絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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六八話

プレシア

 

 

 

私、プレシア・テスタロッサは自然に目が覚めた。

それと同時に、周囲を見渡し日時を確認する。

カレンダーには、新暦50年とあった。

つまりは、私が事件を起こす15年程前という事だ。

あのチビッ子の話では、チビッ子を起点として一ヶ月……もしくは、それ以上の誤差があると言っていたけど……これは、私にとって予想外の状況だった。もしかしたら、あのチビッ子にとっても予想外の出来事かも知れない。

レアケースに分類される可能性もあったが、私に取っては調度良い状況となっていた。

ふと、手元にあった研究資料に目が止まる。

どうやら、私は机に突っ伏して眠っていたらしい。

全く持って、不衛生な事この上ないが現状を確認する上では都合の良い状況であることに変わりはないので気にしない事にする。気を取り直して、私は私のヤるべき事を考える。

それと同時に、散乱していた研究資料を次から次へと目を通して行った。それでわかった事は、机の上に広げてあった書類がプロジェクト『F.A.T.E.』に関係する資料や理論書で、構築半分程で放置されているようだった。

いや、放置ではなく研究途中で『私』と入れ替わったからそう思うのだろう。所々、おかしな所や手直しが必要な箇所等が見受けられるが大きな問題では無かった。

あの不思議なチビッ子が現れるまでに、私は私がヤるべき事をやって置かないといけない。

まずは、『フェイト』を……アリシアとの約束である、『妹』を生み出さないと私はアリシアとの約束を破る事になる。

それだけは、何としても回避したい事柄だった。

また、『大嫌い』なんて……なんて……。

 

「グフッ……」

 

思い出しただけでも、グッサリと私のハートに棘が刺さる。

しばらく、何も考えない様にしてある程度持ち直した私は、構築途中のプロジェクト『F.A.T.E.』を仕上げる為に尽力を尽くす。とはいえ、一度は作った事のある技術だ。

ある程度の事は、覚えがあったし何よりモチベーションが以前と全く違うので余裕を持って技術開発に挑める。ハッキリ言えば、アリシアの蘇生はあのチビッ子に丸投げして私は私の出来る事を精一杯やろうとしているだけに過ぎない。

前提条件に、あのチビッ子が組み込まれているけど気にもならなかった。以前の私であるなら、アリシアを生き返らせるのは自分しかいないと背負って暴走していただろうけど……自分の常識を、徹底的に覆してしまったあのチビッ子のせいで気負うことなく研究に打ち込めてしまう。

そうこうしている内に、日々はドンドンと過ぎて行く。

まあ、従来の研究者気質も相まってちょこっと不衛生な生活が続いたが気にも成らない。

思い浮かぶのは、短い間だったけれどアリシアとフェイトのいる未来の記憶。愛らしい私のアリシアが猫耳の衣服を纏えば、それに続き天然のフェイトがアリシアが提示した衣服を纏ってアリシアの言葉に従い『う、うにゃ~ん』と鳴く。

そして、そんな姿の二人が並んで私を上目使いで見上げて来てーーーーー 

 

「うふ……うふふふ…………ハッ!」

 

うっかり、幸せな光景にトリップしてしまっていた。

時計を見れば、30分程の空白がある。

イケないイケない……そういうのは、フェイトやアリシアともう一度顔を会わせた時にしないと。それに、新暦65年まではまだ時間があるとはいえ出来るだけ早く……はっ!そうだわ!!今度は、赤ちゃん時代からフェイトを育てなくっちゃ……以前は、アリシアが死んだ時と同じくらいまでバイオ液の中で過ごさせたけど時間的に余裕があるんだから私の手で育てたって問題はないはず。そうと決まれば、早く……早く……フェイトと共にもう一度……そして、チビッ子が現れればアリシアも巻き込んでみんなで楽しく幸せに暮らすのよ。

そ、それに今度は『母さん』なんて、呼ばせはしない。

そう、呼ばせるなら『ママ』が良いに決まっている。

アリシアと並んで……『ママ』。フェイトに至っては、恥ずかしそうにはにかみながら『ママ』ってーーーーー 

 

「うふふ……ふふふふ…………はっ!」

 

またしても、私は妄想という夢の中へと旅立っていたようだ。一度、休んだ方が良いのかも知れない。

油断する度に、妄想で手が止まっているような感じになってきている。理論の方は、ある程度区切りが付いたので一度休みを取る事にしてシャワーを浴びに部屋へ向かう。

 

「……………………」

 

衣服を脱いで、浴室に入りスイッチを押してしばらく待ったが水一滴も出ずウンともスンとも動かなかった。

その後、服を着た私は施設を維持する傀儡兵を起動させて原因を探らせている間に、時間を潰す為に料理を始めた。

しかし、コンロの調子が悪いらしくフライパンは暖まらない。

 

「…………ああ。そうね……そうよね……」

 

以前の私は、心の余裕が無くてシャワーで済ましお風呂になんて入らなかったし、食事なんて栄養剤で済ましていたからコンロすら使ってなんていなかった訳だ。

 

「リニスは、どうやって…………」

 

きっと、その全てをリニスは修理して使っていたということになる。いや、むしろフェイトの世話と一人前の魔導師とする為には必要な事だと判断したのだろう。

それは、間違いではないし……私が、まともな精神をしていれば真っ先に命令するのも生活回りの修繕だろう。

 

「ううっ……」

 

生活圏を広げつつ、調べてみれば修繕が必要な箇所はわんさかと出て来てしまった。それどころか、研究施設関係以外の施設には綻びが現れ始めている。

それからは、研究の時間の合間に『時の庭園』の修繕を開始した。そして、手が足りないと感じた私は……時期的には早いけれど、使い魔リニスを生み出し施設の状態を調べさせて修繕を命令する。

 

「わかりました。ですが、プレシア……フェイトとは、誰ですか?」

 

「私の娘よ……その内、会わせてあげるわ……」

 

とは言ったものの、フェイトを生み出すにはまだ時間が掛かる。だけど、口を滑らせたのは私だから仕方がない。

うっかり、廊下のド真ん中で妄想の彼方へ旅立っていた私が悪いといえば悪いのだから。つい、未来の幸福に悶絶していたところにリニスが心配して駆け寄って来たのが始まりだ。

リニスの話では、立ち止まっていた私が一時間程妄想の彼方で悶絶しつつ、娘達の名前を呟きながら涎を流していたと聞いた時は卒倒しそうになったけれど。

リニスがいなかった頃は、短時間で妄想の彼方へ旅立っていたから客観的に自分を見ることは無かったから、まさかそんな事になっているとは思わなかったのだ。

 

「リニスだって、フェイトに会えば私の様になるわよ!」

 

「だったら、早くフェイトに会わせて下さい」

 

「ううっ……そ、その内、会わせてあげるわよ……」

 

「その内って、何時ですか?」

 

「そ、その内は……その内よ。まずは、ここの修繕が先よ!」

 

「…………わかりました。では、修繕を優先しますね?」

 

その後も、リニスから『時の庭園』の状態を報告されつつ私は研究を続けた。理論が確立して……施設の準備も済んだ頃、リニスに私がやろうとしている事がバレてしまう。

いつかは、バレると思っていたけれど……まさか、フェイト誕生直前でバレて邪魔されるとは思わかなかった。

リニスは、死者蘇生やクローニングに否定的で私を止めようと説得してくる。

 

「プレシア、貴女がやろうとしている事は自然ではありません!生命の冒涜とも言えます!それに、アリシアが未来で生き返るとは限らないじゃないですか!」

 

「生き返るわ!あのチビッ子が、生き返らせてくれるんだからっ!!私は、あのチビッ子が来るまでにアリシアとの約束を果たさなければならないの!邪魔しないでっ!!」

 

「その如月双夜って子供が、本当にいるんですか!?貴女の話を聞く限り、そのアリシアが生き返る未来よりも更に未来から来たという事ですが……」

 

「いるわ!私が、ここにいるんだからあのチビッ子もこの先の未来に必ずいるっ!貴女は、知らないからわからないのよ!私とアリシアの痛みも苦しみもっ!その先の希望も!!!」

 

「わかりませんよ!貴女が忘れさせたんじゃないですか!!ですが、山猫育ちの私にもわかる事はあります。死者は帰りません!……………………今ならまだ、引き返せます!」

 

「生き返るわ!必ずっ!私は、未来で確かに生き返ったアリシアと過ごしたのよ!?フェイトには、酷い事いっぱいしたけれど許してくれたもの……だから、今度はちゃんと優しさをあげるのっ!幸せをーーー!!」

 

「それでも、クローンでなくても良いじゃないですか……プレシアは、まだ若いんですからもう一人くらい……」

 

「私の目に叶う男がいないわ……それに、そんなモノに時間を割くくらいなら、私はクローンを選ぶ!」

 

「プレシア……それは、違います。クローン技術では……」

 

「五月蝿い!!…………わかったわよ!あのチビッ子が、存在しているって事を証明すれば良いんでしょう!?するわよ……証明してみせるわ!!」

 

リニスの制止を振り切って、私はなんとかフェイトを生み出す事に成功した。

新暦60年。5歳程の少女……フェイトが誕生した。

前回と同じ、5歳の姿で生み出した上にアリシアの記憶をそのまま流用してフェイトの記憶に刻み込む事となる。

本当なら、新暦56年に生み出し一緒の時間を過ごすはずだったのに……全部リニスが、正論で私を不安にさせたのが原因だった。結局、あれ以来私は如月双夜の存在を証明する為の研究を余儀無くさせられている。

フェイトに関しては、リニスに全てを任せて前回と同じ様に一人前の魔導師として育成するように命じた。

 

「ううっ……何でよ……何でこんなことになるのよ……しあ、幸せになるんじゃ無かったの!?フェイトが生まれれば、後はチビッ子を待ってアリシアを生き返らせて……全部、ハッピーエンドになるはずだったのに……っ!!」

 

フェイト達が、楽しそうに庭を走り回っているのを見詰めながら、私は苦悩の果てに頭を抱える。

チビッ子が、時間転移魔法であの時代に来る事はわかっているから、時間転移魔法が時空を割って入って来たらアラームで知らせるというような機械を作ろうとした。

しかし、時間転移魔法反応の抽出が難しくって頓挫してしまう。ならばと思い、空間の歪みに反応して知らせる物をと考えたが……日常的に次元空間は揺らぎ蠢いている。

それにまで反応して、一日中ブザーが鳴り響く事になった。

他にも色々作ったりしたけれど、時間や空間関連の反応感知や技術を構築できなくて更に頭を抱える事になる。

目の前で、簡単に使用されていた夢の魔法が実際に使用または調査という事になるとこうも難易度が跳ね上がるなんて思いもしなかった。あのチビッ子が、如何に超絶技巧な魔法を使っていたのかを思い知らされる時間となる。

 

「どうしたら……どうしたら良いの……ううっ……アリシアぁ……」

 

これならまだ、アリシアを生き返らせようと尽力していた方がマシだった。あのチビッ子がもたらした情報から、アリシアの【魂】を探したりもしたけれど……【魂】という概念とそれを補完する方法がわからず、今もアリシアは見付かっていない。未来のフェイトの話では、強い感情に囚われていると言っていたけれど……私達の使う魔法では、感情を読み取る事も感知する事も出来なかった。

だが、手立てが無い訳ではない。簡単な方法が、一つだけあるにはあるのだ。そう、待てば良い……チビッ子が、私のいるこの世界に 現れるのをフェイトと楽しく日々を謳歌して待ち続ければ良いのだ。期限もわかっている。

ジュエルシードの情報が、あの忌々しい男から知らされるのを待てば済む。それだけで、私もフェイトもアリシアも幸せになれる。それがわかっているのに、私は研究と技術開発を辞められない。不安なのだ。リニスの意見は、同時に私の本音でもあったから。

だから私は、フェイトとの時間を浪費して手探りで理論や技術を探っていた。どれだけ頭を捻っても、どんな文献を当たってみても時間や空間の文献や情報は当たり前程度のモノしかない。結局、元の木阿弥となってしまった。

手探りで、理論も技術も無いところから始める事となる。

苦しみ喘いでいると、リニスに連れられてフェイトが私の元にやって来た。研究室に籠り勝ちな私を、リニスと共に外に連れ出すつもりらしい。リニスをギロリと睨み付けるが、彼女は何処吹く風の体で私の睨みを受け流している。

フェイトを見ると、私をすがるように見上げていた。

仕方がないので、その日はフェイトにあげる事にする。

私は、久し振りに外に出た。照り付ける太陽の光が、目に痛くだけど心地好く吹き抜けていく風が肌を撫でる。

少しだけ、気が晴れたような気がした。

今までのモヤモヤが晴れて行く。フェイトが駆けて行くのを見送って、私はリニスに『今日は、特別よ……次は無いわ!』とだけ告げる。リニスは、余り良い顔はしなかったけれど何も言わなかったから了承したのだと思っていた。

そして、フェイトとの楽しい時間を過ごした翌日。

またもや、リニスと共にフェイトが私の部屋を訪れていた。

 

「これは一体、どういうことなのかしら?」

 

「私は、フェイトに従ったまでてす。フェイトが、プレシアの元に行きたいと言うから連れて来ただけのことですが?」

 

「くっ……昨日は特別だと言ったわよ!?」

 

「…………プレシア。少しは、フェイトに時間を分けてあげる事は出来ませんか?フェイトには、まだプレシアの愛情が必要なんです。いるのかも不確かな存在を証明するよりも、フェイトとの時間を大事にしてあげてください」

 

「っ!!彼は、いるわっ!」

 

「ですが、あれからもう二年ですよ!?私は、フェイトが可哀想で仕方ありません!もう、良いじゃないですか!貴女のいう彼は、この世にはいないんです!!」

 

「その談義は尽くされているわ!今更、蒸し返さないでくれないかしら?」

 

「いいえ、言わせていただきます!時間を戻す事も、死者が帰る事も世界の摂理上不可能です。それなら、未来のあるフェイトと一緒にーーー」

 

「彼はいるわっ!時が来れば必ずっ!!」

 

「プレシア!ありもしない未来を夢見るのは止めて下さい!!フェイトが、寂しがっているってわからないんですか!?」

 

「リニス、貴女がそうさせたんじゃないっ!貴女が、あのチビッ子がいないなんて言うから私の時間が……フェイトと過ごす為の時間が、無くなってしまったのだとわからないの!?」

 

「そんなものは屁理屈です。フェイトと一緒の時間を過ごしたいのなら、そんな研究辞めれば良いじゃないですか!」

 

「出来る訳ないでしょう!?そんな事をしたら、アリシアが…………」

 

「まだ、そんな事を……プレシア、死者は帰りませんと何度言わせる気ですか!?そんな事を言っているから、フェイトとの時間を過ごす事が出来ないんです!!」

 

「…………さい。うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい五月蝿いっ!!!!私は、フェイトとアリシアと一緒に幸せになるって決めたのよ!!諦めれる訳が無いじゃないのっ!!」

 

「プレシア…………」

 

「もう……もう、良いわ……出てって……出て行きなさい!使い魔リニス。邪魔よ!!」

 

リニスを部屋から追い出し、心配そうに私を見上げていたフェイトを抱き締める。どうして、こんな事になってしまったのか私にはわからなかった。あのチビッ子ならば、何かを教えてくれるかも知れないが……今、彼はここにはいない。

リニスが、言っている事は正論だ。

だけど、私は未来にある理想の形を知っている。

リニスは、その話を聞いて私に『幸せな夢を見たんですね』と言った。だけど、私はそれが夢で無い事を知っている。

でも、リニスはその未来を知らない……それだけの話だ。

それが、こんなにも自分を傷付けるなんて思いもしなかった。

 

「母さん……大丈夫?」

 

「大丈夫……大丈夫よ……フェイト……ああ、フェイトぉ……」

 

「大丈夫だよ?母さん……」

 

「……フェイト、お願い……お願いよ。あのチビッ子を探して……あの……叡知の賢者を名乗ったあのチビッ子を……お願いっ……お願いっ!!」

 

「……うん。母さんが、そう願うのなら……私がその子を連れてくる!!」

 

「……ああ。フェイト……フェイト……私の愛し子……」

 

力一杯、命一杯フェイトを抱き締める。

必ず……必ず、アリシアと一緒に幸せにしてみせる!と心に誓いながら、私はフェイトを抱き締めた。

そして、更に二年程してあの忌々しい男からジュエルシードの話を聞かされる。その対価として、プロジェクト『F.A.T.E.』を寄越せと言われたけど……【私】が、目覚めた頃に机の上に散乱していた資料と理論書を渡して失敗した事を告げた。

 

『君らしくもない……他に何か興味を引くモノでもあったかい?』

 

等と白々しく聞かれたので、時間転移魔法と空間制止魔法に関する資料等を送っておいた。

 

『おや?おやおや、また珍しい研究テーマだねぇ……それで、成果の方は出たのかい?』

 

「出てないわ。ま、そんな訳でプロジェクト『F.A.T.E.』は完成してないの……悪いわね」

 

『そうか……それは、残念だ……』

 

「それじゃあ。ああ、もう連絡して来ないでね?貴方を見ていると、イライラするのよ……顔も見たくないくらいに!」

 

『……ふふふ。それじゃあ、また会おう!』

 

「人の話を…………死ね!」

 

強制的に通信をOFFにして、通信機の前から立ち去る。

連絡をしてくるな!と言っているのに、全く人の話を聞かない男だ。イライラしながら、通路を進んで行く。

フと立ち止まって思考を切り替える。それよりも、早くフェイトにあのチビッ子を探しに行って貰わなければならない。

潜伏先の手配は済んだので、早くても明日中には現地に行って貰う事になるだろう。私は、まだやる事があるので『時の庭園』から動く事が出来ないけれど……フェイトの使い魔と私の使い魔リニスを一緒に向かわせるから、フェイトの身の回りの事は心配ない。ただ、フェイトは一生懸命な所があるから無茶をしないようにしっかりと言い聞かせておかなければならないだろう。リニスにも、注意を怠らない様に言い付けておくけれど……それでも、心配なのは変わらない。

私はフェイトの元を訪れ、余り無茶をしないように言い聞かせる。

 

「そんなに心配なら、プレシアも行けば良いじゃないですか……」

 

「アリシアの事もあるから、ここを空ける訳にはいかないと言ったでしょう?」

 

「プレシア……」

 

「良い?フェイト、余り無茶だけはしないようにね?」

 

「大丈夫だよ。母さん……私、頑張るから!」

 

「私もリニスも付いているから、安心してくれよ……」

 

「そうですよ。プレシア……私とアルフが付いてます」

 

「わかっているけど、それでも、心配はするわ……私は、フェイトの母親なんーーー殆ど、フェイトを構ってあげられなかったけれど……」(どよ~ん)

 

「あ、また!?」

 

「あ、またですか!?」

 

「か、母さん!私は、大丈夫だよ!!」

 

フェイトが、ギュッと私を抱き締めてくる。

最近、私が落ち込むとフェイトはそんな行動をしてくるようになった。それが嬉しくて、そっと頭を撫でてあげる。

 

「フェイト……ありがとう。それじゃあ、リニス、アルフ……フェイトを頼むわよ?」

 

「はい!心得てます。プレシア」

 

「あいよ。任せて!」

 

「じゃあ、母さん……行ってきます!」

 

そして、フェイトは第97管理外世界へと旅立って行った。

それを見送って、私は静かになった『時の庭園』を見回して少しだけ寂しく感じた私はゆっくりとアリシアが安置されている研究施設へと向かう。

アリシアの前に立ち、話し掛ける。

 

「もうすぐ……もうすぐよ……アリシア……」

 

こんな、ガラス越しではなく直に触れ合える。

一筋の涙を流し、額を押し付ける様にして祈りながら私は運命をフェイトに託した。

 

 

 

 

プレシアーーFade Out

 

 

 

 

 

 

双夜

 

 

 

 

『時の庭園』に来て最初にされた事は、リニスというプレシアの使い魔にサンダーレイジという魔法を叩き込まれる事だった。油断してはいたけれど、ほぼ無傷でダメージなんて蚊に刺された程度のモノでしかなかった。

振り返れば、フェイトとアルフが驚いたり慌てていたりしているので、この行為が彼女の独断だというのは見てわかる。

だけど、その理由が全くわからない。

とりあえず、聞いてみる事にした。

 

「……どういう事かな?」

 

「プレシアには、会わせません!」

 

「どうして?」

 

「貴方がいると、みんなが不幸になります!」

 

「……………………」

 

「私はもう、プレシアに悲しい思いをさせたくありません!だから、貴方はいなかった!と言う事にします!!」

 

「プレシアが?ああ、君……世界の修正力に巻き込まれたね?また、厄介な補正がされたものだ……」

 

「!?な、何を言ってーーー」

 

「どうせ、プレシアに僕の存在は不確かなモノだとか……いないんじゃないかとか……不安にさせるような事を言ったんじゃないのか?馬鹿か君は……僕の存在証明なんて、彼女そのモノがしているじゃないか……」

 

「……………………」

 

「自分の主人を不安にさせた上に、正論で責め立てたのは君だろう?僕の責任じゃないし……排除される謂れはないね」

 

バッサリ切り捨てて、前を向き直してズンズンと進んで行く。その合間にも、様々な攻撃魔法が降り注いだけど俺のダメージになるようなものは無かった。目的地への道のり途中、唐突に攻撃魔法が止まる。振り返れば、猫耳の使い魔はorzの格好でゼェゼェと息を荒上げていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「えっと、あー……魔力切れ?」

 

答えるのは、呆れたような顔のアルフだ。

何故か、微妙そうな顔色で頭をガシガシ掻きながら猫耳を気遣っている。

 

「八つ当たりは終わったかい?じゃあ、アリシアの【魂】を探そうか?まあ、君は知っているみたいだけど」

 

「ハア、ハア、し、知りま、せんよ!!」

 

「……さよか。ま、そこで休んでいれば良いよ……その間に、君が思い描けなかった未来をプレシアにプレゼントしておくよ。じゃあね……猫耳さん?」

 

猫耳とアルフを置いて、僕は子供部屋へと向かった。

その背後から、フェイトちゃんが慌てて追い掛けて来る。

 

「あ、あの……」

 

「ん?どうしたのかな?」

 

「リニスの事、母さんには……」

 

「わかっているよ。フェイトちゃんこそ、猫耳さんを嫌いにならないでやってね?あの子の考えは、正当なモノだから……本来、僕はここにはいない存在だからね……」

 

「…………そう、なの?」

 

「うん。ぶっちゃけ、アリシア・テスタロッサを生き返らせる理由なんてないからなぁ……僕には。放置しても良かったんだけど、それをするとフェイトちゃんが虐待される未来があるから生き返らせるだけなんだよ……」

 

「私が?」

 

「信じられないかも知れないけど、君は未来で僕の姉的存在だった。だから、助けるだけなんだ。プレシアもアリシアも、そのオマケ扱いだよ……」

 

そう、プレシアを助けることもアリシアを助けることも義務じゃない。ただ、俺がフェイトちゃんが傷付くのが嫌なだけだ。それを見たくないから、だからアリシアをプレシアをたすけるのである。

出来るのなら、誰にも知られることなくそれらを実行出来るのなら尚良しなのだが……今のところ、それが実現できる状況では無いだけだ。

 

「さて、やはりここか……」

 

そう言って、立ち入るのは子供部屋。

中に入り、周囲を見渡せば大きなベットに座り影を引いて俯く幼女の姿が【真実の瞳】を通して見える。様々な感情に晒されて、周囲の【汚れ】を集めて黒ずんでいくアリシアの【魂】。死んだばかりの状態であるなら、【魂】本来の輝きを保ったままこんな状態にはならないのだが……このままにして、生き返らせたりするとアリシア・テスタロッサの人格が歪んだ状態で生き返ってしまう。だから、前回と同じようにアリシア・テスタロッサの元に近付いてポンと触れることでその陰りを払った。

そして、【魂】の補完魔法でアリシアを確保して【魂の記憶】を修復または復元しなければならない。

とりあえず、アリシア・テスタロッサの【魂】を確保したのでプレシア・テスタロッサが待つ研究棟の方へと向かう。

途中、回復した猫耳が襲って来たけど何をされてもダメージにすらならなくて、それを伝えたら落ち込むだけ落ち込んでしまった。耳が伏せられ、どよ~んとした雰囲気を撒き散らす猫耳をフェイトちゃんとアルフが引き摺るように引っ張って俺の後を追ってくる。

あの様子だと、当分は大人しくしていそうだった。

その直ぐ後、俺達はプレシアが待つ研究棟へと辿り着く。

俺の予想を裏切って、今度は肉弾戦に出た猫耳だったが俺の展開した防壁に全く歯が立たなくて、ちょこっとした悪戯程度の反撃で目を回して気を失ってしまう。

まあ、何をしたかと言うとGを投げ付けただけなのだが……元猫のくせに、Gがダメとは何事か!?

 

「軟弱な猫娘だなぁ……」

 

「いや、アレは普通にダメだと思うよ?」

 

「高々、一匹投げ付けただけじゃないか……」

 

大きな扉を開けて、中に入ろうとしたのだが復活した猫娘が「隙ありっ!!」とか叫びながら飛びかかってきた。

しかし、彼女は俺に到達する前に紫色の魔法が猫娘に直撃して反対方向の壁に叩き付けられた。

それを、何となく見送ってプレシアに礼を言おうと振り返る前に背後から抱き上げられて力一杯抱き締められる。

 

「ああ!!チビッ子ぉおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

「あー……不安というストレスがマッハなんだな?お疲れ様だ。プレシア……」

 

「か、母さん……ご、ごめんね!」

 

「ああ、構わない。プレシアの様子を見れば、大体の事はわかるから……にしても、予想以上前に飛ばされていたみたいだなぁ。さて、何が原因か……」

 

後ろから、ガッチリホールドされて動けないまま腕を組んで考える。端から見れば、奇妙な光景が形成されていただろうが気にしなくて良い。プレシアは、長らく溜まったストレスの為だし、俺はプレシアが飛ばされた時間の件を考えているだけなのだから。

しばらくして、落ち着いたプレシアが俺を解放してくれて俺はプレシアと向き合う形で会話を始めた。

猫耳娘は、プレシアのバインドでグルグル巻きにされてプレシアの傍らに放置されている。

 

「悪かったわね。私の使い魔が……」

 

「えっと、なんかされたっけ?」

 

「うー……んんぅー……」

 

口にもバインドがされているので、くぐもった様な声が聞こえるが気にしない。

 

「…………リニスに攻撃を受けてたみたいだけど……」

 

「空間遮断に匹敵する防壁を抜けたなら兎も角、ダメージにすら成っていないモノを攻撃呼ばわりするのはどうかと……」

 

「んん?……うあんんうんんあん!?」

 

「うるさいわよ!……そう。攻撃にすらなっていなかったのね……相変わらずの酷い子なのね?」

 

「そんな事は、どうでも良いんだ。プレシア、アリシアの蘇生だけど……少し待って欲しい」

 

「…………どうしてかしら?」

 

「プレシア、このまま行くと君は確実にアリシアに『大嫌い』と言われる可能性があるからだ……」

 

「!?わ、私、フェイトを鞭で打ったり虐待なんてしてないわよ!?」

 

「んん!?」

 

猫耳娘が、何か驚いていたけど放っておく。

 

「いや、無くなってしまった前回の時間軸の話はいい。そんなモノを考慮しても意味が無いからな。そうじゃなくて、現在進行形で君の犯している間違いがあると言っているんだ」

 

「……………………そ、それは?」

 

「フェイトちゃんに聞いたら、友達がアルフしかいないらしいんだ。俺からしたら、アルフは友人というカテゴリーに入らないと思うんだが……どうだろう?」

 

「……………………そ、その辺りは、リニスに任せていたから……」

 

「何だ、その仕事にかまけて育児放棄している父親的発言は!?その猫耳娘は、お前の嫁か!?」

 

『……………………』

 

「示し合わせたみたいに視線を反らすなよ……」

 

「り、リニスが、貴方がいないとか言うから!!」

 

「んん!?んあんう!?」

 

「子供の前で、醜い大人のやり取りをするんじゃない!全く、プレシアがプレシアならその使い魔も使い魔か……」

 

『ううっ……』

 

「兎に角、フェイトがアリシアに友達を紹介できるような環境を整える必要があるだろう。前回は、僕が紹介した子がフェイトの友人になってくれたから良かったものの……今回は、紹介できる様な子は確保できて無いからなぁ……ああでも、ディアーチェとユーリなら直ぐにイケるって言えばイケるが……出来れば、フェイト自身が選んだ友人を紹介させてやりたいのだが……」

 

「そ、そうね……で、でも、どうしたら……」

 

「そこで、ジュエルシードを利用する。ああ、ジュエルシードを使う訳じゃ無いぞ?今、僕の『ママ』がジュエルシードを集めているんだ……」

 

「貴方の『ママ』って…………助けられたのね!?」

 

「ああ。だから、僕は君達以外には関わっていない。出来るならば……僕の『ママ』が、フェイトちゃんの友達に納まってくれると楽なんだけどねぇ……」

 

「……………………おかしな言い回しだけど、そうね……どうすれば良いのかしら?」

 

「話が早くて助かるよプレシア。フェイトちゃんの為の良い悪巧みをしようか?」

 

俺は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて悪魔の様な狡猾な提案をプレシア・テスタロッサに持ち掛けた。

フェイトちゃんを一時的に部屋から追い出して、話を聞いたプレシア・テスタロッサは解放したリニスと共に悪人すら怯えるような悪人顔でそれを了承。

フェイトちゃんに友達を作らせる作戦を練り上げた。

 

 

 

 

 

題して、『ドキドキ!初めてのお友達計画♪』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プレシアちゃんの苦悩回w
微妙にリニスが、悪役になっていますが……修正力の煽りを受けているだけなので嫌いにならないであげてください。
結果的に、同じ道を通っている感じになっていますが……白い方のプレシアちゃんですwフェイトちゃんも大好き親バカプレシアちゃんだ。正確には、TAKE1のプレシアちゃんですね!妄想に浸りぎみですが(苦笑)気にしないでやってくださいw

リニスを捨てれば、こんな事にはならなかった?

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