東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
後半エロ注意です。
幻想郷に訪れた暗い朝。それは昼になっても変わらず、辛うじて昼と夜の区別がつくという不気味な1日になった。
人里では大騒ぎが起き、神の怒りだの天が崩れただの様々な憶測が飛び交った。しかし、不思議なことに田畑や森の一部では日光が通常通りに差し込んでいる。そのわずかに開いた闇から闇の断面を見た人々は「影の衣が世界を覆ったようだった」と口々に話したという。
レミリアは喜んでいた。この世界にこんなに素晴らしいことがあるのだろうか?と、思えるほどに。しかし、彼女にとって最高のことは昼間に外を歩くことではない。今の彼女にとってはジェイドの存在が最高のものだ。しかし、今彼女の側に彼はいない。
彼女は久々に素の状態で昼間に外を歩くことができた。範人の作った薬も必要なく、暗くなった外を歩いていた。昼間に外を歩くことが夢の一つだったというのに彼女はイマイチ満たされなかった。それも夫の存在故だろう。
「いつになったら来るのよ、バカ……」
レミリアはジェイドのことを考えながら呟く。それを窓から見ていたフランは口を手で押さえて、クスクスと笑っていた。
紅魔館地下、ヴワル魔法図書館。
何万冊もの魔道書があるこの図書館で1人の少年と1人の少女がある封印を解こうとしていた。
「パチュリーさん、何のことですか?僕が…吸血鬼って……どういうことですか?」
「まぁ、落ち着いて聞きなさい。貴方が吸血鬼でも、ここに貴方を傷つける者はいないわ。
貴方はもともと吸血鬼だったのよ。その魔法陣は封印のためのものであり、同時に封印を解くためのものでもあるわ。おそらく、500年近く前に生まれたばかりの貴方にかけられたものよ。」
「え?でも、そんな記憶…僕にはないし……」
「当たり前よ。人間が300年以上も普通に生きていたらおかしいでしょう?この封印は大体80年毎にかけ直されているわ。最後にかけられたのは10年前ね。」
落ち着けと言われてもそうそう落ち着けるわけがない。ジェットは、魔法陣について質問したら、突然に吸血鬼だと言われたのだ。いくら吸血鬼が実在しているとはいえ、こんな話が信じられるだろうか?
「それで、どうしたい?記憶を取り戻して心も吸血鬼に戻るか、それとも過去を知らずに半永久的な寿命を持つ人間のまま生きるのか?
貴方の人生だから貴方が決めるべきよ。」
「僕は……」
ジェットは悩んでいた。彼の恋人であるフランは吸血鬼。寿命以外の力が封じられている人間の身体のままでは彼女と釣り合うのだろうか?と。
ジェットはフランのことを考えてみる。人間の身体は弱い。自分が人間のままでは彼女は強く抱き締めることも、本気で気持ちをぶつけ合うこともできない。それが自分だったらどうだろうか?きっと辛いだろう。
ジェットは決意を固めた。フランを悲しませるわけにはいかない。
「決めました。封印を解いてください。」
「人間として生きることはできないわよ。それでもいいの?」
「いいんです。僕はフランの力を受け止められるようにならないといけない。それに、僕には過去を知る権利があります。僕が何者だったのかを知らなければいけません。」
「わかったわ。
これを……くらいなさい!」
パチュリーはジェットの決意を聞き、ニヤリと笑う。彼女は自身の右手人差し指に魔力を込め、ジェットの魔法陣の中心に突き刺した。直後、魔法陣は崩れ、溶けるように消えた。魔法陣のあった位置から光輝く魔力が溢れ、ジェットを包み込む。
数秒後、魔力が消えたとき、そこには吸血鬼の少年が立っていた。その背中には吸血鬼らしからぬ白銀に輝く羽が生えており、その羽はコウモリと言うよりかはドラゴンに近い形状をしている。
吸血鬼に戻った彼は自身の姿を眺めた後、吹っ切れたような表情になった。
「ありがとうございます、パチュリーさん。全て思い出しました。」
「どういたしまして。
でも、吸血鬼に敬語を使われるなんて慣れないわね。普通にタメ口でもいいのよ?」
「いえ、僕はこの方が慣れているんで……それに貴女のことは尊敬していますから。封印を解いてくれた恩人です。」
「なんか礼儀正しすぎて、逆に気味が悪いわ。」
ジェットの脳内に激流のように記憶が流れ込む。
彼は全てを思い出し、パチュリーに礼を言う。しかし、レミリアのこともあって、吸血鬼に敬語を使われることに慣れていない彼女は少し気味が悪かった。とはいえ、話し方を直すことなく慣れている言い方を貫くということは彼もまたプライドの高い吸血鬼なのだろう。
「僕の心はまだピュアです。悪いことなんて考えてませんよ。」
「自分でよく言うわね。」
「だって、ピュアですから。」
パチュリーはジェットの言葉を一種のジョークだと思い、笑っていた。当の本人はジョークでもなんでもなく、本気で言ったことだったのだが……
その日の夜、紅魔館。
吸血鬼は本来夜行性である。しかし、人間に合わせて昼間に活動するようになったレミリアたちは夜に寝る。
レミリアはぐっすりと眠っていた。今起きているのは地下室にいる妹夫婦とメイド長の咲夜だけだ。門番の美鈴は寝ていても気づくということで、毎度のごとく眠っていた。
ぐっすりと眠っていた美鈴だったが、強大な気を感じて目を覚ました。紅魔館の主にも似たその気を感じた部分に踵を落とす。ドンという大きな音が地面に響く。しかし、彼女の感覚神経に伝わった感触は地面だった。不思議に思った彼女は思わず呟く。
「あれ?何もいませんね。確かに気を感じたんですが……」
彼女は空を見上げる。昼間の現象がまだ続いているのか、星はおろか月も見えない。月明かりも届かないその世界はまさに闇と影が支配する世界だった。
来る者を拒む紅魔館のロビーに館の者ではない男が1人。その顔は仮面に隠されており、誰とは判別できない。金色に輝く髪だけが彼を判別する材料だった。
男は滑るようにロビーを移動する。目指す場所は地下室。かつて、狂気の吸血鬼が閉じ込められていた部屋。
「危ナイトコロダッタ。アノ攻撃ヲ受ケテイタラ、骨ガ一本クライ逝ッテタダロウナ。咄嗟ニ避ケテ良カッタ。」
先ほど避けた美鈴の力に男は思わず呟く。そのマスクの牙の生えた口から発された声は抑揚のない機械音声だった。ロビーに悲しい機械音声が響く。
その音を聞きつけてやって来たのか、咲夜が一瞬で現れる。男は隠れるが、咲夜の時間停止に一瞬だけ反応が遅れた。その時間、たったの1マイクロ秒。しかし、咲夜はその姿を目で捉えていた。
「逃がしませんよ。」
咲夜は物影に向かってナイフを投げる。すると、床の影から手が伸び、ナイフを受け止めた。物影から男が姿を現わす。マスクのせいで表情は見えないが、その口からは時折抑揚のない笑い声が漏れるため、咲夜は気味が悪かった。
その男の目的が何かはわからないが、取り敢えず館の主とその妹、義弟を守るために、咲夜は時を止めてナイフを投げる。しかし、そのナイフは地面から飛び出してきた影の壁によって弾かれてしまった。
「ククク……ナルホド、時間ニ干渉スルタイプノ能力カ。ナカナカ強イ能力ダナ。」
「あら、判断が速いですね。」
「見エテイルカラナ、時ノ止マッタ世界デナイフヲ投ゲルアンタノ姿ガ。」
突如として、全方位から発射される矢の弾幕。咲夜は時を止めて安全地帯まで逃げ、男が立っていた場所を見る。
いない。時を止めているはずなのに立っていた場所はおろか、ロビーの中を見回しても見当たらない。
咲夜は全力で探すが、男は全く見つからない。そして、時止めの時間が長くなるとインターバルが長くなって困るため、時止めを解除した。
ドッ!
「ウッ⁉︎」
突然、首の後ろに走る鋭い衝撃。咲夜が薄れゆく意識の中で見たものは自身の後ろに立つ男の姿だった。
彼が来ない。今夜来るように言ったはずなのに彼が来ない。
フランとジェットはある男を待っていた。彼が今回の作戦の要なのだ。彼が来なければ、作戦自体が失敗してしまう。
「来ないね。」
「うん。
そうだ!良い時間潰しを思いついたよ。」
「へぇ、どんなこと?」
フランが何か思いついたようだ。ジェットはそれについて聞こうと訊ねる。
しかし、返ってきた答えは言葉ではなくディープキス。ジェットが驚いている間にフランは舌を侵入させ、彼の口内を舐め回す。
突然のことにジェットは一瞬何が起きたかわからなかった。そして、何が起きたのかがわかっても酸欠で力が出ず、抵抗できない。口内を這い回る舌の感触と酸欠で頭の中が真っ白になる。
数十秒後、フランが唇を離した。2人の口に透明な糸の橋が架かる。
「ね、良い時間潰しになりそうでしょ?」
「なんだろう……フランの考えていることと僕の考えていることは同じだと思うんだけど、それがやばいことなんだよね。
多分だけど、それは時間潰しでやることじゃないよ。」
「でも、時間はかなり潰せるよ。
それに、もう既に身体が熱くなって準備できちゃっているんだけど……」
見た目が小学校高学年くらいとはいえ、2人とも500年近く生きている。ジェットは昨日思い出したばかりだが、それでもこれから何をするかくらいわかる。
ジェットの予想通り、フランは服を脱ぎ始めた。彼は思わず目を閉じる。恥ずかしい、ただそれだけの理由だった。
再びジェットが目を開けると、フランは下着姿で彼の目の前に座っていた。
ジェットがロリコンというわけではないが、フランは同年代の恋人。彼女の幼い肢体に彼の理性は揺れ動いていた。
「ねぇ、フラン。」
「なーに?」
「理性をなんとか保っているんだけど……我慢するのやめていいかな?
もう崩れそうで……」
「もちろんOKだよ。おいで♪」
その瞬間にジェットの理性が崩れる
はずがなかった。
理性を保つ必要がないという解放感から彼は理性を支配した。
ジェットもフランに合わせて服を脱ぐ。理性を支配しているとは言え、彼の本心はフランとのつながりを求めていた。それに従ったのだ。
フランはまだ下着を脱いでいなかったため、ジェットも下着は脱がない。その状態で互いに抱きしめ合う。かつてのような骨の軋む音はしない。
抱き合ったまま、唇を重ねる。互いに互いの舌を絡ませ合い、味わい合う。クチャクチャといういやらしい音が2人の口から発せられて、2人だけの部屋に響く。唇を離すと透明な糸が引き、すぐに切れた。2人は混ざり合ってどちらのものともわからなくなった唾液を飲み込んだ。
フランの肌は先ほどよりも紅潮しており、息も荒くなっていた。変化は少しだけだが、それはジェットも同じであった。
「ねぇ、ジェット。見てよ、これ。こんなにグショグショだよ。」
「僕も…こんなに元気になっちゃった。」
フランは自身の濡れた下着を指差しながらに言う。ジェットも自身のパンツを指差しながらに言う。
2人は互いに互いを求めていた。2人にとって、下着という薄い布でさえ、もう既に邪魔なものだった。
2人は下着を脱ぎ捨て、互いに抱きしめ合った。滑らかにしっとりと張り付く肌の感触が心地よい。しかし、2人にはもうそれだけでは足りなかった。
「ジェット、お願い……来て!」
「言われなくたって行くよ。」
ジェットがフランを押し倒す。ベッドが軋み、ギイィと音を鳴らした。ジェットはフランに身体を重ねようとする。
「オーウ!オ前ラァ、待タセタナ!」
突然、扉が開き、仮面を被った男が2人の部屋に入ってきた。
2人の表情が一瞬固まる。それは男も同じで、表情こそ見えないものの仮面から見える目が驚きで見開かれていることはハッキリとわかった。
男は咄嗟に目を伏せる。間違いなく、これが普通の反応だろう。知り合いの家に招かれて、扉を開けたら知り合い2人が絶賛ハッスルNOW!という状況だったのだ。
男は目を伏せたまま言う。
「服ヲ着ロ。スグ二行クゾ。」
「ごめんね。続きは今度にお預けみたい。」
「えー、今ヤりたいのにー……」
「向コウデ部屋クライ貸シテクレルダロウカラ、ヤルノナラソッチデヤレ。早クシロ。」
フランとジェットは不満のようだったが、しぶしぶと服を着る。男は少し呆れた様子で2人を視界に入れないようにしていた。
フランとジェットが着替えを終えたため、3人は紅魔館を出発した。
「貴方は恐ろしい人ですね。まさか、ヤっているときに来るなんて……」
「コッチカラスレバ、誰カガ来ルとワカッテイル上デヤルオ前達の方ガ恐ロシイヨ。」
夜の闇の中に抑揚のない機械音声が響いた。
ついにジェットが吸血鬼になりました。これでよかったんだ…これで。
ロリ×ショタ書いてやったぜ。2人とも500年近く生きているから大丈夫だよね?
しかし、まだ先へは進ませない。いつも通り、大人が雰囲気をぶち壊す。
ところで、読者様はジェットの能力をどんな能力だと思っていますか?もう決めてあるのですが、割と本気での質問です。
ヒント:近接戦闘、弾幕勝負どちらでも強い。
ではまた、次回お会いしましょう。