絶望を払う者~狂気の神々vs愉快で〇〇な仲間達~ 作:葉月華杏
神崎
飛んでくる沢山の刃の内、確実に刺さるであろう刃だけを厳選して『ダーティー・ニーズ』で弾き払って行く。
厨二病ギルガメッシュが出現してから、俺達はその無尽蔵な攻撃から身を護っていた。因みに俺は、近くにいた鉄を護っていて翼とすずかは護衛の《神殺し》が担当。
師匠は、防御フィールドを展開してマッタリとお茶をしばいている。つーか、茶しばいてないであの厨二病をなんとかしてくださいよぉ!?
「ほぉ。これを凌ぐか……ならば、真の王の武器を見せてやろう……」
セイバー級の剣術を使う俺達に、焦りを覚えたのか厨二病がゲート・オブ・バビロンに手を突っ込んで乖離剣を持ち出して来る。
つーか、この世界Fateの宝具が使えるのかよ!?
赤黒い棒状で、柄の部分が金ぴかな乖離剣が厨二病の手に握られる。乖離剣は、軋みを上げながら回転を始めていた。
まさか、ソード・アート・オンラインの世界で対界用宝具の産声を聞くはめになろうとは……このままでは、師匠以外の全員が大怪我をするのは確定だろう。何とか、師匠を本気にして厨二病を止めて貰うしかない。
「師匠!あれ、ヤバいんでこっちに防御フィールドを!」
「先日の件は超謝るんで、こちらにも防御フィールドプリーズっ!!」
「……………………」
「滅びろっ!雑種っ!!エヌマ……」
「《ルール・ブレイカー》……」(棒)
「……エリッシュッ!!!!!」
厨二病ギルガメッシュが、乖離剣(エア)を振り切るが乖離剣は発動しなかった。どうやら、師匠が《ルール・ブレイカー》で何かをしたらしい。
・・・・・・。
周囲が、微妙な雰囲気となり全員が沈黙した。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「き、貴様!何をしたぁ!?」
エヌマ・エリシュをキャンセルされた事に、意味がわからなかったのか厨二病ギルガメッシュが騒ぎだした。
うん。わかる!わかるよぉ!その理不尽!!
ギルガメッシュ最大の乖離剣を、ワケわからない方法でキャンセルされたんだもん。その戸惑いと苛立ち……そして、その恐怖は計り知れないよね!
でも、レコンの言葉からもわかるように調子にノリにノリノリだった君自身がイケない。きっと、他の転生者と俺達を同列に考えて迎撃しようとしたんだろうけど……残念ながら全く違う系統の存在なんだ。
だから、喚き散らしている暇があるのならゲート・オブ・バビロンでドンドン穿たないとホラ……師匠が、一気に間合いを詰めて下から掬い上げる様に顎を撃ち抜いていく。
「お?」
だが、厨二病ギルガメッシュはしぶとかった。
師匠に顎を撃ち抜かれたというのに、まだ意識が残っているらしい。右手を少し上げて、最後の力でゲート・オブ・バビロンから一本の剣を射出する。しかし、その最後の攻撃を手を払う程度の動きで回避した師匠は厨二病ギルガメッシュに追撃を加えて撃沈した。
憐れ、ギルガメッシュ!そして、ザマァ!!
ギルガメッシュで有る限り、師匠には勝てないのだ。
「グハァッ!!」
ある事に気が付き、ブーメランと化した自分の言葉に精神ダメージを負う。ガックリと、肩を落として少し凹んだ。
ギルガメッシュでは、師匠に勝てない!?……とか。
自分で言って、自分で傷付くなんて俺もまだまだである。
とりあえず、ブーメランとなったそれは横に置いといて、今は、厨二病ギルガメッシュの処遇についてレコンに話を聞いてみよう。確認したい事もあるし、とある名前で呼び掛けてみた。
「おーい、長田慎一ぃ……」
「………え!?」
「あ、反応した……」
「な、なんで……僕の本名を……!?」
「とりあえず、それの処遇についてどうするのかを聞いても良いか?もし、そっちで無力化出来ないならこっちでやるけど。……ああ。それと、俺がその厨二病ではないって事を謝罪してくれるかな?」
「あ……ご、ごめんなさい!余りにも、似ていたんで……」
レコンには、俺があの厨二病と同一人物では無い事を謝罪させて今後の事を話し合う。だが、そうこうしている内に師匠は……厨二病ギルガメッシュを《ルール・ブレイカー》でバッサリ斬り捨てて神様特典を抽出。再度、《ルール・ブレイカー》を振るい厨二病ギルガメッシュの《ゲート・オブ・バビロン》を破壊したモヨウ。
何故、それがわかったかというと……師匠が神様特典を斬り捨てた瞬間、厨二病ギルガメッシュを中心に様々な宝具がブチ撒けられたからである。
《ゲート・オブ・バビロン》壊すと、あんな事になるんだ……まるで、アイテムボックスみたいだった。
とりあえず、ブチ撒けられた宝具は俺のゲート・オブ・バビロンに回収していく。
べ、別に盗んでる訳じゃ無いからね!?聖剣や魔剣の類いを、その辺に置いておく訳にはいかないだけだからね!!
何はともあれ、関係ない者に奪われたりする事なく厨二病ギルガメッシュがブチ撒けた宝具は全て回収しきった。
「フフフ……漸く、俺の時代が戻ってきたぜ……」
とは言え、師匠にいただいた《ダーティー・ニーズ》と比べるとエヌマ・エリシュを抜いて全体的に劣る(宝具)感じが滲み出ている。
「…………エアもか……」
攻撃力にしても、圧倒的に《ダーティー・ニーズ》の方が優れているとわかってしまう。比べて見れば、その差は歴然としている。まさか、エヌマ・エリシュを超える武装が存在するなんて思わなかった。
結局俺は、エヌマ・エリシュを《ゲート・オブ・バビロン》に仕舞って《ダーティー・ニーズ》を腰に挿しておく。
因みに、厨二病ギルガメッシュの持ち物に《エクスカリバー》は無かった。まあ、あれは神様のオマケだったので仕方がない事ではある。それに、この世界が本当にアルヴヘイムの世界であるならば……探せば、『ヨツンヘイム』辺りで《エクスキャリバー》は発見出来るだろう。
どちらにしろ、俺には必要ないモノではあるが……アイテムコレクターとしては、回収しておきたいと考えてしまう。
「兎も角、俺の知識で君が知りたいであろう情報のすり合わせをしよう……協力してくれるか?」
「はあ……良いですけど……?」
閑話休題。
その後で、俺はレコンと知識と情報のすり合わせを行った。その結論だけを答えよう。
レコン達は、この世界に来た当初『アルヴヘイムオンライン』というゲームがデスゲームと化したと考えていたらしい。SAOという、前例があった為に出てしまった結論だが……今尚、この世界をゲームだと考えているという彼等は中々に危険な状況と言わざるを得ない。
それ故に、世界樹を攻略してさえしまえば元の現実に帰れると信じていた彼等は、色々と禍根はあったけれど一時的に過去の因縁を飲み込んで、全ての種族で協力して共に世界樹攻略を目指し『アルン』まで行ったそうだ。
本当なら、一種族……個人等で一気に世界樹の天辺に行く予定だったらしいのだが、解放されていたはずの『妖精の羽』に飛行制限時間が再設定されていて出来なかったらしい。
しかも、追加されたはずのソードスキルも使えなくなり……幾つかのスキルまで使用不可能となったというのだから最悪だ。SAO&ALO現実化の影響は、戦闘だけでなくかなり広い範囲で出たと考えるべきだろう。
それらの情報から、俺はレコン達がいた時間軸を特定する。SAOクリア後で、ALOで須郷撃破後と最初は考えたが……エクスキャリバーが、とある人物の手に渡ったとレコンは言っていた。つまり、キリトが聖剣エクスキャリバーをGETした後の時間軸だと特定出来る。
更に、細かく特定したかったので、俺は絶剣・ユウキの話を聞いてみた。しかし、レコンは首を傾げるだけで絶剣・ユウキについては知らなかった様だ。
即ち、エクスキャリバーをキリトがGETしてまだアインクラッドの20階層より上が解放されていない辺りだろうと当たりを付けた。
その上で、俺はこの世界の現実をレコンに語る。
この世界は、ALOとSAOの世界観を元に生まれた異世界で現実であるという事をだ。これには、レコンがかなり驚いていた。だが、転生者襲撃の際にたくさんの仲間が血を流して死に『もしかしたら……』と、一瞬それが脳裏を過ったりはしたが、現実を直視するのを避けてその考えに気が付かなかった事にしたらしい。
ついでに、俺はレコンに幾つかの情報を教えた。
それは、神様転生者と神様特典についてである。
その際にレコンが、俺達も転生者なのか?と聞いてきたがそれだけは否定しておく。流石に、アレと同列視されたくは無かったからだ。後は、捕捉説明としてインターネットの創作小説等の話をして、読んだ事があるというレコンに転生者の本質を教える。
「つまり、踏み台的存在なんですね!?」
「そうだ。奴等は、何かしらの物語で語られていた主人公達と同等か……それ以上の能力を持っていると思われる」
「そんなぁ……」
頭を抱えるレコンを尻目に、俺は俺の人生を振り返る。
厨二病を発症し、厨二病ギルガメッシュと似たような事をしていた訳だが……俺は、師匠に出会って改心した。
「とりあえず、生き残っている人物のリストとか無いか?」
「うぅっ……あ、ありますけど……?」
「じゃあ、後で用意してくれ」
そう言いつつ、俺達は領主の館に足を運んでいた。
レコンの話では、ここにALOの女性陣が囲われているらしい。もちろん、厨二病ギルガメッシュが酒池肉林を楽しむ為に暴力と力で恐怖制支配をしていた訳だ。
何はともあれ、厨二病ギルガメッシュは地に落ちた。
最早、奴には何も出来はしない。それに、既に師匠が無害化しちゃった訳だし……何より、俺達がいる状況でこれ以上悪くなる未来が思い浮かばない。そりゃ、俺達がいるからって何でもハッピーエンドに出来る訳ではないけれど、最悪だけは回避出来ると確信していた。
館の扉を開けて、中に入り……俺は、直ぐに口元を手で覆いレコンを連れて外に飛び出す。
ヤバい!ムッチャ、ヤバい事になってる!!
「……へ?え?な、なんなんですか!?」
「レコン。マスクをして、館の中の空気を出来るだけ吸わずに館中の窓や扉を開けて回れるか!?」
「へ?……はあ……???」
「ああ、わからないか。そりゃそうだよな。……ぶっちゃけると、領主の館は媚薬と精力増強薬が充満しているんだ!」
「そ、そ、そ、そんな……り、リーファちゃああぁぁん!!」
「あ、コラッ!レコンっ!!……あのバカっ!」
レコンは、俺の制止を振り切りそのまま館の中へと突入して行った。そのおバカな背中を見送り、俺は館の周りをウロウロとする。ゲームと違って、禁止コードみたいなモノは無いみたいなので館の中の気配を伺い人がいない事を確認して……はい、ドーン!!
拳を握らずに、掌底で壁を撃ち抜く。
とりあえず、館の中の空気を入れ替えたいだけなので壁に穴を開けて設置型の初級風魔法で風を送り込む。
結果、入り口周辺がヤバい事になったらしい(笑)。
俺は、その後も壁に穴を開けて設置型の初級風魔法をセットしていく。一階が終わったら、適当にジャンプして……たぶん、二階?と思われる辺りの壁を掴んで穴を開けて風を送り込む作業を繰り返した。
とりあえず、部屋?と廊下?は全部設置出来たと思われる。それから、しばらく時間を開けて中の空気が薄まった頃を見計らい館の中に入っていく。
当然、壁を抜いての侵入だ。二階奥の廊下に入り込む。
次に、廊下側の窓を片っ端から開けて中央付近の窓に設置型の初級風魔法で館内から外へと向かう様に設置した。
廊下端の窓には、内側に向かって風が吹き込む様に初級風魔法を設置する。これで、風の流れが出来上がったはずだ。中央に向かって風は流れ、中央の窓から外に排出される様にしてみた。その上で、風上に位置する場所を陣取り未だ媚薬?精力?増強香が充満しているであろう部屋の扉を開ける。一つ目は、空振りだった。中を覗いて見たけど、香枦も無ければ誰一人居ない部屋があるだけだ。
「フム……ハズレか……」
とは言え、桃源郷がこの階だと誰が言った?
違うかも知れないし、当たっているかも知れない。
そこら辺は、完全に運任せだった。
違ったら、一階に降りれば良いだけだしな!
シルフ領・領主の館は、二階建ての大きな屋敷である。
外見は、白色の館で屋根は翡翠色。シルフ領の外観と、ほどんど変わらない調和した色合いであった。
そこに、容赦なく穴を開ける鬼畜な俺(笑)。
後に、その白色の壁に茶色の板が穴を塞ぐ為に貼り付けられるのだが……調和の取れた外観を、全力でブチ壊すソレにスイルベーン領主・サクヤが頭を抱える事になるのだが、それは別のお話である。←正に、鬼畜の所業(笑)。
今は、最善の方法で最善の行動をしている俺だが……その未来を考えない訳では無かった。つーか、むしろ積極的にソレをやっていると言ってもいい。サクヤやスイルベーンに恨みは無いが……とりあえず、ぶっ飛べ!!
扉を蹴り飛ばし、即座に風上へ。しかし、その部屋からは空気の流れが無かった。仕方がないので、廊下側から壁に穴を開けて設置型の初級風魔法で風を送り込む。
はてさて、どんなオブジェクトで穴を塞いでやろうかな?
厨二病ギルガメッシュみたく、成金仕様できらびやかな装飾等で飾り付けてやろうか?もしくは、貧乏に見えるように木目のある板で?ああ、新聞とかの手もあるが……破れたら意味が無い。茶色の石膏等が良いのだが、石膏自体が手に入らない異世界だからなぁ……手の込んだ嫌がらせは出来そうになかった。
「いや、師匠なら持っているはず!!」
そして、理由を話せば嬉々として協力してくれるだろう。
あの人は、悪戯の為なら倫理や道徳を簡単に捨て去る事があるから……ヤりがいはあるんだよ。
「と、と。次は、あっちからかぁ……」
吹き抜けの玄関がある広間を抜けて、俺は未だ開けていない部屋がある方へと移動する。その奥側から、同じ作業を開始した。扉を開けて、空気の流れが無かったら壁に穴を開ける。開けた穴に、設置型の初級風魔法を配置して中に風を送り込む。
「お?」
その部屋の中を確認して、漸く当たりを引いた事を俺は知る。因みに、レコンは部屋に辿り着いては居なかった。
あるぇ?どっかで、力尽きたか?
何はともあれ、レコンのバカは後で探すとして俺はこの桃源郷を堪n……ゾワッ!……いや、止めておこう。
下手な事をすると、変なフラグが立ちそうな予感がするので、ヘタレな俺は翼かすずかを呼びに戻る事にした。
別に、強化した翼の筋力で殴られるのが怖いって訳じゃねぇからな!?スイルベーンに着く前、翼が大岩を持ち上げたり、拳で殴り砕いていたからって訳じゃないからな!?
び、ビビってねーし!ビビってねぇからなっ!?
兎に角、俺は師匠達がいるであろうスイルベーンの《風の塔》前……領主の館がある所から反対側付近へと移動した。
思った通り、師匠達は未だ《風の塔》前で厨二病ギルガメッシュと戯れている。いや、戯れているっていうか……真っ白に燃え尽きた厨二病ギルガメッシュを邪悪な笑顔で弄んでいるように見えた。
「嫌だなぁ……あの輪に加わりたくないなぁ……」
間違いなく、師匠と共に悪ノリしてしまいそうだ。
つーか、翼とすずかにお願いしてサクヤ達の救出をするのと同時に俺は彼女達をサクヤ達の元へ送り届けなければならない。クソォ!面白そうなのにぃ!!
「翼、すずか。悪いんだけど、こっちを手伝ってくれないか?ちょっと、手が出せない状況が……」
「何?神崎でも、手が出せない状況だと!?」
「ああ、師匠は要らないです。師匠じゃあ、幼児後退化するだけですから……」
「……………………」
「へえ……それは、十分堪能したから呼びに来たのね?」
「へ?いやいや、そんな訳ないだろう!?」
「これだけ、時間が掛かったんですもの……余程、お楽しみだったのね?」
「ちょ、違っ!!」
「問答無用!!」
理不尽にも、勘違いした翼の振り上げられた拳が俺の顔面に吸い込まれる様に叩き付けられた。なんでさぁ!?
その後、気を失った俺が目覚めた時にはサクヤ達の救出は終わっていた。その際に、勘違いに気が付いた翼に謝罪されたけれど……アレに気が付いたのはすずかだったらしい。
館の中に吹き込む風や、その流方からの推測ではなく館内に残っていた微量の香に気が付いたという事だった。
すずかの吸血鬼設定が、そこで発揮される事になろうとは……つーか、アレの存在を知っているとかどこまで博識なんですか!?まさか、吸血鬼知識なんですか!?
すずか、恐ろしい子。
「まあ、誤解が解けたなら良いが……せめて、殴る前に話は聞いて欲しいかな?」
「うん……ごめんなさい……」
反省している様なので、これ以上は掘り下げない様にして俺はすずかや師匠の使い魔(救出に当たり呼び出された女性達)にサクヤ達の状態を聞く。
結論。薬品を注射された訳ではないので、体内に残って後遺症になる事はないだろうという事だった。これが、薬品だった場合は色々考える必要があったらしいのだが……お香だったのが幸いしたらしい。
「つーか、ただ単に厨二病が注射器を扱えなかっただけじゃないのか?」
「かもしれないわね……所詮、厨二病だし……」
「……つーか、そんな技術があったら厨二病でも引きこもりでも無い気がするんだが……」
「医療系の就職が可能に?ちょっと、御都合主義が入って無いかしら?」
「…………だな。扱えるからって、就職出来る訳ではないか。それなら、免許なんて必要ないもんなぁ……」
報告も聞けたし、自己完結したのでレコンを探しに向かう。使い魔さん達の報告では、男は見当たらなかったらしいので、領主の館に入って一階の部屋をくまなく探してみる。すると、レコンを食堂で見付けた。
うつ伏せで、グッタリと倒れているバカが時折ピクピクと反応する。覗き込むと、赤いのに青白い顔色で倒れていた。泡を吹いているので、結構危険な状態だと判断出来る。
「器用だな」
適当なツッコミを入れて、泡吹いてるレコンの両足を掴み素早く引き摺り外に出る。二・三回程、レコンの頭が段差で打ち付けられた様な気もしたけど今更なので気にしない。一人、勝手に走り出したレコンの自業自得だ。
その後、師匠の使い魔にレコンを診て貰い、数時間安静にしておけば問題ないと太鼓判を押して貰った。
次に、《風の塔》の麓に行くと顔を両手で覆って天を扇いでいる厨二病を見掛ける。段々、煤けている様子から精神的ダメージが許容範囲を超えたと判断。
何を話しているかは不明だけど、師匠の事だから裏話的な精神攻撃だろうと当たりを付けて近付かない様にする。
下手に近付くと、こちらにも飛爆する可能性有るからな。
厨二病を尻目に、俺は師匠達を避けてサクヤ達が収容された《風の塔》に向かう。
しかし、中には入れて貰えなかった。
今はまだ、会話が出来る程に彼女達が回復していないんだそうだ。中には、栄養不全な人もいるらしいので食べるモノを求められる。とは言え、この状況下の中で食料を調達出来る者がいるとは思えない。元々の住人である、NPCもいないみたいだし……何より、お金すら持っていなかった。
「ーーーという訳で、狩に行きたいと思います!」
「そうね。秘密基地の食料だって、無限じゃないものね」
「時間停止状態で、大量に入るアイテムボックス的な倉庫はあるらしいけどな!しかも、容量が最大の!!」
「それ、無限じゃ無いでしょう!?」
「いや、中覗かせて貰ったら宇宙が見えた……」
「どんな超技術よ!?それとも、魔法!?」
「わからないよ」
「っていうか、それの容量が最大ですって!?どれくらい、入っているのよ!?」
「惑星一つ分程?」
「……………………」
「ただ、師匠の商売道具も入っているらしい……」
「商売道具って、何よ……」
「魔法薬の材料だよ。それが、全体の四分の一を締めているということだ。その他にも、武器とか色々あるらしいけど……食料は、全体の半分に相当する」
「だったら、大丈夫そうね?」
「あー、それでも狩は必要だ」
「何故かしら?」
「俺達は、ここにずっと駐留する訳じゃないからだよ」
「あ、そうね。一先ず、世界樹を目指すんだったわね……」
そういう事である。
ずっと、ここに留まる訳ではない以上……彼等が、自分達で生活していける様に衣食住の内『食』だけでも整えておく必要がある。これまでは、厨二病が食料を調達してSAOのキャラ達が調理。厨二病が、食べた後の残りを皆で分けあっていたらしい。
「何て言うか……あの厨二病が、王様みたく聞こえたわ……」
「実際、王様気分だったんだろう?だからこそ、領主の館で女を囲っていた訳だし……」
「ああ……神崎大好きハーレムね……」
「俺だけじゃねぇーよ!?」
全く。なんで、翼達は人の黒歴史を掘り返して来るかなぁ……忘れておいて欲しい。もう、俺のLIFEはゼロだよ!!
とりあえず、俺は近くにいたNPCではない料理スキルを持った職人達を集めて話し合いをする事にした。
その際に、俺と厨二病が別人である事を告げて厨二病を討った事を話す。しかし、全く信じて貰えなかった。
まあ、信じて貰えない事は想定済みだったので《風の塔》の前で厨二病ギルガメッシュをお仕置きしている師匠の元に連れて行き、師匠の影で足を引っ掛けられた厨二病が地面と壁にビッタンビッタンされている場面を見学する。
いやー……俺もだったけれど、小さな幼児にズタボロにされているゴミを見て何も言えなくなる現象があるって事を俺達は知った。ついでに、あのビッタンビッタンの幼児が俺の師匠である事も告げるとSAO組に信じられないモノを見る様な目で見られる。
「因みに、俺もビッタンビッタンされた口だ。その後、改心したよ……だって、あの幼児ったら容赦ねぇんだもん……」
視線を反らして、告げた俺はSAO組に同情される。
何はともあれ、気を取り直した俺達は現状把握をして食料調達の組織を作る事にした。まずは、戦闘職のシルフ達を集めて狩りをして貰い、そこで得た食料を職人達が調理したり保存食にしたりする。出来るだけ、短期間でそのローテーションを組み上げた後、別の職人達に『衣』や『住』の補強をお願いしておく。今は、『食料』を中心として調理や保存食の生産を優先して行く方針だけど、そこら辺が解決したのなら次は『住居』の修復を。その次は、衣類や武器、それから衣服等の生産に着手して行く必要がある。
この世界では、現実と変わらない生活を余儀なくされる上に、それ等は全て自分達で用意しなければならない事を告げておいた。つまり、ここはゲームの中ではなく別の異世界である事をハッキリ告げた訳だ。
最初は否定していた彼等だったが、ソードスキルや一部のスキルが使えなくなった事……それと、ステータス画面は閲覧出来るのにログアウトの項目がない上、何時まで経っても誰もアミュスフィアを外してくれない事を理解すると否定派も肯定派も大人しくなった。
「つまり、俺達は異世界にいて……元の世界には、戻れないって事か?」
「うーん……元の世界って表現が、正解かはわからないけど……その通りだ」
「……なあ、『元の世界って表現』ってどういう意味だ?」
「ん?ああ……今の自分の姿が、ゲームキャラクターである事はわかっているだろう?で、本来の姿に戻れる奴はいるか?」
『……………………』
「ぶっちゃけ、お前等は精神だけの状態でこの世界のゲームキャラと同じ姿の存在に転移(?)……転生(?)している訳だ。それが、正常でないのはわかっているだろうが……」
「つまりアンタは、肉体はそのままに精神だけを切り離して元の世界戻れ……と?そんなん、無茶苦茶だ!!」
俺の言いたい事を理解したのか、SAO組のプレイヤーの一人が現実を否定したくて怒鳴り始めた。それに続く様に、他のプレイヤー達にも行き場の無い怒りが爆発し始める。だがしかし、そんな怒りを俺にぶつけた所で何かが変わる訳でも無いので、その活力をこれからの事の為に使ってくれた方が健全である。
「ハッキリ言っておくが、俺も君等と同じ被害者なんだぞ?こんな成りはしているが、これもゲームキャラクターなんだ……」
そう、告げたら彼等は段々と黙って行った。
まあ、嘘は言ってない。他の異世界へ跳べるとは言っても、結局は彼等が望む世界へ行ける訳ではないので彼等以上に俺は孤独な生活を余儀無くさせられていると言える。
「とりあえず、元の世界に戻る方法を探すにしても地盤を固めておく必要はある訳だ。せめて、このスイルベーンに似た街をちゃんと住める場所にしよう!」
俺は、困惑するSAO組を説得してスイルベーン復興の活動を促した。まあ、最初の混乱は理不尽な事に対する怒りだったけれど、ある程度すると今度は現状に対する不満が吹き出し始める。でも、それが出てくる頃にはレコンやサクヤ達が復帰していて、そこそこのカリスマ性でなんとか纏めてくれたりしたので俺達の所までクレームが来る事は無かった。順調とは言えないけれど、スイルベーンは一応再起動を果たし中心都市としての機能を回復するに至る。
レコンからは、遅くなったけれど生存しているSAO・主力メンバーの現在の位置を教えて貰い、他の都市を転生者共から解放しつつ会いに行く事となった。
「という訳で、本格的に活動したいので俺をここに残していただけないでしょうか?」
俺は、そう師匠に告げて土下座を実行した。
「だが、断る!!」
「なんでですか!?」
「別に悪い事じゃないけど、神崎は『僕と共にいる事』と『僕の知識』としている事を条件にして契約した訳だから離れ離れになるのは契約違反になるんだ。下手をすれば、君自身が消滅する恐れがあるんだよ?」
「グハッ!?」
まさかの、消滅宣言。
そうだった。俺は、師匠のアニメ関連知識として契約した存在で、師匠と別れるという事は契約違反となるのだ。
「そんなぁ……」
「とりあえず、対策としては……ちょくちょく、この世界に来て転生者の排除と都市の解放……ってところかな?」
「えっと。ちょくちょくって、どれくらいの頻度ですか?」
「…………その時の僕の気分次第かな?」
「おふっ…………」 orz
厨二病ギルガメッシュは、初期の神崎君とは別人です。
SAOにFate突っ込んだ転生者。
ある意味、賢い選択をした訳だけど……リアル熟練度LV1で、標示LV999のおバカさんです。
通常戦闘で、自らの身体能力に対応出来ずに引きこもったバカと言えばわかりやすいか?『俺TUEEE!!』しようとして、腐ってスイルベーンを支配下に置いたクズだ。
サクヤ・リーファ、ファンの皆様ごめんなさい(´。・д人)゙。
因みに、キリトとアスナは……まだ、出て来ないよw
多分、何処にいるのかもわかってないと思われるw
作者は、知っているけどねw
さて、何処にいると思う?(笑笑)
作者の想定としては、主人公……この場合は、双夜……は小生意気な餓鬼になるはずだったのに……。だって、チビッ子なのに大人の対応をしてくるんだよ!?完全に小生意気な餓鬼じゃん!!しかし、蓋を開けてみれば『小生意気な』という部分が無くなってて、ただの無双っ子に……何故だ……!?
誤字・方言あれば報告をお願いします。
m(_ _)m
感想もあれば、お願いします!
いつも読んでくれる方々に感謝を……。