流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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諸事情により、毎日更新に変えることにしました。
急な変更申し訳ありません。


第百三十八話.アンドロメダ

 地球と、そこに住む最愛の人たち。それを守るために、ロックマンは最悪の敵に挑む。それはFM星の最終兵器、AM星の命を食いつぶした孤独の塊。

 アンドロメダはロックマンを獲物と捕らえたのだろう。4対の『指』を大きく広げた。奥にある飲み込み口が顔を覗かせる。

 それを見ても、ロックマンは動じない。

 

「スターブレイク!! ファイア・レオ!!」

 

 AM三賢者の一人、レオ・キングダムの力を身に宿す。この変身は三種類のスターブレイクの中で最も破壊力に長けているものだ。出し惜しみせずにすぐさま奥義を放った。

 

「スターフォースビックバン!! アトミックブレイザー!!」

 

 巨大な火炎が渦を巻いて放たれる。アンドロメダの巨体に外すわけも無く、直撃する。この奥義には信頼があった。当時は強敵だったジェミニ・スパークBも、タフネスなウルフ・フォレストもこの一撃で倒れたのだ。だが、アンドロメダは次元が違う。得られた成果は『指』の数本を焦がす程度だったのだ。何事も無かったかのようにそこに存在している。

 この一撃で仕留められると思っていたわけではない。それでも、予想以上にダメージを与えられなかった。その現実がスバルとウォーロックに精神的な負担をかけた。

 

「そ、そんな……」

 

 明らかに落胆するロックマンを見て、高みの見物に浸るFM星王は高笑いだ。

 

「ハハハハハ!! 貴様らごときが敵うものか!! アンドロメダよ、ギガミサイルだ!!」

「っ! 来るぞスバル!!」

 

 アンドロメダの狩りが始まった。周囲に電波が収束し、巨大なミサイルを召還したのだ。一直線にロックマンの正面から向かってくる。

 

「レーダーミサイル!!」

 

 スターキャリアーから素早くカード使用し、対抗する。強力な威力を誇るはずのレーダーミサイルは、アンドロメダの物と比べると一回り小さかった。ミサイルたちはお互いに相殺し合い、爆ぜた。だが、ギガミサイルの威力は凄まじく、爆風がレーダーミサイルのものを飲み込み、ロックマンの元まで伸びてきた。

 

「うっ!」

 

 体を焼くような熱風がロックマンを襲う。視界が炎で満たされようとする。慌てて後ろに飛びのき、次の変身を使った。

 

「スターブレイク! グリーン・ドラゴン!!

スターフォースビックバン! エレメンタルサイクロン!!」

 

 木の葉の竜巻が熱風を吸い込みながら突き進む。ギガミサイルの威力を含んだカウンターだ。草と炎の複合技がアンドロメダを飲み込んだ。

 

「やったか!?」

 

 これには期待が持てた。今までに放ったことの無い、アトミックブレイザーをも上回る最大の攻撃だった。

 そんな期待は、星王の不気味な笑みにかき消された。恐る恐ると消え行く渦の中を窺うと、ゆっくりと影が浮かび上がってきた。結果は悲惨なものだった。表面にいくつか傷を付けた程度だったのだから、目も当てられない。

 

「これでも……ダメなの……?」

「リュウセイグン!」

 

 皮肉にも星王の掛け声がスバルの意識を集中へと誘った。次にアンドロメダが召還したのは隕石だった。

 頭上から降り注ぐ隕石をかわそうと後方へと飛び下がる。狙い済ましたかのように、そこにも一つ。今度は前へと飛んだ。それが過ちだった。アンドロメダの『指』が大きく開いていた。

 

「食らえ、ビックバンイーター!」

「ファイアバズーカ!!」

 

 足を地面から放し、炎の大砲を放った。反動で体が後ろへと吹き飛ばされる。『指』はロックマンを掠めて床へと食い込んだ。そこから発せられる衝撃波がロックマンを襲った。体を粉々にするような余波に手足が吹き飛びそうな感覚に陥る。

 

「な、何今の……?」

「チクショウ……っ! まだ来るのか!!」

 

 今度はギガミサイルとリュウセイグンの波状攻撃だった。床に寝転がっているロックマンには避けられそうに無い。

 

「スターブレイク! アイス・ペガサス!!

スターフォースビックバン! マジシャン・フリーズ!!」

 

 本来は相手を氷付けにする業だが、それを氷壁として自分の前に張り、盾代わりとした。ミサイルと隕石が音を立てて壁にぶつかっていく。数発受け止めたところで、氷壁にヒビが走った。まずいと思った直後には崩壊し、ミサイルと隕石の嵐が襲い掛かってきた。

 

「バリア!!」

 

 無意味ではないだろうかと思いながらも、バトルカードで身を守ろうとする。そんな足掻きを嘲笑うようにバリアごとロックマンを吹き飛ばした。

 クルクルと回る紫色の宇宙を見ながら、スバルは事態を甘く見ていたのだと後悔した。アンドロメダのカギを取り返された時点で、自分達の敗北は決まっていたのだ。三賢者から貰ったスターフォースも一切通じない。こんな化け物に敵うわけが無い。

 

「ご、ゴメン……ロック……僕じゃあ……」

「弱気になってんじゃねえ!!」

 

 ウォーロックが怒鳴った。これほどの強敵を前にしても、彼は一切怯んでいなかった。

 

「まだ手は残ってるぜ。俺たちの最大威力の技がな」

「え……?」

 

 そんなものあるわけが無い。ロックマンの最大技は、先程アンドロメダに一蹴された三種類のスターフォースビックバンだ。これ以上の手は無い。スバルの訴えは分かっているようで、口にする前にウォーロックが答えた。

 

「俺の中にある三つのスターフォースだ。これを収束してロックバスターにチャージして打ち込んでやれば、さすがのあいつもひとたまりもねえだろうよ。もっとも、その後はスターフォースが使えなくなっちまうだろうがな」

 

 今まで、ロックマンはスターフォスを自分の身体に還元して戦ってきた。ロックマンの戦闘能力を大幅に引き上げる力を、直接アンドロメダにぶつけようというのだ。それも一度に三つだ。

 確かに、瞬間的な威力には期待が持てる。

 

「もし、それでも……ううん、やろう!!」

「へっ! いい顔するじゃねえか」

 

 頷き合うと、這いつくばったまま前方を見据えた。こうしている間にも、アンドロメダがゆっくりと近づいてきていたのだ。もう得物を仕留めた気でいるのだろう。

 

「バトルカード!!」

 

 右手をジェットアタックに、左手をリュウエンザンに変える。動けない身体をジェットアタックの推進力に引っ張らせて、左手のリュウエンザンを構えた。その行為は、星王から見れば自殺行為でしかない。

 

「ついに狂ったか。食らえ、アンドロメダ」

 

 アンドロメダが誘うように『指』を開き、巨大な口を露わにした。もちろん、ロックマンはそんな気など無い。

 

「ホタルゲリ!!」

 

 足に込められた力を解放し、全力で床を蹴飛ばした。慣性の法則に従い、ロックマンはアンドロメダの『指』を飛び越えて、額へと飛び込んでいく。

 星王の驚く声を背景に、両手の装備を解放した。リュウエンザンが消えた左手、そこから放射される三色の光。ウォーロックの口内には赤・青・緑のラインが入った球体が出来上がっていた。

 

「いっけえぇぇええええっ!!」

 

 スバルとウォーロックは渾身の一撃を放った。スターフォースの力を宿したロックバスターがアンドロメダの額を穿った。

 悲鳴のような音を立ててアンドロメダが床に転がる。遅れてロックマンも墜落する。受身を取る余裕もなく、全身を強く打ちつけた。体中が痛くて、起き上がることもできない。それでも二人は笑みを浮かべていた。

 

「ば、馬鹿な!!」

 

 FM星王が初めて取り乱した。アンドロメダが打ち落とされたことが信じられないのだろう。駆け寄って、ロックマンが砕いた額を見て驚愕しいる。

 ふと、スバルは思った。今なら星王は話を聞いてくれるかもしれないと。

 

「ねえ、聞いてよ……」

 

 星王はまだ落ち着けていないようだったが、スバルの声に振り返った。

 

「父さんたちは、君たちと友達に……ブラザーになるためにFM星に向かったんだ。地球では、絆と言うものを一番大切にするんだ。それがあったから、弱かった僕もここまで来れた。だからさ……お願い、僕たちを信じてくれないかな?」

 

 星王は切り札を失ったのだ。だからこそ交渉を持ちかけた。首を縦に振ってくれるかもしれないと。

 そんなスバルの思惑は外れた。星王の動揺はいつの間にか消えていた。何者も寄せ付けない、冷たい目をスバルに向けていた。

 

「絆など幻想だ。ならば王権に目がくらんだ親兄弟が余の命を狙うなど、あろうはずがない」

 

 「……え?」とスバルは呟いた。だが、それは星王には聞こえなかったらしい。

 

「アンドロメダよ、余の電波を喰らえ!! そして真の力であの者たちを消し飛ばせ!!!」

 

 星王が己の周波数を跳ね上げた。存在しているだけで宇宙に影響を与えるほどの電波だ。それを収束してアンドロメダの口に放り込んだのだ。

 アンドロメダの目がチカチカと点滅する。そして赤く染まる。不気味な音を立て始める。穿たれた部分が急速に修復されていく。見る見るうちに、完全に元に戻ってしまった。

 絶望はそれだけでは留まらない。宙に浮いたかと思うと、『指』を広げて口を剥き出しにする。すると、そこからぱっくりと二つに分かれ始めたのだ。

 

「ようやく、エネルギーが溜まりよったか」

 

 笑みを浮かべる星王。声も出せずに見上げるロックマン。彼らの前で、アンドロメダは形を変えていく。

 それは人間のような姿だった。『指』だった部分は両手になり、頭頂部が開いて中から青白い顔が現れる。細い胴体の中心にはコアと思われる緑色の球体。

 それがFM星最終兵器、アンドロメダの真の姿だった。

 

「ハハハハハ! さあ、邪魔者を消せ! ネビュラブレイカーだ!!」

 

 アンドロメダの手のひらがロックマンに向けられる。そこに設けられた砲口から放たれるレーザー。圧倒的な力にロックマンは吹き飛ばされた。


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