救いは犠牲を伴って   作:ルコ

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歩み

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は不敵に笑って荒野を歩く。

俺には付いて来いとだけ言い、目的地を教えてくれない。

 

すると、彼女は俺に背を向けたまま話し出す。

 

 

「比企谷くんと会うのは久し振りだよねー。3年振りくらいかな?」

 

「そっすね。…最後に会ったのは俺がSAOから目覚めてお見舞いに来て頂いた時かと」

 

「……ふふ。そうだね」

 

 

…相変わらず読めない人だ。

 

こうして、この場に彼女が居ることは菊岡さんの差し金であろうが、それの真意を聞こうにも答えははぐらかされてしまった。

 

手持ちの装備や武器を見るからに、とても始めたてのプレイヤーには見えないが、課金制のこのゲームにおいて、ある程度の身形は財力で補えるはず。

 

やはり、彼女に関する情報は何も読み取れない。

 

 

「そんな邪な視線で見つめないでよ」

 

「…背中に目でも付いてんですか?」

 

「わかるんだよー。君のことなら何でもね」

 

「……何でもは知らないはずです。知ってることだけ」

 

「私は何でも知っている」

 

 

全知全能の神かよ。

なんて突っ込む気にもならんな。

 

 

「はぁ…。仮想空間は面倒な人が多くて嫌いです」

 

「え、それって私が面倒ってこと?」

 

「あ、聞こえてましたか。面倒ノ下 陽乃さん」

 

「め、面倒ノ下!?」

 

 

目的は分からない。

それでも、邪魔をするのようなことはしないだろう。

少なくとも、雪ノ下さんのことは信用している。

屋上での約束を破ってしまった罪悪感もあるし。

 

昔からそうだったじゃないか。

 

俺たちが危ない道を渡らぬように、いつも遠回りをさせようと仕向ける。

 

 

それが彼女のやり方なのだ。

 

 

 

 

 

……

.

.

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃーく!!」

 

「SBCグロッケン?…これが街なのか…」

 

 

首都 SBCグロッケンは、鉄に囲まれた大きな工場のような面持ちで其処にそびえ立つ。

街、と言うよりも施設と言った方がピンと来るだろう。

ALOのようなファンタジー感は一切無く、周りを歩くプレイヤーも大きな身体に様々なペイントタトゥーを入れているような、少し強面の人達ばかりだ。

 

 

「…案内ありがとうございました。…それじゃ」

 

「ちょっと待ったー!」

 

「……。何すか?」

 

「何すかじゃないでしょ!何で別行動しようとしてるの!」

 

「別行動?俺たちがいつから一緒に行動していたと?」

 

「錯覚!?私の錯覚だったの!?」

 

「ふ、それじゃ」

 

「そいっ!!」

 

「ぐぇっ!?」

 

 

背中に伝わる鈍痛。

丸々と残った足跡が、彼女が俺にドロップキックをかました証拠になる。

俺は蹴られた勢いそのままに、埃臭い地面に顔面からダイブしてしまった。

 

 

「……痛いずら」

 

「痛くないずら!!」

 

「いや痛てぇよ!!」

 

「…聞きなさい、比企谷くん。君がこのゲームにインした目的とやらは聞いているわ」

 

「む」

 

 

仁王立ちになり俺を見下す雪ノ下さんは、腕を組みながら話し続ける。

 

 

「菊岡さんが比企谷くんに例の件を依頼した事も知っているわ」

 

「…そうだったんですね」

 

「丁度良い事に、私はGGOのトップレイヤー。…もう分かるわね?」

 

「…ちょっと何言ってるのか分から…」

 

「分かるわね?」

 

「…はい」

 

 

菊岡さんと雪ノ下さんの間にある関係性…。

謎は深まるばかりだな…。

 

それよりもいい加減起き上がらせてくれ。

 

 

「つまり、雪ノ下さんと協力して情報収集をしろってことですか?」

 

「ふふん。半分正解」

 

「よっしゃ。半分正解なら十分っすね」

 

「志が低いよ!」

 

 

グニっと。

雪ノ下さんは俺のお腹を踏みつけた。

 

ちょっと周囲の視線が痛いんですが…。

 

 

「情報収集なんてまどろっこしいわ。……比企谷くん、私に協力しなさい。ココで思想犯を特定して、直ぐに取っ捕まえてやるのよ」

 

「…。危ないですよ。実際に人が殺されてるんですよ?あまり顔を突っ込むとろくな目に遭わない」

 

「それなら、私一人でやるわ」

 

「……好奇心は猫を…、雪ノ下さんですら殺すかもしれませんね」

 

「殺せるものならやってみなさい。私を誰だと思っているのかしら?」

 

「…はぁ。犯人が気の毒になってきました。…、微力ながら協力しますよ」

 

「…うん。やっぱり優しいね。比企谷くんは」

 

 

俺は簡単に踊らされる。

 

慈愛に満ちた笑顔の彼女に差し出された手を掴みながら身体を起こすと、早速と言わんばかり装備の購入を提案された。

 

この鉄臭い世界では、今の俺のような貧相な格好だと舐められるのだとか。

 

それに、万が一にも戦闘になったら流石に心許ない。

 

 

「それじゃあ先ずは能力値の説明から…」

 

「いりません。AGIに全フリなんで」

 

「もー!つまんない!…って、それより比企谷くん。君、クレジット持ってるの?」

 

「クレジット?こっちのお金の単位ですか?…一銭もありませんけど」

 

「え、それじゃあ買えないじゃない」

 

「…ん」

 

「へ?」

 

 

俺は雪ノ下さんに手の平を向ける。

 

 

「ん!」

 

「…お、お金を寄越せってこと?」

 

 

当たり前でしょう。

助け合いの精神をお忘れですか?

 

え?女性からお金をせびる男は最低だって?

 

最低上等だわ。

 

今更何を怖がることがある。

 

既に落ちるところまで落ちた人間に羞恥心なんて存在しないぜ!

 

 

「…わ、分かったわよ。貸すから手を下ろしなさい」

 

「俺、貸しは作らない主義なんで」

 

「奢らせる気!?」

 

 

呆れたように項垂れる雪ノ下さんを放っておき、俺は近くにあった店から順に覗いていく。

 

小難しい名前の付けられた銃が並ぶショーケースは新鮮だったが、種類や機能性も知らなければ、選ぶ基準も分からない。

 

何となくカッコ良いのでも買おうかなぁ、などと考えていたが、剣ばかりを握っていた俺にはどれも魅力的だ。

 

 

「…あ、そういえば、雪ノ下さんが持ってる大きい奴はどこに売ってるんですか?」

 

「え、ヘカートⅡのこと?コレならドロップアイテムだから売ってないわね」

 

「なんだ。折角だから大きい銃を使ってみたかったんですけど…」

 

「君、AGI型でしょ」

 

「…んー、うわぁ、何だこのライトセイバーみたいなの…。厨二くせぇ…」

 

「光剣だね。あんまり使ってる人は居ないかな」

 

「…一応剣もあるのか」

 

 

……

.

.

 

 

 

 

その後、種類の多さに迷わされながらも、防具物は雪ノ下さんのオススメを買うことにした。

 

AGI型専用の物だと言う軽めの装備は、貫通性が高く、防御力は少し低めだが、ボロボロに千切れた黒のローブは気に入った。

 

なんだろう、この格好も慣れたものだな。

 

暗躍する敵の幹部みたいな格好…。

 

 

 

「なんだかすごい格好だね。悪役みたい」

 

「ま、俺にはお似合いじゃないですか」

 

「…そんなことないと思うけど…。あと、武器は本当にそれだけでいいの?」

 

「…とりあえずはコイツで十分です」

 

 

 

曰く、使いにくさは絶品の品物だとか。

 

威力も弱く、照準も定め難い。

 

長距離戦が主流な世界で、短・中距離でしか戦えないこの銃を使うプレイヤーはほぼ居ないらしい。

 

 

 

 

 

回転式拳銃

 

【コルト シングル・アクション・アーミー 】

 

 

 

通称

 

ピースメーカー

 

 

 

 

 

 

 


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