流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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2013/5/3 改稿


第十四話.炎渦の中で

 ゴン太は夜になるまでその場所にいた。大きく膨らんだその頬からはしょっぱい雫がぽたぽたと垂れている。

 

「俺が、もっと強かったら良かったのかな? そうしたら、一人にならずに済んだのかな?」

「ブルルルッ……力を貸してやろうか?」

「……え?」

 

 振り返ると、不気味さを含んだ赤い光が後ろに立っていた。

 

「ヒッ! な、なんだよ?」

「オレ様はお前の味方だ。強くなりたいんだろう? だったら、オレ様がお前の力になるぞ」

「ち、力を貸す……? ど、どうやって?」

「オレ様を受け入れろ……お前に恥をかかせたやつを痛い目に合わせて、委員長というやつに、力を示してやれ」

 

 こんな正体不明なヤツの、胡散臭い言葉。誰も信じない。いくら良い意味で単純なゴン太でも、さすがに信じない。

 けれど、それは普段の彼ならばの話。孤独でもろくなった彼の心は、迷ったあげく屈してしまう。

 

「俺……一人は嫌だ……」

 

 それが、一週間前の話。ゴン太がルナにブラザーを切ると言われた、あの日の出来事……

 

 

 野太い雄たけびが上がる。それは大きく空気を押しのけ、振動を起こし、公園の木々を揺らす。その様を、赤いFM星人、オックスはご機嫌な様子で観賞していた。

 

「ブルルルッ! さあ、ゴン太! 思いっきり暴れろ! お前の力を見せつけてやれ!!」

 

 化け物になったゴン太を煽るオックス。怯えて動けないキザマロの隣で、ルナは震える足で立ち上がった。

 

「あ、あんたがゴン太を! 許せない……私達のゴン太を返しなさい!」

「良く言うぜ! あいつがああなった原因はお前だよ!」

「……え?」

 

 闘牛をも退けそうなルナの気迫が珍しく止まる。

 

「ど、どういうことよ?」

「うるさいやつだ、黙っていな!」

 

 オックスの体から、唐突に強烈な光が放たれた。

 

「キャアァァ!」

「うわあ!」

 

 それに意識を奪われ、二人は糸が切れたかのようにその場に倒れた。

 

「さあ、ゴン太! いや、オックス・ファイア!! 全部壊せ! 全部焼け!! そうすれば、委員長もお前の力を認めるぞ!!」

「ブルルオオオォォォォッ!!」

 

 先ほど以上の蛮声。二輪車お断りの看板を掲げる公園の出入り口。そんな遠いところにいるスバルの元にまで圧力が届いてくる。服もズボンも後方へと引っ張られる。立つのがやっとだ。飛ばされそうになるビジライザーを慌てて押さえつける。

 

「スバル!」

「う……うぅ……」

 

 もう一度、炎の中心にたたずむ彼を見る。やはり大きい。自分の倍くらいありそうだ。

 

「言っただろ? あいつらは地球を破壊しようとしている。奴を倒すしかねぇぞ!?」

「……ぼ、僕しか、いないんだよね?」

 

 トランサーの中にいる彼と目を合わす。

 

「いや、『俺とお前』……二人しかいない」

「二人……」

 

 数秒目を閉じた後、こくりとうなずいた。もう一度相手を見る。オックス・ファイアは興奮しているようだ。いつ破壊活動を始めてもおかしくない。

 怯えが抜けない目で相手を見据え、トランサーを高く持ち上げた。

 

「電波変換 星河スバル オン・エア!」

 

 青に緑を交えた光が螺旋を描き、スバルを包みこんだ。

 

「手始めに、この町を火の海にしちまえ!」

「さ、させないよ!」

「ん?」

 

 声に振り返ったオックスが体を大きく仰け反らせる。そのすぐそばを凝縮された緑の光が通り過ぎて行った。飛んできた方向には、左手を構えている少年がいた。その手にいる顔には見覚えがある。

 

「ウォーロック! キサマから来てくれたのか、手間が省けたぜ!」

「オマエが最初か?」

「そうだ! だが、オレ様がこの星に着いたのは一週間くらい前だ。今頃もう何人か来ているはずだぜ? キサマに勝ち目はない。さあ、”アンドロメダの鍵”を返してもらうぜ!」

「誰が渡すか!」

 

 顔見知りらしい二人のやり取りを黙って見ていた。しかし、交じられていた、とある単語が気になった。

 

「ロック、”アンドロメダの鍵”って?」

「今は気にするな、来るぞ!」

「ゴン太! こいつらはお前が委員長に認めてもらうのを邪魔したいらしいぜ。ねじ伏せてやれ!」

 

 オックスは赤い光に代わり、ゴン太……オックス・ファイアの体内に入って行く。

 

「ブルルッ、お前も邪魔するのか!?」

「っ! ウォーロック、倒しても牛島さんは……」

「大丈夫だ! 消えるのはオックスだけだ。ためらうなよ!」

「う、うん!」

 

 身構え、臨戦態勢に入る。歯を食いしばり、恐怖を体内に閉じ込めた。目の前の悲惨な現状に背中を押され、体の震えも止まった。

 

「ファイアブレス!」

 

 ガスマスクのような口から吐きだされる炎の柱。空気を焼き焦がす業炎を前に、スバルは上方に大きく跳躍した。

 

「バトルカード ガトリング!」

 

 宙を舞いながら、ウォーロックの体を変形させる。4つの銃口を持ったそれは体を回転させ、次々と弾丸を放っていく。しかし、堅い装甲がそれを阻み、キンキンと空しくはじき返した。

 

「いまだ、タックルをかませ!」

「ブルォオ!!」

 

 オックスの合図で、オックス・ファイアが肩を突きだして飛びこんでくる。まだ空中に身を残しているスバル達はよけられない。

 

「えっと……これだ! バトルカード パワーボム 3枚!」

「え? おい!?」

 

 反論の間を許さず、3枚のカードを無理やり押しこんだ。左手も右手と同じく5本の指を備えた、元の形へと解放される。手元に召喚された緑の弾を掴み、交互に全力で振るった。

 耳を張り裂く三つの爆発がオックスを巻き込む。勢いを殺された突進はスバルの着地と退避を許してしまう。しかし、回避は許さなかった。逃げ遅れた右足を巻き込む。

 スバルがシーソーに叩きつけられるには充分だった。木片が空を飛び、鉄製の部品がスバルへのダメージをさらに大きくした。背中を突き刺すダメージがスバルの動きを鈍らせる。

 それを逃さない。即座に追撃の炎を吐く。倒れるスバルの周辺にあるもの、全てを灰に変えるかのごとく炎が爆散する。勝った。敵をたたきのめした快感が、一人と一体の口元を緩める。

 直後に緑の壁が炎を突き破り、その後ろにいるスバルがカードを取り出した。盾を収めたウォーロックがそれを受け取る。

 

「バトルカード ワイドソード!」

「ぐう!」

 

 オックス・ファイアがとっさに放った拳をかわし、すれ違う。胸元から肩にかけてぱっくりと割れたような傷が付く。

 着地したスバルは前のめりに倒れた。拳は当たっていない。右足が先ほどのタックルの強さを訴える。すぐに逃げようと振り返るが遅かった。頭の角を前に出し、距離を詰めてきていた。

 動けと脳が言う前に、体は動かされていた。鉄棒をなぎ倒し、ブランコの柱を大きく歪ませようやく停止する。指一つ動かせない痛みが全身に走る。

 触覚以外の感覚器官が伝えるのは、勝ち誇ったような雄たけびだけだった。


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