東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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平の過去話ラストになります。


平の過去話 深き地に消えゆ

平は走っていた。絶対に振り向くことはできない。振り向けば、誰かを食らってしまいそうだったから……

消えたい。その言葉が彼の心を支配していた。そんな彼からはうっすらと血の匂いが漂っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平は50年もの間、人間を食べていなかった。純粋な妖怪である彼が我慢するのは辛かっただろう。それでも、ずっと我慢していたのだ。しかし、最近になってからは人間を食べたいという衝動が抑えられなくなってきていた。無意識のうちに感じないようにしていた衝動は、彼が感じることができる程に膨れ上がってきていたのだ。

そんなときに彼が受け持った患者は死にかけ、本当に死にかけの少女だった。窮鼠に噛まれ、毒が全身に回ってしまったという。平はその死にかけの少女を見て不覚にも「美味しそう」と思ってしまった。しかし、彼は食の衝動には屈しなかった。衝動が強くなったときは自身の身体に千刃を突き立て、痛みで正気を保った。

数分後、治療は成功。抗体は少女の体内から毒を消し去った。しかし、平の我慢も限界に近かった。彼は自分の腕を切りつけた。蜘蛛は脱皮することで腕や脚くらいなら、また生えてくる。だからこの際、切り落としてしまっても構わなかった。そこまでして、平は人間に嫌われたくなかった。

平は手紙を書いた。紙が血で汚れることなど全く気にならないほどに必死だった。理性と食欲の衝突で必死に理性を勝たせ続けた。食べたくない。人間との仲を守るためには自分が人里を離れる以外に方法はなかった。それが悲しくて憎かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音から聞いた幻想郷の歴史。平はその中でも嫌われ者の妖怪が住むと言われる地底に目をつけていた。そんな場所ならば、人間はいないはず、いたとしても既に肉の塊になっているはず。彼の好きな人間は心のある命である。空腹もあり、今の彼には命無き屍や心無き人間はただの肉の塊に見えるだろう。

 

「ハァ…ハァ……ここが地底に続く穴か……」

 

地底の穴にたどり着いた平は荒い呼吸をしながら1人つぶやく。平は底が全く見えない暗い穴を覗き込む。ゴツゴツとした岩肌とそのあまりの深さから吸い込まれてしまうような感覚を覚える。

絶対に振り向かない。そう決めた彼は背中から2対の脚を出し、それらを使って壁伝いにゆっくりと下り初めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平は地底へ下り続ける。いや、堕ち続けると言った表現の方が正しいのかもしれない。何故なら、彼は人間の友から、純粋な妖怪への仲間入りをしようとしていたのだから……

途中、岩肌に住む異形の妖怪たちが平に襲いかかったが、彼はブレることなく体術と千刃でねじ伏せた。追い詰められた獣ほど恐ろしいものはいないと言うが、妖怪と戦う彼は正にそれだった。

半分くらいまで降った頃だろうか。平は蜘蛛の巣に金髪の少女を見つけた。蜘蛛の巣に絡まっているように見えるその少女に平の優しさが反応した。平は糸を伝って少女の元まで移動し、千刃で絡まっている糸を断ち切った。

 

「糸に絡まっているようだったが、大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。でも、助かった。ありがとう。

まさか、自分が張った巣に自分がかかっちまうなんてねぇ。」

 

「ハハハ、それは大変だ。」

 

「全くだよ。」

 

互いに笑い合う2人。なかなか気が合うようだ。

話からして、少女も平と同じ蜘蛛の妖怪のようである。それが気の合う原因なのかもしれない。

 

「俺は蜘蛛島 平。あんたは?」

 

「アタシは黒谷 ヤマメさ。

……それにしてもあんた、いい男だねぇ。」

 

「突然何を言うんだ。その言葉、お世辞とか冗談だろ?」

 

「ふふふ、冗談じゃないよ。焦っているところも良いねぇ。お持ち帰りしたくなるねぇ。」

 

ヤマメの言葉に冷静に返す平だが、その顔は赤くなっており、内心焦っていることは見え見えだった。ヤマメのペースに乗せられてしまっている。その様子を見たヤマメはニヤリと笑う。

 

「じ、じゃあ、俺はこの辺で……」

 

「蜘蛛が自分の巣に来た獲物を逃すと思うかい?」

 

「何を言って……足が動かない⁉︎」

 

平はその場を立ち去ろうとしたが、足が動かなかった。彼が自身の足に目を向けると、粘着性のある蜘蛛糸が絡まっていた。ただでさえ、力が入らないというのにこれでは動けない。ヤマメはそれを見て笑っている。平はそこで思った。「この娘、やる気満々だ。」と。おまけに今は空腹であまり力が出ない。逃げられないことを悟った平は今が春だということを思い出し、心の中で自身の童貞に別れを告げた。

ヤマメは平に糸を絡め、肩に担いで家まで運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平が投げ降ろされたのはいつの間に敷いてあったのかわからない布団の上。平は離してもらえたことでヤマメを傷つける心配が無くなったため、妖力を操り千刃の能力を発動、自身に絡まる糸を断ち切った。平も拘束プレイはごめんなのだ。

 

「へぇー、そんなこともできるんだ。それだけの実力を持っているのになんでアタシから逃げなかったんだい?」

 

「女性を傷つけるのは好かない。あと、生まれてこのかた一度も人肉を食ってないことが原因の空腹で、逃げ切るほどの体力が残っていない。」

 

「ふーん、状況の飲み込みが早くて助かるねぇ。(逆に言えば、諦めが早いってことだけど……)」

 

平の目の前でヤマメは見せつけるようにゆっくりと服を脱いでいく。平はそんなヤマメから目を逸らし、まだ逃げることができるかもしれないと、腰を浮かせたがすぐに力が抜けてぺたんと落ちてしまった。ほとんどの力が尽きてしまったようである。平の脳内にgame overの文字が浮かんだ。

 

「あはは、本当に動けないみたいだねぇ。これはアタシがリードしなきゃいけないのかねぇ?」

 

「……もう好きにしてくれ。」

 

全裸になったヤマメは平の言葉にニヤリと笑みを浮かべて、平の服を全て脱がす。目元近くまで覆うマスクをとったとき、そこにあったのは美青年の顔と美青年らしい柔らかそうで美しい唇だった。ヤマメはその唇を見て、舌舐めずりをする。

ヤマメは平のその唇と自身の唇を重ねた。貪るように、吸い尽くすようにヤマメは強く唇を重ね、同時に身体を擦り付ける。しっとりと、滑らかに張り付く肌の感触が気持ち良い。それでも足りず、今度は半開きになった平の唇を舌でこじ開け、平の口内を犯し始めた。相手の口内を舐め回し、舌と舌を絡ませる。

ディープキスは10分に及び、唇が離れた頃にはヤマメの肌には赤みがさし、息が荒くなっていた。平も口では興味無さそうにしていたものの身体は正直で、息子が既に臨戦態勢を整えていた。ヤマメはそれを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、平は顔を赤くして目を逸らした。

 

「別に恥ずかしがることなんてないじゃないかい。アタシだって、初めてで緊張しているんだよ。」

 

「仰向けになった裸の男の上にまたがっているあんたが言えることか?」

 

「言えるか言えないかじゃないよ。言ったんだよ。」

 

「あ、そう。」

 

「さて、アタシもこんなに濡れちゃったし……鎮めてもらおうかねぇ。」

 

ヤマメは平から腰を浮かせる。彼女の股間から透明な糸が伸び、すぐに切れた。ヤマメは平の息子に狙いをつける。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コバルトブルーのお医者さん、蜘蛛島 平は医者として地底をかけ回る。地底は喧嘩事が多く、いかんせん怪我人が多い。そんな彼らの傷を癒すために平は走るのだ。

最初は捕獲され、犯され、ヤマメと同棲を強いられたが、彼は今に満足している。さすがに性欲MAXのときのヤマメはごめんだが……

人間ではない妖怪たちにも心があり、感情があり、思いやりがあり……温かみがあった。妖怪も人間と何ら変わりはない。平はそう思っていた。

地上も素敵だが、地底も素敵。人間も素敵だが、妖怪も素敵。妖怪と人間は違うが、平の中では同じ友だった。彼は太陽を知らないかもかもしれない地底の友にとって、地上の生物を生かす太陽のように皆を助ける存在でありたかった。

 

「平ー、向こうにも怪我人がいるぞ〜。」

 

「わかった。すぐに向かう。」

 

コバルトブルーは今日も地底をかける。




うーむ……最近は数話毎にヤってますね。
思い出せ!私の書きたかったのはこういう小説か?
はい、こういう小説ですw
チックショー!

さて、茶番はここまでにして……
今回で第三章は残すところ追加設定だけになりました。そちらをササッと書いて、早く四章に入りたいです。
では!

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