流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/4/20改稿


第八話.初勝利

 まずは深呼吸だ。吸い込めるだけの空気を肺に流しこむ。その量が増えるにつれて、胸の痛みが増していく。限界まで痛くなった胸をなでおろし、全てを吐いた。渦を巻いていた脳内は幾分か落ち着きを取り戻していた。そして、もう一度奴らを見据えて、数を確認する……12体だ。

 

「ロックバスターで倒しきれるかな?」

「無理ってわけじゃないが、少し面倒だな」

 

 何か別の攻撃手段が欲しい。スバルはもう一度深呼吸を行う。焦ってはいけない。敵はまだ攻撃してくるそぶりを見せない。綺麗に行進しているだけだ。

にしても、無機質さを感じさせる表情だ。まあ、ウィルスなのだから仕方ない。

 

「……ウィルス?」

 

 そう、忘れていた。相手にしているのは電波ウィルス。今日倒した自動販売機にいたやつと同じだ。ならば……と、ごそごそと腰に手をやった。

 

「ロック、これ使えないかな?」

 

 とりだしたそれを左手の前に持って来る。

 

「こいつは……バトルカードってやつか?」

 

 どうやらある程度は知っているらしい。星河大吾から聞いたのだろうか?

 

「使えそうだな、貸せ!」

 

 貸せと言うが早いか、スバルのカードに食いついた。牙の一部が右手の指をかすめる。

 

「いったぁ!」

 

 自分の左手に噛まれるという、人類史上初であり、最後となる経験をした。全然嬉しくないが……

 一方、バトルカードを咥えたウォーロックはそれを体内に吸収した。その途端、彼の体はカードのデータを読み取り始めた。封じられていたプログラムが解放される。螺旋状に連なった無数の記号群が駆け巡る。

 体内からこみあげてくる力を抑えることなく解放した。緑と青の光がウォーロックから発せられ、一瞬で消える。しかし、そこにあった左手は、一瞬前とはまるで違っていた。

 

「うわぁ……!」

 

 先ほどのカードに描かれていた物と同じだ。小さい銃口と丸いふくらみをもったフォルム。敵が目の前にいると言うのに、それに見とれてしまった。

 

「俺達の新しい力だ! 使え!」

「う、うん! バトルカード、エアスプレッド!」

 

 姿を変えたウォーロックを眼前に構え、放った。それは先頭のメットリオに当たった。そこを中心に周りに爆発が伝わって行く。密集していたこいつらはひとたまりもなかった。悲鳴を上げて消滅していく。

 

「もう一発かましてやれ!」

「うん!」

 

 二発目、三発目、弾切れになるまで、一心に撃ち続ける。巻き込まれたメットリオ達は次々と消し飛んでいく。

 それから逃れた、生き残った三体がつるはしを地面にたたきつけた。蛇のように唸るそれが、ショックウェーブが、二人に迫る。今度は正面からだけじゃない。前方、右、左の三方向からだ。奴らが狙ったのか、偶然なのかは分からないが、綺麗な挟み打ちになっていた。ウォーロックのシールドで防げるのは前方のみ。防ぎきれない。

 だが、スバルは慌てなかった。冷静にこの状況にあったカードを選びだす。

 

「バトルカード、バリア!」

 

 右手から投げたそれに再びウォーロックが食いつく。途端に、スバルを青い球状の光が包んだ。飛んできた攻撃を代わりに吸収し、消滅する。

 

「どんどん行こうぜ!」

「う、うん! バトルカード ヒートボール!」

 

 先ほどと同じく、ウォーロックがカードを吸収する。5本の指を持つ右手に野球ボールくらいの赤い玉が握られる。それを左にいる一体に投げつける。

 

「バトルカード キャノン!」

 

 次はウォーロックの姿が角ばった、鈍重なフォルムへと変わる。大きい砲口を右側のメットリオに付きつけ、放った。二種類の爆発音が同時になる。

 両脇の二体が消えたことを気配で確認し、ウォーロックの合図で目の前の一体に駆けだした。

 まっすぐに相手に向かっていく。ぐんぐんと距離が近くなっていく。迷うことなく、相手はその武器を頭上に持ち上げる。

 

「スバル、突っ込め!」

「分かった!」

 

 今さっき会ったばかりの得体のしれない宇宙人。けど、いつの間にか、ウォーロックの言葉にはもう疑いを持たなかった。

 

「バトルカード ソード!」

 

 ウォーロックの体が大きく変化する。緑色の鋭い剣だ。左の手首から先に剣が取り付けられた形になる。

 

「俺の突進力は半端じゃないぜ? お前の力の一部になってるはずだ。たたき切っちまえ!」

 

 鉄塊が振り下ろされようとしている。それよりも早く、地面をひときわ強く蹴飛ばした。

 

「うわあぁ!」

 

 左手をがむしゃらに、けど大きくなぎ払った。最期のメットリオはピシリと綺麗な切れ目にそって割れる。二つに分かれたそれは、例外にもれず粒子に変化していった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 右、左、恐る恐ると後ろを振り返り、最後に足元、頭上と目に映る範囲を変えていく。

 

「か、勝った……?」

「……ああ、もう敵の周波数は感じない。終わったな。こいつも止まったみたいだぜ」

 

 言われて思い出した。ここは暴走した機関車のコンピュータの中だ。ウォーロックの言葉からするとそれも収まったらしい。

 

「ねえ、被害とかは……」

「町への被害はゼロだ。まだ階段を下りる途中だったみたいだぜ?」

「そっか……良かった。」

 

 誰も傷ついていない。この結果にほっと一息をついた。


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