流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第三十一話.歌の襲撃

 左手についた機械を見て目を擦った。アンテナが付いたヘッドパーツを取って頭をかく。表示されている数値がグングンと上昇していく。

 

「何か異変でも起きたのか?」

 

 トランサーの向こうから部下が何かを伝えようとしている。混乱しているようだ。何を言っているのか分からない。聞き返す前に悲鳴が上がり、通信が途絶えた。応答を呼び掛けても、帰ってくるのはノイズの様な雑音だけだ。

 

「ゼット波が上昇している。何かが近づい……」

 

 言い切る前に楽器を演奏するような音が体を突き抜けた。

 

 

 コダマタウンにつくとすぐにあの二人に捕まった。相変わらず目が血走っている。ここまで来ると嫌悪感すら感じてしまう。大きい方がミソラと一緒にいたかと聞いてくる。小さい方が『自分とミソラ似の少女が展望台から出てくる』のを見たらしい。危機迫った今までの二人を思い出し、否定しておいた。

 

「まあ、そうだよな~。こんな奴がミソラちゃんと知り合いなわけないよな?」

「マネージャーさんに、『ミソラちゃんに似た女の子が、アマケン行きのバスに乗った』なんて言って、迷惑でしたかね?」

 

 自分そっちのけで勝手なことを言う二人。

 キザマロを睨みつけるが、すぐに止めた。殴られることしかできなかった自分を思い出したからだ。

 

「ミソラちゃんのライブ、見たかったな……」

「今や大スターですからね? こんな小さな町じゃあ、やる気にもならなかったんでしょう?」

 

 抑えたそれはすぐに噴火する。

 

「ミソラちゃんはそんな子じゃない!」

 

 ミソラが今までどんな気持ちで歌って来たのか。それを知らずに吐いた言葉が許せなかった。驚いている二人を睨みつけた。

 

「何も知らない癖に……あの子の気持ちも知らないで、そんなこと言うなよ!」

「じゃあ、お前が何を知ってるんだよ?」

「っ!?」

 

 何を知っているんだろう?

 

「昨日まで、ミソラちゃんの名前すら知らなかったじゃないですか?」

 

 彼女に出会ったのは昨日だ。今日一緒にいた時間は、半日にも満たない。言葉を交わした時間はもっと短い。一時間、いや三十分もあっただろうか?

 

「お前こそ、ミソラちゃんのこと何も知らねえだろうが。口出しするな!」

「いるんですよね、やたら物知り顔の、ヒーロー気取りの、にわかファンって……」

 

 言い返せなかった。ここでも、ミソラを庇うことができない。

 

 無力

 

 ただ、言われるがままに口を閉ざすしかなかった。

 

「それより、なんか騒がしいですね?」

「ミソラちゃんが見つかったのかな? 行ってみようぜ!?」

 

 走り出す二人に、止めろよとも言えず、踵を返した。

 

「良いのか?」

「僕には……何も言える権利が無いよ……」

 

 バスの中でのやり取りを思い出し、ウォーロックもそれ以上は何も言わなかった。

 5,6歩歩いた時、背後からさっきの二人の叫び声が聞こえて来た。ただの叫び声ではない。痛みに苦しむようなものだ。

 

「え?」

「ビジライザーをかけろ!」

 

 条件反射だ。すぐに額のそれを下ろして振り返った。

 さっきまで話していた二人がぐったりと倒れている。そのすぐ近くには、ピンク色の少女。

 

「……嘘だ……」

 

 認めたくない。小刻みに首を横に振る。

 走り出す。

 姿は変わってしまったが、見間違えるわけが無い。

 

「ミソラちゃん!?」

 

 掛けられた声に、ミソラは振り返った。さっき別れたばかりの少年だ。この町に戻って来ていたらしい。

 

「スバル君……」

 

 姿が変わった自分を、すぐに見つけてくれた。

 今日の朝と同じだ。

 震えて、泣いていた自分を見つけてくれたあの時と同じだ。彼はすぐに自分のもとへと駆けつけてくれる。

 自然と足が彼に向く。

 

「止めるんだ! こんなこと!」

 

 足を止めた。

 自分を咎める言葉。

 否定する言葉。

 

「来ないで!」

 

 彼も皆と同じだ。

 詰められなかった距離は、まるで互いの心の様。

 これ以上は詰められない。

 近いようで、遠い。

 

「君は傷付けたくないんだ……だから、来ないで?」

 

 手に持ったギターを握りしめ、ウェーブロードへと跳躍した。

 

「私とママの歌を汚す奴ら……皆、消えちゃえ!」

 

 

 町の方から悲鳴とギターを弾く音が聞こえてくる。無差別に襲いだしたのだろう。

 

「あれはハープと電波変換したな。……相性は抜群ってか? クソ、行くぞ!?」

「……」

「……おい?」

 

 返事が無い。上を仰ぐウォーロックと対称的に俯いていた。

 

「僕には……何もできないよ?」

「あ?」

「ミソラちゃんを、助けられなかった僕には、何もできないよ」

 

 アマケンでの出来事が、一つ一つ甦る。

 

「僕は……ミソラちゃんに何もしてあげられないよ。戦ったって……」

「うるせえ!」

 

 自分の左手が飛んで来た。ジンジンとなる鼻を押さえる。

 

「だったら、このまま見過ごすのか? あいつの暴走を見なかったことにするのか?」

「それは……」

 

 トランサーの中から出て来たウォーロックを見るため、ずれたビジライザーをかけ直す。

 

「少なくとも、お前はそういう奴じゃないはずだぜ?」

「……ロック……」

「考えるのは後にしろ! このままじゃ、被害が増えるぞ?」

 

 音は大分遠くなっている。しかし、襲撃が終わっていないことに他ならない。

 

「行くぞ!?」

 

 トランサーに戻り、こっちを睨むように見ている。耳元まで上げる。それ以上は上がらない。

 

「ミソラを救いたいのか!? そうじゃねえのか!? はっきりしやがれ!!」

「っ!?」

 

 答えはとても簡単で、単純だ。思いのまま左手を突き上げた。

 

「電波変換 星河スバル オン・エア!」

 

 

 道行く人が、次々と倒れる怪奇現象。大スターを追いかけていた時の雰囲気はもうどこにもない。

 目に見えぬ恐怖から逃げ惑う人々に、容赦なく音を浴びせる。苦悶の表情を見て、次なる標的へと弦を引く。

 

「ミソラちゃん!!」

「……スバル君?」

 

 ミソラが今いる場所は、人間にはこれないはずの空の道だ。にもかかわらず、声がした方にスバルがいた。その姿は青く、先ほどとは大きく違っていた。まるで昨日の流星の様。

 

「君も電波変換出来たんだ……」

「もう、止めようよ!?」

「……またそれ? 嫌だよ……私は、闘うって決めたの!」

 

 

 ミソラの心を抱きかかえる手に力を込める。壊れない程度に。けど、いつでも壊せるように。自分にできるのかと言う疑問を隠すように話しかける。

 

「まさか、もう出会っちゃうなんて……ついてないわ。お久しぶりね、ウォーロック」

「FM星王の命令か?」

「気は進まないけど、任務ですからね」

 

 

 変わらないなとため息をついた。FM星にいたころから、この女はいい加減な様な、気分屋の様な……こんな感じだ。

 

「……狙いは俺が持っている鍵か?」

「”アンドロメダの鍵”ね? やめとくわ。か弱いミソラに、荒っぽいあなたの相手をさせるのは、気が引けるしね? あなたには手を出さないから、見逃してよね?」

「俺も女相手に本気を出す趣味は無い。地球人がどうなろうが知ったことじゃねぇ」

「あら、優しいのね? なら……」

「だがな……そうは行かねえみたいだぜ?」

 

 ちらりと、立ち上がった相棒に目を向けた。

 

 

 何ができるか分からない。けど、対峙すれば何かあるかもしれない。そう考え、ウォーロックに励まされるがままにここへ来た。

 まだ、答えは出ない。

 眼下では、年齢性別関係なく町の人々が倒れている。駆けつけた警察とサテラポリスが救出作業に入っているが、彼らも怯えているようだ。指揮系統も狂ってしまっているのだろう。機敏な動きとは言えない。

 

「僕は……君にこんなことしてほしくないんだ! だから……」

「分かったわ」

 

 伝わった。

 綻ぶ顔を上げる。

 

「パルスソング!」

 

 ウェーブロードに尻もちをついた。威力は大したことは無い。オックス・ファイアのブレスや、キグナス・ウィングの羽弾よりは低い。しかし、手足がしびれる。音波が衝撃へと変わり、内側から体中を駆け抜ける。

 

「君も、結局は他の人と同じなんだね?」

「……ミソラちゃん?」

 

 見上げた彼女は、今までは全く違う存在に見えた。展望台やアマケンの屋上で話した、響ミソラはもういない。

 

「私は、私とママの歌の絆を守る! そのためだったら、君にだって容赦しないわ!」

 

 それはミソラの宣戦布告。


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