天童か……それはなかなか、期待出来そうだな」
「いつまでそんな余裕が保てるかなッ!」
鎌へと変化した棍を大きく振りかぶり半蔵は肉薄する。
と、未だ間合いに入ってもいないのに半蔵は鎌を振り抜いた。
逆鬼は野生の勘で真横へ跳躍。すると一瞬前まで自らが立っていた地表に白刃の瞬きが踊る。
すっぱりと傷口を覗かせる地面。その綺麗な断面からは半蔵の確固たる覚悟が伺える。
「射程距離のある斬撃か。思いっきりもいい。やるな」
「その減らず口、閉じさせてやる」
半蔵はさらにシフトアップ。神速の踏み込みにより一瞬にして間合いを我が物とすれば、必殺の鎌を振るう。
が、敵も去る者。確実に相手の動きを見切り極黒の刃を避け続ける。
「どうした半蔵。装着した刃が重かったか? 動きが鈍ってるぞ」
「ほざけッ」
「発想は良かったかもしれんな。だが生まれたての型ほど欠点が多いものは無い。後継者がそれを受け継ぎ練り上げることで型は完璧へと近づいていく」
喋りながらも逆鬼は的確に半蔵の繰り出す斬撃をかいくぐる。
鎌のような形状の武器は引く動作で初めて相手を切り裂くことが出来る。自然と突きといった動作は制限されていく。繰り出される手札が分かっていれば避けるのも造作無い。
「おいおい、本当にその型で天童から1本取ったのか? だとしたら天童も地に堕ちたもんだな」
「……」
半蔵も敵わぬと悟ったのか攻めの手を緩め、間合いを開けた。
すると鎌をヘリコプターのプロペラのように回し始める。
辺りに1陣の風が起こり、逆鬼の衣服も強風に煽られはためく。
逆鬼は射程距離のある斬撃のために身構えた。
だが突然、半蔵は猪突猛進。ハッキリと大気の歪みが見えるほどの力強い踏み込みにより必殺の間合いへと躍り出る。
「……ッ⁈」
予備動作の一切もなく、また予想に反する動きに逆鬼の反応は遅れた。
だがもう一つ反応に遅れた要因がある。
半蔵が突きを放ったのだ。
それも鎌による刺突ではなく、刃は角度を変え棍の延長線上–––薙刀の形へと変化していた。
予想を2枚上回った半蔵の攻めは効果絶大。かろうじて逆鬼は頰の肉を切り裂かれながらも回避行動を取る。だが咄嗟の出来事に後手の計算を織り交ぜる事が出来ず、体を完全に左へ傾ける不完全な体勢となってしまった。この体勢では反撃も出来なければ、これ以上の回転行動も取れない。一度体勢を立て直す必要がある。
だが逆鬼は体を傾けた事により、突きつけられている薙刀の反対側に依然鎌が取り付けられているのを見咎める。
この薙刀は新たに取り付けた刃。反対の端には先ほどまで振るっていた鎌。半蔵の右半身を隠すマントも心なしか身軽になったように大きく翻っている。この深淵の刃はそこに隠されていたようだ。
逆鬼の顔に驚愕の表情が浮かぶ。
と同時に半蔵は無慈悲にもその鎌を振り上げる。湾曲した刃が見事な弧を描きその鋭利な切っ先が逆鬼の土手っ腹を貫かんとする。
半蔵は勝利を確信した。
が……
今度は半蔵の顔に驚愕の色が浮かぶ。
バラニウムブラックの刃は逆鬼の腹部を貫くどころか傷1つつける事叶わず、折れていた。
そして、その手応えは人体ではなくまるでモノリスを斬りつけたような圧倒的な質量の差を感じさせられる物だった。
「……貴様ッ、まさかデストロ––」
––ゴフッ‼︎‼︎
逆鬼は半蔵の水月にそのゲンコツをめり込ませた。余りの会心の一撃に半蔵は苦しげな吐息とともにたたらを踏むと片膝をつき、
「……まさか、お前が……な」
逆鬼は無情にもそんな半蔵の脳天に踵を打ち落とす。
顔面から地面に叩きつけられ半蔵の体から力が抜けるのを逆鬼は確認した。
※ ※ ※ ※ ※
–––逆鬼と半蔵が死闘を繰り広げる一方で–––
黒羽は朱音を追随、追い討ちの斬撃を浴びせる。
それを長槍で受けるが、あまりのパワーに受け切れず再び吹き飛ばされる朱音。
彼女らの一挙手一投足に突風が巻き起こる。土塊は舞い、廃墟は薙ぎ倒され、さながらハリケーンが通過した後のように大きな轍を刻み攻防は繰り広げられる。
この攻防を続けること早8回。
通常、ガストレアが苦手としているバラニウムの磁場はその力の恩恵を受けている『呪われた子供たち』も例外なく影響を受ける筈だが、モノリスの至近距離に来ても彼女たちの動きに淀みはない。
黒羽はその事に一瞬だけ疑問を感じるが、そんな呑気な事を考える暇をジェノサイダーは与えてくれない。長槍による打撃はその
だが、だからこそ黒羽はここを戦場として選んだ。
––『未踏査領域』––
ガストレアの住処となり、人類が立ち入ることが出来なくなった密林地帯。
モノリス1枚隔てただけで、日本とは縁のないはずのジャングルが延々広がっている。
朱音を弾き飛ばし大木にぶつけてやると、黒羽は適当な木の枝の上に降り立ち、相手を上から見下ろす。
「あなたさ、その槍、ただ無茶苦茶に振り回してさ、なんの心得もないんでしょ? こういう狭い場所じゃその無駄に長い槍も威力を発揮しないわ。ただの棒切れね!」
「はッ‼︎ 何を言うかと思ったら……んな事か。笑わせんな。腐れ売女が! かかって来やがれッ」
「そう……哀れね。あなたはここで死ぬかもよ」
「テメェにんな事が出来ると思ってんのか? 思い上がんじゃねぇぞ」
「ふん、せっかくだからいい物見せてあげる。私の『ピコちゃん』にはこういう使い方もあるのよ」
そう言うと黒羽はハサミの2本の刃が交わる部分のピンを抜く。それぞれを片手ずつに持ち替えると双剣として構えた。黒羽の持つ『ピコちゃん』はハサミとしての用途もあるが、振れば大剣、突けば重槍、分解すれば双剣と使い方は多岐にわたる。
「その減らず口、すぐに叩けなくしてあげるわ」
ジワーッと黒羽の瞳が血塗られた太陽が
「さぁ、あなたを地獄へ
黒羽は木の幹を疾走。途端、辺りを暴風が駆け抜ければ彼女の姿もかき消える。
つかの間の静寂の後、突如として黒羽が走った軌跡をなぞるように幹が快音をたて割れだした。それは生きた何かのように幹を縦断すると、そのまま地面を這う。そして真っ直ぐに朱音の方向へと向かってくる。
朱音はそれを認めるや否や跳躍。空へと逃げる。が、耳元でヒュンっと何かが鋭く擦過する音がした。それが何なのか思考を巡らす前に、体中からは鮮血が
「つッ⁈」
衣服はズタズタに切り刻まれ痛々しい裂傷がその隙間から顔を覗かせる。
森中には軽快に木の幹を踏みしだく音が木霊し、それを追従するように木が裂ける現象が付いて回っていく。
朱音は音源を探して頭を巡らすが、見えるのはズタボロにされた幹と少女の足跡だけ。
再び、耳元で鋭い擦過音。
全身に痛みが疾り、熱を帯びる。地面には血の水溜まりが出来ていく。
「どうかしら、一方的にやられる気分は? 気持ちいいかしらね。それともうれしい? 楽しい?」
黒羽は相手が絶望に打ちひしがれ、顔面蒼白の
「追い詰められて気でも触れたかしらね」
「はぁ〜たまんない。こんな殺し合いは初めてね。あ〜とろけちゃいそう……あたしも本気だそっかな」
「え……ッ⁈」
朱音の紅く燃える瞳の光量が増す。左目は
「何が本気を出すよ。そんなのハッタリに決まってるわ! もし、これから力が増すとしても私のスピードについてこれるわけがないわッ」
黒羽は三角飛びの要領で木を蹴り高度を稼ぐ。充分に距離を取ると朱音目掛け渾身の踏み込みで肉薄する。
足場として用いた木は、これまた快音を立て真っ二つに折れ曲がる。だが、この音を朱音が聞く頃にはもうすでに決着はついている。
黒羽は確実に朱音の首を捉えたつもりでいた。だが、手応えなどなく双剣は宙を切り、地に突き刺さる。
「おいおい、そんなもんじゃないんだろ? もっと速くなれるんだろう? ほらほら、もっとあたしを楽しませてよ」
「ッ⁉︎ なんなのあんた⁈」
黒羽はバックステップで間合いをとり、再度木を足場に跳躍を繰り返し姿をくらます。
「大丈夫よ、ただのまぐれで避けたただけよ。現にあいつは今、私とは反対方向を見ている。姿を捉えられてはいない」
自身を励ますように黒羽は呟くと、全身全霊を持って攻撃を仕掛ける。
「今度こそ、その首掻っ切ってやるッ‼︎」
黒羽自身、かろうじて風景を捉えられる速度までシフトアップ。この速度ならば、相手は首が落ちことも気づかぬまま地獄へ落ちる–––
–––はずだった。
「ねぇ、もうそれ飽きたんだけど」
突如後ろ髪を凄まじい力で引かれ、木の幹にしこたま後頭部を打ち付けられる。黒羽が訳も分からず辟易していると–––
「–––やっぱりあなたもこの程度なのね。全然面白くないや。生きてる価値ないよ。だからあたしが、息の根を止めてあげる」
心胆を寒からしめる言葉を聞き取ると同時にジェットコースターで体験したGが猫に踏まれた程度に感じられるほどの強烈な圧力に体を押し潰され、黒羽は歯を食いしばる。
が、次の瞬間にはブスリ、と何かが背中から侵入し腹部へと貫通する。
即座に燃えるような痛みが発生し、腹部から両腿、膝へと生温かい液体が滴っていく。
黒羽の可愛らしい顔が、苦痛に歪む。
「どうだ? 気持ちいいか? 中を掻き乱されて気持ちいいか? え? お前の兄貴のモノより、よっぽどデケェだろ? 身悶えするほどの快感だろ? おい、どうなんだよッ‼︎」
黒羽は自分で折った木の幹に叩きつけられていた。木目通りに裂けて鋭利となった1部が運悪く腹部を刺し貫いている。
「こんッ……の…………ク……ソッ、野…………郎……」
「あぁ〜ん? なんだって? もっとして欲しいってかッ⁉︎」
荒々しく前髪を掴み引っ張る朱音。軽々と黒羽を引っぺがす。刺さっていた木の1部は綺麗な表面をしていない。ノコギリのようにギザギザに突起した小さな返しが体内を抉る。この激痛に10才の少女が耐えられる訳もなく……
「グッ!! ァアアアアッッ!!!!」
獣のような咆哮を上げる黒羽。『ピコちゃん』を取り落とし両手で腹部を抑える。
その様子を見て、朱音の加虐性は暴走する。脊髄に電撃が奔り、快感が全身を犯す。湧き上がる破壊衝動にお腹の奥がキュッと引き締まる。それに呼応するように体がビクンっと脈打ち、火照りだす。
あまりの衝撃に文字通り木っ端微塵に吹き飛ぶ大木。大小様々な木片の中で宙を舞う黒羽を朱音は掴み上げ、再びリリース。
今度は地表目掛け急転直下。朱音は適当な木片を足場に黒羽を追う。接近し、落ち行く黒羽の顔面へ靴底を叩き込み、そのまま地面へと共に落下した。
大量の粉塵が巻き起こり、パラパラと木片が降り注ぐ中においても、しっかりと視認できた4つの赤い光点。
だがやがて、全ての木片が落ちきった頃、弱々しくなる2つの光点。それは徐々に粉塵の中へと溶けていき、最後は
「あ〜あ。壊れちゃった……………」
うぅ、黒羽〜(;_;)
骨は拾ってやるからな。
さて、
ネタバレをさせたくなかったので
いままであらすじには入れて無かったんですが
今回、このアナザーブラックブレット
機械化兵士に着眼を置いてます。
なので、今後は五翔会が話のメインになっていきます。
機械化兵士を監督する機関、Supervise Mechanization Soldier 通称SMSなる組織があってですね………
機械化兵士に対抗するべく造られた機械化兵士がいてですね………
その人達と五翔会の戦いを描いていこうかなと。
今は武術家がぶんぶん活躍してますが、今後は軍人が銃をバンバンぶっ放すようになっていきます。
新しい目線。
進化した機械化能力。
ぶっ飛んだキャラクター。
ド派手なアクション。
それらを心掛けてやっていきますのでどうか……
どうか……
そこのあなたっ!‼︎!
読み続けて下さい。
ペコ( ̄^ ̄)ゞ