流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


序章.出会い
第一話.星河スバル


 そこは3年前とはあまり変わらない。ここは都会から少し離れた郊外だ。観光名所と言ったら、NAXAに引けを取らない技術力を持つ天地研究所くらい。それも、この町からちょっと離れている。自然は前よりも少なくなったかもしれない。けど、あの緑のある公園と、綺麗な川は健在だ。

 

 あの有名な宇宙飛行士であり、科学者だった彼がこのコダマタウンを見たら、変わっていないなと安堵の声を漏らすだろう。しかし、それが来ることは永遠にない。

 

 その彼が住んでいた家では、一人の男が機械をいじくっていた。その隣では、まだ若さの残る一人の女性が心配そうに覗きこんでいる。男はちょっと小太りで、帽子から覗いている髪が八方に広がっている。いじくっているのはテレビだ。壁に取り付けられたそれを慣れた手つきで分解している。

 

「これが原因だな」

 

 小さな部品を手に取り、器用に交換していく。それが終われば残りはあっという間だ。動作確認を終え、組み立て直した。

 

「修理が終わりましたよ。あかねさん」

「ありがとう、天地君」

「ハハ……これぐらいのことなら、いつでも力になりますよ」

 

 あかねと呼ばれた女性は、直してくれた男性に礼をいう。愛想の良い言葉を返し、天地は立ちあがった。

 そのとき、テレビのそばに飾られている写真が眼に入る。あの日の朝、一人の男が手にして行った物と同じだ。自分のすぐそばにいる女性が映っている。その隣に筋肉質な男性が一人。そして、二人に挟まれるように幼い少年が一人。この家に住んでいた家族3人の写真だ。

 悪気があったわけではないが、その男性を見て、表情が曇ってしまう。これは誰にも責めることはできない。相手が相手なのだから。

 

「大吾先輩が消息を絶って……もう3年になりますか……」

「……ええ、早いものね……」

 

 あかねも返事を返す。喉から絞り出したような悲しみがこもった声だ。

 

「すいません。あの時……我々に、もっと力があれば……」

 

 悔しさに満ちた低い声が上がる。当時NAXA職員であり、無力だった自分が許せなかった。尊敬する先輩を救えなかった自責の念。いつまでたっても晴れない。

 

「NAXAは、天地君達は全力を尽くしてくれたわ……あなたが責任を感じる必要は無いわ。あれは事故だったのよ」

 

 世界最高の技術力を持ち、組織としてもトップレベルのNAXAですら手に負えなかったのだ。誰にも彼を……夫をはじめとする乗組員達を救うことなどできなかった。そう、自分に言い聞かせてきた。

 少なくとも、天地やNAXAを恨むことなどできない。仲間を失って悲しみに暮れていた彼らを攻めることなど、あかねには到底できなかった。

 暗くなっていく話題を変えるように、天地は拳を開き、声の調子を元に戻した。

 

「そう言えば、お子さんは今日から5年生でしたよね?」

 

 写真の真ん中に映っている少年を見ながら思いついた話題だ。だが、それもあまり良い話題ではないことを思い出した。

 

「相変わらず、学校には行っていないのよ」

 

 そうだったと心中で自分を責めた。

 

「無理もありません。大好きだった、尊敬していた父親が眼の前からいなくなってしまったんですから」

 

 あえて、亡くしたという言葉は使わなかった。多分、今もこの家のどこかにいる少年にフォローを入れる。でも、これは本心から来るものだった。大人である自分たちですら、この事実には耐えられなかった。自分も嘘だとつぶやき、涙を流したのを覚えている。それを、当時8歳だった少年に強いることなど誰にもできない。

 

「勉強の方は、通信教育や”ナビ”のティーチャーマンのおかげで何とかなってるんだけど……機械いじりや宇宙の勉強の方を優先しているのよ。宇宙飛行士になって、父さんを探しに行くんだって……」

 

 天地は下唇を噛んだ。ひたむきな純粋さが逆に悲しかった。

 不意にドアが開く。リビングに入ってきた少年に二人の視線が集まる。後ろ髪が逆立ち、アンテナのようになっている茶色い髪の少年だった。長袖の赤いシャツの手元はリング状に広がっている。最近の服の流行だろうか? その服の真ん中あたりでは、星の形をしたペンダントが揺れている。たしか、星河大吾がつけていたものだ。父の遺品なのだろう。膝あたりまでの紺色のズボンに、左腕には青色の”トランサー”をつけている。

 ちょっと見かけない格好をしているが、比較的整っているその顔もあり、意外と似合っていた。彼はこちらに見向きもせずに、玄関へと歩みを進めていく。

 

「スバル。こっち来てご挨拶なさい」

 

 母親の声に、スバルと呼ばれた少年はビクリと立ち止まった。

 別に気づかなかったわけではない。気づかないわけが無い。ただ、関わりたくなかっただけだ。しかし、母親に呼び止められた今、無視なんてできなかった。横に立っている30前後と言ったその男に、恐る恐ると近づき、仕方なく口を開いた。

 

「星河スバルです」


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