流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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第四十九話.豪炎と大水

 放たれたエネルギー弾はスバルの憎しみを背負って、リブラ・バランスへと襲いかかる。光速で迫り来るそれにリブラ・バランスは落ち着いて左手を前へと突き出す。

 

「フレイムウェイト!」

 

 育田の声と共に、左手の皿の上で渦巻いていた炎が激しく渦巻き、燃え上がる。それは人一人軽く飲み込んでしまいそうな巨大な火の球体と化し、放たれた。ロックマンが撃ったバスターと正面からぶつかる。火は光の弾丸を飲み込み、尚も前進を続ける。目で追える程度の速度だが、決して遅くはない。

 渾身のロックバスターを無効化され、慌ててウェーブロードを蹴飛ばして後ろへと跳び、安全圏へと避難する。改めて着地した場所から数歩手前でリブラ・バランスが放ったフレイムウェイトが着弾した。校舎の周りに植えられた木々を揺らす程の爆音が響き、共に広がる炎と高熱がスバルを押し流した。オックス・ファイアのファイアブレスに引けを取らない火の大群がスバルの身を焦がす。

 同時にウェーブロードから放り出され、少し下にあった別のウェーブロードに運良く落下した。予想以上の攻撃範囲と威力に身を悶えさせる。

 

「な……なに、今の……」

「リブラのやつ、これだけの炎が使えるのか!?」

 

 ウォーロックの属性が”木”ではなく”無”で良かったと心から感謝しつつ身を起こす。上空にいるリブラ・バランスを観察する。リブラ・バランスの太い胴体を囲う三つの点滅しているリングは赤色だ。

 

「アクアウェイト!」

 

 次にリブラ・バランスは右手の皿にあった水を用いた。水は先ほどの火と同じように量を増し、水の大砲となってロックマンの頭上から放たれる。

 右に大きく跳躍して地に足をつけると、もう一度電波の大地を蹴飛ばした。先ほどの攻撃範囲を恐れたからだ。後方で大質量の水が爆発した音が響き、同時にスバルの背中が冷と痛の二つの感覚を訴えて来た。どうやらこれでもリブラ・バランスの攻撃範囲からは逃れられないらしい。しかし、威力が最も高い爆心地の中央から距離をおけたおかげだろう。先ほどのフレイムウェイトを食らった時ほどの威力は感じられなかった。横たわりながら相手を見据える。次は左手をかざし、火を用いるところだった。

 その姿に違和感を感じる。よく見ると、リブラ・バランスの体を囲んでいた三つのリングが赤色から青色へと変わっていた。それに気づいた直後、それは再び赤色へと変わる。同時に火の大砲が飛んでくる。

 

「ワイドウェーブ!」

 

 ウォーロックの姿が口幅の広い長方形の銃口へと変化する。そこから放たれた三日月の姿を象った水は空中で火とぶつかり合い、互いの存在を水蒸気へと変えてしまう。水蒸気はすぐに煙へと変わり、その場所の天候を霧にする。リブラ・バランスの視界を白が支配し、明るいオレンジ色のウェーブロードまでも見えなくなっていく。その中でも、青いロックマンの姿は目立つ。この霧を晴らすことも兼ねて、もう一度火を放とうとしたところだった。霧の向こうから飛び出してきた見覚えのある三日月に体が打ち抜かれた。

 

「ぐう!?」

 

 先ほどロックマンが使って来たワイドウェーブだ。二回連続で放って来たらしい。リブラ・バランスの苦痛の声を聞き、スバルは自分の仮説が正しかったことを確信した。

 

「やっぱり、直前に使った属性に変わるんだ」

「リブラの奴、二つの属性を操れるだけじゃなかったのか」

 

 リブラは火と水の二つの属性攻撃を使用することができる。同時に、自分の属性も変化させることができる。これは二つの弱点を持ってしまっていることに他ならない。

 

「行ける! もう一発!」

 

 晴れゆく霧の向こうで悶えているリブラ・バランスを確認し、三たびワイドウェーブを撃ち込んだ。避ける様子も見えず、攻撃が当たる。しかし、さっきの悲鳴が上がらない。不思議に思って観察していると、水を被ったリブラ・バランスは平気な表情をしていた。体のリングの色は青色へと変わっている。属性を水に変えた証拠だった。

 相手が二つの属性を持っていても、その時の弱点属性に合わせて攻撃しなければ大きな効果は見込めない。リブラも自身の弱点を熟知していると言うことだろう。唯一の救いは水属性の攻撃を水属性の敵に当ててしまっても、威力が無効化されるわけではないと言うことだ。そのため、リブラ・バランスもダメージを受けている。だが、このまま遠距離戦を続けるのは危険だった。

 

「アクアウェイト」

「ファイアバズーカ!」

 

 火山岩を思わせる質量感のある火の弾が水の球を迎え撃つ。先ほどと同じく爆音と共に煙が発生する。その向こうにいるリブラ・バランスに雷属性の攻撃をお見舞いしようと、「プラズマガン」のバトルカードを取り出そうとした時だった。目の前に水色の塊が現れた。先ほどの物より一回り小さいが、ロックマンにダメージを与えるには充分すぎる威力だった。ウェーブロードから押し流されそうになり、縁を掴んでぶら下がる。

 

「な、なんで?」

「威力が違いすぎたんだ。リブラの野郎、半端ねえパワーだ」

 

 ウォーロックもようやく理解した。リブラ・バランスの一番の強みは二つの属性を操れることではない。尋常ではない遠距離攻撃の威力だった。彼の炎はロックバスターは軽く飲み込み、水においてはキャンサー・バブルの技を穿いたファイアバズーカでも対抗できない。

 全身を伝う水を飛ばしながらロックマンはリブラ・バランスがいるウェーブロードへと戻る。遠距離攻撃では分が悪すぎると分かった今、距離を置く必要はない。懐に潜り込むだけだ。

 

 

「ライメイザン!」

 

 今のリブラ・バランスは水属性だ。雷の剣を備えて飛びだした。

 

 

「フレイムウェイト!」

 

 無論、わざわざ弱点属性でいる理由は無い。すぐに火属性へと変えて対抗する。それはロックマンの予想通りだった。

 

「スイゲツザン!」

 

 炎の大砲をしゃがんで避けつつライメイザンを使わずに収め、水属性の剣へと変える。後方で起きる爆発は空気を弾きとばし、一瞬の炎を纏った豪風を巻き起こす。体を熱で焼かれながらも風圧を利用して前に踏み出す。

 この突然の加速にはリブラ・バランスもついてこれないはず。爆風に吹き飛ばされるように接近し、左手を力任せに振り下ろした。水の刃が相手を捕らえたことを伝えてきた。宙で身をよじり、振り返りながらウェーブロードに両足をつける。そのロックマンの表情は苦い思いで満たされていた。

 リブラのリングは青く変色していた。あの一瞬の間に属性を変化させたらしい。

 

「その程度で私の虚をついたつもりカ?」

 

 嘲笑う感情が籠った声だった。リブラ・バランスになっている育田のものではなく、彼の中にいるリブラのものだ。

 

「畜生、スバル! もう一度……」

「必要無イ!」

 

 鈍重な体が目の前にあった。しまったとスバルとウォーロックは後悔した。リブラ・バランスはその大きな体に瞬発力も兼ね備えていた。見かけで判断していた自分達を咎めてももう遅い。リブラ・バランスの左手の皿がロックマンの脇に放たれる。

 

「リブラスイング!」

 

 体を回転させ、長い手の先についた器は遠心力のままに振り回されてロックマンを大きく弾きとばす。脇と言うのは人体の外側にある急所の一つだ。リブラスイングはスバルの肺から空気を追い出し、生体活動を妨げる激痛を与える。

 困難になった息を吸い込みながらもリブラ・バランスの動きを見逃すまいと首を動かす。素早く踏み込み、目の前まで迫ってくる敵が見えた。

 遠距離攻撃に持ち込めば有利なのは向こうだ。にも拘わらず距離を詰めてくる。これは止めを刺す大技の証だ。スバルの予感を裏切らず、リブラ・バランスの器となっている両手から粒子が溢れだし、形を崩して行く。頭上で両手を重ね、多量の粒子を合わせる。粒子群は収束し、硬質観のある黒光りした鉄塊へと姿を変えた。この一連の作業はコンマ単位の時間内で終了した。

 

「ヘビーウェイト!」

 

 容赦なく振り下ろされるそれを避けようともがくも、足は思うように動いてくれなかった。背骨を粉々に砕くような一撃を食らってしまった。その破壊力はスバルの体を突き抜け、ウェーブロードを粉々に砕き、スバルをグランドにまで叩き落とした。

 地面に横たわるスバルの頭上からオレンジ色の破片がパラパラと降り注ぐ。立ち込めるかわいた砂埃の中で、軋む背中を伸ばしながら立ち上がり、辺りを見渡す。誰もいない。どうやら、この時間はグランドを使った授業をしているクラスはない様子だった。それが幸いだったと胸をなでおろしながら上空を見上げる。リブラ・バランスが右手からアクアウェイトを放つところだった。

 電波体とは言えど、重力には逆らえない。つまり、戦闘においては相手の上を取った方が有利だ。同じ土俵に立つためにウェーブロードへと飛びあがる。背後から聞こえてくる水の破裂音を尻目に、ウェーブロードからウェーブロードへと飛び跳ねて昇って行く。

 それを妨げようとリブラ・バランスはと火と水を交互に撃ち込む。しかし、今のロックマンは前後左右の二次元的な動きから、上下も加わった三次元の動きに変わっている。命中させるのは至難の技だ。爆風を利用して攻撃を与えようと、ロックマンの着地点付近に先回りさせるようにフレイムウェイトを放った。

 

「ロック!」

「おう!」

 

 スバルは右手に持ったカードをウォーロックに渡す。ジェットアタックのカードだ。スバルの左手が鳥のような姿へと変わり、噴き出すバーナーがスバルの動きを放射的な物から直線的な物へと変える。一番変わったのは進行方向だ。フレイムウェイトの爆風から離れるようにロックマンの体が動く。

 そして、このカードを使った理由は避けるためだけでは無い。もうひとつ目的がある。ある程度昇って来ていたロックマンはリブラ・バランスとの距離をかなり詰めていた。この距離はジェットアタックの射程範囲だ。自身の体を弾丸へと変えて相手に捨て身の突撃を行う。

 空気を切り裂いてくるロックマンに多大な火をお見舞いする。しかし、ジェットアタックの鋭い切っ先に切り裂かれ、無残に二つへと分けられてしまった。勢いを衰えさせることも叶わず、その弾丸を体でまともに受け止めてしまった。リブラ・バランスが大きく湾曲する。

 だが、スバルは一つのミスを犯してしまう。火の中に飛び込んだのだ。バイザーがあるとは言えど、熱気は遮れない。眼球に浴びせられる熱気を拒絶しようと本能が目を閉ざさせてしまった。だから一瞬だけ遅れてしまった。大ダメージを受けたリブラ・バランスがすぐに体制を立て直していることに気付くのに。

 ウォーロックが避けろと大きく叫んだ。反射的に後ろに飛びのいたスバルが目を開いた時には、そこにリブラの水を纏った手があった。リブラスイングを鳩尾(みぞおち)に受け、地から足を離していたスバルが踏ん張るのは不可能だ。リブラ・バランスの質量と力の分だけ宙を飛ぶ。その背後にあるものに気付いたウォーロックはロックマンの体の周波数を変化させる。校舎の壁をすり抜け、校舎内のウェーブロードに背中をこすりつけるように滑って行った。




 流ロクボスキャラの中で、二番目に弱いと思っているリブラ・バランスをどう強く見せようか散々悩みました。むずい!!

 え? ちなみに誰が一番弱いと思っているのかって? ……ハープ・ノry

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