絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~   作:葉月華杏

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二四〇話

Re:

 

 

そこには、とても立派な外観の砦が出来上がっていた。

今、俺達はインプ領で捕虜とした転生者達を護送している。

しているんだけど、ルグルー廻廊は使わないって事だったので例の砦の方へと回って来たところだった。

だが……だがしかし、コレは無いんじゃないか!?

とても、『立派な外観』である事は良い。

良いんだけど、中身!!中身が、超近代的なのは如何なモノかと思うんだけど!?つーか、世界の時代感と外側の外観を合わせておきながら中身を近代的にするのは詐欺だと思われる!!

 

「……アルンに行く為には、ルグルー廻廊っていう地下に続く洞窟を通るんじゃなかったのかよ……!?どう見ても、コレトンネルだよな!?つかよ、何で外がアレ(中世)で中が近未来風なんだ!?ありえねぇーだろう!?」

 

ホラ!ホラ!!連れて来られた転生者(捕虜)ですら、このチグハグな建物にツッコミ入れてんじゃん!!

やっぱり、おかしいですって……ちょ、師匠。何、視線を遠くに向けてるんですか!?まるで、想定すらしてなかったみたいに……。まさか、本気で想定していなかったんですか!?

 

「エレベーターが、普通にある。まあ、スイルベーンにもあるけど……ここまで、近代的じゃねぇよな!!」

 

そこには、階のボタンを押すだけで昇降するエレベーターが鎮座してやがった。つかさ、基盤すら無いこの世界でPCを彷彿とさせるモノを持ち出されるとか……違和感が半端ない。

誰だ!?【鮮血の】さんに砦を作らせ様とか言い出した人は!?あ、師匠か……なら、ちゃんと監視して真っ当なモノを作らせろよ!?見ろ!この世界観を度外視した近未来風な砦を!!どう見ても、異常な砦だろう!?

 

「あー……ヤるとは思ってたけれど、本当にやらかすとはなぁ。見ろ、神崎!あれ、魔法技術だぞ!?そうそう、簡単には壊れない……時間経過でも、数千年はメンテナンス要らずの優れモノだ!!」

 

「リテイクで!!」

 

「え!?何で!?」

 

俺達が、ダメ出しをしているとフラァ~と何処からともなく出て来た【鮮血の】さんが驚いた様子で疑問の声を上げる。つーか、本気でこれで良いと思っていたのか!?と不思議に思うと同時に、どうしてこれで問題ないと思ったのか聞いてみたくなった。

しかし、聞いてもマトモな答えが帰って来る可能性は低そうだし、何より【鮮血の】さんが疑問を抱いている時点でアウトとしか言い様がない。

 

「こんな風にしたら、ネトゲー廃人が期待しちゃうだろう!?PCで、引き籠りな生活が出来るとか……」

 

「あー……そこまで、頭が回らなかったなぁ……」

 

「SAO関係者だって、元々はそっち方面の人材な訳だし……勘違いする馬鹿も出て来るんじゃない?」

 

という感じで、俺は【鮮血の】さんを説得する事に成功する。いや、成功した様に思えた……だな。

ぶっちゃけると、全然全くこれっポッチも説得出来ていなかった訳だし。

全く持って、【鮮血の】さんは右斜め遥か上に手強かった。

 

「誰が、PC並べろって言った!?」

 

「えっと……漫画喫茶?」

 

「違ぇーよ!?そうじゃねぇだろう!?」

 

誰が、SAOモドキ世界に漫画喫茶を創れと言ったよ!?

外観と中身を、世界観に合わせろと言ってんだよ!!

その後、何度も説得という名のお説教を繰り返す事となるが最後まで【鮮血の】さんとの和解はされる事なく、最終的に俺は師匠達と同じく実力行使に出る事に。

漫画喫茶は、泣き喚く【鮮血の】を背景に破壊し尽くされたのだった。ええ!そりゃぁもう、徹底的に壊しです。

 

「何なんですか……あの人は……」

 

「だから、言ったろう?馬鹿と天才は紙一重なんだよ」

 

特に趣味に走ると、周囲の声を聞いてくれないらしい。

とりあえず、里希さんにPC系の物資を創らない様にお願いしてから漫画喫茶モドキをブチ壊した。

その上で、師匠や【女装巫女】さんに言って焼き払って貰う。全く、酷い戦いだった。

もう二度と、あんな説得劇なんてしないぞ!?と心に決めて【鮮血の】さんを拘束した俺達はアルンへと帰還する。

とりあえず、【鮮血の】さんには師匠と共に大富豪クエストを攻略して貰おう。

そして俺は、今回捕虜とした転生者達をアルンへ護送して、この世界の技術習得検証班へと引き渡した。

これで、俺の任務は完了なので捕虜達と別れて自由行動と洒落込むハズだったのだが、捕虜の一人にガシッ!としがみ付かれて……《神殺し》に転生するにはどうしたら良いのかと問われる。

 

「知らん」

 

「はあ!?んな訳ねーだろ!?嘘言ってんじゃねーよ!!」

 

多分、この転生者は《神殺し》に新たな未来を見出だそうとしているんだろう。だが、それ程甘い転生先ではない。

まあ、言いたい事はわかるから目的も理解できるんだけど……本当に知らないんだよなぁ。

なので、地雷を晒してツッコミ事態を出来ない様にしてしまう。引き籠りで、DTならこのネタにツッコミをする事は中々難しいだろう。

 

「いや、マジで知らないんだ。結婚して、初夜でDTを捨て様としたところで召喚された……」orz

 

「おぉう……なんか、すんません……」

 

「俺はなぁ、【魔法少女リリカルなのは】の世界に恋愛しに転生したんだよ!ギルガメッシュっていう特典貰って、ちょこっと調子に乗ってたのは否めないけど……それでも、踏み台だったとしてもそこそこ楽しんでいたんだ!!」

 

「あ、地雷踏んじゃった!?つか、魔法少女……」

 

「それなのに……それなのに!突然やって来た師匠に、プチっと潰されて根性叩き直されたけれど……当初の目的を達成しようとした矢先、なんの前兆もなく唐突に《神殺し》に転生させられたんだぞ!?わかるか!?しかも、初夜!!夫婦の営みのイッチャン最初に!!」

 

「えっと……【リリなの】って事は、なのはと?」

 

「……シグナムだが?」

 

「何故、シグナム!?」

 

「元々は、ハーレムを目指していたんだが……色々あってなぁ。一人に絞った所、シグナムなら外から見ればハーレムに見えない事もなく……八神家から離れる事も無いから、囲ってる様にも見えるからな」

 

「なんか……色々、打算的だな……」

 

仕方がないだろう!?そうでもしなければ、ハーレムモドキを作れなかったんだ!幼い頃に、『俺は、ハーレム王になる!!』等と宣言していなければ、そんな打算的な結末を目指したりはしていない。何で、幼い俺はそんな宣言をしてしまったんだ!?と今はとても後悔しているとも。

 

「師匠が、そう言い出したんだ。でだ、苦労して魔法無しの剣術オンリーでシグナムを打倒して何とか結婚にこぎ着けたのに……初夜。シグナムと初めての営み!後少しってところで、《神殺し》に転生させられました……」

 

「おふっ……魔法無しの剣術オンリー……シグナムを打倒……マジか……」

 

「スゲー……そんな偉業を成したのか……お前……」

 

「ギルガメッシュで、『踏み台』って言ったら……能力に胡座を掻いてる馬鹿の代名詞じゃないか!!」

 

「マジか……スゲー……」

 

「ガチか……やるなぁ……」

 

「最近では、『リアルラカン』とか呼ばれてます……」

 

「コイツ、中身だけじゃなくて皮詐欺か!?」

 

「マジか!?リアルラカン!!」

 

「リアルラカン!?あはは!リアルラカン!!」

 

「ギルガメッシュなのに、リアルラカン!!(笑)」

 

その場にいた、ほぼ全ての転生者達に指を指され爆笑される。しかし、本当に爆笑ネタなので甘受する事に。

本当に、どうしてこうなったんだろう?こんなハズじゃ無かったハズなのに……って、クロノの口癖が移っちまった。

ただ、《神殺し》に成りたいという馬鹿を止める為の言い訳だったハズだ。なのに、果てに『リアルラカン』とか色々ブチ撒けている内に愚痴ッポクなってしまっている。

これは、悪い方向ッポイので一旦切り上げて話の流れをブッた切った。

 

「兎に角、俺は《神殺し》に転生する方法なんて知らないんだよ。師匠の話では、《インスタント・ソウル》がどんなモノなのかを確認する為に俺を造ったらしいからな。だから、マジで知らん」

 

「…………あんたも、その《インスタント・ソウル》ってヤツなのか!?インスタントラーメンみたく、人間の魂が簡単に作れるなんて信じたくはないが……」

 

「そうだよ。何たって、相手は【神様】なんだぞ!?全知全能の怪物だ。魂の大量生産なんて楽勝だろうさ」

 

「あ……言われてみれば、確かに……じゃあ、あの原作人物達は原作人物では無いんだな……」

 

「は?魂は違うだろうけど、記憶や人格は当人だぞ?」

 

「でも、本物じゃないんだろう!?」

 

「…………つーか、何が本物で何が偽物かなんてこの転生世界ではなんの意味も持たないだろうが!?」

 

何を言い出すかと思えば、自分自身ですらやあふやな本物偽物の話だった。ぶっちゃけ、今となっては意味すらない言葉の羅列に一々反応する転生者達が馬鹿にしか思えない。

己でさえも、本物では無いかも知れないのだ……なのに今更、SAO関係者が本物か偽物かなんて考察しても何の意味も価値もない。まさか、自分だけは本物だとか思っているのだろうか!?ぶっちゃけ、あり得ないので黙ってて欲しい。

 

「自分が、《インスタント・ソウル》である可能性は見出ださないのか!?」

 

「は!?んな訳あるか!俺は間違いなくオリジナルだ!!」

 

「残念ながら、《インスタント・ソウル》だよ」

 

反論しようと声を怒鳴る様に張り上げた馬鹿に、バッサリと断言しきる師匠がいつの間にか俺の背後にいた。

一瞬、背筋がヒヤリとしたけれど何もされていないので気にしなかった事にする。

つーか、油断していた事がバレると不味いので黙っておく。

 

「神崎、油断し過ぎ……そして、君達が《インスタント・ソウル》の転生者達だね?何はともあれ、君達が彼等と同じ《インスタント・ソウル》である事は間違いないよ」

 

バレてるぅ!!

まあ、これ以上に気になる事はあったけれど。

 

「調べたんですか!?」

 

「ああ。未だに、引き籠りでネトゲー廃人である事に代わりは無いようだからね。まあ、この世界に転生した者の大多数は調べ尽くしてるよ……」

 

「おい!ふざけんなよ!?俺が、《コピー人間》!?そんな訳あるかよ!!俺には、死んだ瞬間の記憶があるんだぞ!?」

 

「あ、それ捏造だよ。だって、君が転生したとされる時間には部屋で寝落ちしているところだったからねぇ……」

 

「おふっ……」

 

「まあ、その辺りも神々の娯楽扱いだから戯れ程度に遊ばれたんだろう。本当、悪質としか言い様がない」

 

「娯楽……」

 

何度聞いても、幾度対応しても胸糞悪い話である。

しかも、《神》であるが故に出来る事も多く予想以上に奇怪で複雑な上に黒幕的存在まで居やがるから質が悪い。

その説明を聞いた転生者達と妖精達は、かなり微妙な表情でそれぞれに視線を向けると嫌そうに顔を歪めた。

 

「それで、全部神様のせいにしてコイツ等を許せと?」

 

「は?なんで?」

 

そんな勘違いで、おかしな事を言い出すインプ達。

だがしかし、ウチの師匠がそんな甘い事を言い出す訳がないのでその誤解を解くつもりで言葉を重ねた。

 

「言い訳じゃないから。つーか、師匠がそんな甘い話を持ち出す訳ないだろう!?むしろ、今ある罪に罰を過重するの大好き鬼畜な人だぞ!?」

 

「神崎?」

 

「何でもありません!!」

 

「とりあえず、テオルグと模擬戦な?」

 

「あ……出来れば、ラヴォルフ師範で……」

 

「ん?じゃ、魔力封じ追加で♥」

 

ほら!ほらぁ!!

こういう人なんですよ、ウチの師匠は!

嬉々として、お仕置きを増やす鬼畜な人なんです!!

 

「終わった……」

 

「oh……すまん……」

 

「兎も角、ウチの師匠が手加減をする事は有り得ませんのでガッツリ罰を押し付けて良いですよ?ぶっちゃけ、ソイツ等がどうなろうと俺等には関係ないので……」

 

「あ……でも、その前に神様特典ブッ壊してしまわないとな!罰を与えた所で、神様特典があったら無効なんて出来そうだし……もう、十分楽しんだだろう?さあ、神様特典を差し出してくれるよね?」

 

「なんか、凄い事言ってるけど……」

 

うんうん。

言いたい事は、とても良くわかるけど……逃げられないから。

怯える転生者達を余所に、『一旦、分解するけど良いよね?』とかホラを嘯いているとても良い笑顔の師匠が酷い。何の知識も持たない者に、そんな事を言ったら超ドン引きしたあげく怯え切っているじゃない。

 

「大丈夫、大丈夫。この虹色に輝く剣で、ちょこっと斬るだけだから……ああ、なんなら先っぽをサクッと刺すだけでも良いから。ね?」

 

「ちょ!?ワザワザ、誤解を招く言い方してんじゃねぇよ!?」

 

何なの!?ねぇ、何でそんなに楽しそうなの!?ホラ、話を信じちゃったインプ達までドン引きしているじゃないですか!?何、誤解を加速させる様な言い方してるんです!?

そんな風に言ったら、怯えられるだけでしょう!?

 

「大丈夫だよ!あの虹色のヤツは、幻で斬れないから安心安全設計だ!後、複数の神様特典持ちはそれだけで歪みの元に成るからな!?特典の数を減らして、簡易設計な魂である《インスタント・ソウル》が連鎖崩壊するのを止める為でもあるんだから、さっさと応じて!」

 

自分で、言っててもわかるレベルのとんでもない無茶っプリである。だが、簡潔かつ解りやすく言うとこんな感じになってしまう。しかし、複数の神々が与えた神様特典がもたらす影響は小さくはない。特典の内容によっては、連鎖連動して変化するモノもあるらしいので危険だった。

 

「な、なんだ、ビビらせやがって……それくらいなら、幾らでもやれば良いだろう!?」

 

「おい、待てよ!俺は、嫌だぞ!?特典が減ったら、何も出来なくなるじゃないか!?」

 

「嫌がるなら、この場で殺すよ?その方が、妖精達に取っては平和になるからねぇ。死にたくないなら、特典を減らす事に同意しろ」

 

「ああ、因みに……俺達、《神殺し》は慈善事業って訳じゃないから君等の生死は問わないよ?ただ単に、面倒だけどこの世界の住人だから生かしているだけだし……」

 

「嫌だって言うなら、百害あって一利無しな転生者は消えて貰うのが一番だからなぁ……サックり殺した方が良い」

 

『『『ゴクリ……』』』

 

告げた瞬間、それを聞いていた転生者とインプ達は生唾を飲み込んでドン引きしていた。

いやいや、そこまで怯える話じゃないだろう!?

元から、俺達はそう宣言してたんだから。

 

「あるぇ?転生者を擁護してたんじゃぁ……」

 

「社会不適合者だからと言って、抹消するだけじゃ社会は成り立たないでしょう?ま、平和ではあるだろうけど……危険な場所に、単身で突っ込ませるには適材だからな」

 

「単身で突っ込ませる……た、例えば?」

 

「んー……スプリガン領方面に出る、ルグルー回廊の逆。あそこ、何故か出入りが無いんだよね。中が、どうなっているのかわからないんで、誰かが行かなきゃならないんだけど……危険だからって、誰も入りたがらないんだ」

 

「えっと……俺達が、行くんですか!?」

 

「出来れば、戦闘職に行かせる予定だけれど……」

 

「戦闘職?」

 

「ほとんどの転生者が、生産職に転職したからな。教典とか言って、同人誌作成とか……漫画の画材を作る職人になったりとか……まあ、色々だ」

 

「何故、同人誌!?何故、漫画!?」

 

「ほぼ全員が、ヲタク道まっしぐらだぜ?」

 

「僕達が、調子にノリノリだった馬鹿共をプチッしたら特典を『綺麗な絵が描ける』とかに変更してやったんだよ。そしたら、リアルなんて糞ッ食らえ!おいでませ、2Dワールド!幻想は、裏切らない!!とか言い出しちゃって……」

 

「「「うわぁ……」」」

 

「裏切られた訳でも無いのにな?元に戻っただけなのに、平面世界に逃げちゃったんだよ」

 

「「「おふっ……」」」

 

師匠の言い分は、間違いではない。

それに対して、転生者達は頭を抱える結果となった。

そして、俺の補足に妖精達が呻く。気持ちはわからないでもないが……元々、コミュ障だった奴等にこの世界は厳しいんだよ。何をするにしても、画面越しでキーボードを打っていれば会話が成立していた世界とは違うから。

 

「デメリット特典で、『コミュ障』とか入れたらどうなるかな!?」

 

「コミュ障に『コミュ障』特典は止めて上げて下さい」

 

「じゃ、『相互理解不適障』は?」

 

「バラルの呪詛じゃ無いんですから……」

 

「バラルの呪詛?」

 

「あー……気にしないで下さい」

 

多分、言っても理解して貰えないだろうから黙っておく事にする。その内、シンフォギア系の能力者が出て来たら、その時にでも説明するのでまた今度。

まあ、出て来ない事を祈るけれど。

唐突に、歌い出されても困るので。

 

「兎も角、引き籠りにそういうデメリットは付けないであげて下さい。余計、引き籠るんで……」

 

「は!現実って、トラウマ植え付けようよ!そしたら、表に出て来なくなるから(笑)。あ!なら、女性に嫌われる呪いでも付け様か?顔合わせるだけで、ドン引きされるヤツを!」

 

「ちょ!?何言ってるんですか!?」

 

「えー……何か、微妙に舐められてる気がするしぃ……ちょこっと、出会いが無くなれば泣くのだろう?」

 

それが、本当に可能だから恐ろしい。

というか、誰だ!?師匠を『舐めてる』なんて態度をした奴は!?この人を怒らせるのは、自分達の首を絞めてるのと同義なんだぞ!?ガチ、洒落に成らないから今すぐ止めろ!!

そう、思った瞬間だった。

唐突に、空から現れた何者かが師匠に両手で持ち振り上げていた剣を振り下ろしたのである。体重と重力を十全に使った攻撃に、完全に出遅れてしまった俺はその馬鹿がプチっとされる一部始終を目撃する事となった。

しかし、何をされたのかは全く理解出来なかったと言っておこう。

つーか、師匠に攻撃した馬鹿が師匠からの反撃を一度だけ防いだのはわかったけれど……その後、里希さんの『防いじゃダメー!!』の叫びを聞いた所で馬鹿が平原の方へスッ飛んで行く場面しかわからなかったのである。

 

「見えましたか?」

 

「いや、全然なんも見えなかったんですけど……」

 

「神速には、入られましたか?」

 

「あ」

 

言われて、気が付いた。

そうでした。《神殺し》って、戦闘の基本に《神速》がありましたね。咄嗟の出来事だったので、驚いて頭から完全に抜けてました。はぁ……最近、平和な生活が続いていたから本当に油断仕切っていたみたいだ。

 

「全く……貴方は、咄嗟の出来事に弱いですね……」

 

「サーセン」

 

「まあ、良いでしょう。と言っても、あちらは許してくれそうにもありませんが……」

 

そう言って、守護者さんは師匠の方に視線を向けて溜め息を吐き出した。因みに俺は、師匠がどんな顔をしているのか怖くて見られなかったけれど。

 

「とりあえず、説明してあげるので貴方の師匠がどんな領域にいるのかの目安にしておきなさい」

 

「アザーッス!」

 

守護者さんの心使いを有り難く思いつつ、しっかりとお礼を言って頭を下げておく。マジ、ありがとうございます!

 

「まず、相手からの攻撃をリズさんに作って貰った剣で防ぎました。相手の剣を弾いて回避。その後、振り向き様に切り払おうとした相手の剣を柄頭を蹴って取り落とさせます」

 

『剣を弾いて』って事は、剣を弾いた際に出来る衝撃で、相手の剣の威力を殺し出来た一瞬の空白を用いて回避するっていうそこそこの技である。

その後の『柄頭』の件は、剣底に当たる部分の事で……刃ではなく、反対側の柄の最後尾の底の部分をそう呼ぶ。

それで、鍔寄りに剣を持っている状態で柄頭を蹴られてスッポ抜ける事がある訳だ。特に片手剣を、片手で持っていると起きやすい。なので、振り向き様に切り払おうとした時点で剣を持つ手が片手だけになっていたのだろうと推測出来る。それを見て、咄嗟に柄頭を蹴った師匠は凄いとしか言い様がない。俺だったら、バックステップで避ける事しか考えられなかっただろうからな。

 

「その流れのまま……ちょっと無理な体制ではありましたけど……無理矢理魔法の連続使用で体制を整えた双夜は、剣を振って相手に斬りかかります。しかし、パッと見た感じ《光皇翼》ッポイ何かで防がれていましたね。そこで、里希さんから横槍が入りましたが……《瞬動術》で間合いを殺し、掌底でその《光皇翼》ッポイ防壁に《当て》。《豪腕》、《身体魔力強化》、《鎧通し》、《金剛》、《発勁》。それによって、相手の意識は防御から痛みへとシフト。その隙を経て、《穿ち》と《瞬動術》の同時使用で《閂》。《光皇翼》ッポイ三枚の光壁モドキは、それで消失してましたね」

 

聞いている分には、とても簡単に聞こえるのだけれど……幾つかの聞いた事もない技名にちょっとドン引き中。

『当て』とか『閂』ってなんですか!?

 

「そこから、《神速》を使用して再度間合いを詰めます。そして、掌底を相手の腹に当てて同じ手順を繰り返し《開門》。それで、身に纏っていた《光皇翼モドキ》もロスト。《閃き》発動にて、《豪腕》、《金剛》、《掴み》、《鎧通し》、《瞬動術》と《鍛針功》の同時使用で《我皇流・白皇()狼牙》が発動。それと同時に、《二重の極み》が成立。あの方、中身グチャグチャになってないと良いですね(笑)」

 

もう、何がなんやら……苦笑いしか出来なかった。

あの一瞬で、とんでもない事になっていたらしい。

それを聞いていた転生者達が、アルンに入った所の隅に移動してガタガタと震え……師匠を、畏怖の籠った目で見詰めている。余程、師匠の見た目以上なとんでもなさが堪えた模様。

 

「本来であるならば、そこから《神威》を使って《発剄》、《豪腕》、《金剛》、《穿ち》、《鎧通し》、《鍛針功》、《瞬動術》、何れかの《極意》で《無限流》と《三重の極み》を成立させるのもあったのですが……手加減しましたね」

 

「そこまで殺ったら、木端微塵じゃん!!」

 

怖っ!!

《三重の極み》って、木端微塵になってますやん!!

相手、原形すら残らない結末に成りますがな!?

ソッと転生者や妖精達をチラ見すると、ドン引きを通り越して蒼白でかなりの距離を取られていた。気持ちはわからないでもないが、あからさまにそんな事をされると傷付きます。ほら、戻って来て一緒に親交所に行きましょう。

 

「どうだい?目安になったかい?」

 

「ええ。とっても……でも、届きそうにないんですが……」

 

割りとサックリ、人の心をへし折って来る守護者さんに俺は号泣するしかなかった。まさか、未だに初心者レベルだとは思わなかったですよ?あれだけ、修行という名の扱きを受けて来たと言うのにまだまだ序の口だったなんて思いもしなかった。これは、もっと頑張らないと師匠の隣に立つのは難しそうだという事がわかっただけだ。

クソォ……ちょっとは、近付けたと思っていたのに、全然スタートラインにすら立ててないなんて詐欺に等しい。

 

俺は、心新たにもっと頑張る事を誓った。

 

 

 

 

 




何時もの事だけど、転生者は木端微塵になる運命なんですよ(笑)。まだ、死んでない。とは言え、《二重の極み》やら《三重の極み》なんてされたら木端微塵は避けられない。
殺られた転生者は、肋骨の複雑骨折の上に内臓破裂は避けられないでしょうね(笑)。本当は、FF系の能力者でも良かった気がしますが……バスターソードで、金髪ツンツン頭とか。
そして、バハムートでメガなフレアでも吐かせれば大騒ぎになっていたと思われます。空間遮断に匹敵する防御魔法と、真っ二つに切り捨てられたバハムートが頭に浮かびましたが……。もしくは、バハムートの氷像とか?ああ、アカン。
ウォーティがいる間は、出せないねぇ(笑)。瞬殺確定。

それにしても、漸く一瞬に込められた一撃の内容が出て来ましたね(笑)。双夜の一撃には、これくらいは込められているんですよ。因みに、《当て》っていうのは掌底を防壁に当てる事になります。でも、普通には触れられなくて弾かれたりするんですけど……これを使えば、難なく防壁に手を当て続ける事が可能になるんですよね!!で、双夜の細腕では、衝撃に耐えられないので《金剛》や《硬気術》で強化補助して地面を《掴み》……《鎧通し》と《鍛針功》等を《瞬動術》との同時発動で穿ちます。
《閂(カンヌキ)》は、その名の通り防壁を貫く為の技術ですね。
で、その一撃は肉体にも入っちゃったので二度目の衝撃で《二重の極み》となってます(笑)。
一度目の《神速》で間合いを詰めたのは、再充転の意味で……一発目で、伸びきった体を縮める役割がありました。
《閃き》も同じですね(笑)。正に、鬼畜の所業!!何時もの事ながら、鬼ですよ双夜は(笑)(笑)。
《三重の極み》に至っては、SAOモドキ世界最初の犠牲モンスターの白い大猪『オッコトヌシ様』みたく木端微塵になります。

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