絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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受難発動中。

踏み台くん名募集中!!
名前だけでも良いのでくださいませんか?
サブ登場人物の名前も募集中です!

……まあ、余りにも募集がうまく行かないので……最近は、ハーメル全体から『踏み台』を検索し……過去から順に踏み台の名前GETしようかな……と思い始めたこの頃ですww


三五話

凍真

 

 

 

 

首元に冷たく鋭い感触の獲物が当てられている。

目の前には、殺気を含めた眼を向けている幼児がいた。

そして、その向こう側では忍さんがカンペを持って立っている。そこには、デートに誘え!だの……もっと、積極的に!だの書かれていた。

 

 

「じゃあ、また今度……」

 

 

『はい!!今日は、約束破って本当にごめんなさい……です』

 

 

「あ、ああ……」

 

 

それだけ言って、俺は電話を切った。

幼児は、突き付けていたナイフを引いて忍さんの方を見る。

忍さんが、親指を立ててOKを出していた。

 

 

「全く、手間かけさせるなよ……」

 

 

「…………正気じゃ無いだろ……お前ら……」

 

 

「正気で、《神殺し》ができるとでも?」

 

 

最初から、正気の沙汰では無かったらしい。

目の前にいる幼児は、登っていたテーブルから降りるとアリサの膝の上へと移動する。

 

 

「じゃ、続きを始めようか?」

 

 

「えっと……《神殺し》を専門にしてる【組織】があるのはわかった。で、その【組織】の【理念】もな。双夜が、この世界に送られてきた理由や……この世界から受けた依頼。それから、俺等が行った改変の処理だっけ?」

 

 

「そうだな……実際には、プレシアちゃんやアリシアちゃんはいないはずなんだろう?」

 

 

「【原作】ではな……だけど、俺等が行った改変で……」

 

 

「私達は生きている……」

 

 

そう……俺達は、【原作】が始まる前に【なのは】が【原作のなのは】でないことを知った。

だから、【なのは】達と相談して……別行動で、アリシアの遺体が入った生体ポットを盗み取り……プレシアの戦う理由を無くした。その後、【なのは】がレアスキルと称した特典でプレシアの身体を治癒。裁判で本局にプレシア達が行っている間にアリシアを蘇生させて、戻って来たプレシアとフェイトに会わせたという訳だ。

その際に、リンディさん達ともめて俺達は本局に行く事になる。そして、闇の書事件が始まってしまうと本局から出して貰えず、更にはリンディさん達も本局に留まる事になって別の局員が闇の書の担当となった。

その局員は、グレアムの息が掛かっている者達で【なのは】は彼等に協力せざるを得なくなってしまう。

結果的には、闇の書は主もろとも氷結処理されて虚数空間に封印される事になってしまった。俺達は、八神はやてを助ける処か……本来あるべき未来すら、奪ってしまったのだ。

そして、【なのは】は責任を感じてか局員にはならず……嘱託魔導師として、あまり深く局とは関わっていない。

全ては、俺達が犯してしまった罪だ。

もっと、上手く立ち回っていれば……こんな事にはならなかったのに……悔やんでも、悔やみきれない。

 

 

「でも、この世界はありとあらゆる可能性を秘めているんだろう?なら、どんな未来になったところで問題は無いんじゃないか?」

 

 

「問題になっているのは、31年前に死んだ人間を26年後に蘇生した事に問題があるんだ。時間が空き過ぎているだろう?それが、イケない。だから、プレシアちゃんに関してはちょちょっとでOKだけど……アリシアちゃんは、数十年の時間が掛かる」

 

 

「そ、そんなに!?」

 

 

「とはいえ、僕は前回の世界でそれを一年程で終えている。缶詰状態だったけど……多少の差異はあるだろうけど、2回目だからね……もう少しは、短くなるんじゃないか?」

 

 

『『おおぉー!』』

 

 

何故か、この幼児が凄く頼もしく見える。

先の事もあるし、第一印象が(DB乱撃で)最悪だった。

それでも、意思疎通を行えば……まあ、ある程度は緩和できるんじゃないか?とか思っていた。

だけど、結果は……それを覆されるなんて……意外だ。

 

 

「結局、どういう理由であんた等は出張って来ているんだ?そりゃ、一番は神々の娯楽を止める為なんだろうけど……」

 

 

「ぶっちゃけ、この世界……あ、いや、知的生命体がいる全世界に不幸せになって欲しい連中がいるんだよ……」

 

 

「不幸せに?」

 

 

不幸せって事は、世界そのモノに不幸になって欲しいという事なのだろうか……。それとも……別の意味?

 

 

「そ。そいつらは、神々にありもしない娯楽をでっち上げて、【転生者】を送るように仕向けた……って訳だ」

 

 

「ありもしない娯楽?」

 

 

「そ。二次創作に良くある【神様転生】だよ。世界を【複製】して隔離すれば、どんな改変を行っても……調整や修正をしなくても……罪にはならない。《神殺し》は動かない……って、流布している奴等がいるんだ」

 

 

「……………………」

 

 

そんな、【馬鹿な】事を流布している?

現に、《神殺し》がこうして活動しているじゃないか!

 

 

「…………僕達が、活動していたとしても……『彼等もこの娯楽に参加しているようだね……』とでも言えば、アホ共には気が付かれない。所詮、アルバイトだからね……機微に疎いんだよ……」

 

 

『『【神様】ってアルバイトなんだ……』』

 

 

驚きの連続である。

段々、幼児達《神殺し》が不憫に思えて来た。

話しを聞けば聞くほど、《神殺し》の方々が苦労している話でしか無いように感じてしまう。

 

 

「何故、こんなことを……」

 

 

「流布している奴等の玩具が、無くなって来たからだよ。クローニングやら、密輸やらでは最終的に質の良い玩具が造れないんだろう?だから、質の良い玩具を調達したいのさ」

 

 

「質の良い玩具?」

 

 

「君達、【人間】だよ……」

 

 

『『はあ!?』』

 

 

俺達、人間が【玩具】だと!?

 

 

「流布しているのは、《旧・神族》と呼ばれる創世記時代の【神の眷族】さ……奴等は、自分達を最上級の存在と位置付けて……それ以外を下等・劣等存在と呼び……【神】が、創造した物体は全て自分の隷属種だと思ってるアホだ」

 

 

酷い……酷過ぎる話しだった。

幼児が言うには、創世記以前も真っ黒だったらしい。

 

 

「《神殺し》の復業で、【悪の組織】をやっているって言ったろう?《旧・神族》のアホ共をぶちのめすのも【我々】の仕事さ……お陰で、年がら年中人手不足で大変だよ……」

 

 

最近は、《旧・神族》が減ってきて楽になったと思っていたんだけどなぁ……と笑う幼児が不憫過ぎて笑うに笑えない。

《旧・神族》が減っても、別の問題が浮上して来るからあまり変わらないんだそうだ。むしろ、増えているんじゃないかなぁ……とも言っていた。

《旧・神族》が煽り、煽られた【管理者】が犯罪を犯す……というサイクルが、増えているらしい。

 

 

「僕達には、時間という制約もないから……過去・現在・未来で、干渉できる所を探して干渉する以外無い。だから、一度逃すと次はいつ干渉できるかわからないんだ……」

 

 

平行並列斜昇斜降世界過去現在未来、ほぼ全てを監視している存在なんだそうだ。だが、それも一部で基本的に世界は無限に広がっているらしい。

 

 

「それで、良く間に合っているよなぁ……」

 

 

「間に合ってないよ!間に合ってないから、僕がここにいるんじゃないか!僕達が、この【娯楽】に気が付いたのは……かなり、浸透してからの話なんだ。まあ、僕達には【時間】って概念が無いから……過去に戻って、巻き直しを計ってるだけだよ!」

 

 

「それで、俺達も巻き込まれるってことか……」

 

 

「君達は、【当事者】だよ?巻き込まれるんじゃなくて、この事件の中心なんだけど……」

 

 

「………………うへぇ……」

 

 

漣(サザナミ)が、呻くように嘆いている。

しかし、なんとも面倒な話であった。

【原作】に関わりたくないと思っているのに、向かう先向かう先事件が待ち構えている始末。

その上、この手に負えそうにもない現実という名の問題。

 

 

「…………最悪だな……」

 

 

「にゃははは。最悪で済んだら……良いなぁ……」

 

 

「ーーーーー」

 

 

微妙に黄昏ている幼児を見て、自分の置かれている状況を理解し……頭が痛くなり始めた。

 

 

「この複製世界の【世界運営システム】を停止させて、世界の【蓋】を緩めて侵入。質の良い人間を拐って、自分達の欲望の捌け口にする……全く、良くこんなアホな事を思い付くものだ。ロック・ウォーには感謝だよ……【組織】の連中が、情報を隠蔽していなければ面倒な話にならなかったのに……あ、いや……調整と修正は、必要だから……一度世界には、入らないと駄目なのか……面倒臭い……」

 

 

そして、【転生者】が行った改変のフォローと調整……更には、歪んでしまった理の修正を【彼】は「しなければならないのか……」と、呻いて机に突っ伏した。

しかも、コピーされた世界があるだけ……増えれば増えるだけ、この人達に依頼される仕事は増えていくのだという。

その上で、「ねずみ講知ってる?」とか聞かれて俺は泣きたくなった。その後に続く言葉が予想できて鬱だ。

 

 

「百匹いるネズミを一年放置したら……どれくらい増えると思う?んで、どれだけの食料がいると思う?」

 

 

「……………………」

 

 

言葉を失うとは、こういうことなのかと想像してゾッとした。ネズミを【管理者】。食料を【世界】と例えるんだそうだ。人の口に戸は立てられない。ネズミが、【ネット】を使って《旧・神族》が流布した事を広めたら……際限無く広がってしまったらしい。

 

 

「一匹のネズミが、保有する複製世界が幾つあると?【転生者】の数は?調整や修正がされていない世界は?歪みは?《旧・神族》の侵入形跡は?上げて行けば、際限無く。問題は山積みだ……」

 

 

「ひぃいぃえぇ……」

 

 

「それでなくても忙しいのに……【組織】は、フル回転中だよ……通常業務もあるっていうのに……マジ、滅びてくれないかなぁ……《旧・神族》……」

 

 

『『うわぁ……』』

 

 

百害あって一利無しなんて存在……いるもんだ。

 

 

「で……俺達に何をしろと?」

 

 

「んー……意識だけを過去に送るんで、今ある運命を改変して来い!俺が提示するのは、それだけだ……」

 

 

「……過去を改変して来い……ですか?」

 

 

「そうだ。このまま行くと、ミッドチルダは滅びて《旧・神族》が侵入しやすい世界ができあがっちまう。そうならないように、原作に添う形でハッピーエンドを目指すんだ!」

 

 

「えっと……三期で、条件が揃うと?」

 

 

「違う。このままだと、近い内に闇の書と完全融合した八神はやてが復活するって言っているんだ!ディアーチェ?だったか……前の世界で、神崎っていう【転生者】が言ってたんだよ……そういう可能性もあるって……その場合、時空管理局、及びミッドチルダは消滅する。そしたら、全次元世界を上げての戦乱の幕開けだ……そうなれば、《旧・神族》が鼻歌歌いながら侵入してきて……どれだけの被害になるか、予測すらできないぞ?」

 

 

三期どころの話しじゃ無かった。

全次元世界を上げての戦乱の幕開け……そんなことになったら、平和に暮らす云々どころではない。

 

 

「えっと……はやてちゃん、なんとかなりませんか?」

 

 

「それ以前に、本当に復活するの?」

 

 

「……そういう流れ……ってか、干渉を受けているんだよ……そうなったら良いなぁ♪とか、考えてるアホ共が色々と手を尽くしておいでなんだ……」

 

 

『…………なんて、仕事熱心な……』

 

 

「成功したら、数兆体の質の良い玩具が手に入るんだよ?そりゃ、力も入るってもんさ!」

 

 

「さいでっか……」

 

 

状況的に、既に詰んでいるのである。

 

 

「ってか、あんたが直接やれば早いんじゃない?」

 

 

漣が、思い付いた事を片っ端から発言している。

馬鹿な発言をしなきゃ良いんだけど……。

 

 

「残念、やっても強制的に精神的な幼児後退化させられて戦闘も魔法も使えない状態になる。もしくは、野生化してその辺の山で走り回っていそうだ……」

 

 

虚ろな瞳で、苦笑いする幼児を見てちょっと引く。

 

 

「制約があるのか……原作には、関われないみたいな?」

 

 

「まあ、そんなところ。だから、君達にお願いしている……過去に戻って、最初からやり直してくれないか?」

 

 

「……………………その場合、プレシアさん達が死亡する結末に至る可能性があるんじゃないか?」

 

 

「あるだろうね……奴等が、キーとして使いそうなモノは【ジュエルシード】、【闇の書】もしくは【紫天の書】……果ては、【聖王のゆりかご】だな……」

 

 

「【聖王のゆりかご】ですって!?」

 

 

これには、プレシアさんが反応した。

流石、ミッドチルダ人。【聖王のゆりかご】と言われてピン!と来る辺り博識だ。

 

 

「ジェイル・スカリエッティか……」

 

 

「っ!?」

 

 

「ジェイ?誰それ……?」

 

 

「【聖王のゆりかご】を動かす変態マッドだ。知らないのか?」

 

 

「知らない。僕が、ゆりかごに乗り込んだ時には【凌辱系転生者】に乗っ取られた後だったから……」

 

 

なにやら、色々違うらしい。

 

 

「待ちなさい!あなた達、自分達がどれだけ重要な事を言っているかわかっているの!?」

 

 

「未来知識ですが?」

 

 

「アニメ知識ですが……?」

 

 

プレシアさんが、俺達の返答を聞いて頭を抱えた。

それを、アリシアちゃんが慌てて支える。

 

 

「そ、そうじゃなくて……今、かなり重要な事を言っているのよ!?それが、わかって!?」

 

 

「……僕には、関係ない事だし。君達の関係じゃない?」

 

 

「あ……ああ。そうだな……」

 

 

「か、関係……ない、って……」

 

 

「僕は、原作に関われない。ゆりかごは、原作系だろう?」

 

 

「あ……ああ。そうだな、三期のヤツだ」

 

 

「なら、やっぱり僕には関係ない。そっちは、【転生者】に任せるよ……僕は僕のやるべき事をやるだけさ……世界の調整と修正。それが、僕のやるべき事だ」

 

 

「修正云々は、良いとして……俺達が、過去を改変して本当に大丈夫なのか?」

 

 

「何とかする。言ったろう?その為の【僕】だ……って」

 

 

平然と言い切られた。

なんか、格好いいヤツだなこの幼児。

そう思いながら、目を閉じて状況を整理する。

俺達は一度、過去に戻ってやり直しをすることになる訳だ。

目指すのは、ハッピーエンド。その為には、前回のやり方は同じ事になる可能性があるからアウト。

あの狂気に堕ちたおばさんに、説得なんて通用しそうに無いから……一度、魔力ダメージでノックアウトして強制的にアースラへ連れ込んでから【なのは】のレアスキルで治療。

その後で、アリシアを回復させる方が良いのかも知れない。

だけど、問題になるのはアースラ艦長のリンディ・ハラウオンやクロノだろう……口八丁で丸め込めるかが、ミソだな。

 

 

「できるかは、わからないが……頑張ってみるよ……」

 

 

「失敗したら、RETAKEな?」

 

 

「…………全力で、頑張らせていただきます!」

 

 

ニコヤカに、RETAKE宣言する幼児に寒気を覚えた。

失敗が続く限り、何度でもやり直させる幼児の図が脳裏を過ってゾッとする。この幼児なら、お構い無しにやりそうで怖い。大きな溜め息が出た。

できるなら、第三者的立場で眺めていられれば良いのだが……そうも、言っていられないだろう。

 

 

「はあ……面倒臭い……」

 

 

言葉にすると、余計に疲れる様な気がした。

こちらが、幼児の提案を了承するとその場はお開きになった。そのすぐ後、「お話し終わったぁ~?♪」とやって来た桃子さんが乱入してきて、アリサの衣服を掴みながら桃子さんに怯えた幼児が牽制をしている。

 

 

「もう!ちょっとくらい、遊んでくれても良いでしょう?」

 

 

「や!アリちゃママ、帰ろ~!」←幼児化

 

 

「少しくらい、良いじゃない~」

 

 

「や!高町家最終兵器とは、遊ばないのぉ~!」

 

 

『ブフッ!!』

 

 

幼児の発言に、数人の客と【転生者】が口を押さえる。

俺は何とか堪えたが、口を押さえてしまった奴等が硬直していた。

 

 

「あら~?どうしたのぉ~?みんな、黙っちゃって?」

 

 

『ひいぃっ!?』(客含む)

 

 

ニコニコ笑っているはずなのに、その笑顔を見ると背筋がゾワゾワする。マズイ……目が、全く笑って無かった。

幼児が、口走ったその一言はどうやら桃子さんの逆鱗に触れたらしい。逃げ出したいが、この場所からでは桃子さんの前を通る以外逃げ場がない。

 

 

「チローも恭にぃも敵わない……た、高町家最終兵器が、覚醒したニョ!!」

 

 

「ちょ!?双夜、煽らないで!!」

 

 

「えー……ママ達が、言い出した事なのに……」

 

 

そこまで、煽るのか!?と、思うほど幼児が桃子さんを煽っている。ただ、笑って無いところを見ると本当に幼児化しているだけなのかもしれない。

アリサが、ギョッ!?とした顔をして、血の気が引く様に青冷めて行く。そして、なにかに気が付いた様にギ、ギギ……と錆び付いたブリキ人形の様に歪な動きで桃子さんのいる方に顔を向けた。

 

 

「アリサちゃん、ちょっとお話し……しましょうか?」

 

 

ガシッ!とアリサの両肩を押さえ、桃子さんがアリサをバックヤードへと連れ込んで行く。しばらくして、「ギャアァーーーー!!」と断末魔が聞こえた。

 

 

「忍、今の内に逃げよう!」

 

 

「え?ちょ、ちょっと……」

 

 

「次は、忍の番だよ?」

 

 

「どうして、そうなるのよ!?」

 

 

「笑ったじゃん!それに……近しい人から、食われて行くのが定番じゃん……ホラーなら……」

 

 

「……………………」

 

 

忍さんが、一瞬迷った様な顔をする。

そして、バッ!と振り返って恭也さんを見た。

恭也さんは、一筋の汗を流してから視線を外す。

 

 

「い、行くわよ、ソウニャ!」

 

 

「あら~♪何処に行くのかしら?」

 

 

「ひぃいぃっ!?」

 

 

後ろから現れた桃子さんに、肩を掴まれて忍さんが悲鳴を上げる。その声質からは、恐怖しか感じ取れなかった。

アリサと同じ様に、錆び付いたブリキ人形の如く……ギ、キギ……と歪な動きで振り返る。その青冷めた表情からは、桃子さんに対する恐怖心しか読み取れない。

そして、バックヤードへと連れ込まれる一連の行動を優しく見守っていた。

フと気が付くと、幼児の姿は翠屋店内には無く……辺りを少し探したが、見あたらなかった。

 

 

「まさか、逃げた!?」

 

 

いや、あんな幼児の事を気にしている場合ではない。

次は自分かもしれないのだ、今すぐにでもここを離れないと……と、たった一つだけの入口には、何故か恭也さんと士郎さんが立ちはだかっていた。

 

 

「済まないが……ここは、通行止めだ……」

 

 

既に、二人が桃子さんの命により出入り口を封鎖していた。

 

 

「……………………」

 

 

こんな事で、魔法を使いたくは無かったけど……トイレに逃げ込んで、結界を展開し恭也さんや士郎さんを振り切って翠屋から逃げ出した。ある程度、翠屋から離れた所でガチャッ!と扉を開けて中に入る。

 

 

「お帰りぃ♪」

 

 

「ああ………………っ!?」

 

 

気が付けば、俺は翠屋に戻って来ていた。

 

 

「はぁ!?」

 

 

「面白いだろう?」

 

 

「……………………何、を……」

 

 

「空間封鎖結界さ。どれだけ逃げても、最初の場所に戻って来るっていう結界♪」

 

 

「そんな……馬鹿、な……」

 

 

「凍真くん?お・ま・た・せ♡」

 

 

「ま、待ってっ!俺、笑って無いんですが!?」

 

 

「あ、それ……関係ないから♪」

 

 

「え!?あれ?ちょ……ま」

 

 

そのまま、恭也さん達に見送られて俺は桃子さんにバックヤードへと引き摺られて行く。その細腕のどこに隠されていたのか、凄まじい力で引き摺られる。

そして、俺はその後の記憶を失った。

バックヤードで、何が行われたのか思い出そうとするが……ただ、身体が震えるだけで詳しいことは思い出せない。

あの幼児まで、桃子さん側に付いていたなんて……思いもしなかった。

 

 

ーーまさか、最初から?

 

 

いや、そんな事はないはずだ。

あの幼児は、桃子さんに怯えてアリサを盾にしていたはず……仲が良さそうには見えなかった。なら、考えられるは……。

 

 

「桃子さんが怖くて、先に協力する代わりに自分は助けて欲しいという事なのか……」

 

 

「にゃははは。んな訳ねーだろ……協力した訳でもねぇ」

 

 

「なら、何故!?」

 

 

「や、結局……僕は、《旧・神族》との戦いだし……君達、【転生者】は運命との戦いになるし……【原作組】は、物語との戦いだし……なら、そうでない間は楽しく過ごしたいじゃないか……」

 

 

つまり、俺達は弄ばれたということなのだろう。

この幼児に、一言二言でそういう状況を作られているということが、少し悔しかった。

 

 

「…………それで?いつ、過去に送られるんだ?」

 

 

「送るって言っても、精神を特定の時間軸に上書きするってだけで……認識できる訳じゃないよ?過去は変わるだろうし、現状も変化するだろうけれど……君達が、明確な変化を観測することにはならないよ!」

 

 

「それって……どういうことだ?」

 

 

「まあ、一見百聞に如かずだ。やれば、わかるさ……」

 

 

そう言って、幼児はアリサの元へ行き、怒られていた。

必死に謝っている様だったが、アリサはペシペシ幼児を叩いている。『幼児虐待』という言葉が、頭を過るが気にしないでおこう。

 

 

「後、3日だ。それで、過去の君達に今の君達を上書きする……一応、策は幾つか用意しておくから……任せておけ!」

 

 

そう言われた。

全く、頼もしい事で……。

 

 

 

 

 

 




記憶封鎖と好きな人からのデートの誘い。
前回の暴露話を忘れさせる為とはいえ、トウマを生け贄に捧げた双夜達w食われる側としては、大変だけどがんばって貰いましょう!!

どれだけ、複製して隔離しても世界は世界ですからねぇ……。
遊び程度でも、生じて動かせば調整や修正は必要になりますよぉ?

結論からいうと、この依頼は《神殺し》にとっては、いつもの依頼だった。結局のところ、裏で糸を操っていたのは《旧・神族》だったってオチ。

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m(_ _)m

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