流星のロックマン Arrange The Original   作:悲傷

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皆さん、お久しぶりです。

長い間休載してしまい、申し訳ありませんでした。
待っていてくださった皆様、ありがとうございます。

今日より連載を再開させていただきます。


第百二十八話.あの日を知る者

 ジェミニのエレキソードが激しく火花を散らす。タイボクザンで受け流し、ロックマンは後方へと距離をとる。追撃を仕掛けようとしたジェミニは足をもつれさせて、激しく転倒した。

 ジェミニが電波変換をしてから僅か数分。ジェミニ・スパークBの姿は見るも無残なものに変わっていた。根っこから折られた角に、胸や腹に刻まれた深い切り傷。足の数箇所には打撲跡があり、右腕を覆っていた分厚い装甲は完全に壊されている。焦点の定まらないオレンジ色の瞳は現実を拒んでいるかのように震えていた。

 身の程をわきまえない愚か者の当然の末路だった。ジェミニ・スパークBだけでロックマン・グリーンドラゴンに勝てるわけが無いのだ。

 

「なぜ、だ……? なぜ、雷神と呼ばれた俺が……膝をついている?」

 

 力の入らない足を無理やり踏ん張らせ、右手のエレキソードを杖代わりに立ち上がろうとする。その剣の輪郭も不安定に揺れており、今にも消滅してしまいそうだ。これがかつてはFM星王の右腕と謳われ、ロックマンを追い詰めた強者であるとは誰も思わないだろう。

 まともに立つ事すらできなくなったジェミニに、スバルとウォーロックは情けをかけなかった。止めを刺そうと、持っているバトルカードの中から破壊力のある物を選ぼうとする。その思考を遮ってきたのは唐突に沸き起こったジェミニの笑い声だった。張り詰めていた風船が耐え切れずに爆発するような、理性も思考も全てを投げ捨てたものだった。

 

「アハハハハハ!! そうだ、ツカサが悪いんだ!! ハハッ!! あんな出来損ないの屑と電波変換なんざしたから、この俺の力が霞んじまったんだ!! 俺が弱かったわけじゃない!! ツカサが足手まといだったんだ!! もっと優秀な……いや、せめてまともな人間に取り憑いていれば、こんなことにはならなかった!! そうでなければ、この俺がお前らごときに負けるわけがあっ!!」

 

 ジェミニ・スパークBの頬をロックマンの右拳が打ち抜いた。ウェーブロードを転がるジェミニに更に拳を振りおろす。

 そこからはもう戦いでもなんでもなかった。生に醜く執着するジェミニに、ロックマンが引導を渡すだけの作業だ。ジェミニが我武者羅に振るう剣やロケットナックルを軽々といなし、細かい攻撃を加えてゆく。ジェミニの動きは徐々に弱まっていき、ついには膝を突いて動かなくなった。もう立ち上がる気力すらないようだ。

 ジェミニ・スパークBの目が何も映していないことを確認すると、ロックマンはタイボクザンを召還し、その額を正確に貫いた。

 

「……ェ……様……」

 

 ジェミニを構成していた電波エネルギーが崩壊して行く。そこに一雫の涙が静かに零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「ツカサ君!」

 

 ジェミニを倒したスバルが真っ先に考えたのはツカサの安否だった。電波変換を解くことも忘れて、天地に抱えられているツカサの元へと駆け寄った。

 ツカサの表情が見えるところまで近づくと、スバルは自然と頬を緩めた。戦いを見届けたのだろう、酷い火傷を負っているにもかかわらず、穏やかな寝顔を浮かべていた。

 代わりにロックマンを迎えてくれたのは、天地の笑顔だった。だが、いつもの優しいものとは違い、無理やり顔に貼り付けたようなものだ。

 

「大丈夫だよ。今の医療技術なら、うちの医務室の設備とスタッフでも充分助けられる。……ところで、スバルくん……君はいったい……?」

 

 天地の表情が引き締まり、厳しいものに変わる。それを見て、もう隠し事はできないのだとスバルは改めて気づかされた。約束どおり、今までの出来事も、これから行おうとしていることも、全てを話さなくてはならない。

 スバルは覚悟を決めた。切り出そうとしたとき、しわがれた声が聞こえてきた。

 

「天地君、何かあったのかの?」

 

 二人ともそちらに気を取られてしまった。ハンティング帽を被った老人が、正門を越えたところだった。片手に持った杖をコツコツと鳴らしながらスバル達に近づいてくる。

 スバルは失礼と分かっていながらもその老人に深々と見入ってしまった。どこか見覚えがあったからだ。一方、老人はツカサに気づいたようで「デパートの……」と驚いたように呟いている。そのとき、帽子の下から深い皺に囲まれた目が見えた。

 やっと気づいた。学校の売店でいつもヤキソバパンを食べていたおじいちゃんだ。

 

「シゲさん……!? 何でここに!!?」

「久々に足を運んでみたくなっての……いや、ここに来るとな。NAXAのことを思い出すのじゃ」

 

 老人の登場に硬直していた天地がやっとの思いで声を出した。どこかで聞いたことのあるその名前にスバルは記憶を奮い起こして思い出そうとする。すぐに思い出せた。天地のアルバムだ。唐突にスバルに電流が走った。

 なぜ、今まで気づかなかったのだろう?

 

 

 

 

 

 

 ツカサを医務室のスタッフに任せ、スバル達は天地の研究室に移動していた。

 スバルとミソラからの説明が終わると、天地は腕組みをしたまま体を傾けるように大きく頷いた。そして二人の隣で実体化しているウォーロックとハープに目を移す。化け物の正体を知った彼だが、その視線に敵意は込められていなかった。

 

「FM星人の彼らと融合して、電波の体になれる……か。……にわかには信じがたいが、あんな光景を見せられたんだ。受け入れるしかないな」

「い、以前私が起こした事件で……わ、私を止めてくれたのも、スバルくんだったのですね……あ、ありがとうございました」

 

 天地の隣にいる宇田海はぺこりとスバルに頭を下げた。どうやら、キグナスと電波変換したときのことを完全に思い出したらしい。お礼を述べてはいるが、その表情はいつも以上に暗いものだった。

 

「……僕は『きずな』に行かなくちゃならないんです。アンドロメダを止めれるのは、僕たちだけだから

 ……だから……」

 

 スバルの視線はある人物へと向けられた。そこには先程の老人が目を閉じて座っていた。

 この何の変哲もない老人が……スバルのちょっとした顔見知りとなっていたお爺さんこそが、地球を救う最後の鍵だったのだ。

 

「お爺さん、教えてください……あなたが隠した、地球に落ちてきた『きずなの一部』がある場所を……」

 

 老人はスバル達の説明が終わったのだと理解すると、重い溜め息を吐き出した。そこには『きずなプロジェクト』の元総責任者として、長年溜め込んできたあらゆる物が凝縮されているかのようだった。

 

「そうか……キミが大吾くんの……顔をよく見せておくれ……」

 

 『うつかりシゲゾウ』は懐から老眼鏡を取り出し、杖を突いて椅子から立ち上がろうとする。それを制し、スバルの方から前に進み出た。見やすいように、膝を突いて目の高さも合わせてあげる。皺だらけのゴワゴワとした手がスバルの目尻と頬を撫でた。

 

「おお、目元が大吾くんにそっくりじゃ……いやはや、なんと懐かしい……」

 

 三年前に亡くなった部下の息子を前にして、シゲゾウも思うところがあったのだろう。堀の深い目に、涙がかろうじて留まっていた。

 

「お爺さん……お願いです。協力してください! なんとしても、僕は宇宙に行かなくちゃならないんです!!」

 

 シゲゾウは目元を拭うと、スバルの目を覗き込んできた。スバルの瞳に宿る意志を確かめているのだろう。

 その時間はほんの数秒で終わった。シゲゾウは杖を取って立ち上がった。

 

「分かった……ついて来なさい」




展開や文章が拙くなっていますね?
久々だから……と言い訳させてください。
今後、時間をかけて実力を取り戻していきます。

また、今回から不定期連載とさせてください。
いきなりまた二週間に一話更新というペースは辛いです。

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