Black Bullet 〜Lotus of mud〜   作:やすけん

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あゝ、禁断の再編(´・Д・)」


第1章
第1話


 

頭上から降り注ぐ大量の光線に自然と体は火照り、肌に汗が滲み出す。

 

心臓は今にも破裂するのではないかというほどの高速の鼓動を刻んでいる。

 

少年–––瀧華蓮(たきはなれん)は深呼吸を繰り返し、(はや)る気持ちを抑えこむ。

 

蓮の体は小刻みに揺れ、一見すれば怯えているようにも見える。だが、本当は違う。内から溢れ出そうになっている破壊衝動を抑えているに過ぎない。

 

野性味溢れる双眸に体躯。草原を駆け巡る競走馬のように一切の無駄を(こそ)ぎ落とした完璧な肉体が照明の光を反射して輝いている。

 

その少年–––蓮は、巨大な檻の中にいた。

 

だが蓮は見世物でも飼われている動物でもない。その檻とは、いわゆる地下闘技場におけるリングの事を指している。

 

檻の中には蓮の他にも屈強そうな男が何人も所狭しと押し込めらているのが確認できる。

 

これから行われるのは、正真正銘の殺し合い。命を賭けた、本物のバリートゥード(何でもあり)だ。最後の1人になるまで、殺し合いは続く。

 

場内アナウンスが観客を煽る。興奮の坩堝と化した会場は歓声と地団駄により地響きを伴い揺れる。

 

そしてアナウンスは順繰りに今夜死ぬであろう英傑たちの名を読み上げていく。

 

自称大量殺人犯に始まり、ヤクザ、プロ格闘家だという者。民警の荒くれ者に果ては高校教諭まで……。

 

三者三様。十人十色の男達が、運命のいたずらか同時期に檻の中に入り殺し合う。

 

金のため、名誉のため、戦う理由はそれこそ人それぞれだろう。

 

色々なドラマがあり、男達は交錯する。だが、これが終われば紡がれゆくドラマは1つとなる。

 

蓮は舌舐めずりをする。

 

多くの犠牲の上に勝利が確立するように、幸福な者の安寧は普遍なく不幸な者の犠牲の上に成り立っている。

 

この少年にとって幸福とは闘争。餌食となるのは弱者–––犠牲者だ。

 

甲高いゴングの悲鳴が会場に木霊し、幾人かの人生の終わりを告げた。

 

ゴングと同時に蓮は僅かに前傾姿勢を取ると、右腕を体側に付け右半身を引き完璧な半身となる。左腕は肘までを体に引きつけ手の甲を相手に向ける様にする。掌は顔の高さだ。

 

天壌無窮(てんじょうむきゅう)の構え』

 

世界は天地とともに永遠に極まりなく続くさま。父より教えられた名も知らない拳法の攻撃特化の構えだ。

 

まずは正面の男を片付ける。

 

いかにも武術家然としたその男は、律儀にも戦う前にお辞儀をしてきた。だが蓮に答礼などする気は一切ない。

 

一気に間合いを詰めるとお辞儀の代わりに相手の鼻っ柱へと肘鉄を叩き込む。

 

1撃の元1人を仕留めると今度は組み合っている男2人組へと標準を定める。

 

蓮は高く跳躍。脚で半月を描きながら振り上げ、頂点まで登らせるとピタッと止まる。そして、体を密着させ押し合う男達へ向かい自然落下に身を任せる。

 

「『嚆矢(こうし)上下捻唸麟(しょうかねんてんりん)』ッ」

 

ギロチンのような踵落としを2人の後頭部へ同時に繰り出した。

 

グキッと嫌な音をたてながら2人は首を反らすとそのまま突っ伏した。

 

「ふー」っと蓮が残心していると、背後から殺気。

 

咄嗟に振り向けば、岩石のような拳が蓮の眉間へと高速で迫ってきていた。

 

だが、蓮の体は脊髄反射のレベルで次手へと移行している。

 

飛来する拳を両手でキャッチをすればバルブを(ひね)るように(ねじ)る。捻りながら懐に忍びこみ腰に相手の体を乗せると強烈な1本背負いを敢行した。

 

けたたましい音を立て破砕する床。ドッと会場は湧くが同時に悲鳴も漏れ聞こえる。

 

投げられた相手の手首はバネのようにねじ上がり、肘からは折れて鋭利となった骨が骨密度を見せつけるかのように皮下を突き破っていた。

 

「『緋点(ひてん)焫零(ぜつれい)』」

 

見る見る間に、腕から流れ出る血で朱の湖面が出来上がる。

 

そこでふと、蓮は会場が静まり返っているのに気付く。

 

全員の視線が蓮へと注がれていた。

 

そこに檻の中にいるいないの別はない。

 

すべての人間が蓮の一挙手一投足に注視している–––

 

–––と、言うことは……

 

檻の中にいる男たちが、蓮に向かい一斉に突撃を仕掛ける。

 

一気に襲いくる3つの拳打。すべて同じ地点––顔面を狙った物だ。

 

蓮はダッキングによりそれらをいとも容易く回避すると、しゃがんだ状態から中段後ろ回し蹴りを放つ。

 

「『佳局(かきょく)左右絞呻燐(あてらこうしんりん)』ッ」

 

文字通り3人の成人男性を一蹴。

 

だが息つく暇もなく、周りは屈強な男たちに囲まれていた。

 

今度は全方向からの攻撃が蓮へと繰り出される。

 

即座に構えをスイッチ。

 

腰を低く落としボクシングのサウスポースタイルのように右腕を前に突き出し、それに寄り添うよう左腕も前へと添えた姿勢。

 

雲集霧散(うんしゅうむさん)の構え』

 

雲のように集まり、霧のように散る。防御に特化した構えだ。

 

蓮は四周同時に襲い来る攻撃を全て右へと順繰りに流していく。

 

まるで映画に出てくるカンフーマスターのように器用に迫り来る拳打を隣の男へと流し、襲い来る前蹴りを逆に蹴り飛ばし他の男へと軌道を曲げてやる。

 

「『磨我陀念珠(まがたねんじゅ)』」

 

男たちの攻撃はまるで球状の物の表面を滑るかのようになめらかに逸らされていく。

 

蓮は激流をも遮り続ける岩石の中に閉じこもっているかのように不可侵の領域を築く。

 

自滅、または同士討ちを強いられ、周囲の男たちは倒れていく。

 

四周を取り囲んでいた男たちも、残すところ1人。

 

蓮はそこであえて隙を見せてやる。

 

あえてガードを上げ、下腹部をガラ空きにしてみせた。

 

そして自ら相手の間合いへと歩み寄る。

 

圧倒的な力量差。絶望しかけた所で著名な隙を発見した男は、それが誘いともわからずそのガラ空きの腹部へヒザ蹴りを繰り出した。

 

両手で蓮の後頭部を捉え、引き付けると同時に鳩尾へヒザを叩き込む。男はヒットの直前、勝利を確信しただろうか?

 

だがその答えを知る者は誰もいない。

 

蓮は後頭部に置かれている相手の右手を左手で掴む。この際、人差し指から小指までの4指でしっかりと相手の手側面を保持し、親指で相手の薬指の付け根付近を圧迫する。

 

同時にその手をくるりと返し相手の手首を(ひね)りあげてやる。前腕の筋肉を(ねじ)りあげ、断裂させんと力を込める。当然、相手は反射的にそれを防ぐため、力を込められた方向へと体を傾がせる。

 

そこで蓮はひっくり返っている相手の手の甲へ残る右手を添え、前へと押してやる。

 

そうすると面白い事に相手は後ろへと倒れこむ。

 

可動域を完全に越える動作をかけられ、恐怖に駆られた男は筋肉の断裂や骨折よりも、派手に受身をとる事を選択したようだ。

 

だがそんな事は既に織り込みずみだ。蓮は相手の体勢をコントロールするために倒れこむ男と共に1歩足を運ぶ。倒れた相手の腕を股の間に挟み込むように動きテコの原理を使い思いっきり捻りあげると、拳を相手の顔面へと振り下ろす。

 

日頃の鬱憤も吹き飛ばす、スカッとするような会心の1撃が極まる。

 

「『臥邏無卍捻(がらんまんね)』」

 

威嚇するように蓮は周囲を見回す。もう檻の中で立っている人間は片手に収まる程になっていた。

 

蓮を除くその他数人は熊のような男1人を囲むように展開し、今にも跳びかからんとしている。

 

その中央の男のはち切れんばかりに発達した筋肉。剃り上げた禿頭。眉間にはアルプス山脈のような深い皺が刻まれている。体の至る所にも裂傷が奔り、銃創も散見、ケロイド状になった火傷痕まで確認できる。

 

一体どんな人生を歩めばそのような身体になるのか?

 

歴戦の猛者とは、彼のような事を言うのだろう。

 

ヒグマのようなその男は数的不利にも関わらず一切微動だにしていない。

 

冷徹な瞳で周囲を睥睨すると、かかって来いと手招きする。

 

正面の男がそれに応える。これからどんな戦いを見せるのかと周囲が息を飲んだ瞬間、男の身体は吹き飛んだ。そのまま金網に衝突すると男はドリルのように身体を錐揉みし続け、金網が重厚に首に絡まりようやく止まった。周囲に肉の焼ける音と臭いが充満し、観客は固唾を飲んだ。

 

残る男達が一応に怯んだのを見て、禿頭(スキンヘッド)の男は「ふん」と鼻で笑うと悠然として間合いを詰める。だが怯えきった相手は逃げ場などない檻の中で逃げようとして踵を返す。全力疾走をして少しでも生き長らえようと悪足掻きをする。

 

スキンヘッドの男はその図体からは想像もできない猫のような軽やかな動作で跳躍。逃げる男の眼前にスっと着地してみせ、相手の顔面を鷲掴みにする。そしてそのままリンゴを潰すように頭部を握り潰すとその骸を最後の1人へ向かい投擲。男の身体に屍体が突き刺さるという悪趣味な殺しをやって見せ、スキンヘッドの男は観衆から歓声を受ける。

 

この質量にして、あの俊敏性、言わずものパワー。

 

「おいガキ」

 

蓮は身体が軽くなるのを感じた。

 

「おいガキ、聞いてんのかコラッ?」

 

「ん? ––––––蓮はやっとここで、このスキンヘッドの男が自分に話しかけているのに気付いた––––––なんだ?」

 

「なんだじゃねぇ。残るは俺とお前だ。名乗れ」

 

「……」

 

これから戦うというのに何故名乗らなければならないのか?

 

相手の名を知ることに何の意味があるのか?

 

そんなもの、クソ程の価値もない。

 

「俺はIP序列1150位の大熊大厳(おおくまたいげん)だ」

 

––オオクマタイゲン––

 

蓮はしばらくその名を脳内で反芻(はんすう)してみた。そして思わず吹き出しそうになるのを堪える。名は体を表すとはよく言ったものだ。

 

「そうかオッサン。デケェ熊みてぇな図体て意味の名前か。ははは……いい名前だよ」

 

「馬鹿にしてんのかぁあッ」

 

大厳が叫ぶのと拳を一閃するのは同時だった。

 

蓮は特段焦る様もなく捌き技『磨我陀念珠(まがたねんじゅ)』にて迫り来る拳打の着弾点をズラさせた。

 

手首を優しく握り、引き倒すように後ろへと流す。これだけで相手は自らの拳に釣られて前方へ転ける事になる。

 

蓮の狙い通り、大厳は前のめりになって倒れこむ。

 

「一体何が起こったんだ?」大厳の顔は明白にそう語っている。

 

「オッサン。俺はもう1年ここに足繁く通って腕を磨いてきた。もうあんた程度の相手にゃあ負ける気がしないね」

 

蓮は大厳を見下ろし、そう断言する。これに激昂しなくて闘士が務まろうかと大厳は鼻息荒く起き上がる。

 

「クソガキがッ! ほざくんじゃねぇッッ‼︎‼︎」

 

激情の丈を全て拳に乗せた、そんな苛烈な1撃が蓮へと切迫する。

 

「阿呆が。あんたの動きはもう見切っている」

 

蓮は外へ体を開きながら入り身で肉薄。大厳の右腕にしがみつくように右手で手首を、左手で肘を持ち力の流れを上向きになるようにクルッと反時計回りに回してやる。可動域を越えた動きに大厳も釣られて力の方向へ体を倒すが僅かに遅かった。

 

「『忉俐(とうり)閻儛醍(えんぶだい)』」

 

妙な音を立てる大厳の肘。

 

今大厳の肘は靭帯という靭帯は断裂し、軟骨はねじ切られている状態だ。

 

苦痛の大絶叫が会場を揺らす中、蓮は酷薄な目で大厳を見下ろしつつ間合いを開けた。

 

「オッサン、降参しな」

 

「なッ⁉︎ なん……だと?」

 

「だから、降参しなって。命を粗末にするんじゃないって」

 

「はッ‼︎ お前は……アマちゃんだな。今日お前は誰1人として殺してはいないしな。敵を見逃して……お前の寝首を掻くかもしれない脅威を……見逃すだと⁈ 笑わせるな」

 

大厳は痛みに脂汗を大量に滲ませながらも威容を保とうと高圧的な態度を取るよう努力している。

 

「別に俺はお前らを殺した所でなんの罪悪感も湧かないさ。親父との『不殺の誓い』があるから殺さないだけ」

 

「鼻垂れ小僧が。理想ばかり掲げやがって。そんな甘い考えじゃ、この世界で長生きしねぇぞ」

 

「安心してくれ。オッサンに気を使ってもらうほど、俺は年老いちゃいない」

 

大厳は歯を食いしばり立ち上がる。

 

「おいおい。もう止めとけって。これ以上は–––」

 

「–––うるせぇッ‼︎‼︎ 俺様が乳離れも出来てねぇようなガキに負けるだと……そんな汚名を背負って生きるなら、死んだほうがマシだってんだッ」

 

蓮はやれやれと首を左右に振る。

 

「分かったよ。あんたは口で言っても分からないタイプのバカなんだな。身体に刻んでやるよ」

 

「やってみろ」

 

蓮は今一度攻撃特化の『天壌無窮の構え』をとる。

 

数瞬後、蓮の背後で爆発が起こる。粉塵を巻き散らかし地に轍を刻んだそれの正体は踏み込み。

 

だが大厳は手負いの猪。前蹴りを蓮の踏み込みに合わせ繰り出した。

 

爆速のまま加速する蓮は反時計回りに回転。大厳の突き出した脚の下をかいくぐり背後に回る。

 

そして途切れることの無い流水––柳の動作で遠心力をそのまま拳に乗せてすくい上げるようなアッパーを大厳の肝臓(レバー)へとねじ込む。

 

「『惨式(さんしき)軛羅魅轆轤(くびらみろく)』 ッ–––ぶっ飛べ‼︎」

 

めりめりと食い込んでいく蓮の拳。異様な程傾ぐ大厳の体。だがやがて、拳打の圧力が大厳の体重を凌駕し、その巨躯を空へと打ち上げた。

 

あまりの威力に数秒金網に張り付いた大厳の肢体だが、やがて思い出したかのように自然落下を開始した。

 

質量を感じさせるドンッという重厚な音と共に、死闘の終焉を告げるゴングの音が木霊する。

 

終わったかと、蓮は一息つく。無事に終わりホッとする一面もあるが、深層ではもっとこの闘争に身を浸していたいという願望が根強く蔓延っている。首に彫られた五芒星(ペンタグラム)がその正当性を主張するように今もドクドクと脈打っている。そしてその五芒星の中央には『57』という数字の刻印がある。当の本人の蓮にはこのタトゥーを入れた記憶などないが、恐らくこれが自らの出生の謎と大いに絡んでいることは察しがついてきた頃だ。

 

蓮の当座の目標は無き父の無念を晴らす事と、自らのルーツを探ることだ。

 

「俺はもう、弱者じゃない……」

 

確固たる決意の光を宿した瞳で虚空を睨み、蓮は呟いた。

 

 




はい。ということで1話をお送りしました。

技がバンバン出てなんか安っぽくなってますな。

大丈夫です。今後主人公はめぼしい活躍しないのでww

ここしかないぜ! と張り切ってもらいました。

はい。

世界観だけ借りて、原作キャラ一切出さず、いや、出来るだけ出さずにオリキャラ主体でオリジナルストーリーを進めるのが今回のlotus of mnd になります。

前まで別の所で書いていてそれが一応の決着を見ているのですが、それに蓮という少年を加えて、テーマ性を持たせ、再編したものが今作ですね。

知っている人は知っている、今後の展開。

まぁ、仕事、学校等に向かう電車の中とか、休日どうしようもないくらい暇な時、どんな事やるんや? と想像してて貰えたら嬉しいです。

正直に白状しますと

一章は多分つまんないです。

本格始動する二章への布石みたいに

対して意味のない事が続いていきます。

読んでみて

つまんねじゃねぇか時間返せ

と言われても仕方ないと思うんですが

二章以降に

絶対価値あるものに変換してみせます。

懲りずに

読み続けて頂けたら

嬉しいです^ ^

では、また会う日まで。

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