絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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二五三話

Re:

 

 

突入して、まず思ったのは……真っ赤だなぁと。

その上で、重力制御や空気に関する事も頭を過ったけれど、浮遊するピンク色の肉の破片?やら何やらが目の前をスゥッと横切りどうでも良くなった。

つか、何でこんなにピンクの臓物が漂っているのだろうか?一部のピンク色からは、白いモノも突き出ているので骨?かなぁっとか……血生臭い臭いが立ち込めてちょっとしたホラーハウス?だなぁとか思考が流れてしまう。

ぶっちゃけて言うと、文字通り『臓物が浮かぶ血の海』だ。

まあ、血液が無重力で水玉状となり浮かんでいるけど。

 

「「うわぁ……」」

 

余りの惨劇に、つい嫌そうな声を出してしまう。

何気に、オルタからも重い溜め息の様な声が上がった。

まあ、気持ちはわかるので俺もオルタもツッコミはしない。

ざっと見た感じ、四、五人の血肉が撒き散らされていた。

散乱している装備や衣服も、それくらいあるので間違いなさそうだ。にしても……。

 

「これ、来る意味あった?」

 

「兄様……メンタル弱いな。しかし、これは私でもちょっと……無理そうだ……」

 

大分、混乱した思考に一瞬現実逃避仕掛けるがここは敵地。

油断していると、殺られる可能性があるので指示を求めてオルタを見る。しかし、オルタも俺程ではないが少し顔が青い。というか、オルタが震えている様にも見える。

 

「何はともあれ、師匠の居る方角はわかるか?」

 

「…………多分、あっちかと……」

 

訪ねられて、オルタが思わずと言った感じで師匠の居る方角を指差した。そして、何とも言えない表情で『チッ』と舌打ちをする。それは、本当に珍しい態度だった。

 

「どうしたんですか?」

 

「フム……Masterが、多分怒っているのだろうな……苛立ちめいた感情が、Masterから流れて来る……」

 

「苛立ちめいた感情?一体、何があったんでしょうね?」

 

「知らん。だが、彼方には近付きたくない。兄様、Masterとは別ルートへ向かうぞ?きっと、彼方に行くともっと酷い光景を見る事になるだろうからな……」

 

「了解ッス!」

 

流石の俺も、これ以上の惨劇なぞ見たくも無かったのでオルタに言われるままに逆方向へと進んで行く。逆方向へと向かうメリットとしては、人質や隠れている転生者の捜索が主だが……俺達は、師匠が起こす悲劇を避ける為の逃避行だ。とりあえず、人質や転生者の捜索を上げて敵戦力を出来るだけ減らす事を目指す。とはいえ、師匠が転生者の多くを引き受けているのか歩き続けるも敵と遭遇する事なくドンドン進んで行く。その内、駆動炉にまでやって来てしまった。つーか、Stsでワラワラと出て来たドローン達はどうした!?何で、こんなに警備が薄いんだ!?と色々思う所はあったけれど、楽々駆動炉まで来れた事は良い事ではあるので諦める。ぶっちゃけ、暴れたかった!!

とりあえず、駆動炉を全力で殴ったら砕けたので良しとする。ただ、ヴィータがあんなにすっごく頑張ってブッ壊した駆動炉が一撃粉砕された事がちょっと残念だ。

だけど、師匠の一撃と比べて凹み……どうして自分は、あの境地に至れないのか悩む。多分、必要なモノは揃っている気がするんだけれど、何をどうすればあの領域に至れるのかがわからない。まあ、何れは至るだろうと自分を無理矢理納得させて踵を返した所で駆動炉が復活した。

 

「ふおぉぉあぁあぁぁぁぁ!!!??!?!?」

 

「これは……きっと、【神】が復活させたのだろう。厄介な……これでは、我々はここから動けないではないか……」

 

「……じゃあ、ここに俺が残るってのはどうですか?」

 

「……それは、得策ではないな。何かあった時に、兄様では対処出来まい。フム……私が残ろう。兄様は、敵対者を捜索しつつMasterの元へ向かってくれ!」

 

「【神】に会った場合は!?」

 

「私には、《神殺し》のスキルがない故【神】を殺す事が出来ない。出来るとしたら、《神殺し》転生した兄様くらいなモノだろう」

 

「俺に、【神】を殺せ……と!?」

 

「今、動けるのは兄様だけだ。私が駆動炉を、兄様は【神】を捜し出して殺し……もしくは、退けろ。さすれば、私が駆動炉を砕き兄様達と合流する」

 

「……………………」

 

マジか!?そりゃ、《神殺し》スキルを考えれば俺が【神】を捜し出し殺すのが手っ取り早いが……マジか!!?

 

「大丈夫だ。兄様……兄様なら、十二分に殺れる」

 

「だが、師匠や師範達レベルには至ってないんだぞ!?」

 

「確かに、兄様はまだまだだが……技術は、ちゃんと規定レベルに至ってはいる。後は、()()だけだ」

 

()()?」

 

それは、どういう事ですか!?

 

「すまぬな、兄様。これは、兄様自身が至らねばならぬ事なのだ。我等では、教えられぬ。だが、素養は十分。今まで得た、()()を出し切れば兄様は至れるだろう。これは、全ての《神殺し》達が通って来た道なのだ」

 

「…………良くわからんが、()()を出し切れば良いんだな?全力全開で、今まで得たモノを出し切れば……」

 

「ああ……」

 

そう言って、オルタは優し気な笑みを浮かべて頷いた。

それだけで、俺は十分だったので踵を返して走り出す。

色々と不可解で理解不能だけれど、師範が問題ないと言うのなら今の俺でも師匠と似た様な事が出来るのだと思われた。だが、唐突に一人切りにされてしまって心寂しく『もしも』といった感情が溢れて不安になる。

 

「ああ、くそ!」

 

今までは、師範達が傍に居て見守ってくれていたから安心だったけれど、急に独りになって微妙な不安が緊張を呼ぶ。自分が、如何に護られていたかがわかって鬱になりそうだ。だが、ここからは独りで本番だ。

まさか、こうも早く神殺しを行う事になろうとは思っても居なかったがある意味これはチャンスなのかも知れない。師匠達がいる、あの領域に近付くチャンス。

流石に即、その領域に至れるとは思わないけど……でも、自分を試すには絶好のチャンスでもある。

 

「意識を戦闘特化に傾けて……師匠みたく、術式とかでガチ魔改造はしてないけど……」

 

それでも、そう在ろうとする事は出来ると師範達は言っていた。そりゃ、あんなプロの戦闘集団みたいには成れないけれど……それなりの訓練は受けている。届くかは、不明。

 

「あ、ヤバイ……段々、不安になって来た」

 

言葉にして、余計に不安になるお馬鹿な俺。

それにしても、転生者達に協力している【神】は一体何処に居るんだろう?ま、俺の勘に従えばクアットロがいた最深部の様な気もする。師匠は、ヴィヴィオがいる玉座に向かって居るんだろうけど……さて、どうしたものか?

 

「…………とりあえず、手当たり次第で行くか!」

 

何れにしろ、このゆりかごの何処かに隠れているんだろうから順応に探せば見付かるだろうと考えて、一先ず最深部に向かう事にした。頼むから居てくれよ!!

 

 

……………………。

 

 

居なかったら、どうしよう?と思っていたけれど……奴は、そこでたたずみただ天井を仰ぎ見ていた。

 

『ふん。ネズミが、迷い込んだか……そら、隠れてないで出て来たらどうだ?』

 

しかも、俺に気が付いていたみたいだ。

色々、思う事はあったけれど……奴が、翼を玩具にしている【神】かも知れないので言われるままに出ていく。

 

『ほぅ……。そのまま、隠れているのかと思いきや……ワザワザ殺されに出て来るとは、愁傷だな……』

 

「お前が、翼を玩具にしている【神】か!?」

 

『…………ツバサ?さぁて、何の事だか……』

 

「違うのか?じゃ、とりあえず逝ってよし!!」

 

押し問答をする気も無かったので、俺は一気に片付けるべく瞬動術で間合いを詰めて練り上げた丹力を穿ち放つ。

だが、拳が当たる前に【神】は俺の目の前から消えた。

そう言えば、【神】は《神速》を使って闘わないとイケない存在だったハズだ。クソォ……失敗、失敗。

 

『クックックッ……未熟だのぉ?』

 

「うっせぇ!」

 

なんちゃって覇王流・断空拳!!

声に出すのはアレなので、心の中で叫びながら拳を振るう。

しかし、全く掠りもせず敵は余裕綽々の様子で避けて行く。

やはり、《神速》では届かないのだろう。

師匠みたいに、《神威》が使えるなら兎も角未だに瞬動術しか使えない俺では《神殺し》の領域には届かない。

オルタに、『兄様なら、大丈夫だ……』と言われたが攻撃が掠りもしないこの状況では過大評価だったと言わざるを得ない。だけど、【組織】は完全な実力主義だ。師匠達も、その完全実力主義に染まっていて実力がない者には厳しい。《神速》の連続使用で悲鳴を上げる肉体を酷使して、更に攻撃スピードを上げ様ともがく。《閃き》には、一度至っているけど……アレ以来、出来た試しはなかった。つーか、【神】は《神殺し》のスキルで弱体化するんだろう!?なら、なんでこんなに強いんだ!?

 

『クックックッ……弱い弱い。それで、《神殺し》が務まるとは……彼の者達も、質が落ちたのぉ……』

 

瞬間、カッと頭に血が登り気が付いた時には俺の拳が奴の顔面に突き刺さる。

 

『グガッ!』

 

「へ?」

 

何が起きたのかわからず、惚けていると【神】が顔を押さえて睨み付けて来る。そして、訳のわからない事をブツブツと言い出した。だが、拾えたのは僅かで大元は聞こえない。

だが、これはチャンスではないか?

相手は、俺を見ている様で目の焦点が合っていない様にも見える。だが、もしこれが誘い掛けだとしたら?と様々な不安が俺の中を駆け巡っていた。ここで、己の力を示せなかったら……とか、禍焔凍真の様に切り捨てられるかも……とか、余計な思いが頭を過り動けない。集中が切れ掛かり、《神速》から元の時間の流れへと戻りそうになる。《神速》が切れたら、俺はきっと二度と戦えなくなるだろう。だから、切れ掛かる集中を何とか維持しようとするが薄皮一枚の状態だった。

 

『…………クックックッ……ただのまぐれ当たりか……』

 

「ーーーーー」

 

集中が解けて、俺は元の時間の流れへと戻ってしまった。

それでも、がむしゃらに拳を振るい敵である【神】を倒そうと闘い続ける。当たらない拳が、虚しく空を切る回数が増える度に心が力を失って行く。ダメだとわかっているのに、ネガティブな考えが止まらない。無心になれ!何も考えるな!ただ、あの糞野郎の顔面を殴る事だけを考えろ!!

そう、心を奮い立たせ様とするが……俺は、俺の力を信用出来ないでいた。

俺の中の冷静な部分が、踏み台が主人公になれるハズがないだろう?と語り掛けて来る。それを、そんなつもりはないんだ!と極みに至ろうとする心が否定していた。

 

『汝、神々に転生させられた者だな?そこから更に、《神殺し》へと転生したか……クックックッ。しかも、劣化した魂を更に劣化させて……これは、傑作だ!《神殺し》であろう者が、《堕ち神》の素を《神殺し》に転生させるとは余程気に入ったのか……それとも、ただの実験か?……何れにしろ、汝はその領域に至れまい!?』

 

「うるさい!!」

 

『クカカカカ!足掻け、足掻け!そして、無様に絶望して堕ちろ!《神殺し》が、《堕ち神》と成れば彼の者達も地に落ちよう!さあ、己が無力差を認め絶望せよ!!』

 

「クソ!クソォ!!」

 

俺に、何が足りないって言うんだ!!

 

ーーー後は、()()だけだ。

 

その時、フとオルタの言葉が思い出された。

閃く?何を、【閃け】って言うんだ?

オルタは言った。俺が、既に【神】を殺せるだけの技術を持っていると……だが、それだけでは【神】を殺すには至らない。

だから、【閃け】と彼女は言った。

 

ーーー大丈夫だ。兄様……

 

何を!?……と、思考の海に拐われそうになった時、オルタの……テオルグ師範の言葉が思い出された。

あの時、師範は何と言っていたか……?

 

ーーー大丈夫だ。兄様……兄様なら、十二分に殺れる

 

そうだ。師範代は、俺でも十二分に殺れると言っていた。

だが、蓋を開けて見ればこの体たらく。俺は、《神殺し》に転生した事で何処か傲慢になっていたのかも知れない。

振り抜かれる拳。でも、敵は余裕綽々で避けて逃げる。

拳?元々、俺は剣士に成ったのでは無かったか?

腰の鞘に刺されたままの剣を見て……だが、誰かさんにお遊びで鍛え抜かれた直感がこれではないと主張する。では、何か?

あの続きは……『確かに、兄様はまだまだだが……』と、思い出した記憶に凹む。そうですね。まだまだ、雑魚ですね。

思わず、思い出された記憶に凹みはしたが師範はちゃんと俺を評価してくれていた。そして……

 

ーーー技術は、ちゃんと規定レベルに至っている

 

後は、()()だけだと言い切った師範はこれ以上は教えられないと言って送り出してくれたんだ。

つまり、俺に足りないモノがあるって事だ。

だが、技術的には【神】を殺せるレベルには至っているらしい。

フと、思い出した事がある。SAOモドキ世界で、守護者さんが言っていた師匠の戦闘技術についての説明。あの時は、無茶してんなぁ……と思ったモノだけれど。もし、アレが今俺に問い掛けられているモノだとしたら……それが、答えなのだろう。

つか、このクッソ忙しい時にどんなナゾナゾなんだよ!?

ゴッチャゴッチャ考えている間も、俺は【神】と戦っているんだぞ!?もっと、簡単な問い掛けにしておいてくれよ!?

要は、アレだろう?文字通り、『全てを出し尽くせ』って事なんだろう!?何を、どうすれば良いのかなんてわかりはしない……きっと、わかった時には俺の知らないところで全てが終わっている。だが、乗り遅れたとわかっていても思い付くのと実行するのとでは難易度が全然異なる。てか、タイミングが中々合わないんですけど!?それに、間合いの問題もあって今一つ訳がわからない。

そもそも、近付けば逃げられ縮地&瞬動術の発動をミスると嘲笑われる。だから、というべきなのか……コイツ攻撃して来ないんですけど!?敵の行動を反芻していて、その事に気が付いた。

いや、気が付いてしまったと言うべきか……コイツ、こちらの攻撃を避けたりはするけど反撃して来る様子がない。いや、あの煽りが反撃だと言うなら反撃して来てはいるんだろうけど……物理的なのが全く無かった。なので、《神速》を解除してバックステップでそれなりの距離を開けて、《王の宝物庫》からティーセットと机や椅子を取り出し一休みをしてみる。

 

『あ?』

 

「ふぅ……」

 

『おい、こら、何一休みしておるんじゃ!?』

 

「は?……疲れたから、休んでるんだけど?」

 

『あ゛あ゛!?』

 

うおぉ!?ヤベェ!【神】が、〇くざさながらの恫喝をして来るんですけど!?しかも、整った顔立ちで醜悪に歪むその表情は何処の般若ですか!?だが、師匠のそれよりかはマシなので何とかスルーしつつもう一口。

 

『おい、ゴラァ!!無視すんなや!?』

 

「なら、攻撃してみろよ。避けたり、挑発したりするだけで全く攻撃して来ないのは俺を殺せるだけの能力がないからなんだろう?」

 

『クカカカカ!何を戯けた事を……』

 

「そもそも、最初からおかしいと思ってたんだよね。あんたさぁ……何で、こんな所に籠ってんの?力があるなら、他の転生者達と共に師匠を迎撃すれば良かったじゃん。なのに、こそこそ隠れるみたいにこんな所にいてさ……実は、ウチの師匠にビビってんじゃないの?」

 

『言わせて置けば、下等な人間風情が!!』

 

「ショッポ。……何て言うか、存在がショッポいよね……」

 

『こ、こ、この私を捕まえておいてショッポいとは何事か!?』

 

「最初、対峙した時は翼の事もあって冷静じゃなかったからわからなかったけれど……今となっては、《旧・神族》モドキよりも威圧感ないよね……」

 

まあ、アレは師匠が処理したんで俺は知らないんだけど……何て言うか、目の前に居るこの【神】は神様らしく思えない。

何て言うか……何か大事なモノが、抜け落ちた後の搾りカスみたいな印象を見受けた。当初は、これが《神殺し》スキルの影響かとも思って居たんだけど……どうも、違うらしい。

 

『い、言わせて置けばシャアシャアと……』

 

「ま、良いや。後で、師範代達にでも聞けば詳しく教えて貰えるだろう。何はともあれ、これからお前を倒す!」

 

立ち上がり、ティーセット等を《王の宝物庫》に回収して断言する。俺は、アイツを倒せる!!さあ、仕切り直しだ。

 

『ふん!未熟者が、もう英雄気取りか!?』

 

「英雄?はっ!ただの《神殺し》さ……」

 

『ほざけ!!』

 

冷静になったおかげか、もう目の前に居る者が【神】だという認識は無くなった。とはいえ、ついさっきの今で何が変わったとは言えないのでやはり不安はある。だが、多分無意識には使える様なので俺がやるのはただ殴r……いや、斬る事だけだ。

元より、俺は格闘家ではなく剣士だったのだから。

これで、リーチ不足も補えて攻撃力も上がるので一石二鳥だ。

そして、わかった事がもう一つ。

【管理者】に、それ程強大な力は存在しない。

根本的な話、俺は大きな勘違いをしていた。

彼等にあるのは、世界を管理する()()の能力であって強大な力を持っている訳ではない。そもそも、彼等が()()と言われる理由は世界の内側で()()()()()()()()事に長けていたからだ。

だからこそ、俺が攻撃せずにマッタリお茶をしばいていても何もせず眺めているだけだった。そりゃ、恫喝や睨み等はあったけれど(笑)。だが、彼から攻撃を仕掛けて来る事は一切なかった。

即ち、俺の仮説が正しかったという事だ。

奴に、《神殺し》と戦えるだけの能力は無い。

懸念があるとすれば、奴の能力が《神殺し》の俺には効かずとも自分自身に使える可能性があるという事だけだった。その場合は、多分ピンチになったら逃げられるだろうなぁとは思う。

だが、俺が言われているのは討伐か退けろなので気が楽だ。

 

「とりあえず、言っておく。狂いし者に断罪を!……破滅誘う者に制裁を!我等、《神殺し》の名に懸けて!!」

 

『…………っ……未熟者があああぁぁぁ!!!!』

 

「《神速》!!」

 

《神速》と《瞬動術》を使って、一気に【神】の間合いに潜り込む。だが、それだけでは先程と同じ繰り返しだった。

奴は、世界を操って()()()()()()()()事にしたらしい。

もしくは、()()しているのか?でも、それが俺に取ってはとっても辛い事だった。何れだけ素早く、間合いに潜り込んだとしても奴の認識を越えない限り俺の拳が奴に届く事はない。

だがしかし、今俺が手にしているのは【剣】だ。今までは、ショートレンジだった間合いがミドルレンジへと変わり十二分に届く。

 

『くっ……』

 

至近距離で、睨み合いつつ俺は剣を振るう。

下から上に、上から袈裟斬りに横払いへと繋げて行く。

 

ーーー《ダーティー・ニーズ》Lv2覚醒。

 

《【重力捕縛】発動!》

 

唐突に、《ダーティー・ニーズ》が俺の魔力を吸い取ったかと思うと赤い糸の様なモノを展開して【神】の足を絡め取った。

まさか、まさかの戦闘の最中にレベルアップとか……驚かしてくれる!!《ダーティー・ニーズ》の【始解】が、重力操作だったから二段階目が捕縛だとは思わなかった。それにより、【神】の動きが鈍り……漸く同等レベルの闘いになる。

 

「有り難い!」

 

『くっ……腐っても、《神殺し》か!!』

 

「腐ってねぇわ!!」

 

全く、失礼な……一歩踏み込み剣を振るう。大振りだと、逃げられる恐れがあるから出来るだけ小振りでより速く細かく斬る。

両手剣を片手で操り、もう一方の腕を振って体制を保つ。

本当は、両手剣なので両手で使う方がパワーが乗るんだけど……今、求められているのはスピードなので片手でOK。

そこへ、簡単な体術を組み込んで出来るだけ隙も無くす。

ハンドガードが有れば、殴ったりも出来たんだけど……そんな、便利なモノは付いて無いので体術は足払い等の相手の体制を崩す程度のモノ。でも、それだけで十分だった。

 

『くっ……!』

 

「先程までの威勢はどうした!?」

 

『っ!オノレェ……!!』

 

足払い成功からのクルッと回って回転切り払い。

クルッと回った結果、敵を視界から外してしまったけれど、相手は崩れた体制を立て直すので手一杯いだったらしく逃げられていなかった事にホッとする。そして、ちょっと反省。

大振りダメと言いながら、相手の体制を崩したからって遊ぶのは危険と判断。もう少し、余裕がある時にしよう。

空間把握というスキルも習得しているけれど、相手をワザと視界から外すのは心臓に悪い気がするので止める。

だけど、確実にダメージを入れる為には多少の冒険は必要だった。クソォ……攻撃のタイミングと、瞬動術の発動タイミングが合致しない。師匠は、普通に同時発動していたけどかなりの難易度である。これは、訓練が必須だな。漫画や、アニメのキャラクター達はかなり簡単に同時発動させていたけど……戦闘中に何の訓練もしてない奴がぶっつけ本番でヤれるモノじゃない。

それでなくても、俺はかなり不器用だから人一倍訓練をしないとダメだったりする。畜生!未熟過ぎるだろう!!

 

「だあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

ーーー《白式二型》(白拍子系)

 

   ーーー《硬気功・金剛》(防御UP)

 

      ーーー《瞬動術》(加速)

 

ーーー発動!《我皇流・金剛白拍子》!!

 

ほぼ、がむしゃらになって剣を両手で振るった瞬間に相手を一斬吹き飛ばしてしまった。白い液体を撒き散らしながら、吹き飛んで行く相手を見送って意味不明な声を出しつつ首を傾げる。てか、何事ですか!?

 

「ほあ!?」

 

驚いて、一瞬ポカーンとしてしまったけれど相手が壁に激突して落ちて行ってしまった。正気に戻った後、慌てて下に降りて駆け寄ったが溢れ出る白い液体を手で塞ぎ睨み付けて来る管理者に怯む。あの白いのって、もしかしなくても血液ですか!?

マジで!?【神】って、白い血液なんですね!?

まあ、後で知る事になるが【神】の血液は基本種族に依存するらしく、白い血液の種族が管理者となっていただけの話だった。

だが、そんな事を知らない俺は【神々】の血液イコール白い……が、定着してしまい数日間それが常識的知識として触れ回る事となる。訂正すら、されなかった。ああ、恥ずかしい!!

 

「これで、終わりだ!」

 

『フン。もう、勝った気でいるのか……』

 

「その怪我で、これ以上戦えると!?」

 

『普通の《神殺し》であれば、直ぐにトドメを刺しておるわ!クックックッ……だから、汝は未熟だと言われるのだよ!!』

 

「なら、死ね!!」

 

言われるがままに、剣を突き刺すが何の手応えもなくガキン!と壁を突くだけに終わった。反動に驚いている内に、相手の姿が消えて無くなっていて『また、会おう』というエコーが虚しく響いて来るだけだった。

 

「逃げられた……?」

 

何時、逃走を図ったのかはわからなかったけれど、これでこの黒いゆりかご内での戦闘は終了らしい。それでも、しばらくは敵が去った事が信じられず、厳警戒体制で周囲を警戒していたのだけれど直ぐに現れた師匠と師範代を見て警戒を解除した。

 

「師匠……すみません、逃がしました」

 

「お疲れ。まあ、最初はそんなもんだろう」

 

「……ヴィヴィオは!?」

 

「回収して、機動六課の方に送って貰った」

 

「そうですか。これで、この世界での仕事も終了ですね……」

 

「まあ、調整は残ってるけどな……【鮮血の】も居たから、別の調整も必要だけど!まあ、僕が呼んだのだから甘んじて受け入れるけどさ……」

 

「不満一杯ですね……」

 

「仕方ねぇ事だけど、面倒な事に変わりはないからな」

 

そう言って、頭をガシガシ掻きむしる師匠は【神】を取り逃がした事を気にした様子もなく……それどころか、世界の調整の事ばかり気にした感じだった。というか……この人、あの惨劇を引き起こしたハズなのに全く返り血一つ浴びてないとかどんだけ?

血潮の臭いもしないし……つーか、風呂上がりの入浴剤ッポイ良い臭いがするんですけど?

 

「師匠、一旦戻りました?」

 

「おう。真赤だったからな(笑)」

 

嫌な返答が返ってきた。真赤って……返り血で、ですよね?

返り血で……真っ赤に染まるって、どんだけ殺したんだよ!?

 

「そんなに、ヤバい転生者だったんですか?」

 

「うん。嫌な相手や、障害になりそうな存在は殺してでも押し通る系の脳筋共だったよ。嫌な相手もそうだけど、ちょっとでも気に入らなければ何でもかんでも殺す様な輩は排除でOK」

 

「そのレベルか……」

 

「転生した癖に、この世界が架空の物語だと言い訳して非道の限りを尽くしていたからさっさと斬り捨てた。そっちは?」

 

「あー……突入した瞬間に、惨劇の現場を見まして……オルタが、師匠の元に行きたく無いって言うので駆動炉方面に移動。駆動炉を発見したので、直ちに破壊したんですが……次の瞬間、再生しまして。そしたら、オルタがこの再生には【神】が絡んでいるって言うんで探しましたらこの先に。討伐か退けろと言われていたので戦ったのですが及ばず……」

 

「フム。そうか……じゃ、ゆりかごを破壊して戻ろうか?」

 

「了解です」

 

今回の戦闘で、露見した自身の未熟な部分。

それが、わかっただけでも俺には十二分以上の戦果であった。

また、修行漬けの毎日となるだろうけど……今度は、ちゃんとした目標がある分迷走する事はないだろう。今までが、かなり漠然としたモノだったのもあるけど……今回は大丈夫。

前回までは、目標を【師匠】に定めて走っていた訳だ。

あの、漠然感は半端なかったが……次からは、ちゃんとした目標(技の同時発動)だからやり甲斐がある。よーし!頑張るぞ!!

だけど、その気持ちを口に出す事はしない。下手な事を言って、今以上の鍛練に見舞われるのは今までの経験でわかっているからな!俺はちゃんと、学習する人なのだ!!んー、と伸びをしてやる気を誤魔化していると……。

 

「そうかそうか。神崎が、やる気になったみたいだから修行もうちょっと厳しくしても大丈夫だぞ?テオルグ」

 

「そう、なのですか?兄様は、何も言ってないみたいですけど?」

 

「大丈夫。僕の目を信じろ」

 

「わかりました。では、一段階上げて参ります」

 

看破された!!黙って誤魔化したら、【真実の瞳】で看破された!!大事な事なので二度目です!ついでに、修行強化確定!!

問答無用で、確定ですよ!?変なオチを付けなくて良いから、普通に行きましょうよ!?つーか、これから黒い《聖王のゆりかご》の爆破イベントがあるんでしょう!?俺達が巻き込まれるタイプの爆破イベントが!!なのに、そんなオチまで付けなくても良いじゃないですか!!?

 

「セイカンフバク魔法《イセルト》……起爆」

 

「セイカンフバク魔法?」

 

大混乱の中、師匠が呟いた言葉に振り返ろうとしたが全方位からの大衝撃に意識を刈り取られ、聖王教会のベットの上で気が付くまで気絶していた。

 

 

……………………

 

 

……………………

 

 

……………………。

 

 

ここからは、リリィからの報告で明らかになった黒い聖王のゆりかごの末路についてをかたろう。

黒い聖王のゆりかごは、師匠が使った魔法で消滅。

宇宙の藻屑にもならなかったそうだ。

今回の反乱に荷担した転生者達は、一部の能力者を除いて更正施設に送られる事になった。で、問題の一部能力者については特定の無人惑星に送られその惑星の開拓をせざるを得なくなったらしい。まあ、リンカーコア封じの特典持ち達だな。

詳しくは聞いてないので、俺の予測ではあるが間違いないだろう。

傍に置いておきたくても、魔法が使えなくなるんじゃ反管理局共の玩具にされかねないという高度政治的判断だ。

危険物は、出来るだけ纏めて管理したいもんな。

危険物と言えば、もう一つ……ロストロギアに加工された、リンカーコア封じに関してだ。もちろん、加工したのは【神様】でその技術は人間には無いのだけれど……技術者と思われる者は皆、ジェイル・スカリエッティと同じ衛生軌道上にある拘置所に送られた。皆、一様に否定していたらしいけど現物があるんじゃぁ仕方がないと言わざるを得ない。こればっかりは、師匠でもどうしようもないとのこと。因みに、魔導兵器を使っていた師匠はその難からスルッと抜けてたけど……技術提供を求められてはいた。

まあ、その間にカリム・グラシアが割り込んで拒絶していたみたいだけどな。カリ姉、ありがとう!!

そして、機動六課は然したる成果を上げる事なく解散。

でも、黒い聖王のゆりかごが現れた時、唯一宇宙に上がった部隊なので俺達が居なくなった後に英雄と祭り上げられるだろうと師匠は言った。そうなると、師匠に殺された転生者達はどうなるのかと言うと……『自害した』という事になるらしい。

まあ師匠は、そうなる様に()()と断言してたけど。

何が行われるかは、俺はまだ知らない。

最後に俺達はというと、相も変わらず聖王教会で遊んで……というと、聞こえは悪いが過ごしている。俺は、例の彼と検証の日々を過ごし、師匠はカリムと聖王教会のお仕事をしているらしい。

たまに、シャッハがガチ泣きしているけど平和な日々だ。

後は、世界の調整を終えたらまた別の世界へ行くのだろう。

 

 

 

 

 




『腐っても、《神殺し》か……』
「誰が、男色(BL)かぁ!?」
『……………………』
「……………………」(ドヤ顔)
なんて、腐ってる違いをやろうとしました!でも、場が白けるのでカット。戦闘中のギャグは難易度が高いですね(笑)。
腐神殺し。腐ってると言うのであれば、エターナル・エンドが該当しますが……BL系キャラというのであれば、別キャラを推奨します。カヲルとか、アルバとか、パートとか(笑)。
い、居るには居る(笑)。男同士で、イケメンで、三角関係のガチ勢が(笑)(笑)。イケメン死すべし!の精神で作られたキャラ達ですが……濃すぎて、死蔵された悪夢。流石に、ハプシエルタイプ(外見)は居ません(笑)。

ガチ勢と言えば、【組織】主催のVRゲーに出没する結婚出来ない30前後(外見)の女性とかヤバいですね。【組織】の人員ではありますが、捕まったが最後……人生の墓場にようこそ!!な状態に(笑)。特に、恋愛系の乙ゲーに多いです。
ただ、【組織】で造られる乙ゲーは基本的に出会い系で王子様もヒロインも皆現実にいる人達で更正されてます。ここら辺は、現実的なんですよねぇ……で、騙された男が食われて人生の墓場に直行する事もしばしば。イケメンに甘い言葉で慰められる系の乙女ゲームではありません。肉食系貴婦人が、憐れな子羊を今か今かと罠を張って潜んでいるゲームです。そんな貴婦人の罠を回避して、真のヒロインを見付けるのがこのゲームの醍醐味。女同士の場合は、腐った親友が生まれる場でもあります。逆パターンもある(笑)。そっちの場合は、モテナイ醜悪な外見の男に嵌まるオチ。醜悪&貴婦人が当たった場合は、双方ブチギレ案件ですね(笑)。
因みに作者は、ブチギレ案件をオススメします(笑)。
オフ会が、地獄になるか天国になるかは開けてみないとわからないって言うのが好きですね(笑)。泥沼は、見てて面白い(笑)。ギャグネタなので。

作者に取って、VRゲーの元と言えばアニメ版の『.hack』かな?それを元に、フルダイブとマルチダイブってのが生まれてーーフルが、感覚を全部使ったSAOタイプ。マルチは、視覚と聴覚をダイブさせる『.hack』タイプだったかな?他にも、フィールド型(カードゲーム用)とか色々設定を作り込んだ記憶がありますーー【組織】では、フルがゲーム。マルチが、仕事用扱いで使われてます。一々、紙に書き写すのが面倒だとか。なので、双夜が悪戯したい放題でした(笑)。
イメージとしては、ゴッツイゴーグルを付けた人々が机に向かっていてジッとしている感じ。やりたい放題ですよね!!
因みに、カードゲーム用は『中二病養成機』等と呼んでました。フィールド型なので、それこそ任意の映像を登録して置けば3Dで戦場を現実世界に出現させる事が出来る訳です。
例えば、『中二病でも恋がしたい』等でキメ台詞的呪文を唱えて世界を妄想の中だけでしたが戦場に変えるとか(笑)。
やりたい放題が可能です(笑)。
それで、想定されたのが中二病患者の大量増殖。前もって、準備が必要だけど自分の個性溢れる世界観を魅せる事が出来る訳ですからあっという間でしょうね。

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