絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~ 作:葉月華杏
凍真
「あ、どうも……コテハン『苦労人』こと、竜族統括支部代表のリュウ・トラブレブルです。よろしく~」
「コテハン『苦労人2』こと、ヴァリュウ軍総司令官ヴァリュウだ。よろしくな……」
最悪の大暴露から数日後、俺は愁さん(苦労人3)に連れられて『苦労人集会』なるオフ会に参加していた。
別段、暗い雰囲気に包まれる様な事もなく普通の(ファミリー?)レストランで適当な場所を陣取った集団がワイワイと楽しそうに談笑している。『苦労人』1、2、3の他にも、あの場で掲示板に書き込んでいた住人達がこの場に集っていた。そんな場所に連れて来られたところで、先程の自己紹介である。何て言うか、『苦労人』っていうよりも中間管理職的な自己紹介だった。
「えっと……中間管理職?」
「まあ、基本的にはそれなんですが……」
「その延長線上で、私生活も蹂躙されてるんだ……」
あ、普通に『苦労人』臭が滲み出てました。
因みに、お二人の話を総合するとリュウさんは主に銀河&ポアンさんに振り回されていて……ヴァリュウさんは、弟さんと軍の兵士さん達に振り回されていているらしい。
「……そう言えば、俺……セイビアさん以外の軍の方々には会った事ないです……」
「……あるはずだよ?大体は、軍の関係者だから……」
「はぁ……大体ですか……」
そもそも、彼等が言う《軍》とは俺の知っている《軍隊》と異なるモノだ。本来ならば、《国》を護る為に存在する国力が《軍隊》なのだが……ここでは、《旧・神族》を攻撃・殲滅する為に存在するだけのモノらしい。
それに、《軍隊》と言えば、上下間系の厳しいモノであり、完全な縦社会で構成された組織である。なのに……ここの《軍》は、縦ではなく普段は横繋がりで戦闘時にのみ縦繋がりとなる特殊な《軍隊》だと説明された。
普通に考えて、そんな《軍》が存在していること事態がおかしいのだけれど、ちゃんと組織として成り立っているので文句すら言えない。
「そんなんで、ちゃんと機能するんですか?」
「するよ?っても、まあ……俺達だけしか、回せないだろうけどね。必要に応じて、指揮系統が何万通りに変化するし……ああいうのは、慣れてないと混乱を招くだけだから……」
総大将から各隊長。下手をすれば、一兵士が指揮を執る事もあるらしい。その場合は、先に大まかな作戦を立案して共有。最終的には、その場の判断で臨機応変に対応するとのこと。ぶっちゃけ、混乱せずに対応出来るかわからない代物だった。
「っていうか、仕事の話はこの辺で……肉を食おう……」
「あー、すいません。非番の日まで仕事の話をさせちゃって……」
「少しくらいなら別に構わないよ……」
そう言って、ヴァリュウさんは苦笑いして生肉を網の上に並べていく。レストランなのにテーブルの中央の蓋を開ければ、炭火焼き網が出て来るとは予想だにしていなかった。その穴に、炭を突っ込んで魔法で火を着ける。ある程度、火が回って来たら網を戻して肉を置いていく訳だ。
それに習って、俺もヴァリュウさんに続いて野菜を置いていく。
「凍真さんは、肉より“草”派ですか?」
「くさ?……ああ、野菜ですか。いえ、栄養が偏るかなぁって思いまして……」
「ラムを食べれば良いじゃないですか……」
「はあ?」
「竜族の言葉は真に受けない方が良いですよ。牛を肉。羊を野菜等と称する輩オンリーですから……」
なんのネタかと思いきや、ガチで本気な話だったとは思いもしなかった。てか、それ……何かで読んだ事のある台詞である。いや、聞いた事……だったかな?
何にせよ、リュウさんはドンドン網の上に肉を置いて行き……網の三分のニを茶色に染め上げた。野菜は、隅っこへと追いやられている。まあ、火力のある所には置いておけないので良いけど竜族って肉食だったんだなぁ……というのを染々と感じてしまった。
「そんなに肉が好きなら、生で行けば良いのに……」
「タレが、浸けられないじゃないですか……」
「えっと……」
「あー……まあまぁ、その辺で。アレに関しては、あまりツッコミは無しで頼む。じゃないと、馬鹿の努力が水の泡になるからな?」
「…………ああ、成る程……」
つまるところ、竜族に肉を生で食わせてはイケないらしい。それを、誰かが時間を掛けて説得……否、刷り込んだとのこと。例えば、焼き肉のタレは焼いた肉に浸けて食べるモノなんだ!とか。生肉を食べるのは、知性のない獣だけだとか。良く聞く、動物園等の肉食動物が生肉を食べると血の味を覚えて野生化するから……とかそういう理由からかと思っていたら、ただ単に際限なく食べ続けるからという理由だった。
「リュウはこう見えて、100メートル級のドラゴンだからな。ムッチャ、食べるんだよ……」
「100m……ドラゴンなんですか!?」
「あ、ああ。今は、《人化の法》で人間に変身しているだけだからな……」
そう聞いて、ついリュウさんを二度見してしまう。
しかし、100メートル級のドラゴンとは……一ヶ月の食費代は、いったいどれ程なのか疑問に思ったけれど……恐ろしくて訊けなかった。
きっと、ぅん十万とか……下手すれば、百万以上?
「因みに、一ヶ月の食費代は……」
「止めて!聞きたいけど、怖過ぎる!!」
両耳を塞ぎ、恐ろしい事になっているであろう食費代内容を聞こえない様にしてしまう。
しかし、リュウさん達に慈悲はなかった。
「ざっと、三千万程ですね……」
「さ、ん、ぜん、まん……食費代?」
予想を遥かに超えた、とんでもない金額だった。
余りにも、デカイ金額に再度リュウさんを二度見してしまう。様々な事が、頭を過って行って言葉に出来ない。
「あははは。信じてる!この子、信じてるよ!!」
「いや、高額な金額に驚いているだけでしょう?嘘ですからね?そんなに食べてたら、食事代で破産しますからね?」
冗談だったらしい。何はともあれ、あのとんでもない金額は単純計算で出したモノで実際はもっと少ないとのこと。因みに、どんな計算をしたかというと……数キロ(パック肉)約二千クレジットとしてそれを約五トンで掛け、更に一ヶ月分を掛け合わせた金額らしい。それで、一ヶ月に約三千万クレジットが食費に消えて行くという話となった訳だ。
でもそれは、毎日食べた場合の話で……大体は、数日に一度割合でなんとか一ヶ月約五百万程度に抑えているとのこと。それでも、五百万の食事代とか普通に洒落にならない話だったけれど。
「まぁまぁ。とりあえず、この焦げ始めた辺りから食べましょう!ほら、ヒョイヒョイっと……こちらをどうぞ!」
ヒョイヒョイと小皿に焼けた肉を取り分けて、グイグイ押し付けてくるリュウさん。多分、照れ隠しなんだろうけどちょっと話の変え方が強引である。
まあ、断る理由もないのでその小皿を受け取って取り分けられた肉を箸で摘まんで口に入れた。コリコリとした不思議な食感だったけれど、それがまた良い味を出していて普通にウマイ。もう一切れに箸を伸ばした所で、何故かその場にいる全員が俺をニヤニヤ顔で注目しているのに気が付いて顔を上げる。
えっと……何?
「美味しい?」
「え?ええ……美味しいですが……」
そんな風に尋ねられたら、今食べた肉がヤバイモノの様な気がして少し不安になってくる。
「そっかぁ……旨かったか……」
「え……え?……これ、何の肉ですか?」
「あ、聞いちゃう?それ、聞いちゃう?」
「あんまり、イジメるなよ苦労人。タネを明かすと、それとある生き物の金玉なんだよ(笑)」
「き、ん……睾丸ですか?でも、それくらいなら普通に売ってますよね?」
「まあ、珍しくもないよなぁ……普通は……」
「…………えっと、いや、本当に何なんですか!?」
「フフフ……これだよ。これ!」
そう言って、リュウさんがウィンドに表示したのは二足歩行する豚。ぶっちゃけると、モンスターのオーク?みたいな生き物。しかも、ガッシリマッチョでボディービルダーみたくポーズを決めてるモノが映し出されていた。
「ブーーーーッ!!」
それを見た瞬間、思わず俺は色々な意味を踏まえて噴き出していた。『コレの睾丸かぁ……』とか、『何てモノを食わせるんだ!?』とか、『何故、ボディービルダー!?』とか、『なんで、モンスターが筋肉モリモリのマッチョに!?』とか……様々な事をである。ツッコミ処満載だ。
「ゴホッ、ゴホッ……な、なんてモノ食わせるんですか!?」
『『あははははっ!!』』
咳き込んでいると、ドッと皆の笑い声がレストラン内に充満する。コイツ等、全員がグルか!?という思いが頭を過るが殺り終えられた手前、騙された俺に何も言う資格はない。てか、やり口が汚い!!
「これで君も、絶倫だ!!」
「やったね!モテモテになるよ!!」
「……これ、双夜さんにもやったんですか?」
『『……………………』』
ああ、やったんだな……。
そう、問うと……朗らかな雰囲気が一転、お通夜みたいな雰囲気になってしまった。それだけで、どんな阿鼻叫喚が行われたのか察しがついてしまう。
きっと、影からGが吹き出したのではないだろうか?
その雰囲気に、少し溜飲が下がったので……まあ、良しとする事にした。あれを喰らったなら、とても寛容出来ない地獄を体験しただろうから。
「……黒い悪魔ですか?」
「ひぃ……!」
「くっ……頭が……」
「思い出させるな!察しろ……」
「まあ、良いですけど。それにしても、ここにはモンスターの肉が普通に出回っているんですね……」
「そりゃ……一番、繁殖力が高くて殺しても罪悪感すら浮かばない存在だからな。オーク牧場とか……あ、ドラゴンステーキとか食べる?」
「共食いはしないよ!?」
「共食いになるんだ……」
ヴァリュウさんの提案に、即反応したのはリュウさん。
流石にドラゴンの肉には、食指が動かされないみたい。
というか、オーク牧場なんてモノがあるのか……。
本当に、ツッコミ処満載である。つか、ここの【組織】はいったい何処まで手を広げているのだろう?
話を聞けば聞く程、幅広い分野で大活躍している様に見受けられた。
「こんなの食べた事無かったのに……」
「そりゃ、師匠の所では食べれないだろうな(笑)」
「あそこでは、純和風に師匠がハマッてて日本食が中心にされているだろうからな……」
どうやら、師匠さんは和風贔屓らしい。
元日本人としては、こんな所にまで伝わっている日本食に少し誇らしくなった。日本食、スゲー……!!
「……そう言えば、オーク倒したら……レベルアップとかするんですか?」
「普通にするよ?」
ちょっとした冗談のつもりで訊いてみたら、素で返されてしまった。てか、レベルなんて概念ここにあるのか!?
言われて、つい『ステータス、オープン!』と強く念じてしまう。しかし、ステータス画面が頭の中で出て来る事も空中に投影される事もなかった。
「……………………」
「クックックッ……念じてる。念じてる(笑)」
「はっ!?」
無言になった事で、俺が何をしたのかが筒抜けになっていた様だ。その様子を見て、邪悪な笑みを浮かべる《神殺し》達。クソッ!即、素で返して来るから本当だと思ってしまった。どうやら、レベル云々は冗談だったらしい。
「やっぱり、そういうのって好きな方なんだね……」
「まあ、だからこそ勇者召喚や異世界転移が《旧・神族》共から娯楽として広められた……って事なんだろうけど……」
「……それも、“娯楽”だったんですか?」
「ああ。娯楽だったよ……今尚、神様や女神共が平行世界の日本から人員を異世界に飛ばし捲りだよ。少子化で、子供が少ないって言うのに……全く、アホかってんだ!!」
少子化……ああ、日本にはそんな問題もありましたね。
そんな日本から、若者を召喚とかで異世界へ飛ばしたんですか?あはっ。何となく、その先が見えた様な気がした。
「完全に若者が居なくなって……滅んじゃった日本もあるくらいだからね。もう、害悪としか言えないんだよね……」
やっぱり……日本、滅んじゃったのか……。
そんな事になるまで、若者を中心に勇者召喚や異世界転移を強行した神々は何を考えていたのやら。普通に考えれば、少子化の日本が滅ぶのもわかるだろうに……最悪である。
「事態に気が付いた時には、異世界に跳ばされた日本人が全滅していてどうにも出来なくて《断罪》待ちなんて状況が出来ちゃってたけど……アホ過ぎるよね……」
「全滅って……殺されてたんですか!?」
「全部が全部、『殺された』って訳じゃないんだけど……まあ、そんな処かな?」
元の世界に戻る方法が無くて、自害する者や異世界の風土病等に掛かって病死した者が多いらしい。まあ、それではおもしろくないからと、しばらくして神々は《加護》等を付けるなりして対策を取ったりしたとのこと。
「…………アレ?それじゃあ、《旧・神族》の思惑……遺伝子集めは、失敗だったんじゃないですか?」
「うん。だからこそ、物語世界への《転生》が今流行ってるんじゃないか……」
成る程、やはり異世界に人を送った程度では世界の根幹をブッ壊す事には成らなかったらしい。てか、既に未来が決まっている《物語》以外の世界で、崩壊に至るレベルの歪みを生み出すのは難易度が有頂天レベルだったみたい。
「それで、アニメや物語世界への《転生“モノ”》が選ばれた訳ですね……傍迷惑な……」
「ああ、そうなんだけどね……てかさ、現実で起きている話を“モノ”扱いとか……トーマの感覚は、他の踏み台転生者と似た様な感覚なのかな?」
「あー……失言でした。忘れて下さい……」
「はいはい、変なツッコミ入れなーい。例え話だろう?つか、そういう事にしておけよ……だがしかし、双夜の前ではその発言はするなよ?置いて行かれるぞ?」
ヤバッ……気を付けよう。
もう既に、置いて行かれた身であるが故に、これ以上の放置を避ける為には言動にも注意を払って行かなければならないみたいだ。
「じゃあ、次行ってみようか!」
そう言って、リュウさんが俺の目の前に置いた皿には、生きたままの芋虫?がウジャウジャと蠢いていた。
「ひぃ!?」
「ちょ、ちょ、ちょ……まだ、このレベルは早いって!」
「えー……インパクトあって、旨いモノと言えば《ロウム》でしょ?さあ、食うが良い!!」
リュウさんが、手にしていたフォークで芋虫?を突き刺した。瞬間、飛び散る青色の体液。
その上、『キィイィィ!』と鳴き声を上げる芋虫。
それだけで、俺の生理的嫌悪感が天限突破した。
「ムリムリムリムリ!!」
慌てて、その場から逃げ出した俺はその辺にいた人の後ろへと回り込む。髪の長い、見た目男性の様な女性。
パッと見た感じは、髪がボサボサで前掛けの様な服を着た人。下は、ハーフ系のズボンだったけれど前掛け状の服が印象的だった。ぶっちゃけ、その人が女性だとわかったのはそのエロい服のお陰だ。背中……というか、脇腹までが普通に見えるガチ前掛け状のエロイ服を着ている女性が俺の目の前にいた。横から見れば、乳房の一部が見えている状態で……羞恥心の欠片もない人が着る様な衣服を身に着けて。
「……まだ、口が付いてる……」
そう、静かに言ってムンズと蠢いている芋虫?の口を摘まみブチッと千切り取る。そして、そのフォークに突き刺さった芋虫?をそのままハムッと口に入れた。
『『『あ゛!生で、行った!?』』』
周囲の反応から、それが生で食べるモノでは無い事が判明したのだが……その女性は、周囲の驚きを無視したままハムハムと芋虫?を噛み砕いて飲み込んでしまう。そして、恍惚な表情を浮かべて……直後パタリと倒れてしまった。
「カルヲ!?おい、カルヲ……ヤバイ、毒にヤられたらしい……ちょ、救護班っ!救護班を頼む!!」
付き添いの男性が、慌ててその人に駆け寄り周囲に大声で助けを求める。ハッ!とした周囲の奴等も、慌てて救護班と呼ばれる治療部隊の手配を始めた。
……………………
……………………
……………………。
一段落着いて、俺達はまだ事のあったレストランで食事をしていた。
「ふぅ……まさか、生で食べる奴がいるとはな……」
「しかも、『カルヲ』……病弱なのに、度胸だけは人一倍のマゾだからな……あ、因みにコテハンは《混血》な?」
「で、駆け寄ってた男が《大樹》だった訳だが……絶対、この後『エロイお仕置き』してるんだろうな……」
「アイツ、サディストだから……」
まさかの変態カップルだったとは……驚愕の事実である。
そして、倒れた『病弱な』彼女に『お仕置き』と称したエロイ事を強要するサディストらしい。
「しかも、アレ食った理由。倒れる直前の恍惚な表情からして……『マゾだから』なんだろうな……」
「え!?そんな理由!?」
『『『アイツなら、ヤりかねない……』』』
マジか……。
カルヲさんは、駆け付けた救護班の人達に連れられて病院へと搬送されて行った。運ばれていく彼女の表情は、心なしか嬉しそうに見えたのは……そういう理由からだったのだろう。当然、駆け寄っていた《大樹》も一緒に。
レストランの方は……ホンの少し、騒ぎになったけれど大きな問題や影響もなく《苦労人の集い》は続けられていた。
それにしても、本来なら高温で焼いて毒を飛ばしてから食べる芋虫?(ロウム)をそのまま食べるなんて有り得ないらしい。それをカルヲさんは、アッサリ逝った訳だけど……その行動のおかげで、芋虫?は危険物扱いとなり一時検査に送られる事になった。それだけは、とても感謝している。
本来ならば、食中毒患者を出すと大騒ぎになりレストランは営業中止になったりするはずなんだけど……ここでは営業中止になったりはしないとリュウさんは言っていた。
そもそも原因もわかっているから、それ程お店に迷惑が掛かる事は無いとのこと。日本では、考えられない話だ。
「…………何もかも、常識外れなんですね……」
「そう言えば、凍真……お酒は?」
「嗜む程度には……」
『『飲まないよ!?』』
「貴方達には、聞いていません!!」
「まったく……ハイエナ共め……」
「人のお金だから、楽しく飲めるんでしょうね……」
「……………………」
成る程……『苦労人』以外の掲示板住人がここにいる理由がわかった様な気がした。だが、『そういう席』初心者の俺がいたからかほとんどの《神殺し》達はほろ酔い程度でお酒は切り上げて適当な頃合いに解散。
本来なら、グデングデンに潰れた《神殺し》達が出来上がって、その後も問題行動を引き起こすらしいのだけれど。
ヴァリュウさんは、何時もよりはマシな『お会計』と《後始末》が無い事に少し嬉しそうだった。
「では、そろそろ我々も解散しましょうか……」
「うぅ……酷い目に遭った……」
数時間に及ぶ、ゲテモノ?焼き肉に頭を抱えさせられた俺は漸く解放されるらしい。
それにしても、本当に酷いモノだった。
オークの肉に始まって、底辺は芋虫?(ゲテモノ)から高級食材のドラゴン肉まで食べさせられた俺は辟易なグロッキー状態である。
「でも、高級食材は美味しかったでしょう?」
「あー……まあ、それは否定しませんが……」
それでも、高級食材の合間にチョクチョク挟まれるゲテモノは俺の生理的嫌悪感を刺激しまくって精神をガリガリ削ってくれた。そりゃ、美味しかったは美味しかったけれど……プラスマイナス0で、あまりお得感は無いと言わざるを得ない。もし、次があるとしたらゲテモノは無しで普通の食材のみにしてくれた方が嬉しい……とその旨を伝えた。
「だが、断る!!」
しかし、リュウさんは即答でバッサリ俺の願いを切り捨てる。てか、これ……アレだよなぁ?
「……ネタは、良いですから……」
「流石、本場の子にはわかるんだね。うんうん……出来れば、オリジナルのネタで盛り上がれれば良いのだけれど……凍真くん、ウチが創作したアニメとか見てないでしょう?」
「ふぇ!?そんなモノが、あるんですか!?」
「普通に、放映されているよ?でも、彼処にテレビは無いだろうけど……コレで、見られるんだよ」
そう言って、リュウさんは手首に付けている支給品のオーバーテクノロジー産のPCを指差す。それは、俺も所持しているモノだった。つか、流石に支給品でそんなモノを見たりは出来ないだろう。
「いやいや、別に構わないと思うよ?それに、【始まりの魔法使い】も普通に娯楽はOKの人だから……問題にされたりはしないと思うけど……」
「そうなんですか?」
「うん。もし、確認したいなら掲示板で聞けば良いよ。コテハン《兵器》が、【始まりの魔法使い】だから……」
「あ、やっぱり……“そう”なんですね……」
フと、思い返される掲示板でのやり取り。
その中で、色々ハッチャケている人がいたけど……あれが、【始まりの魔法使い】と同一の人だとは思わなかった。
だって、余りにも俺が抱いているイメージに合わなかったから、他にも《兵器》と称される人が居るんだろうと勝手に思っていたけれど……当人だったらしい。
「……あの人って、本当にDTなんですか?」
「「うん」」
「ほら、アイツ……あの存在感を消せないんだよね。昔は、それ処じゃなかったから気にもならなかったみたいだけど……今は、余裕があるから余計に……ねぇ?」
あの存在感の為に、恋人が出来ても長続きせず……てか、出来ても最短30分。最長、一時間程度で別れるハメになるらしい。それにより、【組織】内の女性は全滅。
“外”に出ようにも、世界の“内側”に入ろうモノなら世界が潰れて消滅するので本体での女性漁りは出来ない……と涙無くして語れない理由がヴァリュウさんの口から出てくる。
初めて会った時は、物凄い人なんだろうなぁ……と思わずにはいられなかったけれど、今は哀愁漂う寂しい独り身の人というイメージに成りつつあった。
「俺の《巻き添え》も大概だなと思ってましたがそれ以上が割りと身近にいたとは……」
下手を打てば、周囲を巻き込んでの大爆発に成りかねない性質な訳だけど、そもそも他者と関わる事が出来ない【始まりの魔法使い】はもっと独りだった。
「それが、《旧・神族(真)》によって魔改造された結果となれば……その技術を再現しようとする《旧・神族(偽)》達に対するアイツの対応もわからないでもない……」
「?《旧・神族》に魔改造されたんですか?」
「あ?ああ……そうか、凍真は知らないんだったな。そうじゃなくて、《旧・神族》には本物と偽物の二種類があるんだよ。本物は、現状いないので偽物が割を効かせている訳なんだが……」
「本物?」
「現在、俺達と敵対関係にある《旧・神族》は当時《神》に使えていた権力者共の成の果て……即ち、《偽物》の神々だ。だが、【始まりの魔法使い】を生み出したのは旧創世世界に実在した《神族》な訳よ。そんで、その頂点に《神》がいたんだが……ソイツは、【始まりの魔法使い】がサックリ殺しちゃったんで《神族》が《旧・神族》を纏めなければならないんだけど……《旧・神族(偽)》共の罠にハマッて、《堕ち神》化して……世界の何処かへ散り散りに……」
「おぉう……」
欲にまみれた《偽物》が、《神族》を《堕落》させ拡散。
数多な世界で、《堕ち神》が《嘆き》と呼ばれる行為……即ち、滅びの能力を解放したくさんの世界を消滅させた結果が、《神殺し》誕生の切っ掛けなんだそうだ。
てか、何やらかしちゃってんの!?
そして、現在は《旧・神族》共と《堕ち神》と成った神族に対して《神殺し》は警戒しているという。
そこへ更なる問題を持って来て、自分達への監視の目を緩めんと彼等が行ったのが完結済み物語世界への【転生者送り込み事件】である。聞けば聞く程、飽きれ果て何も言えなくなってしまう稚拙なレベルの存在だった。
つか、本当に何やらかしちゃってんの!?
「何はともあれ、色々言いたい事はあるだろうけど……【始まりの魔法使い】がDTなのは真実だ。そして、《旧・神族(偽)》が自分達の都合の良いように世界を改編しようとしているのも事実だ……」
「【始まりの魔法使い】のDTと《旧・神族》の話が同レベル!?どうでも良い話が、重要な事と共にもたらされた俺のこのやるせない気持ちはどうすれば!?それと、ヴァリュウさん……色々溜まっているんですね。ストレスとか」
「……君、もしかして……そのストレス発散の『生け贄』にされた自覚あるの?」
「ゲテモノ料理ですよね?」
「「自覚あったんだ……」」
リュウさんも、愁さんも中々酷いです。
今回のオフ会が、顔合わせとそういうモノだというのは途中から勘付いていたりはした。だけど、周囲の方々やリュウさんの対応を見る限り相当溜め込んでいるのは見て取れたので、弄られる程度で何とか成るならと敢えて弄られていた訳だ。まあ、こっちが気を使っていたが故に他の方々も程々で済ましてくれたみたいだけど。
「成る程な……アイツ等にもバレるレベルだった訳か……」
「巧く隠してるつもりだったんですが……バレバレだったとは……しかし、だったら普段から今日みたいにしてくれれば私達も大分助かるのですけどね……」
「「それは、高望み過ぎでしょう……」」
「デスヨネー……」
そのやり取りだけで、彼等が普段どれだけ苦労しているのかが伺えた。
「じゃあ、我々は帰りますね?ああ、そうそう……今日は、眠れない夜になるでしょうから御愁傷様と言っておきますね?」
「「御愁傷様……」」
「なんで!?」
「オークの睾丸食べたでしょう?あれ、かなり強力な精力増強薬なんですよー……初めての人なら、一晩は鎮まらないかと……」
「なっ!?」
「なので、御愁傷様です」
「お疲れ様ーっした!!」
「えっと、頑張って?」
「ナニを!?」
それだけ告げて、ヴァリュウさん達は逃げ出して行く。
四方八方へと散っていく後ろ姿を見送り、引っ込みの付かない手を正気に戻るまで伸ばし続けた。
結局の所、俺は最後まで彼等に玩具にされた感じのまま師匠のいる隔離訓練場へ帰り宛がわれている自室に戻る。
……そして、その夜。
「マジで、眠れねぇ……」
その上、身体の一部がとっても元気だった。
それはもう、元気過ぎで痛い程に。ちょっと、鎮めてみようと何回かしてみたけど……一向に治まる気配は無かった。
「オークの睾丸……恐ろしいなぁ……」
「なんえ?オークの睾丸なんて食べたんおすか?」
一人モンモンとしている所へ、何故かバスローブ姿の師匠さんが俺の部屋に入って来た。
「はあ……?」
その姿に一瞬、頭が真っ白に成り掛けたけど……すぐに正気に戻り、慌てて師匠さんから視線を反らす。
ぶっちゃけ、『今』はそんな姿で傍に現れないで欲しかった。バスローブ一枚でなんて、今の俺には耐えられそうにもない。このままでは、うっかり襲って……襲って……襲えたら良いなぁ。俺の中のどこかにあった、冷静な部分が師匠さんに襲い掛かっても普通に返り討ちにされるイメージを頭に上げてくる。
「あ、うん。全然、大丈夫そうだ……」
「どうしたん?」
「あ、いえ……えっと、こんな時間に師匠さんは何をしにここに来たんですか?」
「トーマが、“オークの睾丸”を食べたって聞いてな……そやったら、今晩は辛いやろって思って手伝いに来たんえ」
「はあ?手伝いって……」
「もちろん、セ○クスやな!」
「はあああぁぁぁ!?」
とんでもない提案に、俺は混乱の極みに至った。
「え!?ちょ、待って下さい!なんで、銀河さんがいる師匠が俺の手伝いなんてするんですか!?そいうのって、恋人か風俗の御姉さんがやる事でしょう!?」
「へぇ、そうなんどすけど……大丈夫。銀河はんは、今晩は仕事でここに居りまへんし……バレへんかったら、何も問題なんてありはしまへんって……」
「いやいやいやいや、問題ありありでしょう!?」
「ふふふ。ウチは、押し問答があまり好きやおまへん。せやから、問答無用でいただきますよって覚悟しぃや!?」
「ふああぁぁあぁぁぁーーーーー!?」
良くわからないままに、俺は二度目のDTを師匠さんに食われるのだった。
……はぁ。どうしてこうなった?
何となく、すべてはリュウさん達の掌の上だった気がする。全く、証拠なんてなかったけれど俺には確信めいた勘があった。
とりあえず、掲示板で(???)と書かれていた奴等の紹介回でした!!新に出て来たのは、『苦労人』①②と『混血』と『大樹』です(笑)。リュウは、作者が作ったキャラの中では銀河やポアンに匹敵する古参ですね。
初期の頃に生まれた竜&龍族です。何に影響されたのかというと、ドラゴンボール。まあ、同一では意味がないからとオリジナリティを求めて竜&龍族方面に突っ走った話です。
龍族の王子様(銀河)が、魔王に単身挑んで負けるってお話。
何故、負けにしたのかは不明ですが……負けて殺されるんですよね(笑)。
『大樹』や『混血』は、中期のキャラです。
確か、『破壊神』にこっていた頃のキャラでしたか……。
『大樹』は人間だったけれど、『混血』は神族の父と魔族の母の間に生まれた忌み子だったかな?
物語は別で、『大樹』の方は異世界を股に掛ける異世界警察……境界の守護者の元になったお話の登場人物です。
『混血』はそのままで、《神殺し》の元になったお話の登場人物。まあ、《堕ち神》を狩る存在を『破壊神』として描いたモノだったんですけど(笑)。
食べ物ネタは、今後も続けて行けたら良いなぁ……程度のモノなので気にしないで。他のネット小説読んでて、モンスターを食べるシーンがあったからそれに倣ったモノ。
まあ、ウッドロー(大樹のもう一人の弟)の話ではモンスターを御飯だ!と言ってたから、こちらの物語でも良く使われたネタだし(笑)。
凍真のDTは、狩られるモノなんだよ(笑)。
誤字・方言あれば報告をお願いします。
m(_ _)m
感想もあれば、お願いします!
いつも読んでくれる方々に感謝を……。