Black Bullet 〜Lotus of mud〜   作:やすけん

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第4話

闇夜を切り裂く一対のテールランプ。

 

蛇のように蛇行するラインを漆黒のキャンパスに描き、流星の如く疾駆する。

 

『漆原民間警備会社』のロゴを貼ったそれは、悪路さえもものともせずに邁進を続ける。

 

ドライバーの漆原半蔵は巧みなハンドリングとシフトテェンジにより各コーナーの最短距離を効率よくすり抜け、目的地の32号モノリスを目指す。

 

乗り味を犠牲に極限まで機能性を高めたサスペンション。

 

排気、吸気共に効率よく行えるよう揃えられたエアクリーナー、マフラー等の各種カスタムパーツ。

 

他にも様々な改造を施し1秒でも早く現場に駆けつけるべく造られたこの車を半蔵は『フェリーラ・ポルシェント』と名ずけた。

 

物理の法則を嘲笑うようなコーナリング。本物のレーシングマシン顔負けの加速性能。半蔵が運転するそれはこの世の(ことわり)をひっくり返す機能を有している。

 

エンジンはミッドシップレイアウト。車高も必要最低限まで下げ、とことんコーナーを攻められるよう頑強なロールケージが備わっている。

 

半蔵は普段、社長席という名の棺桶(かんおけ)で石化しているが、それは棒術による稽古とこの車『フェリーラ・ポルシェント』の手入れが終わった後の事だ。

 

持ち主とは違い、石化、劣化する事もなく『フェリーラ・ポルシェント』は出陣の時を今か今かと待っていたのだ。

 

ここぞとばかりに唸りを上げる愛車に半蔵の顔も思わずほころぶ。

 

「いい調子だ。流石は手塩にかけただけの事はある。コツコツと貯金を貯めて、チョクチョクとカスタムした甲斐があったってもんだッ」

 

「そうね。軽トラだけどね」

 

「……」

 

だが助手席に座る瓜実顔の少女、黒羽の一言に満面の笑みのまま半蔵の表情が凍る。

 

「軽・ト・ラ。軽トラなのよねこれ? それを何なの。あたかもスーパーカーを運転するようにしちゃってさ。バカなのね?」

 

「こら、夢のない事を言うんじゃない。これが精一杯なんだから」

 

「その精一杯の結果で満足してた兄者の底は浅いわね」

 

「なっ……⁈」

 

「何よ、違うってーの?」

 

半蔵は眉間にしわを刻み口をツンと尖らせ鼻息を荒く吹いた。

 

「もうギブ?」

 

「……」

 

「バカね」

 

そう言われ半蔵の目から光が消え失せると同時に軽トラ『フェリーラ・ポルシェント』は素早い動きに精彩を欠き出した。ちなみに、同伴する燈咲刀は後ろの荷台にいる。夜風に髪を弄ばれながら、束の間の休息を味わうように静かに座っている。

 

「ほらどうしたのよバカ兄者? シャキッとしなさいシャキッと。えっと……そこ左ね」

 

黒羽が指を指した方向に軽トラは回頭する。

 

「まずはナビを付けて欲しいところね。方向音痴の兄者に『現場へ急行』なんて指令守れるわけないんだから」

 

「……」

 

「男の勘より、女の勘の方が鋭いのよ。黙って従いなさい」

 

「……あぁ」

 

「こないだのテロ事件だって未踏査領域を延々練り歩いて結局何もしなかったじゃない。挙句の果てにはお偉いさんからお叱りを受ける始末……『なぜ増援に向かうのに1時間もかかる地点にいたんだ⁈』ってね。私が聞きたいわ」

 

黒羽の愚痴は終わらない。

 

「聖居の職員からは要注意人物としてファイリングされてるそうじゃない。護衛を申し出ようとしても顔を見ただけで『帰れッ』な〜んて言われたりね。ま、言い出せば枚挙(まいきょ)(いとま)がないけどね。とりあえず、MSSからの依頼は正確にこなしましょ」

 

「もちろんだ」

 

「でも驚きよね。本当に機械化兵士が実在していたなんてね。ガストレアに対抗すべく手術を受けた戦闘員。テロ事件の実行犯と、それを止めた英雄様が機械化兵士。しかもそれぞれが盾と矛の役割を持っていた対となる存在。なんだかとても底が深そうね」

 

「ああ、まさか本当にショッカーがこの世にいるなんてな。いやショッカーじゃないか。機械と融合ならデストロンだな。いたよなッ⁈ 手にマルノコ付けた怪人」

 

「いや、知らないけど……」

 

「いいな〜、スーパーカーとスーパーパワーは日本男児の夢だ」

 

「……はいはい。でもそれは道徳的観点から見れば、著しく人道から外れた行いよ」

 

「道徳的か……。あの人類絶滅の危機(ガストレア大戦)に正常でいられた人間がいたか? 誰しもが生き残るのに必死だった。それこそ、家族や友人を犠牲にしてでも生を勝ち取ろうとしていた。まさしく地獄絵図だ。お前たち『無垢の世代』は分からなくていい話だ」

 

半蔵はいつもの軽い調子から一転。目に強い光を宿して語る。それには黒羽も思わずたじろいだ。

 

「……そう」

 

「世界は変わった。昔の常識は通用しない。当時は他にも色々な人体実験が行われていたそうだ。どんな力を持った人間がいても不思議じゃないのさ。ま、心配するな。お前はこの兄者が守ってやる。豪華客船に乗ったつもりでいろ」

 

「豪華客船……ね。おおむねタイタニック号ってところかしらね? それ、最終的に沈むのよ。不吉すぎ」

 

「人間誰しも完璧じゃないのさ」

 

「そうね。だからこそ互いに助け合わなくちゃいけないのね。ま、とりあえずは目先の事よ。逆鬼(さかき)って人を見ても喧嘩売るんじゃないわよ。仕事がなくなっちゃうから」

 

「ん〜それだがな……」

 

黒羽は半蔵の言葉を遮る。地団駄を踏む子供のように。

 

「ダメッ、ダメッ、ゼェ〜ッタイ、ダメッ‼︎ ダメったらダメなんだからね。仕事が無いまま月を(また)ぎたいの?」

 

「わかったわかった。俺の負けだ。まったく、何回言うんだ」

 

「バカな兄者のために何回も反復してあげてるのよ。簡単に覚えられるようにね」

 

「それはそれは、ご大層にどうも」

 

「ええ、感謝なさい……って、あれッ‼︎ 兄者ッ」

 

黒羽は突然フロントウィンドウを突き破らんが如く勢いで飛び上がると半蔵側のサイドウィンドウを指差した。

 

半蔵は黒羽が指差す方向へと目を向ける。すると目測にして1.5kmほど離れた地点で爆発が起こっていた。そこは目的地である32号モノリスへと通ずる道。これから通るであろう道路上で起こっている。

 

「なんだ、何事だ?」

 

「ガストレアよ。空から急降下したの」

 

「あそこは……確か」

 

「そうね。どっちみち通ることになるわ」

 

「それもそうだが、あそこには地下闘技場の入り口があるはずだ」

 

「へ〜。あそこにね……てッ‼︎‼︎」

 

突如急旋回をする『フェリーラ・ポルシェント』黒羽は車内で慣性の力に振り回され頭をウィンドウにぶつけた。

 

「いっててて〜。何すんのよ、このすっとこどっこいッ‼︎」

 

「あそこには蓮がいるはずだ。あいつはまだガストレアを相手に戦ったことがないはずだ」

 

「確かに。今はパートナー(イニシエーター)の蘭ちゃんもいないしね。危機的状況ってやつ?」

 

「よし、現場に急行だッ‼︎」

 

「大丈夫かしらね」

 

黒羽の危惧もどこ吹く風。半蔵はアクセルペダルを目一杯踏み抜く。

 

後輪を滑らすドリフト走行でヘアピンカーブを曲がり、最適な回転数でシフトアップ。そのまま加速し、コーナー進入のギリギリでフルブレーキング。前に荷重を乗せ、ハンドルを切り再びドリフト。S字カーブもなんのその。プロ顔負けの見事な切り返しで白煙とタイヤ痕だけを残し軽トラは前進する。

 

ストレート立ち上がりもお手の物。進入しながら回転数を稼ぎ、直線に入った途端のシフトチェンジ。ひっくり返りそうなほど車体が上を向き弩級の加速を敢行する。

 

黒羽の顔もだんだんと引きつってきた。しまいには顔色が悪くなり口元を押さえるに至る。指の隙間からは苦悶の呻きが漏れ聞こえる。

 

「いた。蓮だッ‼︎ ……蓮だが、ん? あいつは……」

 

徐々に速度を緩める軽トラ。それでも中々の速度を保ち蓮の元へと接近する。

 

隣の黒羽は半蔵の顔を見て様子をうかがっている。

 

「な、なんで止まんないのよ」

 

「……あの野郎」

 

「え?」

 

もう蓮のところを通過するというところで半蔵はブレーキペダルを壊さん勢いで踏みつける。

 

軽トラはつんのめるように急停止する。

 

「蓮、そんな奴と何やってんだ?」

 

「……半蔵さん」

 

ここで、蓮の隣に佇む巨躯の男が会話に割って入る。

 

「半蔵、お前に蓮はもったいねぇから俺たちMSSが引き抜いてやろうって話をしてたとこだよ」

 

「何……ッ‼︎」

 

後ろの燈咲刀のため息が聞こえた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「おう燈咲刀。方向音痴のガキを引率するのは骨が折れただろう?」

 

逆鬼は半蔵の事など眼中に無しと言わんばかりに話題を逸らした。

 

「いいえ、半蔵はちゃらんぽらんだけど、この子は使えるわよ」

 

そう言い燈咲刀は黒羽の頭を撫でる。

 

「そうか。反面教師ってやつだな。ダメな兄を見て私はしっかりしなきゃって頑張ってるんだな」

 

「本当に、その通りね」

 

その後も一言二言逆鬼と燈咲刀は会話を交わす。その間、漆原兄妹はそれぞれ行動を起こしていた。音もなく車から降り、得物を手に取る。

 

「あんた達ね、黙って聞いてりゃいい気になってんじゃないわよ。私たちの何を知ってるって言うの? 口は災いの元って習わなかった?」

 

明らかな怒気を孕んだ眼光を逆鬼へと向ける黒羽。だが即座にそれを遮るように朱音が眼前に立ちはだかる。

 

「誰に物申してんだ。格下の分際で、そこいらの石ころほどの価値もねぇウジ虫が粋がんじゃねぇよ」

 

共に背丈も体格も同じだ。真正面から2人は睨み合う。

 

「何なのあんた? 口が悪ければ顔も悪いわね。そんなんじゃ嫁に行けないわよ」

 

「チビが口だけは達者だな。毎晩兄貴のモノで練習してるからか?」

 

「はっ⁈」

 

「とぼけんじゃねぇぞ淫売。近親相姦野郎。犬畜生が。あたしに喧嘩売った事、高くつくぞ」

 

「それは、楽しみね。私もあんたを躾してあげたくなったわ。キャンキャン喚く犬は近所迷惑だからね」

 

朱音の瞳の色が変わる。怒りと殺意が激流となり瞳孔の中で蠢いてる。

 

「まったく、喧嘩を売るなと散々言っていた本人が、いの一番にそれを反故にするとはな」

 

半蔵は黒羽を視界の隅に捉えながら呟いた。

 

「ちょうどいい機会じゃねぇか。1本やってやる。負けたら蓮の事はあきらめろ」

 

一方の逆鬼は不用心にズカズカと半蔵へと近ずく。それを認め、半蔵の目から一切の光が消え失せる。

 

「舐めてかからない事だ。怪我じゃ済まなくなる」

 

逆鬼の口角が吊りあがり目には好戦的な光が、歓喜の色が映写される。

 

「いいぜ半蔵。やれるもんならやってみろ」

 

「望むところ」

 

互いのペアはバックステップをして間合いを開けた。

 

「名乗るぞ逆鬼ッ‼︎ 漆原棍操術(うるしばらこんそうじゅつ)、漆原半蔵ッ」

 

「モデル・レイブン。漆原黒羽」

 

溢れる闘志を抑えらず意気揚々と名乗る相手にやれやれと言った様子で逆鬼は応える。

 

「今さら言うことなんかない。逆鬼獅子(さかきれお)だ」

 

「モデル・シュライク。九条琥珀(くじょうこはく)

 

蓮は目の前の光景に唖然とし、燈咲刀は予想通りの展開に特段焦ることもなく傍観している。束の間の静寂が訪れた。

 

4人は身動きせずに互いを注視する。

 

漆原民間警備会社。

 

プロモーター、漆原半蔵。漆原棍操術の宗家。バラニウム製の棍を持ち構えをとっている。右半身だけを隠すマントが風に揺らめいている。

 

イニシエーター、漆原黒羽。グリムリーパー(終焉の風)の異名を持ち、身の丈ほどの断ち切りバサミを装備している。その刀身はバラニウムブラックで、カラスの(くちばし)を模している。

 

対するは業界屈指のMSS所属のペア。

 

プロモーター、逆鬼獅子。素手でガストレアを殺すほどの力を持つ巨躯の男。

 

イニシエーター、九条琥珀。ジェノサイダー(虐殺者)と戦闘中に現れる人格には”紅”朱音という異名がつけられている。伸縮式の槍をステッキに偽装し常に持ち歩いている。

 

「行くぞッ‼︎ 逆鬼ッ」

 

先に仕掛けたのは半蔵。ピュンっと周囲の空気が踊るとそれに弾き出されるような踏み込みで瞬く間に間合いを詰める。

 

それに身構える逆鬼。見送る朱音。

 

だが半蔵は間合いに入る手前で棍を地面に打ち付けた。逆鬼の眼前で瞬時に方向転換をして半蔵が向かった先は……

 

「くらえッ‼︎ 『無影百鬼突(むえいひゃっきとつ)ッ』」

 

「朱音、避けろッ‼︎」

 

2人が叫ぶのは同時だった。技が炸裂するのは朱音がそれを聞き取り、理解するのと同時だ。

 

「遅い‼︎」

 

半蔵の体から唸りを上げネジ出される棍の穂先が朱音の鳩尾(みぞおち)を捉えた。

 

体をくの字に曲げ悶絶する朱音だが、それだけでは終わらない。体の至る所で爆発が起こっているかのようにデタラメに手足をばたつかせながら吹き飛んでいく。

 

1突きの動作で100箇所の急所を抑えるのが無影百鬼突だ。鳩尾を捉えた時点で既に全身隈無く打ち抜かれている。その作用が時間差で襲いかかり、しばらくは激痛に苛まされることになる。

 

「朱音⁈ ちっ、小癪(こしゃく)な手を使う」

 

逆鬼は半蔵に正対し、攻撃を仕掛けようとした。だがその時、薄い刃が視界の隅からすっとスライドしてきた。

 

それが何なのか確認することもなく、逆鬼は即座にダッキング。途端、重厚な金属がガッチリと噛み合う快音が耳朶に響く。自身の髪の毛がヒラヒラと空間を舞っているのを視界の隅に捉え、逆鬼は視線を上に向ける。

 

そこには子供ほどの大きさのカラスの嘴があった。気配も、殺気さえも感じさせなかったが、確実に殺す気の一撃だった。

 

「このガキがッ‼︎」

 

逆鬼は丹田に力を込め全身に気を巡らす。そして吐息と共に気を放出、己の体を鋼鉄と化しゲンコツを嘴目掛け振り上げた。

 

派手な火花と衝撃音を撒き散らし、嘴は打ち上げられる

。黒羽はそれを離すまいとガッチリと柄を握りしめていた。結果、彼女の両腕はハサミと連動し万歳の格好となり無防備な胴体を晒してしまった。

 

そこを見逃す逆鬼ではない。即座に次手に転ずる。正拳突きを少女の土手っ腹にぶち込まんと姿勢を整える。

 

刹那、目の前で赤く燃え上がる2つの瞳。黒羽はここに来て力を解放した。

 

「何ッ⁈」

 

歯を食いしばり、渾身の力を込めハサミを振り下ろす黒羽。嘴は容赦なく逆鬼の頭部へ叩き込まれる。

 

途端もない力をもって鈍器で殴られ平気な人間などいない。逆鬼は地面に突っ伏した。

 

「無様だな逆鬼。敗北の味はどうだ?」

 

半蔵が詰め寄り、追撃を加えようとしたその時、彼方から豪速で槍が飛来する。

 

それに気づき弾き落とす半蔵。逆鬼の眼前に槍は突き刺さる。

 

そこで現れる朱音。既にダメージは回復しているのかその足取りに乱れはない。

 

「おいタマナシッ、このインポ野郎ッ‼︎ よくも散々ぱら突き回しやがったな‼︎ あたしゃ雄が大っ嫌いなんだよッ」

 

凄まじい勢いで吐き出される怒号。それを追い風とするように朱音も瞬時に半蔵との間合いを詰める。

 

今度は黒羽がそれを遮る。

 

「どけメス豚が‼︎」

 

「うっさいッ‼︎」

 

ハサミを大剣のように横一閃。だが朱音はそれを足場にし跳躍。踏み抜く瞬間にこれでもかと力を込めた結果、黒羽のハサミは地面にめり込んだ。

 

「くっ⁈」

 

ハサミを引き抜こうにもビクともしない。

 

「そのまま大人しくくたばりやがれッ‼︎」

 

朱音はライダーキックの要領で黒羽の直上から蹴りを放つ。

 

「あーもうウザいッ」

 

真紅に染まる黒羽の双眸。力尽くで土の中のハサミを開くとちゃぶ台返し。派手に土石を巻き上げそれを朱音へとぶつける。

 

だがこの程度でジェノサイダーは止まらない。石片が衣服を突き破り皮下へ食い込もうとも構わず蹴りを放つ。

 

だが黒羽はそれを予め予測していたように次手に転ずる。

 

「お間抜けさん、これで真っ二つよ」

 

ハサミを閉じ、野球選手よろしく構える。

 

「あなたのその靴でこの『ピコちゃん』の1撃、耐えられるかしらね」

 

足、腰と連動し動力を全て腕に乗せ、『ピコちゃん』は振り抜かれる。

 

「間抜けはてめぇだドグサレ肉便器」

 

朱音目掛け突如として槍が飛来し、それをキャッチすると乱暴に振り下ろす。

 

凄まじい剣戟音と衝撃波。地面が蜘蛛の巣状に割れたかと思いきや、次の瞬間にはクレーターのように落ち窪む。

 

「ちッ‼︎ 何やってんのよ兄者は」

 

「揃いも揃って雑魚だなテメェら。ムカデ人間みてぇに1つに繋げて殺してやるぜ」

 

「こッ、んのーッ‼︎ 言わせておけばぁああッ‼︎」

 

黒羽は渾身の力を込めてハサミを振るう。全身の筋肉が軋みを上げた。だがその甲斐あって朱音を吹き飛ばすことに成功した。

 

即座に半蔵の状態をチェックする黒羽。逆鬼の蹴りを棍でもって受け止め、現在は膠着状態となっているようだ。

 

「心配するな黒羽。行ってこい!」

 

「ええ、兄者。あいつ、殺してくるわ」

 

冷徹に黒羽は吐き捨てると朱音を追随する。

 

「どうしてどうして。半蔵、お前の妹なかなかやるじゃねぇか」

 

「舐めるなと言ったはずだ。だがそれは俺も同じことッ」

 

半蔵は足腰を脱筋。ゆらゆらと下がり始める下半身だが、頃合いを見計らって下肢に力を入れる。たわんだ分を補うように硬直する筋肉の動力をそのまま全身運動と同化させ相手を押し返す。

 

ドンっと弾き飛ばされる逆鬼。

 

「見せてやるぞ、進化した漆原棍操術を」

 

「ふん。たかが知れてそうだがな」

 

「身を以て味わえ」

 

言い終わらないうちに半蔵は首筋、鎖骨辺りを狙って踏み込みと共に棍を振り下ろす。

 

重く鋭い1撃だがそれを辛くもバックステップで躱す逆鬼。

 

今度は返す刀で棍を振り上げる。対する逆鬼は棍と同角度に体を傾がせ入り身という歩法により瞬く間に間合いを我が物とする。

 

恐怖の正拳突きが繰り出されるという時、半蔵は体ごと逆鬼にぶち当たり弾き飛ばした。

 

再び間合いは半蔵の物となる。だがここから半蔵はさらに攻撃の手数を増やす。最早逆鬼の入る隙間がなくなるほどの連打を繰り出す。その速度は音が動きについてこられなくなる程だ。半蔵が棍を振り切った後にブンっという音が聞こえるに至る。音速を超える打撃。一般人は視認することすら敵わない。

 

鞭のようにしなり、唸りを上げ繰り出される棍打。自身の体の1部のように棍を扱える半蔵の技術は一朝一夕では身に付けることはできない。

 

その軌道は正に縦横無尽。見切るのも困難を極める。

 

加え逆鬼は無手。射程外からの攻撃は捌くほか手段がない。しかし、辛うじて間合いを詰めたとしても巧みな体当たりにより再び距離を開けられる。

 

少しずつ棍が逆鬼の体を掠めだす。ヒリヒリとした痛みが全身の至る所で発生する。

 

防戦一方の逆鬼に起死回生の一手は無いように思えた。

 

「前に比べれば段違いじゃねぇか半蔵」

 

「当たり前だ」

 

「当たり前……か。面白い。ならば俺に負けても言い訳するんじゃねぇぞ」

 

「どの口がそんな寝言を言う?」

 

「よく見とけよ。一瞬だ」

 

逆鬼は裏拳により棍を弾くと間髪入れずに前蹴りを放つ。

 

半蔵は受けることはせずにバックステップ。

 

3メートル程の間合いが出来る。

 

逆鬼は息吹により気を練り上げ全身に巡らすと、従来の構え––––片腕を腰の辺りに据える構えから両腕を前に突き出した構えにチェンジする。

 

「なんだ、空手じゃ敵わないから今度はボクシングでもしようってのか?」

 

バーロー(馬鹿野郎)。これはボクシングじゃねぇし普段使ってんのも空手じゃねぇって言ってんだろうがッ‼︎ 俺が使ってんのは(ティー)だ。スポーツ化した生半可な武術じゃない。琉球王国が素手で相手を殲滅するために戦場で練り上げた殺人の拳だ。半蔵よ、殺す気で来いッ」

 

「もとよりそのつもり。貴様の武、とくと見せてもらおうか」

 

半蔵は棍を上段に構え、逆鬼の踏み込みに打ち下ろしで応えた。

 

対し逆鬼はそれに裏拳を合わせる。軌道を逸らし懐まで一気呵成に忍び込むと半蔵の眉間目掛け神速の突きを放つ。

 

首を傾ぎ、迫り来る岩石のような拳を避ける半蔵。だが、確実に正拳を避けはずなのに突如として顔面に衝撃が走る。

 

「……ッ⁈ な、ふざけるなよッ‼︎」

 

上段から下段への振り下ろし。逆鬼の脛を狙った打撃を半蔵は繰り出した。

 

足の位置をすっと変え何気なくそれを避ける逆鬼。

 

振り返し、レバー目掛け半蔵は棍を水平に横薙ぎ。

 

だがそこで逆鬼は待ってましたとばかりに猪突猛進。左の腕を突き出し、右の正拳を左の肘に直角に押し当て、肘を張った構えで突撃。

 

果たしてダメージを被ったのは半蔵だった。

 

逆鬼の張り出した右肘が半蔵の棍を受け止め、左の正拳を加速させ、過たず眉間を打ち抜かれてしまった。

 

白目を剥きながら吹き飛ぶ半蔵。

 

構えそのまま残心し、冷ややかに見下ろす逆鬼。

 

「勝負あったな……」

 

 




どもどもお久しぶりです。

暇を見つけチョクチョク書いてたんですが思うようにすすまずとりあえず4話として出したいと思います。

まだまだ戦いは続きます。

次は朱音vs黒羽のシングルマッチ

逆鬼vs半蔵の第2ラウンドです。

黒羽はとうとう常に力を解放状態で

半蔵はマントに隠された奥の手を駆使し

それぞれ敵に立ち向かいます。

文脈もその日のテンションでマチマチで、読みづらいかもですが……

感想とかあれば欲しいです。

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