Episode Magica ‐ペルソナ使いと魔法少女‐   作:hatter

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 戦いのあと(2010,5/7)

 

 

「――ああ、そうだ。…ゆかりや他の皆にも伝えてくれ。詳しい事は集まった時に話す……頼んだぞ、明彦」

 

 会話を終えて携帯電話を折り畳み、溜め息が漏れる。鎮痛な面持ちと低い声色が美鶴の心情を表していた。場所は魔女の結界ではない。夕暮れに染まりかけている人気のない廃墟の外。真っ赤な太陽に照らされ、美鶴の赤い髪がより赤に深まっている。

 

 電話の相手は長年連れ添った自分と同じ年のメンバー、真田明彦。取り敢えず用件は手短に話し、他のメンバーへの伝達を真田に頼んだ。理由を話した時は携帯越しで質問責めにまで発展しかけ、今さっき落ち着かせ電話を切ったのだ。

 

「どうするおつもりで?」

 

 数分前、美鶴が手配し到着した車、リムジンの扉付近に立つマミから投げ掛けられた。マミを見れば心配そうな眼差しを送られていた。但し心配なのは美鶴自身の事ではない。意識が向けられているのはリムジンの中に寝かされているスーツを着た一人の女性だった。視線をマミから中に居る女性へと移す。

 

「責任を持って女性は桐条グループが保護する。この件に関しては、桐条グループも大きく関わっていると言わざるを得ん。今後の事を考慮するなら尚更、無視できん」

 

「そうですか。でも桐条グループが関係してるって」

 

「……その事についてはあまりおおっぴらには話せないんだ。時期が来たら話させてもらう、すまない。…謝ってばかりだな」

 

「いえ、そんな事。無理に言わなくても大丈夫です」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

 礼を言って微苦笑を浮かべる美鶴。桐条グループ関連の事は一般人のマミには言いづらいものが必然的に多くなる。その所為で迷惑や不便を強いるとなると、美鶴の良心も痛んでくる。

 

 リムジンから少し離れた所にほむらと順平、まどかとさやかにキュゥべえが集まっていた。

 

「これからあの人どうなんの?」

 

 さやかの顔は明らかに不安が滲んでいる。腕に寄せられるまどかも不安を隠しきれていない。なにせ結界の中では美鶴や順平も予想にしなかった出来事が起きていたのだ。その分衝撃も大きかった。騒動の中心となった人物は瞼を閉じて眠っている。魔女と戦う直前、ほむらが助けたスーツ姿の女性。

 

 魔女を倒した後の事を思い出せばますます疑問が募るばかり。それを踏まえるとこの女性の処遇がどうしても気になる。

 

 眠っている、とされる女性だが気を失っているのであって、睡眠しているのではない。目が覚めても会話すらまともに出来ない廃人のように呻くだけ。なので状況を混乱させないためにほむらの魔法で意識を奪っている。魔法にもいろいろあり、ほぼ全ての魔法少女が初期に会得する魔法がある。治癒と簡単な暗示の魔法。この内ほむらが女性に使用したのは暗示の魔法。直接魔力を対象へと流し込む事で意識を刈り取ったりできる。これの延長線となると、精神的に弱った人などならある程度の行動を操ることが可能になる。ただし元々魔法の性質が催眠や幻惑、精神干渉の類の魔法少女と比べるとその精度と規模、影響力は雲泥の差もあり、魔法少女相手には効き目もない。オプションというのに変わりなく、魔法少女となった副産物に近い物。

 

 閑話休題。

 

 結界で起きた事を考えるとさやか達が心配するのも無理もない。順平もどうなってしまうのか見当もつかないが、二人をこれ以上心配させないよう明るく振る舞った。

 

「大丈夫だって。病院に連れて行きゃあ助かる見込みあるんだしよ。さやかもあんまり聞いた事ねぇだろ、これで死んだなんて人」

 

「そうだけど…」

 

「全国でも発症した人の数は多かったけど、死亡者はほんの数人。助かる可能性はある筈よ」

 

 優しく語りかけるほむらだが、内心はさやか以上に整理がついていない。経験した事のない現状にこれまでの知識と思惑が通用するかどうか全くの不明。明瞭としないこれからに不安が支配し、暗澹たる心持ちである。さやかへ向けた言葉も、本当は自分を紛らわすためなのかほむら自身も分からない。

 

 ふとまどかを見る。疲労の色が顔に出ていた。今日の魔女退治にはほむらとマミも同行する事で楽観的に赴いたのだろうが、結果、思いも寄らないハプニングが起きた。日常から一変、前触れもなく生死の狭間を垣間見る体験をしたのだから当然と言える。一歩まどかに近付き声をかける。

 

「大丈夫まどか? なんだか顔色が悪いわ」

 

「そう、かな? わたしは大丈夫だよ。それよりほむらちゃんも大丈夫?」

 

「私こそ大丈夫よ、何ともないわ。貴女の方が心配ね。…まどか嘘は駄目よ、無理しない方が良いわ」

 

「あはは、やっぱりバレちゃってた? ホントはあまり大丈夫じゃないみたい…」

 

 さやかの腕から離れてまどかも一歩踏み出してきた。表情だけ見ると深く読み取らなければ何ともなさそうだが、膝や肩もまだ小刻みに震えている。まどかが震えているのを見ていられず、肩に左手を置くと震えが止まった。

 

 単純な怯え。人が感じやすい感情の一つ、恐怖。そして最も周りに伝播しやすい感情。命に対する脅威である死がその代表となる。戦いを知らないまどかなんかが、そんなものに囚われ続けていると精神に支障をきたし兼ねない。不安と恐怖を払拭するため、触れた手から出来るだけ温かな魔力を送り込む。恐怖で凍えた氷のような心を温めるイメージを浮かべて。

 

 次第にまどかの顔にも生気が戻り顔色も良くなった。これで心配もないだろう。

 

「ありがと、ほむらちゃん。ほむらちゃんの手、あったかいね。わたしの手はちょっと冷たいや」

 

 置いた手にまどかの小さな手が重ねられる。

 

「手が冷たい人は心があったかいって言うわ。まどかもきっとそうなのよ」

 

「えへへ、ほむらちゃん」

 

 もしこの場に仁美が居たら間違いなく『きましたわー!』と歓喜に叫ぶような状況。幸せ臭を漂わせるほむらとまどかを横目に、順平とさやかがニヤニヤと意味深な笑みで会話を始める。

 

「おうおうおう、見せつけてくれるじゃねーか。ほむほむの奴まどっちとはあんな仲だったのか?」

 

「いやぁー親友であるあたしの知らない内にほむほむと急接近してたのは驚きですわー。さやかちゃんも寂しくなっちゃうわー」

 

「あれ、さやかお前、彼氏いんじゃねえの? 恭介だっけか。ま、オレっち彼女? いるけどな!」

 

「いやだからそれ関係ないって! てか順平さん彼女いんの!?」

 

「順平さん、変なあだ名つけないでと言ってるでしょ!! まどかもきっと嫌がってるわ」

 

 別のところでまどかにもあだ名がつけられているのを聞き取り、順平に詰め寄る。この際自分にあだ名が定着するのは目を瞑るとして、まどかにつけられてしまうのは頂けない。

 

 にやりと順平の笑みが深まる。食いついたほむらを視界の端に置いてまどかに聞く。

 

「まどっちは嫌だったか?」

 

「え、えっと、わたしは別に嫌という訳じゃない、かな? ほむらちゃんのほむほむもとっても可愛いと思うよ?」

 

「ほむほっ――!」

 

 ほむらの中でまどかの台詞が反響を繰り返す。『ほむらちゃんのほむほむ』この響きの良さのなんたるものか。元凶となった順平など最早彼方へとフェードアウト。まどかにそう呼ばれるなら良いのではと思い始めたが、慌てて振り払いトリップしかけた意識を取り戻す。

 

(落ち着きなさい暁美ほむら! このままでは順平さんの思うつぼよ!)

 

 気をしっかり持ち、正面に立つ順平の策略を阻止すべく意識を向けた。取り乱していては相手の狙い通りで弄られ続ける事になる。それはどうあっても避けねばならない。さやかと順平が二人揃って標的を一つに絞れば、立ち向かって打破する道が閉ざされる。まずは火種となった順平から――

 

「それでも私は認めないわ。今すぐやめなさ…あれ?」

 

 一体どこへやら、順平の姿がなく忽然と消えていた。まどかも見当たらずマミや美鶴も見えない。リムジンの中で動くものが目に入りそれを見た。目を凝らして黒いガラスの向こうを覗うと、こちらに手招きするまどかだった。どうやらまどかの台詞が頭の中を巡っていた時間が自分では気付けぬほど長かったらしく、一人残されていた。まさかそんなに時間が経っていたとは夢にも思わず、自身に驚愕する他なかった。

 

「ほらほら、早く。ほむら待ちよ」

 

「えっ、ちょ!?」

 

「居なくなってたのに気付かなったとか、あんたどんだけよ。順平さんも弄るの飽きて乗ってるから」

 

 背中を押すのは動かなくなったほむらの回収を引き受けたさやか。呆れているのか、それとも普段は才色兼備で優秀なほむらの抜けた一面を見て世話を焼きたかったのか、皮肉とも取れない微苦笑が張り付いている。

 

 押されるがまま開けられたドアからぐいぐいと車内に乗り込まされる。傍から見るとまるで誘拐現場のようなシーンだが待たせているのはほむら。抵抗など出来たものか。さやかの押しから逃れるため自分で足を踏み入れる。車内にはほむらとさやかを除く全員が揃っていた。スーツ姿の女性も横に寝かされて乗せられている。

 

 一歩奥へ入ると芳醇なアロマの香りが鼻孔をくすぐった。上品な甘い香り。しかしいつまでも残るしつこい物でなく、鬱陶しく思わない濃さで保たれている。内装も豪華な作りとなっており、全ての一つ一つが職人の手によって施されていると感じられた。光沢のあるシーツに車外と隔絶するビロードのカーテン。どれを取っても到底一般ピープルが手の届くものではない。

 

「うわぁ、リムジンとか初めて乗っちゃった」

 

 奥へ進むと車体が左右に僅かだが揺れる。空いている席に座り、全員が揃ったのを美鶴が確認して運転手に告げた。

 

「では…出発してくれ。場所は見滝原病院」

 

「えっ。桐条さんこの人、見滝原病院に運ぶんですか?」

 

「ああ、話も既につけてある。皆もそこに向かってもらっている。何か用事でもあったか?」

 

「えっと、まぁ、用事なのかな?」

 

「そうか。なら君もそこで済ますといい」

 

 ここで会話は途切れた。聞こえるのは小さなエンジン音、それっきりさやかは返さず静けさが漂う。ほむらはまどかの方を目だけ動かした。静かに口を結んで喋り出すつもりはないらしい。帽子の下にある順平の表情は何か思い詰めているのか一点を見つめている。美鶴も順平同様、腕を組んだまま瞬きしかせず、思い詰めている。

 

 寝かされた女性を心配そうに眺めながら隣に居るキュゥべえを撫でるマミ。カーテンの間から射し込む夕日が黄色の髪を淡く照らす。

 

 ゆらりゆらりと車に揺られ、少し時間が流れ、美鶴の吐息の音で沈黙は終わった。自然と視線が美鶴へと集まる。おもむろにガンベルトのホルダーから召喚器を取り出し、ほむら達が見えるよう差し出した。銀色の銃。銃口は弾が出ないよう塞がれており、銃としての機能は見た限りでは果たしていないよう思われる。その召喚器がどういう意図を持って差し出されたのかほむら達四人は考えた。

 

「……この召喚器、昨日私達が去った後、そして私と伊織に出会う前まで、どこかで見たことはないか?」

 

「これをですか? わたしはないです」

 

「あたしもないかな」

 

「私もね」

 

「私もだけど、それが何か?」

 

 もし日常の中で見ていたとしたら忘れようがない代物だ。そんな物を昨日の夕方から今日のさっきまでで目にしなかったかと聞いてくる美鶴の質問が不思議に思えた。

 

「実は私達がまた見滝原へ戻って来た理由はだな、これを探す為なんだ。我々の持つ召喚器の内一つが昨日港区へ帰ってから紛失していた事に気付いた。もしかすると巴の家に置いていってしまったのではないかと思ったんだが、無断で入る訳にもいかず二人で巴を探すことになった。結果、魔女と交戦中の君達が見つかったという訳さ」

 

「だからあの時に。でもその召喚器、私の家では見かけませんでしたよ。ねぇキュゥべえ?」

 

「そうだね。確かに昨日君達が去ったマミの家でそれを見た覚えはないね」

 

「なかったのか…。ならどこへ? 落としたなどあり得ん…」

 

 腕を組み再び自分の世界へと入り込んでいく美鶴。真剣そのものでとても軽い気持ちで探しているようには思えない。相当その無くなった召喚器が大切な物なのだと言われずとも理解出来た。

 

「大切な物なんですね」

 

「大切もなにも、形見みたいなもんだからよ。だから皆必死んなって探してんだぜ」

 

「形見ですか、それはつまり仲間の……。やっぱり伊織さん達も命懸けの戦いをしてきたんですね」

 

「まぁな。でももし誰かが盗んだとかならそいつをギッタンギッタンにしてやんだからよ!」

 

「…… 見つけ次第…『処刑』だな 」

 

 『処刑』の部分が嫌にはっきりと聞き取れた。自分に言われた訳でなくても無意識にほむら達四人は、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。『桐条』と言う一つの組織を束ねる美鶴の行う処刑がどういうものなのか想像すらつかないが、戸籍から抹消されるかもしれない。それほどに今の美鶴の言葉は重みのある一言だった。

 

「ま、またもし見かけたら伝えるんで落ち込まないでください! ねぇ、まどか!」

 

「う、うん。わたしも協力するんで桐条さん!」

 

「…本当か? 助かる。やはりこちら側は見滝原について誰も詳しくなくてな、そう言ってもらえると心強い」

 

 二人のフォローで美鶴の眉間によった皺は消え、普段の調子に戻った。美鶴の事をそこら辺の魔女より一瞬でも怖いと思ったのは当然とも言える。美鶴の使役するアルテミシアの本質が狩猟民族アマゾネスの崇拝する狩りの女神、アルテミスという闘争を兼ねた神から来ているのもあり、ある意味その闘志を感じ取ったに近い。ペルソナは使う本人の心そのもの。即ちアルテミシアは美鶴の秘められた激情が形となったのと変わりない。

 

 感情の強弱が大きく自分の感情を制御できる程、ペルソナはペルソナ使いの支配下に納まり、力となる。逆に自身の在り方を理解していなかったりただ感情的なだけではペルソナを扱えず発現も出来ない。行き先のない感情に振り回されるとペルソナは答えてくれる事はない。

 

 その点で言えば美鶴は完璧に近いペルソナ使いだ。戦い以外なら才色兼備で文武両道もこなし、特別課外活動部をまとめるリーダー的な人格。そして戦いとなると、人が変わったかの様に激情家の一面が現れ敵を叩きのめす戦士。順平もペルソナ使いとして負けてはいないが、最もペルソナを使役してきた時間の長い美鶴には敵わない程。美鶴に勝る実力を持つのは特別課外活動部にも所属する。数多のペルソナを使い分ける特殊体質の者だけだろう。

 

 

 

 

 

「そろそろ着きそうね」

 

 二人がフォローを入れている間もリムジンは目的地を目指し走っている。ほとんど信号に捕まらずスムーズな走りで見滝原病院へ向かうリムジンの中は時間の流れを忘れてしまう。

 

 出発してからまだ20分も経っていない。女性を安全に運べているのも全て美鶴が手配したこのリムジンのお陰と言えよう。救急車は急いで搬送するのが重視されているらしく、勢いづいた速度は患者にかかる負担も大きい。リムジンなら救急車と比べても揺れも小さく少ない。女性も急を要する容態には至っておらず美鶴達でも同席できるリムジンが都合も良かったのだ。

 

 道路を進むと立ち並ぶビルの集合地を抜けて背の低い建物が詰め込まれた区間に出た。その見通しのいい場所に堂々たる佇まいで構える四角の細長い建造物。一見すると病院には見えないがこれもれっきとした病院の一つ。都市の中心部を埋める高層ビルとさほど変わりない外観。市内最大を誇る大きさは比較する対象のない遠くから確認出来た。

 

 道路から逸れて町中の端から端まで張り巡らされた立体道路に移り、リムジンの速度が速まった。信号もほぼない立体道路を走る車はどれも遠慮のない速さで進んでいる。ひたすら続く道路をぐにゃぐにゃと曲がりくねってようやく病院の前に着いた一行。病院の搬送口で車を駐車し、先に降りた美鶴が待ち構えていた医師と数回言葉を交わし順平達を引き連れて中へ入っていった。

 

「先輩、さっきの女の人大丈夫なんですか? 連れてかれましたけど」

 

「あの医師達は桐条グループにも関係している者になる。実はというと、ここの病院も桐条系列でな、後で私も交えて今後の事を話し合う。今は集まっている皆への説明が先だ」

 

 他のメンバーを振り切ってしまいそうな速さの足取りに、まどかやさやかは追い付くだけで精一杯。受け付けを横切ると一人の看護師が美鶴達の前に出てきた。軽く頭を下げてくる看護師は自分が案内人だと申し出て、六人を二階へと連れて一室に案内した。

 

 会議でも行うような広い部屋。キャスター付きの机が幾つも並べられ椅子もあった。入って左側、そこには特別課外活動部の何人かが揃っていた。真田と天田の二人だ。そこまで近付き足を止める。倣ってほむらも止まり椅子の背もたれに手をかけた。

 

「待たせたな明彦。…揃っていないのはゆかりとアイギスに山岸か」

 

「あいつらもあと少しで来るだろう。さっき連絡があった。だがまさか俺達の居ない間にそんな事があったとはな……」

 

「ああ、正直私も理解が追いつかん」

 

 神妙な面持ちの二人。知っているのは真田だけらしく、天田は順平に何があったのか聞きだそうとしている。

 

「あの桐条さん…」

 

「どうした巴?」

 

「これは私達も居ていいお話なんですか? そうでないようなら私達は外で待っていますけど」

 

「いや、君らも一応聞いておいてくれ。証言者には居てもらいたい」

 

「解りました」

 

「証言者? そうか巴達は美鶴と一緒だったんだな。その様子だと伊織よりしっかりしてそうだ」

 

 冗談か本音か判断しづらい言葉を受けて、順平はもう慣れたと諦めて肩を落としている。それよりゆかり達が揃うのを待っている間の時間を活用して、美鶴は頭の中で報告内容を整理するのに追われていた。

 

 一人被害者を生んでしまった今回の件だが、責任が誰かにあるのかと言われればそれは違う。これは美鶴や順平が関与してなくても起きた可能性のあるもので、誰も予期せぬ事態だった。

 

 こんこんこんと閉められた扉を速いテンポで叩かれ、勢いよく開けられ三人の少女が入ってきた。

 

「緊急の集合命令って、彼の召喚器見つかったんですか!?」

 

 ピンクのカーディガンを羽織ったゆかりは開口一番そう聞いた。後からアイギスと風花も続く。ゆかりと風花はここまで急いで来たのか汗をかいているがアイギスは息さえ乱れていない。

 

「そういう訳ではないんだが、それに並んで重要な事なのは確かだ。まずは席にでも着いてくれ」

 

「それに並ぶって、まぁ……解りました。風花も座ろ。アイギスも」

 

 疲労でも溜まっていたのか足早に椅子へ腰をかける三人。アイギスだけは涼しい顔をして美鶴の言葉に耳を傾けている。わざわざ捜索を中断までさせて呼び集めたのだ。相当重要度の高い報せと思って間違いない。

 

「…で、美鶴。結局どういう事なんだ? 電話で言ってただろう、話してくれ」

 

「話すさ。その為に皆を集めたんだ」

 

「何かあったんですか?」

 

「奴が現れた」

 

「奴?」

 

 奴とは何か脳内を模索する三人。特にアイギスはこの状況で召喚器探しより優先とされる事項をすぐに弾き出した。自分達は特別課外活動部。シャドウ掃討を目的とし活動していた組織。ただし、まだ美鶴から明確な事は言われないので憶測を出ない事は口に出さないでいる。

 

「私達と関わりの深い相手。ゆかり、君もよく知っている。ゆかりだけじゃない、天田に山岸もアイギスもだ」

 

「それってマミちゃん達以外全員…?」

 

 ゆかりと風花。二人は疑問を浮かべ見渡す。アイギスはそれを聞いて言い様のない不安を覚えた。予想していた事を言われてしまいそうな不安。出来れば当たってほしくない現実逃避の念が溢れる。そんな事があってはこれまでやってきた努力が無意味になる。そして自分達と関係のあると示唆されほぼ確信へと移り変わり始めていた予測。美鶴はこう続けた。

 

「魔女の結界でシャドウが現れた――」

 

 

 

 

 


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