東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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映姫のキャラ崩壊注意です。


第七十七話

範人は映姫によって、閻魔の部屋へ引きずり込まれ、その更に奥にある彼女の自室に連れ込まれた。見た目が幼女と言えども、映姫は閻魔…神の一種である。力は相当なものであり、範人はソファに無理やり座らせられた。

少女の部屋に少女と2人きり。今の様子を妖夢に見られたら間違いなく彼女のヤンデレが発動するだろう、と範人は思った。そんな風に内心ヒヤヒヤしている範人の隣に映姫が座り、普段の彼女には絶対にありえない砕けた口調で話し始める。

 

「実際に会うのも、こうやって話すのも久しぶりだね。」

 

「そうだな。最後に会ったのは確か……2年くらい前だったか?懐かしいな。」

 

「あの頃はよくここに来てたよねー。何度も何度も死にかけて。」

 

「まぁ、ミッションに慣れてからは戦闘技術も上がったし、何より身体の再生能力が強化されたからな。死から遠ざかるのは仕方ないことだったんだ。」

 

2人は過去を振り返り、懐かしむ。過去を振り返るだけで2人は自然と笑みをこぼしていた。

 

かつての範人はミッションが第一という冷酷なエージェントだった。その頃はミッション遂行のためなら、躊躇うことなく殺したし、消した。その頃の範人にとって、敵となる人間は人間に見えず、生物兵器と同様にただの破壊すべき肉塊だった。その頃の範人には気の休まる場所があまりにも少なかった。そんな彼の休める場所が死にかけたときに辿り着ける場所…彼岸だったのだ。

最初、範人が彼岸に来たときの映姫は冷たかった。仕事とは言え、平然と殺しを行う範人は、映姫にとって正に黒だったのだ。もちろん、映姫は彼を裁こうとした。しかし、範人は裁かれる前に死にかけた身体を回復させて、元の世界に戻ってしまった。映姫が範人に伝えられた言葉は0、ただ冷たい目線と態度だけだった。しかし、その日から範人が変わった。殺すことを躊躇うようになり、相手を殺したことに対して深く反省するようになった。映姫にとって、ここまで変わった人間は初めてだった。映姫は範人を認めるようになり、範人も気がつけば映姫と親しくなっていた。

 

思い出に浸る範人に映姫が質問する。その質問はある意味、してはいけない質問だった。

 

「でも、2年前から全く来てないよね。どうしてなのかなぁ?」

 

「映ちゃん、それは聞かないでもらいたかったんだが……」

 

「えー?いいでしょう?教えてよ。」

 

「……わかった。だが、間違いなく映ちゃんから見た俺の評価は下がるからな。」

 

範人は話す、2年前に範人が初めて完璧にこなせなかったミッションのことを。燃える街と本当に化け物になった自分のことを。知らない方が幸せだろう。知らない方が日々を安心して過ごせただろう。範人の罪はあまりにも大き過ぎ、奪った命はあまりにも多過ぎた。そして、そのときの範人は元よりも増して冷酷だった。

範人はなるべく速いスピードで話し終えた。起こした失敗は数あれど、あの失敗だけは思い出したくなかった。

 

「それは……辛かったね。」

 

しかし、映姫は叱らなかった。いつもの彼女なら、間違いなく叱っていただろう。どんな小さな罪も彼女にとっては等しく罪。だが、範人を黒にはしたくなかった。心のダメージが復活している今の彼を叱責すれば、理性の崩壊と暴走は必然。だから、今だけは自身の能力さえも、うやむやにした。裁かれる者だけでなく、裁く者も辛いのである。

 

「それにしても、範ちゃんは大きくなったね。私なんてずっと小さいままなのに……」

 

「それは身体のことか?」

 

「そう……」

 

映姫は範人に悩みをぶつける。種族が種族なため、成長が遅いことは仕方ないのだが、やはり身体のことは映姫にとってコンプレックスだった。女性としては気になるところらしい。

ションボリとする映姫の頭を範人は優しくポンポンと叩く。

 

「まぁ、胸の大きさとかあまり気にしなくていいと思うぜ。大事なのは心だし。それに今の映ちゃんも充分可愛いと思う。

…って、これ妖夢に聞かれたら殴り飛ばされかねんな……」

 

範人は手を離すと、自分の頭を掻きながら言う。今の言葉は紛れも無く純粋な彼の本心である。映姫に対して恋愛感情のような好意は全くないが、大切な友としての純粋な意見である。

可愛い という言葉が映姫の心に深く、優しく、喜びとして突き刺さる。その嬉しさと恥ずかしさを隠すために映姫は範人に抱きつきたいと思ってしまう。普段は厳しい彼女も友である範人の前では可愛らしい普通の少女なのだ。

ふと、映姫は自身の中にある範人のイメージを考えてみる。大人っぽくてカッコよくて、でも無邪気な子供みたいなところもあって、強くて優しい。範人はその生物的な種類以外は世の女性にとって理想の男性像に当てはまるだろう。

映姫は何かを言おうとし、口をつぐんだ。ここでその言葉を言っても上手くいくとは到底思えなかったのだ。代わりに違う話題を取り出す。

 

「ところで、範ちゃんは恋人がいるんでしょ?どう思ってる?」

 

「妖夢のことか?

あいつは俺が初めて心の底から恋愛対象的な意味で好きになった相手だからな。可愛いよ、本当。あいつは俺にとって最高の彼女だ。

本当に今更なんだが、誰かを好きになるってこんな感じなんだな、って実感している。こんなに素晴らしいことだなんて思ってなかった。あいつと一緒にいると、毎日が楽しくて、最高にハイってヤツなんだ。

……まぁ、夜になる度に性を交えようとしてくるのは勘弁だけどな。」

 

映姫の質問に、範人は迷わず答えて苦笑する。迷わず答えられるということはそれだけ愛しているということなのだろう。範人の性質を知っている映姫はホッと安心し、同時に一部真面目すぎる彼に対して、他のことが心配になってきた。

 

「じゃあ、範ちゃんは童貞卒業したの?」

 

「いや、まだだ。年齢がまだ18歳に届いてないからな。」

 

「そう…それなら、童貞を失うことが怖い?」

 

「…正直、怖い。何があるかわからないから……」

 

映姫は「やっぱりか……」とため息を吐く。やはり範人はルールに対して忠実過ぎる。実際、範人くらいの年齢で付き合っているなら、卒業していても決して珍しくないのである。おまけに童貞を失うことが怖いときた。映姫は、チャンスが回ってきたのではないのか、と期待してしまう。

 

「じゃあ、私が教えてあげようか?」

 

そう言って、映姫は服に手をかける。しかし、範人はそれを無言で止めさせた。映姫が見た範人の顔は真剣で、同時に威嚇するような鋭い気を放っていた。

 

「そういう関係になる相手は過去も未来も妖夢だけが良い。あいつのことが好きになったんだ。他の者とはそういう関係は絶対に持ちたくない。」

 

「ふふふ、わかっているよ。冗談だよ、冗談。範ちゃんがどれだけ真っ直ぐか調べたかっただけ。」

 

やはり、大切なところはとことん真面目な範人に他人からの誘惑は効果がない。彼に効果がある誘惑ができるのはやはり、妖夢だけなのだろう。妖夢が彼を好いている理由も彼の真っ直ぐなところがかなり大きいはずだ。見た目もかなり理由になりそうだが……

 

「さて、俺はそろそろ帰る。久しぶりに会ったけど、元気そうで良かった。」

 

範人は立ち上がり、扉に向かう。しかし、不意に歩みが止まった。その腰には映姫の腕が背後から回されている。映姫はもっと彼と一緒に話していたかった。彼の優しさと心に響く温もりを感じていたかった。

驚いた表情で背後を振り返っていた範人だったが、数秒間の沈黙の後にフッと微笑み、映姫の腕をふりほどいた。そして、歩き出す。

 

「安心しろ、また来る。

長く使われるために作られたB.O.W.の寿命は長いし、死ねばここへ来ることになるんだろう?また会えるさ。

死んだときは正しい裁きを頼むぜ、閻魔様。」

 

範人はそう言い、右手を振りながら去って行った。

扉の向こうへ、現世の方角へ消えていく範人の後ろ姿を映姫はただ黙って見つめていた。範人がその視線に込められた意味に気づくことはきっとないだろう。彼の心は既に妖夢に向いてしまっているのだから。それが友として嬉しくて、でも、範人が離れてしまったようで悲しかった。映姫の胸の中にある悲しくも愛おしいモヤモヤした感情はきっと、そこから来るものなのだろう。

もう範人には妖夢がいるとわかっていても、もうこちらにその感情が向かないとわかっていても悲しい。だって……

 

「範人さん……貴方はやはり罪深い()です。私をこんなにしてしまうんですから……」

 

範人のことが好きだったから……




はい……厳しい映姫さんを求めていた皆さん、すみません。どこで血迷ったのか、デレな映姫さんを書いてしまいました!
でも、デレるロリも良いな……

ジェイド「お前…ロリコンだったのか……」

いや、純粋に甘えてくるのが可愛らしいな、って。それと、レミリアの夫のあんたには言われたくない。

ジェイド「なんだと!レミリアはしっかりとした女性だ!ロリって言うなー!」

はい……(ジェイド子供っぽいな……)

さて、次回を範人の過去の話にするか、それともコラボにするかは未定です。おそらくコラボになるかと思いますが、その場合、1話目はとある参加者様のオリキャラと範人の一騎打ちがメインになります。他のオリキャラは2話目以降の登場になってしまうかと思います。お許しください。

では、今回はこの辺で!

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