絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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五〇話

Re;

 

 

『どんな優位な状況でも、『勝った!』なんて思っちゃダメだよ?その時が、一番の油断になるから危険だ。相手を確実に仕留めるまで、勝利云々は考えない。わかった?』

 

 

三週間前以前に、教えられたチビッ子の助言を今更ながらに思い出す。借り物の防弾コートが、叩き付けられた際の衝撃をほぼ吸収してくれたお陰で気を失ったりはしなかった。

見上げれば、ニヤニヤと笑うヴェルハルド・ヴォーレンのしてやったりの顔が見える。ムカッと頭に来た。

 

 

「油断大敵ってな。クックックッ……」

 

 

「では、我々は先に戻りますね?」

 

 

「「ええっ!?」」

 

 

銀髪の青年は、すずかを確保するとサッサとこの場から消えて行った。ヴェルハルド・ヴォーレンと驚愕の声が重なる。

振り返った時には、すずかの姿も青年の姿も無い。

敵も味方も云々も無く、ただ使い魔の行動に二人して黙り込んでしまう。しばらくして、顔を見合わせた。

 

 

「お前の仲間、スゲーなぁ……」

 

 

「仲間……じゃねぇよ。ある人の使い魔だ……」

 

 

「……まさか、不死の使い魔か!?」

 

 

「……………………ふし?」

 

 

「殺しても殺しても、何度でも立ち上がって向かって来る奴等がいたんだよ!!何度か殺り合って、仲間がアレは使い魔で主人を殺さないと幾らでも来るって言ってやがったんだ!!」

 

 

言われて思い出すのは、チビッ子が淡々と使い魔の特性と生態について語っていたヤツである。

 

 

「ああ……でも、その主人も不老不死だったはずだぞ?」

 

 

「はあ!?……いや、待て!不老不死なんて特典、得られないって神が言ってたろう!?」

 

 

「あー……あのチビッ子は、神様転生した訳じゃないから関係ないらしいぞ?」

 

 

「神様転生じゃない!?なら、邪神転生か!?」

 

 

「あー……いやいや、転生じゃなくて……“外”から来たらしい」

 

 

「“外”だと!?どう言う事だ!?」

 

 

「気になるなら、会えば良いだろう?ま、俺に倒されても会えるから安心しろ!」

 

 

迦楼羅を展開して構える。

 

 

「ぬかせ!お前を倒して、俺様直々に会いに行ってやるよ!ついでに、すずかもフェイトもなのはも俺のモノだ!!」

 

 

ヴェルハルド・ヴォーレンが、自動人形の剣を拾って構えた。視線が……殺気が交差する。ジリジリと間合いを詰めて、自分が得意とする領域に持ち込もうとするが……相手もゆっくり動いて、攻撃のタイミングをずらしてくる。

相手も、攻撃のタイミングを計っているようだった。

漸く、相手が俺の間合いに入った瞬間……瞬動術モドキで、間合いを詰めようと動く。

だが、奴は俺よりも速く攻撃を仕掛けてきた。

左手で、背後から銃を抜き銃口を俺に向けて素早く乱射する。これだけ近ければ、狙いを定める必要すら無く……ほぼ、全ての銃弾が俺の胴と足に命中した。

先に足を潰そうとしたのだろうけど、チビッ子のキチガイ技術の防弾コート&ズボンのお陰で無傷のままヴェルハルド・ヴォーレンに斬りかかる。

奴の顔が、驚愕に変化し一歩遅れた動作で回避へとその身を引いて行く。

だが、逃がすつもりはない。

このまま、腕ないし胴を斬り払って戦況をこちら側の流れに持ち込みたい所だ。

しかし、余り上手くは行かない。

ヤツが、自動人形の剣をギリギリで自分と俺の剣との間に滑り込ませて緩衝剤として受けたからだ。

そのせいで、ヤツにはかすり傷さえ与えられずに間合いが離れる。

 

 

「何だそりゃ……俺様の弾が、当たって無事って事はBJじゃない様だが……全くの無傷って、あり得ねぇだろ!?」

 

 

「チビッ子に借りたモノだよ。曰く『キチガイ技術の産物』だそうだ……」

 

 

「チッ。異端技術か……厄介なモノを持ち出しやがる……」

 

 

「異端技術?」

 

 

こちらの疑問に答えないまま、奴は俺との間合いを詰めて攻撃してくる。

慌てて、奴の剣に合わせ弾く。

何合も打ち合いながら、綿密ではないけれど大まかな作戦を練って行く。

コイツの油断を誘い、叩き潰すチャンスはある。

チビッ子と、頭を捻って考えた案件が幾つか……。

その中でも、俺が持つとあるスキルを使ってヴェルハルド・ヴォーレンの度肝を抜き、その一瞬の隙を突いて叩く方法があるにはあるのだ。

 

 

「寅とか竜とか喚ばなくて良いのか!?」

 

 

「お前こそ、自動人形を召喚しないのか!?」

 

 

相手の手の内を探り合う攻防。

チビッ子の言っていた通り、奴が保有する自動人形の数が心許ないのだろうと予測。

もしもの事も考えて余力だけはのこしておく。

それと、四聖獣を召喚しないのにも理由がある。

序盤から召喚し、策を労すると前回の様に直ぐ霊力が尽きてしまうからだ。使い処を考えて、召喚しないと負けるのはこちらになってしまう。

本来の目的は、すずかの救出。

ヴェルハルド・ヴォーレンと戦う事じゃない。

そして、すずかを救出した以上ここに留まる理由も無いので離脱が好ましい。

だがしかし、今離脱してしまうと負けたような気がして嫌だった。前回のアレだって、何とか勝てたものの結果的には負けたようなモノだ。だから、今回だけは勝利したのだと胸を張れる結果が欲しい。

これは、ただの自己満足だ。

 

 

「四方を守護せし聖獣よ、我が声に応え来たれ!西方守護。白虎召喚!!」

 

 

間合いが離れたついでに、白虎を魔力で召喚する。

そして、その白虎に壁をブチ抜かして俺は外へと躍り出た。

 

 

「逃げるのか!?この負け犬が!!」

 

 

「白虎、土台崩壊&大地震……やれっ!!」

 

 

余裕のある魔力で、白虎に奴のいる倉庫そのものの土台を緩ませて更に大地震を引き起こさせる。奴を見れば、慌てた顔で俺が空けた穴から外へと逃げ出してくる所だった。

倉庫の方は、土台が緩んだ事と地震の影響によって中程から割れて中央に向かって崩れていく。

あのままあそこにいた場合、奴はぺしゃんこになっていただろう。

普通の死亡案件に、敵と一緒になってホッとする。

 

 

「お、お前!俺様を殺す気か!?」

 

 

「世界を滅ぼして、自分も死ぬんだろう?だったら、問題無いはずだろう?」

 

 

「……………………」

 

 

俺の問い掛けに奴は、目を見開いて黙り込んでしまった。

何故かはわからないが、奴の様子を見る限り何かが違っているような気がしてならない。

しかし、そんな事を気にしている暇は無い。

奴が、滑るように俺の間合いへと入って来たからだ。

魔力無効範囲に入ってしまったのか、白虎が消えてお札の状態へと変化する。どうやら、魔法を使っている間はあまり奴の近くにはいない方がいいらしい。

力強い剣撃を払って、バックステップ。

鍔迫り合いに持ち込まれたら、自動人形に捕まる可能性を加味してHit&Awayを心掛ける。

出来るだけ素早く、攻撃も疎かにならないように戦う。

 

 

「えぇい!ちょこまかとっ!!」

 

 

銃口を俺に向けて、何度も発砲。狙いが定かで無かった為、左腕に装備していた盾で顔を庇った。

その時になって、初めて俺は盾がうっすらと透明であることに気が付く。ハッキリとまでは見えないけれど、相手が何処にいてどんな風に動くかがわかるようになっていた。

お陰で、剣での攻撃も避けられる。

 

 

「チッ!勘の良い奴めっ!!」

 

 

ヤバイ……俺、チビッ子に頭上がらなくなるかも……。

そんな予感を胸に、相手の攻撃を斬り払って離れる。

錬月の奴は既に、陥落して頭が上がらなくなり……チビッ子を『さん』付けで呼んでいたし……段々、俺の方にも包囲網が狭まって来ている様に感じた。

 

 

「何、ニヤ付いてやがるっ!?」

 

 

奴に怒鳴られてハッとした。

左手で、自分の頬をペシペシ叩いて緩んだ顔を引き締める。錬月の間抜けな姿を思い出して、笑っている場合ではなかった。

余裕と受け取った奴が、顔を真っ赤にして怒っている。

 

 

「ブッ殺ーす!!」

 

 

突然、ヴェルハルド・ヴォーレンの攻撃が激しさを増す。

袈裟斬りから返しの刃で斬り上げ突き払いまた返し。

段々、圧され苦しくなって来る。剣撃を合わせるのも、遅れ気味になり致命傷は避けているが顔やむき出しになっている腕に掠り始める。

バックステップで、距離を置こうとしても直ぐ様間合いを詰められて思うように剣を振れない。

その内、ガッ!と右足首が何かに掴まれた。

 

 

「貰ったあぁっ!!」

 

 

ヴェルハルド・ヴォーレンが、ニイィと口の端をつり上げて剣を大きく振り上げた。爛々と輝く目が、自身の勝利を核心した事を告げている。

ここだ!!と思った。

この絶体絶命の状況こそ、勝利への道しるべ!

このチャンスを逃せば、次は無いだろうと核心できる瞬間。

三週間前、チビッ子の「続きな?」というニコやかな笑顔と共に告げられた地獄の猛特訓に耐えたかいがあったというべきだろう。

振り下ろされる剣を睨みながら、俺は地獄の猛特訓で習得したある奥義を使う。

視界全てが灰色に染まり、振り下ろされる剣がゆっくりなモノへと変化する。極度の集中から来る、神速と呼ばれる現象。チビッ子の話では、脳内のリミッターが外れて全ての動きを速くするんだそうだ。《神殺し》達は、この状態を長時間続けて戦う事ができるらしい。

初めて聞いた時は、化け物だと核心したくらいだ。

ゆっくりと、確実に俺の命を奪う為の剣が迫って来る。

盾だ。盾がいる。この刃を防ぐ、己の身を守る為の盾が。

だが、そんなモノを出した所で奴の攻撃を一回止めるだけに終わってしまう。そこまで考えた所で、俺は左腕の盾を思い出した。左腕を奴の剣との間に滑り込ませつつ、同時に神様特典の一つである【クリエイト】の能力でクナイの様な刃を数本作り出す。元々は、生活面でのみ使用する為に得たモノであったが一瞬だけならば戦闘に使えなくもない。

そして、この【クリエイト】に魔力は一切関係ない。

ただ、この能力の発動条件は物品加工の工程を知っている事だけだ。刀であるなら、玉鋼という鉄鉱石をたたらで溶かして……練り上げるようにハンマーで何度も何度も打ち……形を整えた後に砥石で研いでと知識として得なければならない。もしくは、その工程を見る必要がある。

だが、刃だけでは心許ないので、刃の柄の部分に爆竹(導火線には火が付いている)を着けてヴェルハルド・ヴォーレンに向けて撃ち放った。そこで一旦、神速を解除する。

なんとかギリギリ、奴の剣を左腕の盾で防ぎ……迦楼羅で、足首を掴んでいる自動人形の腕を切断した。

クナイの方は、奴の手や足に浅く刺さったり、体に当たって止まったりして……だけど、奴にダメージを与える為のモノでは無いが故に驚かせただけに留まる。

 

 

「なっ!?」

 

 

そして、爆竹が弾け俺が求めていた最大の効果がヴェルハルド・ヴォーレンの動きを止めた。

再度、視界が灰色に染まって奴の動きがゆっくりとなる。

迦楼羅を逆手に持ち変えて、【クリエイト】でもう一本刀ではなく模造刀を作り出し同じ様に逆手に持つ。

見よう見まね『御神真刀流、小太刀二刀術・花菱!!』。

迦楼羅は峰で、模造刀はそのままでヴェルハルド・ヴォーレンを乱雑に斬り刻む。

徹底的に、全力で斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくる。

最終的に、神速が切れてヴェルハルド・ヴォーレンは吹き飛び、地面を数度跳ねて転がり止まった。

神速の後遺症で迦楼羅を突き立て俺は膝を付き、それでも奴が立ち上がって来る可能性から奴を睨んでいる。

模造刀は、役目を終えて砕け消えた。

 

 

「ハアハア……ん。ハアハア……」

 

 

もし、奴が立ち上がって来た場合は俺の敗けが確定する。

立ち上がらないでくれ……と、祈る気持ちで奴を睨んでいた。だが、その願いは虚しく……奴が、ゆっくりと起き上がる。

 

 

「……チッ……んな、隠し玉……持ってやがった、かっ……!」

 

 

手を付いたまま、こちらを睨んで来る。

だが、立ち上がりはしなかった。奴も先程の乱撃のダメージで、体が動かないのだろう。

完勝という訳では無いが……俺の勝ちだ。

 

 

「凍真様、お疲れ様です」

 

 

そこへ、すずかと離脱したはずの銀髪の使い魔が現れた。

そして、おもむろにヴェルハルド・ヴォーレンに近付くとこちらには聞こえない程度の声で何かを告げる。

次の瞬間、ヴェルハルド・ヴォーレンの目が驚愕に見開かれてパタッと力尽きた様に倒れてしまう。それどころか、何故か押し殺した様な泣き声まで聞こえ始めた。

銀髪の使い魔が、ニコニコと笑顔でこちらにやって来る。

 

 

「お前、アイツに何しやがった!?」

 

 

「別に何も。ただ、すずか様からの伝言をお伝えしたまでですが?」

 

 

「……………………すずかの?」

 

 

ヴェルハルド・ヴォーレンにすずかが伝言?

一体、何を伝えたのか奴は完全にやる気を失い虚ろな目で空を見上げていた。

 

 

「…………すずかは、アイツに何てーーー」

 

 

「はい。凍真様のよりも小さかった……と」

 

 

「???」

 

 

一瞬、この銀髪の使い魔が何を言っているのかわからなかった。銀髪の使い魔を見上げたまま、疲れた頭で考える。

小さい?俺と比べて、何が?みたいな思考が流れて行く。

だが、俺はすずかがアイツに伝えた言葉の意味が何を指す事か気になって仕方がなかった。

俺よりも小さい?俺よりも小さい……すずかから見て、俺と比べるとヴェルハルド・ヴォーレンのは小さい?

考えている内に、段々それが何を指す事なのかがわかってしまった。残酷かつ、男にとっては最悪最大の評価。

何て残酷な伝言なのだろう……きっとそれは、すずか自身からの伝言では無いだろうと当たりを付けた。

多分、話を聞いたチビッ子が使い魔経由で面白半分に伝えたのだろう。

 

 

「何て、残酷なっ……」

 

 

敵でありながら、同情の念を禁じえない。

悪意満々の伝言。ハッキリいうと、精神攻撃だ。

そりゃ、アイツも戦意喪失してしまう。

そんな事言われたら、俺だって戦えない。

後味の悪い結末になってしまったその戦いを、俺は涙を拭って見詰める事となった。

しばらくして、ワラワラとチビッ子と使い魔?達が大勢現れ、俺とヴェルハルド・ヴォーレンが暴れて壊したモノの片付けを始める。それだけでなく、時空管理局の武装隊の面々もチラホラ見掛けるので事後処理ということなのだろう。

そして、ヴェルハルド・ヴォーレンは嬉々としたチビッ子に、連れて行かれる事になる。それを、ボーッと見送りながらアイツがどうなるのか恐怖と共に考える事になった。

その間にも、使い魔達は崩壊した倉庫を荒れ地に変え局員達を驚かせたりしている。

アイツを何処かに連れて行ったチビッ子が戻って来た。

 

 

「多様するな!と言ったはずだが……脳髄は、大丈夫そうかい?」

 

 

「お陰様で……まだ、何とか……」

 

 

「あの者の身柄は、僕が預かるよ……短くて小さいらしいから、女も満足させれないそうだ……」

 

 

「酷い……」

 

 

「残酷ではある」

 

 

「自覚あんのかよ!?」

 

 

「にゃははは。まあね……いやー、すずかからこんな有力な話が聞けるとは……訊問が楽しみだよ♪」

 

 

人でなしが、とても楽しげに拷問の話をしている。

このままコイツを放置したら、アイツは自殺してしまうかもしれない。しかし、敵を助けてなんて言ったらこのチビッ子はなんて言うだろうか……まあ、予想は付いているのだが。

 

 

「色々思う事はあるだろうが……彼のヤった事は、簡単に許せるものじゃない。諦めろ……」

 

 

「……………………いや、心を読まないでくださいよ……」

 

 

「読んでないよ。さて、君はもう休むと良い。後日、報告書と始末書を上げて貰うことになるだろうが……今は、休息が必要だろう……」

 

 

チビッ子が、視線を右の方へと向ける。

つられて、その視線を辿っていけばなのは達に連れられたすずかがこちらに駆け寄って来る所だった。

 

 

「凍真先輩っ!!」

 

 

「すずかっ!」

 

 

体を起こすだけで限界だったけど、何とか飛び付いて来たすずかを受け止める。ギュッと抱き締めて、そのまま限界が来た。だけど、チビッ子が上着を掴んでくれてすずかと共に倒れる事だけは免れる。

 

 

「凍真!無事か!?痛いとこあらへんか!?」

 

 

「凍真先輩!」

 

 

錬月に続いて、なのは達まで俺の周りに集まって来る。

心配そうに見詰めて来るので、大丈夫だと伝えようとしたところでチビッ子が皆を追い払い始めた。

 

 

「自分の持ち場に戻れ!やる事があるんだろう?」

 

 

「なんで、双夜さんが仕切り始めるんですか?」

 

 

「……遠回しに言ってわからないのなら、ストレートに言ってやる。凍真は、疲れてるからすずかに任せたいんだ。だから、二人っきりにしてやれよ……」

 

 

「あー……了解や。ほな、なのはちゃん、フェイトちゃん行こか……」

 

 

チビッ子のストレートな理由に、なのは達は顔を赤くして一歩身を引いた。錬月も納得顔で、何度も頷いているし……もう、どうにでもなれっと見栄も意地も放棄する。

 

 

「そだね……じゃ、凍真先輩。また……」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「ほら、双夜さんも行くで?」

 

 

錬月が、チビッ子の手を掴んで引くが……ビクともしなかった。チビッ子は、小さく首を振る。

 

 

「僕は、コイツ等を送ってから行くよ……手を離すと、凍真倒れるし……」

 

 

「……………………」

 

 

錬月が、何か信じられないモノを見たような顔をしている。

だが、チビッ子が言った事は事実なので反論はしなかった。だから、肯定する言葉を告げる。

 

 

「お世話掛けます……」

 

 

「構わんさ。じゃ、僕は月村邸に行って戻るから少しよろしくね?」

 

 

「あ……」

 

 

すずかが、何かを言おうとしたが瞬きした次の瞬間には月村の屋敷の前だった。

 

 

「はぇっ!!」

 

 

「じゃ、すずか……凍真をよろしくね?」

 

 

そう言って、チビッ子は俺をすずかに押し付ける様にして渡すと片手をヒラヒラ振りながら消えた。チビッ子が消えた後、俺はすずかと顔を見合わせて同時に『プッ』と吹き出す。

 

 

「ファリンが、車で送ってくれたんだけど……」

 

 

「戻って来る様に、連絡するしかないなぁ……」

 

 

「でも、安全な所に移動させて置きたかったんだよ。双夜くん的には……」

 

 

「だな…………とっと……わりぃ……」

 

 

立ち上がろうとして、よろけた俺をすずかが支えてくれる。

肩を貸して貰って、何とか屋敷の中へと入って行く。

神速の連続使用が、こんなにも疲れるとは思わなかった。

何度も神速を使う恭也さん達に尊敬の念を抱いてしまう。

 

 

「これはもう、恭也さん達の修行に参加するしか無いかな」

 

 

毎回誘われて、断っていたが神速を使う以上体を鍛え続けなければならないだろう。つーか、チビッ子の地獄の特訓に参加するよりかはまだマシなはずだ。悪魔に追い掛けられたり、重りを抱いて水槽に沈められたり、クッソ不味い薬湯を飲まされたりするよりかは全然良いはず。

 

 

「体、鍛えるの?」

 

 

「ああ。このままじゃあ、すずかを護り切れそうにないからな……ちょっとは、体を鍛え直しておかないと……」

 

 

すずかが、俺の腕を抱き締めてその身を預けてくる。

それと同時に、感謝の言葉と俺を心配するすずかの目が俺と彼女との距離を零にした。

 

 

「…………愛しているよ。すずか……」

 

 

「ふふふ。私も、お慕いしています……」

 

 

「あついなぁ……」

 

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

背後から声がして、振り返ると何故かチビッ子がいた。

そして、その後ろにはファリンさんが控えていて、チビッ子のいる理由が即理解できてしまう。きっと、片付けの最中に気が付いて送って来たのだと思われる。迂闊だった。

 

 

「ここに、ビデオカメラが無いのが惜しまれます……」

 

 

ファリンが、恐ろしい事を呟いている。

成長の記録とかを名目に、こんな恥ずかしい瞬間を捕らえられた日には俺もすずかも恥ずかしくて表を歩けなくなってしまう。まだ、不安要素が残ってはいるが動く気配は無かった。

 

 

「それよりも、ケーキは?」

 

 

「あ!はいはい。テラスで、待ってていただけますか?」

 

 

「うん!」

 

 

トテトテとチビッ子が、テラスのある部屋の方へと駆けて行く。だが、その様子を見て眼を細めるのは女性陣だけで、俺には全く微笑ましくは思えない。それどころか、何か裏があるような気がしてビクビクしてしまう。

テレビのある客室に連れられて、一度すずかは部屋へ。

俺は、チビッ子の真意を確かめる為に念話で話し掛けた。

 

 

〔あんた、何しに来たんだ?〕

 

 

〔使い魔に『邪魔』って言われて追い出された〕

 

 

〔…………なんでさ?〕

 

 

〔面白そうだったんで、悪戯を始めたら……〕

 

 

とても、良くわかる理由だった。

なら、大丈夫かと思っていたらメールが届く。

迦楼羅を操作して、メールを確認すると俺とすずかが廊下でキスして愛を語っている場面が映し出される。

 

 

〔おいっ!何てモノを送って来るんだ!?〕

 

 

〔社会的抹消。デバイス経由で拡散……〕

 

 

俺、社会的に抹消されようとしているらしい。

むしろ、他の女は寄って来るな!的な何かかと思った。

 

 

〔止めろ!こんな事されたら、表出られないだろう!?〕

 

 

〔大丈夫。ちゃんと、フィクションじゃないって付けてある〕

 

 

〔ああ。それなら……って、本当って事じゃないか!?〕

 

 

〔にゃははは。そうだよ?当たり前じゃん。さあ、錬月に弄られるが良い!!〕

 

 

地味に嫌がらせだった。

チビッ子が、何を考えているのか全く理解不能である。

 

 

〔どこまで、拡散させたんだよ!?〕

 

 

〔付近にいる魔導師は全員。後は、アースラからウィルス付で時空管理局に送る所……〕

 

 

〔止めてくれ!!ってか、どこまで拡散させる気だよ!?〕

 

 

〔全次元世界に!!〕

 

 

「っ!?」

 

 

念話している間に回復した俺は、なけなしの体力を使って客室からテラスのある部屋へと走って行く。

テラスに着くと、チビッ子がすずかの膝の上でケーキを食べていた。何故か、白い猫耳と尻尾のある姿でだ。

その姿でいるチビッ子に、メロメロになっているすずかがギュッと抱き締めて頬擦りをしていた。

 

 

「うぉい!」

 

 

「ああ!?」

 

 

頭に来て呼び掛けると、何故かドスの入った声と殺気のこもった睨みを向けられた。背筋に悪寒が走る程の殺気に一歩下がる。ヤバイ……下手に突っ込むと殺される!!

本能の告げる警告に従い、チビッ子の頭に付いている猫耳等を指し示し問う。

 

 

「不本意なのか……それ……」

 

 

「代われよ!猫耳付けてやるから!!」

 

 

全力で、不本意だったみたいだ。

それ以上、深くは聞かずにすずかに視線を向けた。

 

 

「すずか、すずか!見てて、《ニューア》!!」

 

 

ポン!と俺の頭で音が鳴って、すずかがパアァ!と開花する花の様に笑った。そして、チビッ子を下ろすと俺の方へと駆け寄って来る。

 

 

「先輩。触っても良いですか?」

 

 

すずかの問いに返答しようと口を開くと同時にメールが届く。了承しながら、来たメールを開くとそこには……『すずかの気を引く為に猫耳を着ける凍真の件』と書かれた上に、猫耳を着けた俺の写真がデカデカとアップされていた。

 

 

「ーーーーーてぇめぇ……!!」

 

 

 

 

 

 

 




脱・スランプ!!\(^o^)/
要望『ヴェルハルド・ヴォーレンをフルボコにしてください』⬅これに、詰まってました(笑)どうやっても、フルボコにできない……神速が出てくるまでえらい掛かりましたw

凍真、キチガイ技術忘れ気味w防弾・防刃だから大丈夫!
まあ、必死やから仕方ないけど……w
三週間で、神速修得。更に、魔力と霊力を上手く使って戦うってスゴいなぁ……双夜の地獄の特訓てw
能力コピーは、この奥義には対応出来ないと思われw
完全に精神集中の究極だからwまあ、多分出来るだろうけど……奴も、極度の集中状態にはならないと発動しないんじゃ無いかな?胡座を掻いてる踏み台さんには、発動不可能でしょうwwwww

ヴェルハルド・ヴォーレンが、それでもしつこく食らいついていたけど……すずかに、撃沈される。可哀想……。

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m(_ _)m

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