流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第三十二話.無響

 可愛らしいフォルムだ。赤い音符は丸みを帯びており、幼い少年少女達に音楽の愛らしさを伝え、心を潤すだろう。愛でたくなるそれは綺麗なオレンジ色の上へと降り立つ。

 爆散する。

 立ち上がる煙から青い影が飛び出す。少し巻き込まれたのだろう。被ったヘルメットに黒い汚れが付いている。

 構えたギターから新たに飛ばされた青い音符を、隣のウェーブロードへと飛び移ってかわす。続いて飛んでくるカラフルな音符達を撃ち落とす。赤、青、黄、紫など、色とりどりのそれらは速度はある。これらの攻撃の元となっているのが音だからだろう。音速に至っていないのが救いだ。それに加え、一発の威力は低い上に的としては大きい。攻撃を退けるのは簡単だ。それでも、ハープ・ノートへは弾が届かない。次々に打ち出される音符達に阻まれる。

 撃ち勝てると踏み、ハープ・ノートは音符の量をさらに増やす。

 ロックマンはバトルカードを取り出し、ウォーロックをガトリングへと変化させる。4つの銃口から放たれる弾丸が、壁となって迫っていた音達を砕いて行く。

 ハープ・ノートのパルスソングもこの速度には敵わない。さっと身をかがめるが、彼女には一発も当たらなかった。足元に着弾する。

 

「おい、なんで攻撃しないんだ!?」

「ミソラちゃんには、これ以上傷ついてほしくないんだよ!」

「馬鹿野郎! そんなことで勝てるわけねえだろ!!」

 

 スバルの甘さに舌を打った。文句はそれだけで終わる。次の音符攻撃が繰り出されたからだ。

 

「君だって皆と同じだわ! 私を助けてなんてくれないんでしょ!?」

 

 応戦するうちに、ハープ・ノートが同じウェーブロードへと移動してくる。ロックマンの側面へとギターの頭を向ける。

 

「マシンガンストリング!」

 

 5本の弦が束となり、弾丸のように打ちだされる。

 全ての音符を撃ち落とした時は遅かった。弦が胸に突き刺さる。すかさず、ハープ・ノートはギターの弦をしゃにむにに弾く。

 音符として間接的に飛ばしていたのとは違う。振動と衝撃が直接伝わってくる。無論、その分威力も高い。ロックマンの骨や内臓にまで振動が伝わってくる。しびれる手で弦を掴んで振り解くと、ガクリと膝が折れる。

 

「僕は……君を助けたいんだ……」

「君の助けなんていらない! 優しそうな顔して結局助けてくれない! スバル君のやっていることは、偽善って言うんだよ!?」

 

 お互いに、苦悶に顔が歪む。

 

「僕が……中途半端に優しくしたのが、いけなかったの? 君の力になりたかっただけなんだ……」

「だから、いらないよ!」

 

 打ち出されるパルスソングの群れをシールドで防ぎ、距離を詰める。次々と飛ばされてくる音符にウォーロックは歯を食いしばった。

 

「くっ、限界だ!」

「っ! バトルカード モジャランス」

 

 竹槍を両手に持ち、長いリーチでハープ・ノートの足元をすくう。バランスを崩した彼女に、切っ先を突きつける。

 

「君の負けだよ! お願い、もう止めよう!」

「嫌っ! パルスソング!」

 

 止む負えず後方へと低く飛ぶ。撃ち落とすが、一瞬の出遅れが響いた。音符の大群に押されつつある。

 

「チェインバブル」

 

 水泡を打ち込んだ。先頭の音符を包み込むと、連鎖するように後方の音符達を一つ一つ泡に閉じ込めていく。このまま最後尾にいるハープ・ノートにまで届くはず。

 新たな音符群が頭上から降り注ぐ。

 弧を描くように跳ぶハープ・ノートの姿を確認し、新たなカードを取り出す。

 

「テイルバーナー!」

 

 オックス・ファイアが使ってきたもの程の威力は無いが、火炎放射を放つ。炎に飛びこんで来たそれらを消していく。

 ハープ・ノートは少し上にあるウェーブロードに降り立ち、直もパルスソングを打ち出してくる。

 今度は完全に出遅れた。回避のために別のウェーブロードへと飛び移る。

 

「ショックノート!」

 

 スバルの進行方向にピンク色の箱が一つ召喚される。コンポと呼ばれるそれから白い音弾が放たれ、元の場所へと押し戻す。この音も衝撃へと変わり、動きを束縛する。

 ハープの合図で、今が攻め時と弦を弾く手を早め、連なるように音符達が打ち出される。

 ウォーロックがシールドを張るが、防ぎきれない。

 爆音と衝撃が上がる。

 詰めは念入りに。ウェーブロードごと破壊するつもりで音を繰り出し続けた。

 

 

 ほっと一息をついていた。戦闘の素人と思っていたミソラだが、ハープ・ノートとなった自分の力をもう把握しているようだった。

 

「これなら……壊す必要は無さそうね?」

 

 タスケテと訴えるミソラの心を大事そうに抱える。

 

 

 煙と音符をかき消すように巨大なハンマーが振るわれた。使用者の二倍はあるジャンボハンマーは攻撃だけではなく、防御にも使えるらしい。放った攻撃をことごとくかき消した。

 

「スバル、これで分かっただろ? あの女は本気だ。やらなきゃやられるぞ!?」

「でも……それでも、僕はミソラちゃんを傷つけたくない!」

「いい加減にしやがれ!」

 

 一方的に消耗している。体のあちこちに傷を負っているロックマンに対し、ハープ・ノートはほぼ無傷だ。やられるのも時間の問題。

 いらだちが募る。

 

「お願いだよ。ロック……今回は違うんだ……」

「何がだ?」

「オックス・ファイアを倒したのも、キグナス・ウィングを倒したのも、僕……僕達だよ」

「当たり前だろうが! それがなんだ!?」

「けど、オックスに取りつかれたゴン太君を助けたのは? キグナスに惑わされた宇田海さんを説得したのは?」

 

 傲慢だが、根は友人思いな学級委員長。

 心底お人好しの所長さん。

 

「僕は、誰も救っていない……誰も助けられていないんだ!」

 

 敵を倒しただけ。暴走した本人を救ったのは別の人物だ。

 

「僕は……本当に無力だ。何もできない……今回だけじゃない、今まで何もできていなかったんだよ! 一番大切なことを、誰かに任せきりにしてきたんだ……」

 

 バトルカードで召喚した武器を消し、ハープ・ノートを見上げる。

 ウォーロックは黙ったままだ。

 

「でも、彼女を救えるのは誰? ミソラちゃんのお母さんは、もういないんだよ?」

 

 心の支えであったミソラの母親はもうこの世にいない。

 頼れる者もいない。

 だからFM星人に取りつかれ、今のような状況に陥っている。

 そんな彼女を誰が助けられるというのか?

 

「……じゃあ、お前が救うのか? そんなことできるのか?」

「分からないよ!!」

 

 胸に渦巻くものを吐き出すように叫んだ。

 

「だけど……助けになりたいんだ! あの子の気持ち、分かるから! だから、お願いだよロック! 僕のやり方に付き合って!!」

 

 やっと……あの時に、展望台で震えていたミソラの手を握った訳を理解した。

 

「ちっ! 仕方ねぇ……けどな、いよいよヤバいと言う時は……俺も好きにやらせてもらうぜ?」

 

 頷き、ハープ・ノートと同じウェーブロードへと降り立った。

 

「ミソラちゃん……僕があの時、ブラザーを結んだら……君を救えたの?」

 

 天地の提案。あれを受け入れていたら……

 

 パルスソングが飛んでくる。

 対してバトルカードのモエリングを放つ。炎を纏った車輪は攻撃を破壊しつつウェーブロード上を転がっていく。

 それを弾きとばすように放たれる弦の束。

 脇腹をかすめるそれに見向きもせず、続いて飛んでくる音符の群れにバスターを撃ち込んで行く。

 

「僕があの時! ……君に何か声をかけてあげていれば、こんなことにはならなかったの !?」

 

 屋上で話を聞いた時、少し手を伸ばしていたら。肩に手を置いて上げていれば……

 

 全て撃ち落とした直後、頭上からの攻撃に身を伏せた。

 召喚したコンポの上に乗り、パルスソングとショックノートの二重攻撃を放っていた。

 モアイフォールのバトルカードをウォーロックに渡す。

 ハープ・ノートの頭上に、モアイ像の様な顔を象った丸い岩が召喚される。コンポから降り、軽々とウェーブロードへと着地する。

 巨石に押しつぶされたコンポが爆発する。

 

「どうやったら、君を助けてあげることができたの!?」

 

 引きずり下ろしたところにグラビティステージを使用した。

 ハープ・ノートの足がウェーブロードから離れない。これで、しばらくは動けない。

 

「答えてよ!? ミソラちゃん!!」

 

 届かない、目の前にいるのに、言葉を伝えられるのに。

 

「私には何もいらない。スバル君もいらない! 私には、ママとの『歌の絆』があればそれでいいの!」

 

 心は届かない。

 足は動かせずとも攻撃はできる。ショックノートが放たれる。

 正面から来るそれを回避すると、後ろからの衝撃に撃ち抜かれた。振り返ると、そちらにもコンポがある。

 

「一つしか召喚できないと思っていた?」

 

 両脇から挟み込むように移動したコンポから弾きだされる音弾。痺れる体を無理に動かして正面に飛ぶと、またしてもマシンガンストリングに捕まる。弦から伝えられる衝撃と、再度放たれるショックノートが襲う。

 もうもうと立ち上る煙を見て、コンポと弦を一旦戻す。

 晴れゆく灰色の世界の中ではロックマンが倒れ込んでいた。

 

「僕じゃあ……君を、助けてあげられないの?」


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