Episode Magica ‐ペルソナ使いと魔法少女‐   作:hatter

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 守ると言った(2010,5/8)

 

 

 

 

2010年5月8日・土

 

 色々あった金曜日から無事に一夜明け迎えた土曜日。朝早くから起床したほむらの服装は私服ではなく、現在居る場所も自宅から離れた所。彼女の通う市立見滝原中学は学校週6日制の制度を採用しており今日も学校へ足を運んでいた。昨日と同じ制服に袖を通し退屈な授業三昧。呆れるほど平凡な日常がほむらの疲れ切った体に癒しを与える。

 

 昨日の事を考えると今の時間がどれだけ有り難いのもなのか身に染みて解る。なんの変哲もなく緩やかに過ぎていく時間。これがかけがえのないものだと解るのは死と隣り合わせの世界を知る者だけ。だからほむらは目的の為に奔走する。純粋にして無垢、清廉潔白で優しすぎるまどかがこの気持ちを理解出来るのは彼女がこちら側に深く足を踏み入れた時。

 

 それでは駄目だ。まどかはそんな危険を冒さずとも今生きる場所で幸せを感じられる。まだ大丈夫。魔女退治に同行するのを許しているがやりようはある。逃れられぬ運命を背負わない限り、魔法少女とならない限り将来的にまだまどかを人間としてのレールへ戻せる。なのでほむらは死力を尽くせる。

 

 そして志し高く掲げるほむらは現在、教室の席に着き襲い来るある物と一人奮闘していた。

 

 教壇に立ち熱弁する先生の声ですらほむらにとって子守唄に成り下がり、下りてくる瞼を必死に持ち上げる。何度も見聞きし内容を覚えているほむらに授業を受ける意味はほとんどない。机に伏せて眠ってもいいがそれでは先生に失礼なので起きている。波の満ち引きのように一定の間隔で迫る強烈な睡魔。まどろむ気持ちが心地良い。しかしここで折れてしまうと授業の終わりまで眠るのは避けられない、なので目を見開き前の白版を見つめる。ただ本人は寝るつもりがなくても知らぬ間に瞼が光を遮りうとうとと睡魔に唆される。

 

 

 

 

 

 ――来週から始まる中間テスト。授業にかける先生の熱意も上昇し試験対策の課題やら何やらが配られる。もちろん優等生を地で行くほむらはそんな物をしなくても学年上位を狙える点数は採れる。

 

 また今日はミラクルなことに、今の時間を除いて他の授業は全て復習を兼ねた自習だったが、まだ来週あると自分に言い聞かせて雑談ばかりしてろくな勉強をしない生徒が大半である。さやかもその大半の一人であった。最初はラッキーだと喜び、テレパシーを使ってまどかやほむらと話していたさやかだが、さすがに五時限も自習が続けば昨日の内に起きた出来事をネタにしてもネタは尽きてくる。もちろん勉強もせず話してばかりいるさやかはほむらのように高得点を狙える訳がない。

 

 三年生のマミは自習が少なかったらしくあまり会話には交じってこなかったのもあり、三時限目までは会話が続いたものの四時限目には睡魔に負けてまどかが机に伏せて寝てしまった。眠る気にもならず起きていたさやかの話し相手がほむらしかいなくなり、ほむらの方からさやかに話題を振ることはまずない。それでも時折半分寝ているほむらをテレパシーで脅かし、その度ビクリと体を跳ねさせるのを見て暇潰しをしていた。こめかみに青筋を浮かべたほむらからキツイ制裁をくらうハメになるのはその後のお話。

 

 

 

 

 

「うぐぐ……まだ痛い」

 

 ショッピングモールにある洒落た雰囲気のカフェ。店内の一角に設けられた四人掛けのテーブルを囲むのは見滝原中学の制服を着た生徒。そこで頭を押さえ項垂れているはしなやかな青髪を乱れさせたさやか。向かいの席には項垂れる原因を作った張本人、ほむらが澄ました顔で座っている。両サイドにまどかとマミが。今日は息抜きをしにここへ来た訳ではない。

 

「頭でも痛いの、美樹さん?」

 

 放課後、学校が終わって合流した時から頭を執拗にさすっているさやかにマミが心配して頭を撫でた。うっすらと手の平が光ったと思うと、嘘みたいに痛みが引く。

 

 リボンを使ってマスケット銃を作り出すのに比べると得意ではないが、マミも多少の治癒魔法を心得ている。肉の抉れた四肢や致命傷の怪我を瞬時に治すのは治癒に特化した魔法少女でない限り難しいが、それ以外の外傷や切り傷、打撲などなら並の魔法少女でも治すことは可能な範囲。回復を怠ると魔女との戦いにおいて死に直結してしまう恐れもあり、軽い怪我や傷も見逃せない。例え不得意でも治癒魔法は魔法少女なら誰しも究めておくのが一般的だ。

 

「巴さん、美樹さんは自業自得でそうなったんですからそんな無駄な魔力を使わなくても」

 

 ほむらがそれを見て肩をすくめて微笑する。注文した紅茶の入ったカップを手にとり一口含み、マミの煎れた紅茶の方が美味しいなと思いつつさも関心がないかのように振る舞う。店で出される物よりマミの煎れる紅茶が美味しい事に若干の驚きを覚えるも、それを顔に出さず普段のポーカーフェイスを保つ。ただ僅かにつり上がった口角に自分でも気付かずさやかにはまた小馬鹿にされたと捉えられた。

 

「元はと言えばあんたが原因でしょーがっ! 脳天にげんこつ食らわせるなんて、あたしの貴重な脳細胞が減るじゃない!」

 

「あら? 元々少ない脳細胞が減っちゃうなんて災難ね。次からは気を付けないといけないわ」

 

「くぅー! 会ってまだ3日しか経ってないのに、まどかとのこの扱いの差は一体何時ついたってのよ!」

 

 さやかから浴びせられる批難を軽く受け流す。ほむら自身今のは意識せず発した言葉で、別段馬鹿にしたつもりはなかった。しかし皮肉は多少込めてだが。

 

 二人の掛け合いにつられてマミとまどかも笑いを我慢出来なかったのか短く声を零して笑う。第三者は面白く思えても馬鹿にされ続けるさやかからすれば面白味の欠片もない。

 

「なにまどかまで笑ってんのさっ! マミさんまで! つかほむら、あんたグーで頭を殴ることないでしょ。せめてパーで叩きなさいよ!」

 

 ご立腹のさやかは身を乗り出す勢いでほむらに投げ掛ける。それもひらりと躱し、右から左へ受け流す。収まりそうにない怒り心頭のさやかに『落ち着きなさい。今日は遊びで集まってるんじゃないのは知ってるでしょ?』と告げると急にしおらしくなり、浮かした腰を椅子に戻した。この集会の趣旨は分かっているらしく、それ以上の反応を潜めた。

 

 さやかが大人しくなったのを見てほむらは呼吸を整えマミに鋭い視線を送った。空気が真剣なモノへとがらりと変わり、日常と非日常が明確に入れ替わった事をまどかとさやかに知らせた。今日この場に集まったのはさっき言ったとおり遊びやさやかの愚痴を聞く為ではない。命懸けで戦う魔法少女の集まり。悪ふざけの一切を排除し処理しなければならない問題について意見を出し合う。

 

「巴さん。覚えていますか? 昨日桐条さんが言っていた探し物を探しに来たというのを」

 

 前置きなくほむらは切り出す。いちいち前に置くものなど無いだろう。いや、どうやら二人にとって先の目配せが前置きとなっていた。マミもほむらの向けてくる空気の変わりように当然気付き真面目な顔付きで視線を返す。

 

 ほむらが雑談を切り上げ自分からマミに話を切り出したのは、いち早く対応について考えなければらないからだ。今までになかったケースの時間軸。一人で考えるには難しいと判断し、積極的にマミと話すことを試みた。

 

「ええ、そうね。きっとあの人達は見つけるまでこの街を訪れるでしょうから。けど、それだけじゃなくなったのも確実ね」

 

 二度目に見滝原へ訪れた目的、無くした召喚器を探すためだと。彼女らも見滝原へ来た時の目的とは違う、予期せぬ事態にほむら達と一緒に巻き込まれた。存在を知っていても出現の可能性を見出だせなかったシャドウとの交戦。それはほむら達にも多大な衝撃を与えた。崩壊しない結界に影人間の発生。なにもかもがほむら達の常識を覆した。

 

「早くて今日、遅くて明日にはまた来ると私は思ってるけど。一昨日見滝原に来た最初の目的ってなんだったのかしらね?」

 

 今彼女達が探している物をなくしたのは一昨日の晩でありその日は別の用事で来ていた筈。何を求めて訪れていたかはこれと言って意味を持たないのでこの場では思慮の外にある。

 

「……探し物は弾の出ない銀色の銃、あの人達が言うには召喚器。街の人に拾われれば間違いなく近隣の交番か警察に届くような物だけど、桐条さんが見落とすとは思えない。銃にいたっては本物と変わらない見た目だったから警察も見落とす筈ないわ」

 

「いくら広い見滝原といっても一日経てば見つかると思うけれど……」

 

 見つからないから昨日は向こうがわざわざほむら達を捜し接触してきたのだ。しかしそんな物の行方をただの中学生が知るよしもない。

 

 手に持ったカップをソーサーに戻そうとした時、白い塊が視界を横切りテーブルの上に着地した。その正体は過去に魔法少女と魔女の存在を四人に教え、終わりのない非日常を引き寄せたキュゥべえだった。どこからか舞い込んできたキュゥべえはテーブルの真ん中を陣取り座り込む。

 

「それより君達が懸念すべきは魔女の方じゃないのかな?」

 

 開口一番にそれか、とほむらは内心そう思い目の前の白い獣を感情のない目で見る。キュゥべえはほむらから送られる視線を意に介さずテーブルの真ん中でくるりと回り四人を見渡す。マミを正面に捉えて止まった。

 

「君達魔法少女の使命は飽くまで魔女を倒すこと。彼らの探し物について議論をされても困るんだけど」

 

「言われなくても分かってるわよキュゥべえ。私達は魔法少女なんだから大事な役目を放棄するわけないじゃない。ねぇ暁美さん」

 

「ええ、そうよ。でも言いたいことはそれだけじゃないんでしょ?」

 

 いちいち魔女を倒せなどと釘を刺してくる時点で別に他の用件があるくらいの予想はつく。無駄な事はしないキュゥべえなのだから、これも本題へと繋げる為の過程にすぎないのだろう。

 

「まぁそうなんだけどね。もちろん魔女も倒して貰いたいところだけど、魔女を倒す際に気を付けて欲しいことがあるんだ」

 

「一体何かしら?」

 

「君らの予想する通り、またこの見滝原を彼らが訪れるのは確実だろう。そしてその理由は探し物以外に今後見滝原に現れるであろうとされる昨日のシャドウの出現を危惧してのものだ」

 

「昨日のシャドウって、アイギスさん達が"死神"って呼んでたヤツのことね」

 

 怪訝そうな声でキュゥべえにマミが確認をとる。思わずほむらも身を固めて聞き耳を立てた。あんなにも凶悪で強力な相手がまた見滝原に現れると言われれば聞き逃す訳にはいかない。

 

「そう言っても僕の推測でしかないけどね」

 

 推測でしかないと言われても以外にもほむらは口を挟まずこれをすんなりと聞き入れた。生物として信用出来なくとも、キュゥべえの扱う特殊な力と地球上の物とは一線を画す科学力はまだ信じられる。それを駆使した上での結論であれば、信用に値する。

 

 その点を取れば恐らく本当にシャドウが現れてもおかしくない。魔女の結界で出現した際のことは鮮明に覚えている。魔女に魅入られ身投げを行った女性を間一髪で助けた後、その女性が結界内に侵入し自分達の前でシャドウに喰われた。影時間でしか居ない筈のシャドウに魔女の結界でだ。

 

「その根拠は?」

 

「どこから発しているのか分からないけど、昨日にはこの街には無かった異物の気配を感じるんだ。正確な出所はまったく見当もつかないんだけどね」

 

「なら魔女退治に専念させる理由は?」

 

「あんなイレギュラーに邪魔をされてしまえば魔女退治もままならないだろうし、だからそうなる前に魔女を倒してもらいたいんだ」

 

 昨日には無かった気配を感じるなど十中八九シャドウが原因なのは明らかすぎる証拠。この瞬間にも見滝原の影に身を潜め獲物を探しているに違いない。

 

「桐条さんが言うにはシャドウが居るのは影時間……の中でしか見られないタルタロスと言う塔。本当、何がどうなって魔女の結界なんかに」

 

「分からないの仕方ないさ。僕だってシャドウなんて見るのは初めてだったからね。普通の存在じゃない僕にもシャドウについては解らない事の方が多いいよ。だから不明な点がある以上、また遭遇する可能性がある事は頭に入れておいて欲しい、マミにほむら」

 

 しかし出た答えは結局、何も分からず終いである。昨日遭遇したばかりの者にシャドウ出現の謎も明かす事は出来なかった。

 

「ならどうするの、巴さん。昨日みたいに魔女探しに行くのかしら?」

 

「それでもいいのだけれど、万が一を考えると難しいところね。二人を連れて行くとなると危険を犯す訳にもいかないし。かといって魔女退治もおろそかに出来ないわ」

 

「そうね。けれど、もしもを考えるならば、ここは慎重にいくべきだわ」

 

「………」

 

 思案を始めたのか押し黙ったマミ。ほむらの言っていることは的を射ている。昨日の内に魔法少女ではシャドウ相手に何も出来ないのはほむらが身をもって知らしめていた。銃やミサイルの攻撃、拘束に特化したリボンによる捕縛も効果は無く、文字通り手も足も出なかった。昨日は美鶴達が居たからこそ生きていると言っても過言ではない。今はその美鶴達も居らずもしもの状況となった場合なす術なしだ。ここは慎重過ぎるくらいで丁度いい。何せこれはまどかとさやか二人の命に関わる故、下手な判断は出来ない。

 

「マミさんにほむらちゃんが居るならきっと大丈夫ですよ。マミさんだってとても強いんですから。ほむらちゃんもすごい魔法少女なんだから! わたしついて行きます!」

 

「えっ?」

 

 そう言って僅かな沈黙を断ち切ったのは裏表のない笑顔を浮かべるまどか。マミも思考を中断しまどかを見る。どんな理由で大丈夫と判断したのか分からないが突拍子もなく断言した。何を言い出すのかと波立つ心の焦りを表に出ぬよう隠しほむらも落ち着いた視線を送る。自分とマミが居れば何が大丈夫なのか。自分が魔法少女でもあのシャドウを倒せないというのに。見滝原なら敵無しのマミでもどうあっても勝てないというのに何故そう思ったのかと。

 

 マミは少し困惑した表情になるが微苦笑を持って尋ねた。

 

「そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだけど、自分の命が危険に晒されるかもしれないのよ? 昨日見たようにいつ命の危機が訪れるか分からないわ」

 

「それでも、ですよ。昨日ほむらちゃんが言ってくれたんです。必ず私が守るって。だったらわたしはそれを信じてお二人の魔女退治について行けます。それにこれからどうするか決めるのは自分達だって言ったのは、ほかでもないマミさんですから」

 

 にっこりと可憐な笑顔を咲かせるまどかの言い分に驚いた顔のマミ。すぐに真剣な表情へと戻し小さく息を吐く。

 

「ふぅ…そんなこと言われちゃったら残して行くなんて出来ないわね。あなた達の決めたことなら私は止めれない。それとまさか暁美さんがそんな事を言っていたなんて思わなかったわ。可愛い後輩がそう言ってるのに私が弱気じゃダメね」

 

「魔法少女じゃないわたし達じゃあ信じてあげて一緒に居てあげるくらいしか出来ませんけど…」

 

「充分、いいえ充分過ぎるくらいよ。鹿目さんならきっと良い魔法少女になれるわ」

 

 憧憬の念を送りつつあるマミから褒められたのに照れたのか少し顔を赤く染め後頭部に手を当てるまどか。謙遜してそんなことないですよと否定するが嬉しさの感情である照れた笑みが零れる。マミもまどかから伝えられた気持ちに素直な感想で返した。魔法少女になるかも知れない後輩達が自分の意思で道を決め始めたのにマミも隠せない嬉しさを覚える。

 

 自分と同じ戦場に立つほむらが力を持たぬ二人を必ず守ると告げ、まどかはマミも含めそれを信じ魔女退治に同行しようと決めた。率直に喜べる。何時ぶりかにできた後輩がこの数日で自分の前でここまで言ってくれるのがたまらなく嬉しい。マミも口元に手を当て笑みを零す

 

(間違いなく昨日私が必ず守ると言ったわ。でもそれで魔女退治の同行を助長になってたなら……契約しない約束も覚えてくれているわよね、まどか)

 

 こちらも覚えているか気になるがそれほど心配する必要はないだろう。昨日のまどかを思い出せばしっかりと届いている筈だ。まどかが約束を簡単に忘れたり破るような性格でないのはほむらもよく分かっている。

 

 あの時はとにかくまどかとさやかが軽い気持ちで契約するのを思いとどまらせる為に言ったもので、そこまでの効果があったのには嬉しい誤算。

 

「でもそこまで豪語したのなら今日は暁美さんにちゃんと二人を守れるか、私に見せてもらおうかしら?」

 

「見せる? ……魔女退治を兼ねた試験というわけね」

 

「マミさんそれってほむら一人に任せるんですか? なんだか危ないような…」

 

「魔法少女になって日の浅い暁美さん一人に全部を任せるつもりはないけど、危なくなれば私もフォローをするわ。なによりこの子達を守るって言ったからには相応の活躍を期待させてもらうけど」

 

「ええ、経験が浅くとも期待に応えてみせる。美樹さんもそんなに心配しなくて大丈夫よ。私もそこいらの魔女に負けるほど弱くはない」

 

 何気に心配してくれたさやかに心配無用と言ったが正直なところ少々厄介なことになった。一人で魔女と戦うのに関しては、これまでやってきた事と変わらないので心配は要らず、まず見滝原に存在する魔女を相手取っても負けない、負ける要素がない。ところがその戦った経験と余裕さが裏目に出てしまう不安があった。あまり洗練された動きを見せると魔法少女になったばかりの設定を通すには内容が噛み合わず、余計な疑いを生む可能性がある。

 

 魔法少女歴の比較的長いマミの目に掛かれば誤魔化しはまず効かない。契約当初のあの初々しは微塵もなく、魔女に勝つ自信はあっても素人を演じてみろ言われてマミを騙し切れるかはかなり難しい。それにしてもかつて行われた修行のような魔女退治を急遽実施する判断にほむらは考えを巡らせた。

 

 シャドウに脅威を感じて自分を鍛えて即戦力にしたいのか。それともこの街に超弩級の大型魔女、ワルプルギスの夜が訪れるのを何らかの手段を通して知ってそちらの戦力にしたいのか。はたまた、単純に新しく出来た後輩を相手に張り切っているのかその真意の程は分からない。

 

「だけどマミ、魔女と戦っている最中に本当にシャドウが現れたらどうするんだい? 見てた限りアレに捕まってしまえば逃げることはほぼ不可能だと思うよ?」

 

「ちゃんと考えているわ。魔女の結界に入ったら私が常に出口は確保しておく。それならすぐに結界の外へ出られるでしょう?」

 

 そんな浅はかな考えで良いのかと思ったが、ここは何も言わずにしておく。

 

 それにシャドウばかり注意を向けて魔女よりシャドウの方が危険な相手と思い込まれても困る。いっその事これを機に一度魔女に負けるところを目の当たりにさせ魔法少女への憧れを摘み取るのも良いかと考える。

 

(あれ……でもそうなる前に私は巴マミに助けられてしまうような?)

 

「んじゃあ安心じゃん! シャドウが出てもすぐに逃げられるんでしょ? だったら行きましょうよマミさん! 今日もド派手にやっちゃって下さい!!」

 

 さやかは立ち上がり脇をしめて両拳を握る。

 

「ほらこうなんて言うの? イリュージョン?」

 

 身振り手振りでなにかを表そうとしているも、何も伝わってこない。今まで平凡な日々を送っていたさやかにとって魔女との戦いは、ありきたりな日常を忘れさせるある種のイベントにも思えているのか興奮している。ペルソナ使いのアイギス達も加え、退屈な時間などほぼ無いに等しい。ほむらはそんなさやかの的外れな考えを見抜き溜め息をつく。

 

「美樹さん…貴女、軽い気持ちで魔法少女の戦いに着いてきているのなら今すぐ帰りなさい。忘れたとは言わせないわよ。魔法少女の戦いは命懸けだってこと」

 

「うっ…!」

 

「それだけ暁美さんを頼りにしてるってことなんじゃないかしら。それと美樹さん、さっき言ったとおり今日戦うのは暁美さんだけよ」

 

 先輩の一言でほむらの顔が引き締まる。どのような段取りで魔女を倒すか頭の中で作戦を練る。あまりに手際が良すぎる怪しまれそうになるので無駄な動きを取り入れるよう考慮する。

 

 魔女探しに出向いたのは数分後のこと。その間もほむらは考えに考えぬくが良い案もおもいつかず不安を抱えて出発することになった。

 

 

 

 

 


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