東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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サブタイトルふざけました。ごめんなさい。


第七十三話 お嬢様はお怒りのご様子です

紅魔館にある自室、咲夜はそこで目を覚ました。しかし、彼女は違和感を覚えていた。昨晩、この部屋まで来たときの記憶がないのだ。それどころか、昨晩自体の記憶が途中から全くない。思い出そうとしてみても視界に影の幕が張ったように真っ暗になってしまう。

咲夜はなぜか力の入りにくい身体を無理矢理起こして、新しいメイド服に着替え始める。メイド服を脱いだところで、ドスドスと誰かが走ってくる音が聞こえた。咲夜の部屋のドアがノックされる。

 

「デューレスです。咲夜さん、居ますか?」

 

デューレスという名前を聞いた瞬間に咲夜はパニックになる。彼女は何を思ったのかクローゼットの中へ隠れた。そして、隠れた後に後悔した。普通にドア越しに話せばよかったのではないか?と。

 

「咲夜さん?……寝てるのかな?まぁ、いいや。

起きているのならですが、お嬢様が呼んでいました。妹様と義弟様が誘拐されたらしいです。図書館でお待ちしているそうです。

門番の仕事があるので、私はこれで失礼します。」

 

足音が遠ざかっていく。足音が聞こえなくなると同時に咲夜はクローゼットから出た。

デューレスのことを考えるとドキドキする。何故だろう?彼女は自身の胸に手を当ててそう思った。次に頰に触れてみる。頰は自分でも驚くほどに熱くなっていた。

彼女はそれらを体調が悪いせいだと決めつけ、急いで着替えると、主のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『親愛なる紅魔館の主レミリアへ

 

どうも、久しぶり…とでも言っておこうか。

唐突ながら、貴女の愛する妹と義弟を誘拐させていただいた。安心したまえ、多少息はかかったかもしれないが、2人には傷一つどころか、触れてさえいない。

今は旅行という名の優しい青年に寝床を提供してもらっている。そして、2人も今はそこにいる。2人に何かするというわけではないが、取り返したいと言うのならば来るといい。私も逃げずに待っていよう。ただし、1人で来ることを忘れるな。お話は2人だけの方が都合が良い。

 

ps.私は貴女を知っており、貴女も私を知っている。』

 

手紙の内容に咲夜は驚き、レミリアは怒りに目を血走らせ、身を震わせていた。パチュリーはいつも通り冷静に紅茶を飲んでいる。

 

「息がかかっただと?フランは自身の息で怪我をするほどデリケートなのよ!」

 

「間違ってはないかもしれないけど、少なくともデリケートではないわね。狂気に囚われて周りを破壊していたんだもの。」

 

レミリアの発言をパチュリーはジョークと捉える。

確かにフランならば、自身の吐息で腕一本吹き飛ばしてしまうかもしれないが、さすがにそんな娘をデリケートとは言わないだろう。

咲夜はそんなパチュリーの冷静さに驚きつつ、レミリアに話しかける。

 

「お嬢様、どういたしましょうか?私も同行する必要はございませんか?」

 

「必要ないわ。私1人で行く。喧嘩売ってきた向こうが条件を提示してきたんだから、こちらも喧嘩を買って条件に乗ってやるわ。」

 

「わかりました。では、私は留守番ということで……」

 

「ええ、それでいいわ。

じゃあ、行ってくるわね。」

 

いつになく戦う気満々のレミリアに咲夜は少し恐怖する。いくら愛する主と言っても、吸血鬼の本性をさらけ出して目を紅く光らせていたのなら、誰でも恐怖するだろう。今日のレミリアには、咲夜がこれまでに見たことないほどの迫力があった。

咲夜の言葉に答えると、レミリアは走り出し、そのままのスピードで宙に浮いた。地下から地上へ続く階段を一気に飛び抜け、正面玄関のドアを弾き開けて外に飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日に引き続き、外は夜のように真っ暗。まるで、吸血鬼が通るために暗くなっているかのように真っ暗だった。

レミリアは空気を割いて、猛スピードで宙を駆け抜けた。

霧の湖にいた妖精たちは風圧で吹き飛ばし、行く手を阻む木々は体当たりでなぎ倒した。

10分とかからないうちに研究所へたどり着き、インターホンを鳴らす。出迎えた者は範人だった。

 

「レミリアか……やつが待っているぜ。」

 

「案内よろしくね。」

 

「任せな。」

 

レミリアは範人について行く。彼女には前を行く彼の姿に夫であるジェイドの姿が重なって見えた。

レミリアが案内された部屋は研究所の奥にある実験場。壁、床、天井を強靭な生体金属で覆われたその部屋はかつて、生まれたばかりのハンターキングとバスターキングが死闘を繰り広げた部屋だった。

 

「ここだ。ここにあいつがいる。」

 

「ねぇ、範人……」

 

部屋のロックを解除するため、タッチパネルを操作する範人にレミリアが話しかけた。彼女はずっと思っていた疑問を彼にぶつける。

 

「範人は今回の誘拐の協力者なの?」

 

「ん〜…なんて言うのかな……」

 

レミリアの質問に範人は悩む素振りを見せる。彼としては本当に悩ましいところなのだろう。しかし、すぐに顔を上げ、質問に答え始める。

 

「まぁ、協力者って言えば協力者だ。誘拐自体に協力したわけじゃないが、俺はこの場所を提供している。実は、この誘拐を思いついたやつは俺でも、誘拐したやつでもないんだがな。そいつの名前を教えるわけにはいかねーが……」

 

「ふぅん……じゃあ、なんで場所なんて提供したの?」

 

「俺自身拒まれ続けてきた存在だからな。拒まれることの辛さがわかるから、極力誰かを拒むってことはしないようにしているつもりだ。今回もそれが理由だな。

さぁ、ドアが開いたから早く入りな。」

 

レミリアは促されるまま、部屋に一歩だけ踏み入れた。後ろを振り向くと既に範人の姿はなく、ただの通路が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリアが部屋の中へ入ると入り口のドアが閉まり、一斉に明かりがついた。部屋の中にあるものは戦闘実験に使われていたであろう壁とその中心の椅子に座っている仮面を被った男1人だった。

男を立ち上がり、機会音声でレミリアに話しかける。

 

「来タナ、紅魔館ノ主ヨ。」

 

「まずは質問に答えてもらおうかしら。

フラン達は無事なんでしょうね?」

 

「モチロンダ。2人ニ怪我ハサセテナイ。少ナクトモ、私ハ…ダガ……」

 

男はモニターの電源をつける。そこにはベッドで一緒に寝ているフランとジェットの姿が映っていた。2人共何故か裸だが、それについて知っている男は何も言わず、ただモニターから目を逸らした。しかし、レミリアはそうはいかない。男が妹と義弟に何かしたのだと、激怒した。

 

「2人に何をしたァア⁉︎」

 

「何モシテイナイ。私ガ誘拐スルタメニソチラヘ行ッタトキモ既ニヤロウトシテイタヨ。

サテ、勝者ガ何ヲスルノカ決メヨウジャナイカ。」

 

「貴様ァァァァア!」

 

男の言葉はレミリアに届いていなかった。怒りに任せ、男に向けて爪を振るうが、男はそれをバックステップで軽々と躱していく。怒りに燃え、紅く染まったレミリアの目を見て、仮面の奥に見える男の目がニヤリと笑った。

 

「消えろォォォォオ!死ねェェェェエ!貴様ァァァァア!」

 

「ナルホド、ソレガ貴女の望ミカ……

デハ、私モ望ミヲ言ワセテモラオウ。私ヲ紅魔館ニ住マワセテモライタイ。」

 

レミリアは男の望みを全く聞いていない。男が話している間も爪を降り続ける。男は冷静に、仮面の下の顔にニヤリと笑みを浮かべながら、冷静にバックステップを続けた。

男の冷静さから、バカにされていると感じたレミリアのスピードがどんどん加速する。ついには男の服に爪がかするようになった。しかし、それでも足りず、まだまだ加速する。男がまずいと感じたときにはもう遅く、レミリアの蹴りが男の腹に入っていた。

男は吹っ飛び、部屋の中心にある椅子に激突した後、座るように停止する。レミリアはさらに追撃を加えるべく、妖力の槍を形成、男に投げつけた。男は首を傾げて躱そうとしたが完全には躱せず、槍は仮面の表面をかすめ、椅子の背もたれに突き刺さった。仮面にヒビが入る。

男は槍を叩き割り、椅子から立ち上がった。ヒビの入ったマスクは男が動くと同時に崩れ去る。男の素顔を見たレミリアは驚きで硬直してしまった。

 

「え…なんで……」

 

「やれやれ、仮面が壊れちゃったよ。まぁいいか……

今日はこんなにも空が暗いのだから、本気で戦わせてもらうぞ。」

 

男はモニターに映った外の光景を指差しながら言った。




次回はバトル回になります。このバトルは……何話にしようか?
おそらく、次回だけか、2話継続といった感じになると思います。

ではまた!

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