流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第五十六話.二つ名

 ディスプレイの電脳内へとハープ・ノートは飛び込んだ。このディスプレイは、大通りを歩く人々に、新商品のCMを行っている巨大な電子機器である。そのためか、この電脳世界には、様々な画像データが飛び交っている。一つ一つが解像度の高いカメラやら、主婦に優しい洗濯機の映像やらを映している。その内の一つのデータに取りついて、破壊活動を行っている一体のウィルス。青いゼリー状をしており、ぱっと見は可愛らしい顔が取り憑いている。だが、まぎれもなく人々を傷付けているウィルスだ。

 

「パルスソング」

 

 淡い緑色の音符が生み出される。ハープ・ノートに応えるように、音符は青い電波ウィルスに飛びかかり、互いの存在を消滅させた。

 フゥと口を絞って息を吐きだした。だが、一段落したと言う落ちつき払ったものではない。

 

「何匹いるのよ……」

 

 途方に暮れたハープ・ノートの両目の先にいるのは、ウジャウジャと蟻のように動き回る電波ウィルスの大群だった。数に換算すると、三桁に届くかもしれない。一匹一匹倒していたら途方もない時間がかかるだろう。おそらく、ハープ・ノートの体力ももたない。

 この光景を見て、ハープがギターの頭にお情け程度についている口を動かした。

 

「ミソラ、多分こいつらを束ねてるリーダーがいるわ」

「リーダー?」

「ええ。電波ウィルスは多少の群れを作って動くことはあるけれど、こんなに一度に動くことはまずないわ。こいつらには、そんな高度な知能は無いはずよ」

 

 ハープの言葉に、ミソラは顔をしかめた。悪い予感がしたからだ。電波ウィルスにそのような知能が無いとすると、彼らの代わりに高い知能を持つ存在がいると言うこと。思い当たるのは一つしかなかった。自分と同じ存在だ。

 

「電波人間?」

「そうじゃないことを祈るしかないわね。奥に行ってみましょう?」

 

 

 電子データから、標的を変えて襲い掛かってくる電波ウィルス達を足蹴にしつつ、ミソラとハープは画像データが飛び交う世界を駆けていく。その作業は数分ですんだ。侵入者に気付き、事件を起こした張本人自らがこちらに出向いてくれたからだ。いかにも悪いことを企んでいますと言わんばかりの悪人面だった。

 犯人の正体を見てハープはホッとした。

 

「良かったわ、FM星人じゃなくてジャミンガーで」

「えっと、電波ウィルスと電波変換した人間だったっけ?」

「そうよ。決して勝てない相手じゃないけれど、気を引き締めていきましょう?」

「ぅおい! さっきから聞こえてんぞ! 誰が雑魚だ!?」

 

 「そこまで言ってない。むしろ警戒している」と、吠えているジャミンガーに内心突っ込んだ。だが、慣れ合うつもりは一切無いため、さっさと事件を解決しようと、被害妄想がちょっと強いジャミンガーに攻撃を仕掛けた。

 

「パルスソング!」

「電波ウィルス!」

 

 ハープ・ノートの攻撃が来ると分かった直後、ジャミンガーは一体の電波ウィルスに命令を下した。内容は残酷、その身をもって盾となれだ。

 火を纏っている一輪しかないバイクのような電波ウィルスがジャミンガーの横から飛び出してきた。自慢の黒い車輪のアクセルを全開にして、音の弾丸に突っ込んだ。ウィルスは無残にもデリートされ、体を構成したいた細かい粒の波が電脳世界の空へと飛んでいく。

 それ払うように次々と新しいパルスソングが空を駆けていく。どうやら、電波ウィルスは捨てるほどいるらしい。カブトムシを模したもの、黄色い顔に槍の様な手が二本ついただけのもの、蟹の姿そのままのものなど、様々なウィルスが次から次へと二人の戦いに割り込むように現れ、ジャミンガーの盾にされて消えていく。

 

「これじゃあ、切りが無いよ!」

「ミソラ、踏ん張って!」

 

 電波ウィルスの大群と闘うのが嫌だったため、頭を潰しに来たのだ。これでは、避けて来た奴らと真正面から戦っていることとほとんど変わりがない。どうしようかとパルスソングを撃ちながら悩んでいると、後頭部に衝撃が走った。脳内で振動があちこちへと走り、バランス感覚を奪われて肩から倒れる。なんとか状況を確認しようと背中を床に寝転がらせると、黄色い体と赤いグローブが特徴的な電波ウィルスがいた。どうやらこいつお得意のパンチをまともに受けてしまったらしい。

 起き上がろうとするハープ・ノートにウィルス達の容赦ない波状攻撃が襲い掛かる。斜め上を向いた大砲からは爆弾が、オバケのような奴からはリング状の光線が、魔法使いの姿をした奴は足元のクリスタルから炎をまき散らす。一体一体の力は床にかすり傷をつけるのが限界だろう。しかし、数は残酷なほど正直だった。床をえぐる勢いとなってハープ・ノートの体を宙へと舞い上げ、壁に叩きつけた。

 その壁は、無数の電気ケーブルが束となって出来上がったものだ。どうやら、このケーブルはディスプレイに電気を供給しているプログラムらしい。先ほどの衝撃のためか、電波ウィルス達の攻撃の一部が当たったのか、幾つかのケーブルが切れてしまっていた。中からは金属糸が顔を覗かせている。かなりの高圧電流が流れているのだろう。それらの周りは行き場を求めるように跳ねまわる数多の閃光が見える。

 これだけの攻撃を受けながらも、ハープ・ノートは立ち上がろうとする。彼女の賢明さを嘲笑うように太い腕が華奢な右手首をつかみ上げた。

 

「い、痛い! 離して!」

「小娘が! 弱いくせに生意気なんだよ!」

 

 ブンとハープ・ノートの小さい体が宙でバクテンの軌道を描く。ジャミンガーが力任せにハープ・ノートの腕を引っ張ったのである。ハープ・ノートの体はジャミンガーの頭上を越えて、床へと叩きつけられた。少女が向かう先は平坦だった電脳世界の地面だ。今は電波ウィルス達の攻撃によって、生成された大小の尖った破片がまき散らされている。鋭利と称するには少々無骨なそれらが背中に食い込み、更なるダメージを与える。

 

「なんだ? こいつ、めちゃくちゃ軽いじゃねぇか?」

 

 ジャミンガーがそう思うのは当然だ。ハープ・ノートの体重は(ぜろ)キログラム。質量があるのに、重さが無いと言う矛盾した体なのだから。重さが存在しないハープ・ノートの右手首を掴んだまま、もう一度振り上げて大地へと叩き伏せる。二度、三度と繰り返し、同じように痛めつける。

 その度に、痛みに耐えられなかった短い悲鳴がハープ・ノートの口から漏れる。そして、もう一度体が空へと持ち上がる。

 

「ショックノート!」

 

 体が最も高い位置に来た時、ハープ・ノートはジャミンガーの背中にコンポを召喚した。零距離で発射された威力はジャミンガーの体を揺さぶるのには充分で、ハープ・ノートの右手を自由へと解放する。床を滑りながら横に一回転して立ち上がり、ミソラはハープに確認を取る。

 

「もう一度行くわよ。ハープ?」

「ええ。準備オーケーよ!?」

 

 それを合図に両脇に先ほどのピンク色のコンポを一つずつ設置した。先ほどの攻撃による影響で、未だに体の自由が利かないジャミンガーに思う存分攻撃を見舞った。

 

「ショックノート!」

 

 一つに凝縮された音符がそれぞれのコンポから飛びだし、計二つがジャミンガーを撃ち抜い

た。だが、決定打には程遠かった。ジャミンガーは苦悶に苦しむように歯をむき出しにして後退するが、赤い目はまだハープ・ノートをしっかりと捕らえている。まだ戦える。そのジャミンガーの確信は裏切られた。先ほどの攻撃で全てが決まっていた。全身を焼くような痺れが走り、全身の筋肉が己を伸ばしきろうとして、ガクガクと彼の大柄な体を揺らす。背中は糸のように細い何かが無数に浅く刺さっていると伝えてくる。

 ハープ・ノートは先ほど断線した電気ケーブルで無邪気に遊んでいるジャミンガーに、止めのパルスソングを叩きこんだ。

 

 

「大変なことになっちゃったね?」

「ほんっと! せっかくスズカと遊べる日だったのに!」

 

 ジャミンガーを倒し、集結していたウィルス達が本能のままに立ち去って行くのを確認したミソラは、奇跡的にも無傷だったスズカと合流していた。もちろん、電波変換は解いており、今はハープ・ノートではなくミソラとハープだ。

 合流できた場所は事件現場のすぐ近くだった。周りには救急車のサイレンと青い制服に身を包んだ警官達の姿があった。もしかしたら、五陽田の様なサテラポリスが来るかもしれない。そう考えたミソラは、さりげなくスズカに場所を変えるように提案し、今はこのオープンカフェでお茶を飲んでいるに至る。

 

「でも、大きな怪我をした人も出てないみたいだから。良かったよね?」

「うん。それが幸いだよね……あ!」

 

 こんな時も他人の心配をするミソラの優しさに微笑みつつ、スズカはあるものを発見した。マグカップを持っているミソラの真っ白い手に目が止まる。

 

「ミソラ、それ!」

「え? ……あ!」

 

 女優として美容に気を使っているスズカは素直に勿体ないと感じた。シミ一つない手入れの届いたミソラの右手首に、赤黒いあざができているのだから。

 

「あっちゃ~、あの時にできちゃったのかな?」

 

 ミソラの言うあの時とは、ジャミンガーと闘った時だ。右手首を掴まれ、物のように振り回された時だ。ギリギリと悲鳴が上がるほどの握力で掴まれたうえに、複雑に力がかかったのだから、当然の結果かもしれない。

 

「もう! ミソラのことだから、小さい子でも庇ったんでしょ?」

 

 だが、スズカは勘違いしていた。ミソラが言うあの時とは、人波に飲まれた時のことだと誤解したのである。

 

「あ、う……うん。まあね?」

 

 都合よく誤解してくれたため、そのまま話を合わせておいた。

 

「もう、ミソラっていっつもそう。自分のこと横に置いといて、誰かの心配ばっかり」

「あははは……まあね? でも……」

 

 呆れたように笑うスズカに、ミソラは笑いながらも真剣に応えた。

 

「誰かが傷ついたり、困っているのを黙って見ていることなんて、私にはできないよ」

「フフ、分かってるよ。だって、私はそんなミソラが大好きなんだもん」

「キャハッ、ありがと」

 

 天使のように笑いあう二人。ハープはギターについている画面の向こうから、そんな二人を見つめて穏やかな笑みを浮かべた。

 辛い人生を経験しているにも関わらず、誰かのために強く生きようとするミソラを見て、スズカは言った。

 

 

「今日、スズカっていう友達と遊びに行ったよ(>ω<)」

 

「あれ? 学校は?」

 

「さぼった!( ̄▽ ̄)v」

 

「だめだよ、サボっちゃ」

 

「しょうが無いじゃん。その子も芸能人なんだから(´・▽・`)」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「うん。かわいいよ(^ω^)b」

 

 空が夜を刻む時間になり、ミソラは自宅でスバルとメールをしていた。もう日課となっている光景を見て、ハープは両目を垂れ下げるような笑みを浮かべる。もしかしたら、スバルの横にいるであろう、あのガサツ星人は欠伸をしているかもしれない。

 

「それでね、『ミソラって、戦う芸術家(アーティスト)だね?』って言われちゃった(>▽<)」

 

「かっこいい二つ名だね?(・▽・)」

 

 顔文字を使ってくるミソラに合わせてスバルも使ってくる。だが、まだ慣れていないらしく、基本的な物を使っている。ミソラも決して慣れているわけではないが。

 

「そっかな? 恥ずかしいよ(=^▽^=)」

 

「ミソラちゃんにぴったりだと思うよ(^▽^)」

 

「もう、意地悪(`ε´)! なら、今度は私がスバル君に『恥ずかしい!』って思うようなかっこいい二つ名をつけてあげるんだから( ̄∩ ̄#」

 

「ははは、勘弁してよ。ただでさえこっちはヒーローにされて困ってるのに(´・ω・`)」

 

「楽しみにしてると良いよ? ヒッヒッヒッ(・皿・)」

 

「こ、怖いよ。ミソラちゃん(・▽・;)」

 

「ところで、勉強教えて。明日テスト(^人^)」

 

「遊んでいたミソラちゃんが悪い。自分でやりなさい(`д´)」

 

「おねがい(;人;)」

 

「まったく、しょうがないな……(・ω・)」

 

 さらに数回のメールを行い、ミソラはパソコンの電源を入れた。長文が多くなるので、解説はパソコンのメールを用いることにしたからだ。




 「戦う芸術家」という二つ名はアニメ版でミソラが自ら名乗るものです。()台詞!!

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