流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第六十八話.飢えた獣

 慣れた手つきで素早くカードを取りだし、ウォーロックの口へと運んだ。彼も素早く飲み込み、データを取り出した。ロックマンの左手が火を纏った剣へと変わる。召喚したリュウエンザンを前に突き出す様に構え、ウルフ・フォレストと対峙した。

 普段、スバルは剣を胸元に構える。この構えならば、体の重心が真ん中にあるため、前後左右への移動がスムーズになるからだ。剣も上下左右に動かしやすく、動きに幅ができる。

 だが、今回スバルはその構えを変えた。理由は相手の戦闘スタイルを予想したからだ。対峙しているウルフ・フォレストは狼男を形にしたような姿をしている。2m近くありそうな巨体にはがっしりとした両腕。スバルの胴体を、片手で掴めそうなほど大きい手と、東洋の剣、サーベルを思わせる爪が指の様に生えている。足は意外と細く、しかし、足のつま先となっている爪が、ウェーブロードをがっしりと掴んでいた。

 全体的にスマートな印象を与える姿と、十個の爪から、ウルフ・フォレストは接近戦を得意としているようだ。身長差から生まれる腕の長さは、そのままリーチの差となる。急接近されても対応しやすいよう、スバルは剣を前に突き出しているのである。

 ウルフ・フォレストはスバルの作戦に気付いたようで、唸るように笑い声を上げた。

 

「グルルル……おもしれえじゃねえか、ボウズ。戦い慣れしてやがるな。これなら……」

 

 感心した彼は、自慢の爪をバッと開いた。そのまま右の五爪を頭上に振り上げ、ウェーブロードに振り下ろした。爪先が、砂粒の様なオレンジの結晶を作りだし、電波の道に五本の線を描く。間髪入れずに左手が新たな五本線を描き、交差させる。

 

「俺の血の疼きを、この高ぶりを抑えてくれそうだな! グルァァアアア!!」

 

 電波変換している男は本当に人間なのだろうかとスバルは疑った。肩の高さまで両手を上げ、爪を空に向けるように立てて吠えるウルフ・フォレスト。その叫びは闘争心に揺れ、大気を怯えるように震わせる。獣だ。本能のままに相手に牙を向く野生の狼だ。

 ウォーロックも同じことを考えたのだろう、炎の剣となったまま、冷たい声を出した。

 

「ケッ、とんでもねえ奴にとりついたな?」

「まあな、俺以上に血の気が濃くてまいってるぜ」

 

 ウルフ・フォレストの隣に現れた薄緑色の狼が答えた。ウルフは取り憑いた相手、尾上(おがみ)十郎(じゅうろう)に少々振り回されている様子だった。だが、戦いに手を抜くことは無いだろう。彼はFM星の戦士なのだから。予想通り、彼は尾上に言葉を放った。

 

「そろそろやるか?」

「グルアァ!」

 

 「来る!」スバルは剣を構えなおし、質量差に耐えられるよう腰を更に低く構えた。

 ウルフ・フォレストは両足の爪をウェーブロードに突き立て、力の限りに足を踏み出した。踏み出すと言うよりは、ウェーブロードを蹴飛ばすと言うが正しい。脚力はそのままウルフ・フォレストの推進力と化し、空中で体を水平に飛ばす。スバルにはそれが見えなかった。だが、危険は見えた。見えなかったからこそ、彼の視覚感覚が危機を告げたのである。それは、五本の刀が眼前で振り下ろされる瞬間だった。

 

「うわあ!」

 

 左肘を斜めにスライドさせて、ウルフ・フォレストの右爪をずらし、自身も体を右に傾ける。耳元を、切り裂かれた大気が駆け抜ける。

 ウルフ・フォレストは裂けたような大きい口を更に広げた。攻撃を避けられたことに喜びを感じているかのようだった。厳密に言うと少し違う。彼の攻撃を避けたロックマンに興奮しているのだ。この初手の一撃を回避した少年がどれだけ自分を楽しませてくれるのか、期待しているのだ。

 初動によって生まれた推進力はまだ生きており、ウルフ・フォレストに多大なスピードを与えている。それに、ウルフ・フォレストの質量と、彼の筋力によって生まれた足を曲げると言う行為が混じる。ロックマンの顔面に、足の最も堅い部分、膝が迫りくる。

 一連の二重攻撃を、ロックマンは倒れるように伏せることで回避した。最初に体を傾ける行為が無ければ、今頃、首から上は吹き飛ばされていたかもしれない。

 見事な空振りをしたウルフ・フォレストは、ウェーブロードを引っ掻くように足をつけ、ロックマンに振り返る。

 

「良い反応だぜ! ボウズ!! もっと俺を楽しませろ!!」

 

 数歩加速をつけた後、体を前に倒すように傾けた。頭を大きく下げ、低く構える。顎が電波の道に触れてしまうのではないかと言うほどだ。途端に、右足爪で掴んだウェーブロードを蹴飛ばした。

 同じ動きだ。鉄砲玉となって爪を振り抜こうとするウルフ・フォレストに、スバルは効果的なカードを使用した。

 

「ジャンボハンマー!」

 

 茶色い壁がウルフ・フォレストの顔面に叩きつけられた。鉄砲玉となっていた勢いは、首が折れ曲がるほどの衝撃となって跳ね返って来た。

 ロックマンが召喚した武器は、両側が平たくなっているタイプのハンマーだ。ただ、普通のハンマーでは無い。普通では無い部分は、その大きさだ。名前通り、巨大すぎるハンマーだ。茶色い頭部は少年一人の身長よりも遥かに大きい。それをまっすぐに突き出したのである。

 跳ね返されたウルフ・フォレストは軋んだ首を手で掴み、無理やり捻じ曲げている。グキリと気持ちの良い音が走り、新たなカードを使おうとしているロックマンを見据える。

 

「ネバーレイン!」

 

 ウルフ・フォレストの上空から突如雨が降り注ぐ。雫の一つ一つは弾丸のようになっており、身に受ける者の体を射抜いてしまう。

 遠距離攻撃を回避するにあたり、ウルフ・フォレストが取る行動は二つある。ここは直線となっているウェーブロードだ。前進して相手に近づくか、後ろに後退して相手と距離を取るかだ。彼は迷わず爪を開いて前進した。ロックマンを自慢の爪で引き裂くためだ。予想していたのか、ロックマンは三枚のカードを取り出しており、ウォーロックが素早く飲み込んだ。

 

「モエリング!」

 

 火を纏ったリングが放たれる。どうやら、同じカードを三枚使ったらしい。三つのモエリングが走ってくる。ご丁寧に、三つとも並行している。これは狭いウェーブロード上のどこに立っても避けられない。足を全力で伸ばし、体を空へと吹き飛ばした。

 ロックマンは素早くウォーロックの口先を向けた。バトルカードを飲み込む時間がもったいない。威力は低いが、即座に放てる上に、連射が可能なロックバスターを使用した。ウォーロックが放つ細かい赤色の光がウルフ・フォレストを襲う。腕を交差させて目をつぶり、防御の構えを取っている。ウルフ・フォレストは接近戦が主体だ。相手が宙に浮いている時間は僅かだが、こちらが一方的に攻撃できる。

 

「調子に乗んな!」

 

 ウルフ・フォレストによる、予想外の攻撃だった。彼が腕を大きく振るうと、爪から緑色の線群が生まれた。それは斬撃の余波。スピードと威力は、ロックマンの回避の行動をさせることすら許さず、体を傷付けるには充分すぎた。不意打ちで受けたダメージに思考が付いて行けず、力が抜けてしまった体はがくりと膝をついてしまう。

 着地したウルフ・フォレストがそれを見逃すわけなど無い。自慢のスピードで、距離を零にしてくる。涎塗れの舌を靡かせ、むき出した牙と爪が陽光によって残虐に光る。その姿は得物を食らう狼そのものだ。

 片膝をついたのが失敗だった。体を置きあがらせると言う動作が一瞬の遅れを生んでしまった。

 

「ワイドクロ―!」

 

 横になぎ払った五閃がロックマンの胸を切り裂き、星のエンブレムに傷が走る。

 

「アッパークロ―!!」

 

 体をくの字に曲げるように怯んだロックマンに、下から突き上げるように爪を立てた。四本の線がロックマンの体を空高く放りあげる。今度は、ロックマンが不自由な空へと投げ出されてしまった。先ほどの飛ぶ斬撃を浴びせようと、右腕を背中まで大きく下げた。

 

「バトルカード、ボルティックアイ!」

 

 空でバク転をするように回っていたロックマンの進行方向上に、丸い機械が現れる。それの中央には緑色の円が取り付けられている。空で佇む金属の目玉に体をぶつけることで、勢いを緩めた。

 ウルフ・フォレストにとっては好都合だった。動く的と動かない的のどちらが狙いやすいだろうか? だからこそ、彼は太い鞭のような腕を、力の限りになぎ払った。それを見て、ロックマンは頬を緩めた。

 予想通りだ。隙を見せれば相手はより大きなダメージを与えようと、攻撃が大振りになる。だが、それは同時に相手が隙を作るということになる。素早くボルティックアイを蹴飛ばし、頭上のウェーブロードへと飛び移る。ボルティックアイが蹴られた反動で高度を下げる間に、ウォーロックは口を限界にまで開いた。スバルの手に、大量のカードがあったからからだ。

 

「ヒートボム! パワーボム! くらえ!!」

 

 両手を広げ、ばら撒く様に大量の爆弾を投下した。赤、黄、青、緑、紫など、カラフルな丸い球がウルフ・フォレストの頭上から襲いかかる。

 避けようにも、ボムの大軍は覆うように降りかかってくる。まるでボムのドームに閉じ込められた気分だ。

 

「消えろ!」

 

 ならば、落ちる前に撃ち落としてしまおうと爪を振るう。ドームの天辺付近のいくつかが爆ぜ、ウェーブロードに落下したモノ達が爆炎をまき散らす。

 ボム達が煙幕の役目を果たしてくれている間に、宙を舞っていたロックマンはウェーブロードの縁に手をかけた。片手で懸垂をする様に昇る。この間に追撃も忘れない。

 

「カウントボム!」

 

 ウォーロックは自分の口に咥える様に召喚された四角い金属の塊を放り投げた。カウントボムと呼ばれる爆弾の中央には、モニターが取り付けられている。そこには、3と角ばった数字が記載されている。召喚されてから1秒後、それは2へと姿を変える。そう、これは時限爆弾。数字が3から0になった時、つまり、召喚されてから3秒後に爆発する。

 一秒が勝敗を分ける攻防の中で、三秒と言うタイムラグは大きい。これを扱うのは困難といえる。しかし、爆発すれば電波ウィルス達を一網打尽にできるほどの威力と攻撃範囲を秘めている。そんな物騒な物への対処法は簡単だ。爆発する前に破壊してしまえば良い。

 晴れゆく爆炎の隙間から、爆発1秒前になって落ちてくるカウントボムを捕らえた。すばやく自慢の爪で切り裂くと、お情け程度に機械部品が火薬と共に弾ける。ほっとするウルフ・フォレストの胸が射抜かれた。先ほどのボルティックアイだとすぐに気づいた。どうやら、先ほどロックマンに蹴飛ばされた際、自分の飛ぶ斬撃の攻撃範囲外に逃れていたらしい。

 この金属の塊はただの金属の塊ではなく、自動砲台だった。目の様なセンサーが得物を捕らえ、雷撃を撃ち込んでくる。カウントボムが囮だったと気づいた直後、もう一つの可能性に気付いた。この攻撃も囮なのではないかという不安が、彼の視線を空へと向けさせる、

 

「ビッグアックス!」

 

 ウェーブロードから飛び降り、大斧を振り下ろしてくるロックマンが眼前に迫っていた。ウルフ・フォレストも目を見張るほどの大きさだった。自分の身長よりも大きいかもしれない。ロックマンの体に比べれば、大きすぎるそれを振るうのは至難の業だ。しかし、重力が力を貸してくれている。重量があるがゆえに生まれる速度で、ウェーブロードを瓦解させる一撃がウルフ・フォレストを襲う。

 左肩から腹までに大きな傷を受け、足場の無くなった空に身を投げる。後から続くように落下しつつ、ロックマンはウルフ・フォレストの様子をうかがう。彼は空で仰向けになり、ぐったりと四肢を風に任せている。ウォーロックの言葉に従い、止めを刺そうとリュウエンザンを彼の白い腹に振り下ろした。その動きが止められた。見ると、ウルフ・フォレストの右手が剣を受け止めていた。

 

「おもしれえ……おもしれえぞ、ボウズ!」

 

 終わったと思っていたロックマンの期待は裏切られた。体に重傷を負いながらも、ウルフ・フォレストは空中でバランスを整えて牙をむき出した。剣をがっしりと掴んでいる手からは、ちりちりと焼ける音がする。それでも、彼の赤い目に恐怖や苦痛は無い。ただ、命を削り合うこの1秒1秒を、至福の時として堪能していた。

 貪欲に戦いを求める尾上に、スバルは背筋に氷が走る感触を覚えた。尾上の雰囲気にのまれ、体をこわばらせるスバルに破壊のみを求める銀色が襲う。ウォーロックの回避を願う言葉は叶わず、腹を右から左へと激痛が走る。次に、ウルフ・フォレストの鋭利な牙が右肩に付きたてられる。声にならない悲鳴がウルフ・フォレストの血を湧きあがらせる。

 

「……ス、ター……ブレイクゥ!」

 

 悲鳴は発っせれずとも、この言葉だけは力の限りに叫んだ。ロックマンの体の間近に目を置いていたウルフ・フォレストはたまらず目を閉じた。噛みついている相手から、赤と言う言葉では収まらない濃密な光が生まれたからだ。途端に膨れ上がる彼の体から牙を離した。しかし、ずっともがいている右手の剣は離さない。

 

「ファイアレオ!」

 

 赤い獅子の力を被ったロックマンが、晴れゆく光と共に姿をあらわにする。跳ね上がる戦闘周波数に、ウルフ・フォレストはごちそうを前にした子供のように、長い舌で唇をなぞる。右手で捕らえていた剣をいとも簡単に抜かれ、右腕に焼け焦げる一閃を描かれた時に、それは狂喜の唸り声へと変わる。

 

「もっと、もっとだ! もっと楽しませろぉぉぉっ!!!」

 

 左の五爪がロックマン・ファイアレオをなぎ払おうとする。

 

「スイゲツザン!」

 

 一度、左手のリュウエンザンをしまい、ウォーロックがカードを飲み込める姿に戻る。そして、スイゲツザンのバトルカードを一枚、ウォーロックに渡した。左手を炎の、右手を水の剣へと変えてウルフ・フォレストの攻撃を防ぐ。

 次に襲い来る右の五爪は左手のリュウエンザンで上へと受け流す。そのまま腰を捻り、右手のスイゲツザンを後ろへと振る。その反動を利用し、攻撃を受け流したばかりの左側の灼熱の剣を叩き込もうとする。ウルフ・フォレストの左爪が突きを行うようにまっすぐに向かってくる。互いの左手の得物が噛み合い、火花が互いを照らしあう。

 ウルフ・フォレストの攻撃の勢いに押されるように、ロックマンは反時計回りに体を駒の様に回転させる。後ろに下げていた右手に、肩と肘のスナップも加える。逆側からの奇襲に、ウルフ・フォレストの野生が反応した。闘争本能は弾かれた左手を素早くわき腹付近に下げさせた。

 勢いを斜めに曲げられたロックマンは空中で姿勢制御の権利を失った。相手の目の前で俯けになり、背中を狙ってくださいと言っているような姿勢になってしまう。望み通り、振り被った右手を振り下ろした。

 首だけで攻撃をうかがっていたロックマンは足を振り上げた。俯けになるのではなく、前転し、体の位置をずらしたのである。体を三枚どころか六枚に下ろしてしまいそうなウルフ・フォレストの一撃は、背中に切り傷をつける程度で終わってしまった。頭と足の位置が逆になった時、ロックマンは腰と足を大きく捻って回転し、腕を大きく振り払った。

 剣が手の爪に阻まれてしまうのならば、足を狙えばいい。ロックマンの狙いに気付いた時は、両足に傷跡をつけられた後だった。怒りにまかせた斬撃を、ロックマンは足で蹴とばした。大ぶりな攻撃は、確かに威力がある。しかし、熟練の戦士にとっては軌道を予想させる親切行為でしかない。腕を蹴り戻され、牙を噛み締めている間に、ロックマンは体勢を元に戻していた。追撃をかけようと、左のリュウエンザンで突きを放った。

 ウルフ・フォレストは諦めた。右肩に深々と刺さる赤い剣をただ眺めていた。右手が動かなくなったこと確かめたとき、彼の双眼が野生の赤を取り戻した。彼は、斬り合いによる勝利を諦めた。しかし、戦いの勝利は諦めていなかった。斬り合いを制しても、いくら体にダメージを与えても、それは勝った事にはならない。

 勝利を手に掴むのは最後に立っていた方だ。

 ロックマンの体が無情に斬り裂かれる。相手の目の前で、勝利を確信していた彼に避ける術など無かった。深紅の体に深い溝が彫られ、力尽きたように両手の剣が霧と化した。

 右手に重傷を負いながらも、勝利を手にしたウルフ・フォレストは顎を大きく開き、飢えた牙から涎を垂らした。牙がボキリと音を上げる。顎の奥に走る重くて鈍い痛みから、殴られたのだと理解した。自分より瀕死のはずのロックマンの右拳だった。

 ウォーロックの牙がウルフ・フォレストの首を掴む。抵抗しようと、残った左手を上げたウルフ・フォレストの手に、ロックマンは体を横にするように右足を置いた。太くて逞しい足場を踏みつけ、右ストレートが高い鼻に突き刺さる。

 それと同時だった。二人は屋上の上へと叩きつけられた。ウルフ・フォレストはコンクリート上を滑り、ロックマンはべちゃりと寝そべり、動かない。しかし、まだ戦いは終わっていない。どちらも、電波変換は解けていない。寝ていて勝てる相手ではないと、ウォーロックに励まされるように立ち上がる。相手も同じだ。

 

「ボウズ、最高だぜ!!」

 

 歪められた顔で、なおも狂ったように笑っている。いや、今までで一番狂っているようにさえ見えた。

 

「スバル!」

「うん!」

 

 これが最後と、ロックマン・ファイアレオの奥義を放つため、左手足を引きずるように大きく引いた。

 

「スターフォースビックバン!」

 

 それを見て、がむしゃらに、地を削るように蹴り飛ばした。

 

「最高だぁっ!!!」

 

 もう、彼に思考は無いのだろう。一直線に距離を詰めてくる。後は、輝きを失わない銀爪を振り下ろせば終わりだ。ただ、闘争のみをむさぼる獣だった。

 迫りくる野生に向かい、ロックマン・ファイアレオは最後の力を振り絞った。

 

「アトミックブレイザー!!」

 

 膨大な炎が渦となって放たれた。それは、全力疾走していたウルフ・フォレストを飲み込み、その姿を隠して行く。

 

「最っ高っだぁぁあああああああああ!!!」

 

 炎は飲み込んだ者の狂気を糧に更に激しさを増した。その輝きが頂点に達した時、フッと姿を消した。残った光景を、スバルとウォーロックはスターフォースを解きながら見守っていた。

 

「う、そ……でしょ?」

 

 そこに、ウルフ・フォレストがいた。緑と白だった全身は黒一色だ。しかし、まだ立っていた。足の両爪を食い込ませ、必死に体を支えている。

 

「く……そ……」

 

 がくりと膝が折れた。もう、何もできない。立ち上がる余力すら無い。スバルにはカードを取り出す力も、ウォーロックにはバスター一つ撃つ力も残ってはいない。

 戦力が無くなったロックマンを見て、ウルフ・フォレストは笑みを絶やさずに足を踏み出した。右手はだらりと下げ、左足を引きずるように、右足だけを必死に前に突き出して進んでくる。

 一歩一歩近づいてくる敗北を、ただずっと見ていた。目の前に立つ相手を見上げ、奥歯を噛み締めた。

 

「ボウズ……」

 

 振り上げられる、焼け焦げた爪。

 

「お前の……」

 

 隙間から覗かせる光沢が陽光を受けて、ウルフ・フォレストの勝利の笑みと共に輝きを増した。

 

「……勝ちだ……」

 

 ぐらりと視界が揺れた。そう思った時、ウルフ・フォレストの体が横になった。事態を飲み込めないスバルとウォーロックは、ただ力尽きた彼を茫然と見守っていた。


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