東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

81 / 124
今回、主人公は名前だけ登場です。
この章の名前の元になった話が今回からスタートします。つまり、三章を大きく3つに区切った内の最後の1つです。
実はこの話の投稿日前日の夜には既に書き終わっていましたが、この四ツ葉に投稿できる体力は残っていませんでした。これを1日だけで書き上げるというのはかなり辛かった。


第七十話 探訪

彼は世界の様々な地域を渡り歩いた。始めはヨーロッパ、次はアジア、その次は北アメリカといった感じだ。アフリカと南アメリカは関係ないため、この際省いた。

自身の地位は親友に譲り、自身の家も捨てて旅をしている。それらを捨てても、探さなければならないものが彼にはあった。ある集団から逃した妻と義妹だ。

思い出すと恐ろしい。彼らは周りの者たちに何の迷惑もかけずに同意の上で生活していたというのに、存在しているというだけでその集団に殺されかけたのだ。しかし、結局は彼がその集団を返り討ちにして、皆殺ししてしまったのだが……気がつけば、あれから450年以上も経ってしまった。

彼が今いる国はアメリカ合衆国。季節は夏。容赦ない日差しが照りつける中を彼は汗を一粒も垂らさずに足早に歩いていく。季節に似合わない服装…彼の着ている黒いロングコートに人々の視線が集まるが、彼は全く気にしない。人々もまた、それが彼の趣味なのだろう、とあまり気にせずに元の行動に戻った。人々は気づかなかった、彼の体が日向を歩いているにしては暗いことに。

そのとき、彼に誰かがぶつかってきた。彼の身長は183cmだが、ぶつかってきた方の身長は190cm程。かなりの高身長だった。

 

「おぉ、痛え。これは骨が折れたかもしれねーなぁ?慰謝料払えよ。」

 

ぶつかってきた方は変な言いがかりをつけて彼に迫る。周りの注目が一気に集まった。ぶつかってきた方はこの街ではかなり名の通った不良だったのだ。しかし、彼はそんな不良を気にとめることなく歩き続ける。周りの人々はそれを見て見ぬふりをしていた。

 

「テメェ…何無視してんだぁ?ぶつかっといてよぉ。」

 

「ぶつかってきたのはそっちだろう?目障りだ、失せろ。周りの人々にも迷惑だ。」

 

「テメェ……ちょっとこっち来いや。」

 

彼はやれやれとため息を吐いた。ついてこられると面倒なため、その不良についていく。ザコの強がりに付き合うのは面倒だ。彼はそう考えていた。

連れて行かれた先は薄暗い路地裏。彼の背後を不良の仲間と思われる者たちが塞ぎ、逃げ場を無くしていた。しかし、彼にとってそんな物は脆い肉の壁だった。

 

「テメェさっきから生意気なんだよ!まずはこの俺に土下座しろよ、土・下・座!」

 

「弱い犬程よく吠えるとはよく言ったものだな。」

 

彼は呆れて呟く。彼の言葉に不良はプッツンしてしまった。

 

「いい度胸してんじゃねーか。ゴラァ!」

 

不良は拳を振り上げ、彼の頬を殴り抜こうとした。拳は彼の鼻に当たる。彼は鼻血を噴き出しながら吹っ飛ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。彼は平然とその場に立っている。拳はしっかりと鼻を捉えていた。しかし、彼の血の一滴も流さない。

不良の拳に伝わったのは普通の皮膚の感触だった。だが、その皮膚はある一定以上は凹まず、不良の拳を受け止めていた。

 

「威嚇するばかりで弱いな。」

 

「ク……このバケモンがぁぁぁ!」

 

「さて、あんたが殴ったんだ。俺も殴らせてもらうよ。」

 

叫びながら殴りかかってくる不良。しかし、彼に当たる寸前で不良の動きが止まった。不良は指の一本どころか、口も瞼さえも動かすことができない。突然の出来事に驚いた他の不良たちはパニックに陥り、逃げ出そうとした。しかし、彼らもまた足が動かない。影の中では動けない。

 

「瞬きせずにしっかりと見ておきな。これが本当のパンチだ。」

 

瞬間、彼は不良の顔面に右ストレートを打ち込んだ。不良は鼻血を噴き出しながら大きく吹っ飛んで、路地裏から飛び出し、その先にあった店のショーウィンドウに突っ込んだ。その鼻の骨は折れ、顔は誰かわからない程になっていた。

人々は驚いた。街でも腕っぷしが強いと知れ渡っている不良がボコボコにされて路地裏から吹っ飛んできたのである。

 

「全く……迷惑なやつだったよ。」

 

そう呟きながら、彼は路地裏から出てきた。そして、壊れたショーウィンドウの店に行き、店主を呼んだ。店主はショーウィンドウの前で伸びている不良を見て唖然としていた。

 

「すみません。あの不良が喧嘩をふっかけてきたんで返り討ちにしたら、少し力を入れ過ぎちゃいました。これをショーウィンドウの修理代に当ててください。足りるとは思いますが、もし足りなかったら、その分はそこで倒れているバカに請求してください。」

 

そう言って、彼は古い金貨を3枚取り出し、店主に渡した。歴史に詳しい店主はまた驚いてしまう。その金貨は500年近く前の物で現在の値段だと1枚1万ドルは下らない物だったからだ。

 

「こんな物タダではもらえません。何か、お返しをさせてください。」

 

「では、訊きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「どうぞ。」

 

「ゴートレック生物研究所がどこにあるか教えてもらえますか?」

 

彼がお返しに選んだものは簡単な質問だった。その研究所は1年程前にあることで有名になっていたため、店主は場所を知っている。ここからかなり近い場所にあるため、店主は簡単に説明した。

 

「ありがとうございます。では、私はこれで。」

 

「本当にいいのですか?あの場所に研究所はもうないんですよ。宇宙人が研究所を持ち去ったとかの噂が流れていますし……」

 

「いいんですよ。それに今のはなかなか良い情報でした。」

 

?マークを浮かべている店主に背中を向け、彼は研究所があった場所を目指した。宇宙人に持ち去られたという説があるということが彼の中で幻想郷という言葉につながっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所があった場所に辿り着いた彼は早速ある痕跡を探し始める。

研究所という巨大なものを幻想郷に移したというのならば、移しただけの面積と同じ面積の土地をこちらに移してきたはずだ。この土地にないはずの木があるかもしれない。また、もしかすれば境界操作のミスで切れてしまった木があるかもしれない。彼は幻想郷へ行く方法を探すにあたって、これらの痕跡を探していた。

 

「あった……」

 

今、彼の目の前にあるものは縦に割かれた木である。

綺麗に真っ二つに割られており、さらに存在しなければならないはずのもう半分がない。切り口も鋸やチェーンソーで切ったようなガタガタしたものではなく、まるで日本刀で切ったような滑らかなものだった。

なんらかの能力が働いてできたものであることが彼の中で確定した。しかし……

 

「入り口は開いてないみたいだな。」

 

研究所のあった土地を見渡して彼が呟く。ここで境界が開く、または開いたことがあるのは間違いないのだが、現在はそれが開いていなかった。

「スタートに戻ってしまったのではないのか?」と思い、落ち込む。ふと、そんな彼の脳内にここへ来るときに見かけた居酒屋が浮かぶ。そこは昼間から営業していたような気がする。

 

(仕方ない。境界が開くまで暇を潰すか。昼間から飲むのも悪くない。)

 

彼は居酒屋で時間を潰すことにし、居酒屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は居酒屋の扉を開ける。扉が開くと同時に扉に着いた鈴がカランコロンという音色を響かせる。落ち着いた雰囲気の店内に客は彼以外おらず、カウンターの向こうには店主と思われる男性がいた。

彼は店主と思われる男性の丁度目の前にあるカウンター席に座る。

 

「適当な赤ワインを一杯。」

 

迷うことなく赤ワインを注文する。男性は赤ワインの瓶とピカピカのグラスを手に撮ると、店の奥へと消えていった。彼はその行動を少し不審に思ったが「隠し味でも入れるのだろう」と勝手に想像し、男性の帰りを待った。「そもそも隠し味などあるのだろうか?」という疑問が浮かぶが、触れないようにしておこう。

1分程待っていると、男性が戻ってきた。彼の前に赤ワインの入ったグラスが置かれる。血のように真っ赤なワインだ。

彼はグラスを手に取ると、赤ワインを少しだけ口に含み、味わってから飲み込んだ。喉を通り抜ける渋味と鼻を通る葡萄の香りに彼は感動する。だが、感動は終わらなかった。

彼の口の中には甘美な香りと鉄のような甘味が残っていた。身体が勝手にその香りと味に反応して、美味と感じてしまう。そう、まるで血のようなその味に……

彼は赤ワインを5分近くかけて飲み干した。

 

「ありがとう。今の赤ワイン、美味かったよ。」

 

「そうかい。ありがとうな、兄ちゃん。輸血パックを貰っておいて良かったぜ。」

 

彼は男性の言葉に眉をひそめる。男性が聞き捨てならない言葉を言ったような気がした。

 

「……今、なんて?」

 

「輸血パックを貰っておいて良かったぜ、ってことだよ。あんた…吸血鬼だろ?」

 

彼は驚いた。目の前の男性がとんでもないことを言ったのだ。彼は最大限の警戒をしつつ、なるべく平静を装って男性に質問する。平静を装いつつも、その額には汗が浮かび、拳を握り締めていた。

 

「何故、そう思う?」

 

「まぁ、そんなに身構えんなって。別に人間どもに突き出したりなんてしないからよ。

俺の知り合いには人間じゃないやつらもそこそこいてな。そいつらと一緒に居るうちに人間とそいつらの違いに雰囲気だけで気づけるようになったってことだ。」

 

「……ッ、そんなに言われたら本当のことを言うしかないじゃないか。

そうだよ。確かに俺は吸血鬼だよ。」

 

男性は怖気づくこともなく、普通に話した。最初は不安だった彼の心も説明を聞いてすぐにスッキリとした。同時に人間ではないやつという言葉に興味が湧いた。いや、興味が湧いたと言うよりは興味が確信に変わったと言った方が良いだろう。彼の脳内にはスキマという言葉が浮かんでいた。

彼の正体を聞いた男性は「ガッハッハ!」と笑い飛ばす。しばらく笑い続けた後に口を開いた。

 

「いや、悪いな、笑っちまって。あんたの目的がわかっちまったよ。

幻想郷に行きたいんだろ?」

 

「ああ、その通りだ。向こうには俺のことを待ってくれているヒトがいる。」

 

「ほほう、それは嫁さんかな?」

 

男性の言葉に彼の顔が真っ赤になる。それを見て、男性は再び大きく笑った。

「本当によく笑う人」それが彼から見た男性の印象になるのに時間はかからなかった。男性の笑い声を聞いていると自然と彼も一緒に笑ってしまう。

 

「そんなあんたに朗報だ。今日の夕方に向こうの住人になった研究所の主ハントが研究所にやって来る。なんでも、吸血鬼の娘が婿を貰うらしくてな。そのお婿さんを迎えに来るらしい。」

 

「それは本当か?」

 

「ああ、本当だとも。だから、ハントが来るまではここで待っているといい。来たら教えてやるからよ。

そう言や、あんたはハントにそっくりだな。ご先祖か?」

 

男性の質問に彼は少し考え込む。

ハントという者が研究所の主と言うのなら、その苗字はゴートレックで間違いないだろう。彼自身は子孫を残していないため、彼が直系の先祖ではないことは確かだ。そう考えると、それは彼の兄の子孫に違いない。

彼は言い方がよくわからなかったため、あいまいな言い方をする。

 

「先祖…って言えばいいのかな?そいつはたぶん、俺の兄の直系の子孫だ。」

 

「なるほど、そう言うことだったか。どうりで似ているわけだな。

ところで、名前教えてくれないか?あんたって言い続けるのはなんかちょっと……な。」

 

「まずはそっちから名乗るべきじゃないのか?」

 

「おっと…これは失礼。フランクリン・ショットだ。よろしく。」

 

「ジェイド・スカーレットだ。」

 

その後、ジェイドとショットは過去に起こった歴史的な出来事について話し合い、時間を潰した。




「やっと登場させることができた」というのが今の心境です。以前(特に三十話辺り)から登場フラグが建っていたオリキャラですので、ホッとしています。
でも、まだ終わらないんですよね。登場フラグの建っているオリキャラはまだいますので……本当にこの小説どこまで続くんだろ?

ではまた、次回お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。