東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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最近投稿が遅れていると感じる毎日です。本当は去年の間にこのコラボを終わらせる予定だったのですが、MARVELオールスターバトルが楽しすぎましてね。ええ……、すみません。


第八十四話

積み重ねられた死体の山の上に少年が一人。

 

「いやー軽い軽い、こんなに弱いパワーでよく幻想郷に喧嘩売れたものですね~」

「お前、悪いやつだな……」

 

そう言いながら鉄次郎は侵略者の腹に発勁を決め、浸透頸で体内の寄生虫を殺す。死体の山にまた一つ死体が増えた。

鉄次郎は「ふぅ……」と一息吐き、周りを見渡す。

あれほどまでにラッシュをかけてきていた侵略者たちも目の前の軍人には迂闊に手が出せないらしく、だるまさんがころんだのように動きを止めている。それを確認した鉄次郎はジェットの方に振り向き、

 

「なんでお前は見ているだけなのにそんな偉そうなんだよ?高みの見物か?」

 

不機嫌そうな表情を浮かべる鉄次郎を見て、ジェットはため息を吐き、

 

「だって、見た感じ本当に弱いんですもん。なんなら、僕の戦いを見てみますか?」

 

と、偉そうに返した。無邪気そうな見た目の割にはなかなかウザい。

イラッと来た鉄次郎は死体の山の横に腰を下ろして不機嫌そうに、

 

「ならやってみろよ」

「お任せあれ」

 

言葉と共にジェットは飛び降りた。侵略者たちが歓声に沸く。

背中から生えた翼が人ではないことを示しているが、ゴツい軍人よりは華奢な少年の方が相手にしやすいのだろう。だから、忘れてはいけないことを忘れていた。少年が高位の吸血鬼であることを。

侵略者たちは一斉に武器を手にして殴りかかった。しかし、

 

「距離が離れすぎていますね。あなたたち将来は良い的になれますよ」

 

そう言って妖力を練るジェットは全く怯んでいない。むしろ、向かってくる敵を目の前にして愉快な気分になっていた。

全ての武器が同時に振り下ろされる。

 

「おい!避けろよ!」

 

——人間の細切れ肉なんて見たくない。

このままでは目に映るであろう恐ろしい光景を想像し、鉄次郎は叫んだ。しかし、

 

「いやぁ、やっぱり弱点さえわかってしまえば軽いものですね」

 

侵略者たちが全員倒れる。その中心には手を血塗れにしたジェットの姿。手についた血を払っている。

 

「ど、どうなっている⁉︎」

「ふふふ、言ったとおりでしょう?彼らは弱いんです」

 

そう言って、ジェットは余裕の表情で微笑んでみせた。

 

——これが吸血鬼か。

 

そう心の中で呟いた鉄次郎は目の前の少年に対して尊敬と畏怖の念を抱いていた。

 

「ところで、今は何をしたんだ?」

 

訊ねる鉄次郎にジェットは死体を見るよう促す。

死体を見てみれば急所である心臓と脊椎の部分に風穴が開いていた。未だに血を吐き出すその穴は見ていて気分の良いものではない。しかし、あまりにも不思議な光景に鉄次郎は食い入るように見てしまう。

目を離す鉄次郎にジェットは種明かしをする。

 

「この穴、実は単純にパワーだけで開けたわけじゃないんです」

「……どういうことだ?」

「幻想郷には能力を持っている人が多いんですよ。そして、もちろん僕も能力を持っています。僕の能力は『貫通する程度の能力』。その名の通り、どんな物でも貫通できる能力です」

「……なるほど、だから一瞬で全員の弱点を突くほどのスピードが出たのか。相手の骨や肉なんて完全に無視だもんな」

「そういうことです」

 

鉄次郎の言葉にジェットは頷き、

 

「でも、この能力の真価はこんなものじゃないですよ。ちょうど新しいお客様が来たみたいなので、彼らで試してみましょう」

 

振り向いた彼らの眼前には50は下らないであろう侵略者達が迫ってきていた。

鉄次郎が銃を取り出すと同時にジェットの手元には2丁拳銃が出現する。突如として銃が現れたこと、そしてそれらの銃が初めて見るデザインだったことに鉄次郎は目を見張った。

 

「お前……手品師かよ……」

「手品師?……ああ、この銃のことですか。これらは僕が妖力を練って実体化させたものですよ。家族には槍や剣を出現させる方もいますが、僕の場合、妖力の形は銃だったみたいです。本来なら1人につき1種類だけだと(僕は)認識していますが、使い方が撃つだけという分、僕の武器は種類が豊富にあるみたいです」

「……幻想郷のことはよくわからんぜ……」

 

さも当然のことのように説明したジェットに鉄次郎はそう呟いた。

自分達の道を阻む2匹の生物。侵略者達は障害を退けねばならぬと駆け出した。しかし、その道が辿り着く先に死以外無いことは2人の銃が表していた。

2人は銃口を敵に向け、何度も引き金を引いた。

鉄次郎の射撃は百発百中。的確に弱点を捉え、1人また1人と撃ち倒していく。それに対して、ジェットの射撃はとにかく撃つだけ。完全に全ての弾が弱点を捉えることは少ないが、それでも対象の身体から外すことは無い。侵略者達の身体は瞬く間に蜂の巣になり、動かなくなる。

敵を撃ち倒すことに快感を覚えているのか、ジェットの顔には喜色が浮かんでいる。それを見た鉄次郎は

 

「俺は今お前の将来が怖くなった」

 

と、小さく呟いた。もっとも、その言葉はジェットに丸聞こえだったが。

 

 

 

 

死体の山は更に高くなり、立っている侵略者の姿はほとんど見えなくなった。立っている者達も白狼天狗と戦っており、2人の方に向かってくる様子は無い。

 

「さて、残りはボスみたいだが……どうする?」

「……どうにもしない方が良いと思います。現在、首謀者の方には範人さんが向かっていますし、こういった場合は中ボスが来るのではないでしょうか?」

 

そう言った矢先だった。突如、地面が柔らかくなった。硬い地面は柔らかい砂地となり、2人の足が沈み込む。あっと言う間に2人は腰の辺りまで沈んでしまった。

 

「こりゃあ……なんかマズくないか?」

「だいぶ美味しくないですね。それに!」

「な……!」

 

ジェットはバズーカ砲を召喚、地面に向かって撃ち、その爆風で飛び上がった。直後、少年を追いかけるように巨大な影が飛び出す。しかし、ジェットは冷静にリロードし、その巨体の口内に照準を合わせた。

 

発射(ファイア)!」

 

砲口から発射された弾は口内に直撃、爆発した。巨体は地面に落ちる。数秒後、ジェットも着地した。ほぼ同時に鉄次郎も砂地から脱出する。

 

「な、なんだコイツは……トカゲのようにも見える。それに鼻先のコレは……機械か?」

「おそらく、デルラゴと言う生物兵器だと思います。前に研究所の資料で見たことがありますが、地面の中から出てきたということは改良品でしょうか。鼻先の機械は振動で地盤を緩めて地中を掘り進むための物だと考えられます」

「なるほど、それなら確かに——」

バァン!

 

突如として響いた銃声。デルラゴの身体がビクッと痙攣し、血を流して倒れる。ジェットの隣では鉄次郎がデルラゴに銃を向けていた。

 

「何逃げようとしてんだ?そこでおとなしくしてろ」

 

デルラゴは2、3度ピクピクと動いてから絶命した。鉄次郎は満足そうに頷く。

2人がデルラゴについて考察していたとき、デルラゴは地面を掘って逃げようとした。しかし、鉄次郎に気づかれてしまったのだ。

 

「僕の勘ではデルラゴはあと2、3頭いるはずです。さすがに敵さんもアレ一頭でこちらを潰せるとは思っていないでしょうし」

「なるほどな……じゃあ、どうする?さすがに一頭ずつ倒すのは嫌だぜ?」

 

鉄次郎の言葉にジェットは少し考える素振りをし、

 

「それなら、一気に倒しちゃいましょう。確か、ロケットランチャーがありましたよね。アレ使いましょう」

「……構わないが、どうやって集めるんだ?」

「それは任せてください」

 

ジェットの手元のバズーカ砲がスナイパーライフルに変化する。それでも未だにその意味がわかっていない鉄次郎は頭に?マークを浮かべている。

 

「僕が今装備したスナイパーライフルには対象を追跡する特殊な弾を込めることができるんです。そして、僕の能力は貫通。……これでわかりましたよね?」

「……あ、そういうことか。貫通できるから対象が地中にいても関係ない。地中の対象をライフルの弾で地上まで逃げさせるのか」

「That's right.正解です。作戦は敵が噛みつきに出てきた瞬間から始めましょう」

 

ジェットの顔に恐怖の色は浮かんでいなかった。そこにあったのは戦いを遊びだと考えているような余裕の笑顔。それを見て鉄次郎は思う。

 

……ああ、これが人間と化け物の違いか……。

 

死に対する恐怖が薄すぎる。

生きるために様々な物を利用する弱い人間達と元々様々な物を持っている強者達。人間が繁栄する背景に存在した恐怖の感情は人間をはるかに凌ぐ力を持つ強者には宿り辛かったらしい。

恐怖は負にも正にも働く。鉄次郎は恐怖をほとんど感じていないジェットを少し羨ましく感じた。

 

——子供相手に嫉妬とは……らしくねぇな、俺。

 

地面が砂になり、足が沈み始める。化け物が近づいているサイン。それでも鉄次郎は冷静だった。地面から飛び出してきた巨大な顎にさえ、鉄次郎は恐怖していなかった。

 

「狙撃『変幻自在のクロウ』!」

 

隣にはもっと巨大な恐怖の対象が居たのだ。

3発の銃弾が発射された。1発はデルラゴに向かい、他の2発は地中に潜り込んだ。

銃弾はデルラゴの身体を貫き、軌道を変え、更に貫く。巨体はあっという間に蜂の巣になり、動きを止めたが、銃弾は更に空中へと打ち上げた。

数秒後、他の箇所でも地面が砂になり、2頭のデルラゴが飛び出した。しかし、銃弾は追跡を止めず、デルラゴ達を空中で1箇所に集める。

 

「鉄次郎さん!」

「OK!」

 

ジェットの呼びかけに鉄次郎は間を置くことなく応えた。ロケットランチャーの弾は寸分の狂いもなくデルラゴ達に向かって飛んでいき、着弾と同時に爆発した。化け物の血や肉が辺りに飛び散る。それらも気にせず、鉄次郎は「フゥーウ」と息を吐いた。

 

「これで一丁上がりってやつだな」

 

鉄次郎はやり遂げたという顔をしているが、ジェットの表情は優れない。化け物達が弾けた瞬間から「ウーン」と唸っている。

 

「どうした?」

「いや……なんかですね。……僕、すごく目が良いんですよ」

 

ジェットの返しに「それがどうした?」と?マークを浮かべる鉄次郎。

ジェットは口に1トンの重石がつけられているかのような錯覚を感じながら話す。

 

「今ですね……地面の中に黒い影が見えていて……なんか、その……動いているんですよね……。もしかしたら、まだ1頭……しかも特大サイズが生き残っているかもしれません」

「あ゛?……マジで?」

「マジです……鉄次郎さんが一口サイズです」

「……逃げた方が良くないか?」

「多分もう逃げられないと思いますよ……そこにいますし」

「へ?」

 

思わず間抜けな声を出して振り向けば、巨大なサンショウウオが口を開けており——。

 

バグンッ!

 

鉄次郎に食らいついた。

 

「て、鉄次郎さぁぁぁぁん!」

 

ジェットの叫び声が辺りに響く。

鉄次郎は死んだ。そうとしか思えない。鉄次郎が巨大な口の中に消えるところを実際に見てしまったのだから。

しかし、デルラゴの様子がどうにもおかしい。地中に潜ろうとする様子を全く見せない。地上に口を出したまま固まっている。

 

——これはいったい……?

 

ジェットがデルラゴに近づけば、違和感の原因がだんだんと伝わってくる。それは呻き声にも近い声だった。

 

「ウオォォ……」

「鉄次郎さん⁉︎」

 

鉄次郎は両脚を突っ張り棒のように広げ、デルラゴの口が閉じることを辛うじて阻止していた。

 

「……ジェットォ……援護は要らねえぞ……。こいつは俺が仕留める……任せておけ」

 

ジェットは驚愕のあまり動けなかった。化け物に食われそうになっている男が「任せろ」と言っているのだ。まるで映画のワンシーンのような状況を目の当たりにして固まっていた。

幾ら止められているとは言え、鉄次郎には余裕がなかった。先程の言葉もギリギリでの発言だった。それでも、子供にばかり良い顔をさせてはいられない。

鉄次郎はアサルトライフルを構え、

 

「さぁ、ジャッジメントの時間だぜ化け物」

 

引き金を引いた。

ズドドドドドッ!

 

銃口から飛び出した無数の弾丸はデルラゴの口内へと吸い込まれていき、喉の奥に突き刺さった。

痛みの原因がわかっているのか、デルラゴは獲物を口に挟んだまま地上を泳ぎまわり、鉄次郎のバランスを崩しにかかる。しかし、鉄次郎も食われるわけにはいかない。脚を更に広げて安定させ、アサルトライフルを撃ち続ける。

 

「俺は……お前みたいな化け物には負けねーんだよ!」

 

獲物の喚きに興味などない。

デルラゴは更に顎の力を強め、今度は猛スピードで直進を始めた。

 

「こいつ……まだこんなに動けるのか……ゴハァッ!」

 

デルラゴが岩に突っ込み、鉄次郎は背中から岩に叩きつけられた。口の中いっぱいに鉄の味が広がる。それでも引き金は引いたまま、照準も外さぬまま、デルラゴの顎を支え続ける。

銃弾は既に尽きかけている。次に叩きつけられたら死んでしまうかもしれない。この巨大な生物に飲み込まれ、ドロドロに消化されて汚い死体になるかもしれない。

恐怖は間違いなくあった。それでも、鉄次郎の信念は彼を戦い続けさせた。

 

カチン……

 

悲しく響いた弾切れの音に鉄次郎は、

 

「——ッ!クソが……」

 

舌打ちをし、悪態を吐いた。

鉄次郎に残された武器はハンドガンとナイフ、そしてアサルトライフルの改造部に装填されたグレネード弾1発。普通の生物が相手ならば申し分の無い装備だが、この巨大な生物が相手では頼りないように感じられた。それでも、

 

——やるしかない。

 

鉄次郎は喉の奥にナイフを投げつけた。喉の奥にナイフが突き刺さり、血が流れる。更にハンドガンの弾倉が空になるまで一気に撃ち込んだ。狙いはナイフの柄。そして結果は全弾命中。ナイフは更に奥まで刺さり、多くの肉を抉り取って抜けた。

鉄次郎は後ろを振り向き、進行方向を確認する。

 

「おっと、こりゃあ別れは思ったより早そうだ」

 

進行方向に大木を視認し、鉄次郎はそう呟いた。

 

「じゃあな、化け物」

 

鉄次郎はナイフが抉り取った部分を狙ってグレネード弾を発射した。傷口にグレネード弾が埋まったことも確認せず、口が閉じる前に大急ぎで横に跳び、デルラゴに振り返る。同時に巨大な口が閉じ、

 

 

デルラゴの頭が弾け飛んだ。

 

 

デルラゴは勢いを殺さず、そのまま大木に激突し、停止した。頭だけが見事に無くなった化け物は身体をピクピクと痙攣させている。

もはや、しっかりとした確認は必要無い。

 

デルラゴ全滅。

 

後に残ったものはたった一つの結果。2人の戦いにおいて最小、そして最善の結果。




今回のバトルはジェットと鉄次郎さん。そしてジェットの能力公開。
ジェットの能力はどうでしたか?個人的に貫通はチートクラスだと思っているんですけどね。
え?強すぎる?……大丈夫、主人公の方が(多分)強いから。

ではでは!

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