東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
気が向いたら、また募集しようかな?
範人の家の風呂。範人は1人で入浴していた。他の来訪者たちは別館の方で入浴している。
範人自身は全員で入るつもりだったのだが、現在、範人は女体化してしまっている。そのため、恥ずかしいとの理由で来訪者たちに断られてしまった。
身体に着いた粘菌の死骸を充分に洗い流す。
洗う前は酷かった。全身にベトベトとした粘菌が付着しており、服の中にまで入り込んでいた。その様子はまるでエロ同人のようで、不快感を覚えた。そんな気持ち悪い粘菌を全て洗い流して、範人はホッと息を吐く。
髪が吸い込んだ水分を搾りながら、鏡を見る。鏡に映ったのは裸の女性。それは自分であって自分ではなかった。自身に打ち込まれた薬と紫を恨めしく思う。
5分程浴槽に浸かった後、範人は風呂を上がり、用意しておいた服に着替えて宴会の準備に向かった。
研究所の別館を会場にして、宴会が始まった。参加者は妖精代表のチルノと大妖精、来訪者全員、紅魔館メンバー、幽々子、妖夢、そしてどこからか情報を聞きつけてやってきた魔理沙と優だ。もちろん、会場提供者の範人も参加している。
範人は毎度のようにワイン片手に各メンバーの元を回る。
最初に訪れたのは紅魔館メンバーの元だった。レミリア、フラン、咲夜、エレイ、白の組とデューレス、美鈴、絆の2組に分かれて酒と料理を楽しんでいる。
「あら、範人じゃない。ごきげんよう。化け物退治お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
「お兄〜様♪……あれ、お姉様かな?どっちだろ?」
範人に気づいて挨拶をしてくるレミリアと咲夜、フラン。フランは挨拶と同時に範人に飛びつく。範人はフランを優しく受け止めた。
力が落ちているとはいえ、フランの体重はそれなりに軽い。範人が受け止めることは造作もなかった。
「ふふふ、フランが甘えてしまって申し訳ないわね。やめろと言っても聞かないでしょうけど。それにしても……」
レミリアの視線が範人のある部分に向く。つられるように咲夜の視線もその部分を向けられた。フランは2人の視線の意味がわからず、頭の上に?を浮かべていたが、自身に触れる柔らかい感触に何のことか気づき、範人をギューッと強く抱きしめる。そして、柔らかい感触に顔を埋めた。
「ちょっとフランどうしたの?抱きしめる力が強すぎて痛いわ。」
「お姉様のおっぱい柔らかくて大き〜♪お母様みたーい♪」
「ちょ⁉︎やめて!」
「嫌だよ〜♪こんなに大きくて気持ち良いの美鈴くらいだもーん♪」
フランは範人の胸を揉む。レミリアと咲夜は恨めしそうにしながら、フランの手の動きで形を変える2つの大きな果実を見つめる。エレイと白は不穏な空気を感じ取り、デューレス組の方へ移動した。
レミリアは自身の胸に手を当てて少し悲しそうな顔になる。咲夜が必死でレミリアを褒めるが、無いものを褒められたところで意味がない。そもそも「貧乳が好きな男もいる」と言ったところで既に結婚しているレミリアには効果など皆無だった。
フランが胸を揉むことをやめた。顔を赤くしながらハァハァと荒い呼吸をする範人を見て、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「良い触り心地だったよ〜♪」
「フラン……私は貴女が恐ろしいわ。」
範人は逃げるようにデューレス組へ移動した。
「あ〜ん♪デューレスさ〜ん♪なんで避けるんですかぁ?」
「そりゃあ、妖怪に体当たりされたら避けるよね⁉︎」
デューレス組では酒に酔った美鈴がデューレスに突進していた。最も、美鈴はデューレスに抱きついて、甘えたいだけなのだが……
圧倒的な体格差のある男女だが美鈴は妖怪。いくら怪力を誇るタイラントであっても、攻撃が当たれば痛いし、気を抜けば吹っ飛ぶ。
甘えたいだけの美鈴と本気で逃げるデューレスを見て、エレイと白が笑っていた。
「デューレスさん大変ですね〜♪」
「ほーら、美鈴も頑張れ〜♪」
「助けてくださいよ⁉︎」
「「ごめん、無理☆」」
「んにゃあ、デューレスさ〜ん♪」
さすがは同じスカーレット家の吸血鬼と言ったところか?ふざけるときは息ぴったりである。
範人はそんな2人を見て苦笑いした。範人に気づいた白がジュース片手に話しかける。
「先輩、お疲れ様です。」
「ん、ありがとう。白も新の中で一緒に頑張っていたわね。」
「ふふふ、ありがとうございます。
ところで、粘菌は大丈夫ですか?なんかヤバイ状態になっていましたけど……」
「大丈夫よ。少し気持ち悪かったけどね。」
気を使ってくれる白に範人は優しく返す。そこにエレイも参加してくる。
「悪いな。触手プレイ的なとき見ちまった。」
「あれ?別に気にしないわ。あれは偶々だろうし、見られても減るものじゃないしね。まぁ、入り込んできた粘菌は許せないけど……忘れてくれればOKよ。」
「ありがとな。忘れられるように頑張るさ。
さて、まずは飲んで忘れるかな。」
「頑張ってね。」
範人は記憶に残っていなければ、恥ずかしがる必要はないと思っていた。エレイに悪気があったわけではないことはよくわかっているため最初から許すつもりだったが、今のでさらに許すことができた。
実は、スキマから覗いていた紫が触手プレイや粘菌まみれの様子、更には脱衣所での様子までカメラで撮影しており、それが複製されて既に妖夢の手に渡っていたりするのだが……範人がそんなことを知るはずもない。
範人は紅魔館メンバーの元を立ち去……ろうとしたがすぐに戻ってきた。大切な友人を1人、完全に忘れていた。
絆がウルウルとした目で範人を見ている。
「ごめん。忘れていたわ。」
範人が謝っても絆はその顔を止めない。「ヤバイ……何この子めっちゃ可愛い!」という言葉が範人の脳内を駆け抜ける。
男の娘ということがわかっていてもこの可愛さはいけない。その上そんな目で見つめるのは最早反則だろう。
範人はいつの間にか親指を立てていた。
「いや、本当にごめん。許して。」
「本当に反省していますか?だとしたら、その親指がものすごく不自然なのですが……」
「だって、可愛いんだもん。身体が勝手に……ね。というか、戦いのときはかっこよかったし、これなら葉が惚れたのもよくわかるわ。」
そう言って範人は絆を見る。そのメイド服姿はどっからどう見ても女の子である。しかし、顔をよく見るとちゃんと男だということがわかるし、戦いのときの絆は本当にかっこよかった。言葉の中に葉を出したのは本当に納得したからである。
範人の言葉に葉が出てきたことで気を良くしたようで、絆の表情が変わる。
「そう言ってくれると嬉しいですね。
ところで範人さん、モフモフさせてください。」
「む⁉︎そうきたか。もちろんいいわよ。」
範人は救急スプレーと風呂で回復したため、再度変異できるようになっていた。第二に変異し、絆の目の前で尻尾を誘うように振る。絆は尻尾に飛びつき、モフモフと触り始めた。その様子が可愛らしくて、範人は思わず絆の頭を撫でていた。
数分間、尻尾のモフモフを満喫した絆は満足して尻尾から離れた。範人は変異を解いて、今度こそ紅魔館メンバーの元を立ち去った。
範人が次に向かった場所は妖夢たちの場所だ。魔理沙、優、妖夢、幽々子、そして新が集まっていた。
妖夢は幽々子の食べ過ぎを防止しており、気が抜けないため、範人は気を使って話しかけるのをやめた。魔理沙たちの方に目を移すと、魔理沙と話をしている新、なんとか酔わないように頑張っている優が目に入った。
「優は大変ね。」
「ん?貴女は誰ですか?」
「あ!先輩!」
「あれ?先輩?範人?
……おかしいな。目の前にいるのは女の人なんだけどな。」
そう言って優は考え込む。格好はほとんど同じだというのに女体化しているだけで目の前の女性が範人だということに気がつかない。新はクスクス笑いながら、ジェスチャーで「バラしていいか?」と範人に訊いてくる。範人は黙って頷いた。
「この女性が範人さんですよ。」
「は⁉︎マジで⁉︎」
優は反応は正しいだろう。魔理沙から宴会が開かれると聞いて宴会に来てみたら、そこには性別が変化した友人がいるという事態が起きたのだ。これで驚かないわけがない。
優は性別が変わった範人の姿をまじまじと見つめる。その視線に気づいた範人は友人を少しからかってみる。
「あら?優もこういった身体がお好みで?」
「ち、違う!そういうことじゃない!ただ、どうしても目が勝手に……」
範人はわざわざ白衣の前を大きく開けて、胸を強調するようなポーズをとりながら訊ねる。優は顔を真っ赤にして、目を背けた。
あるものに目がいってしまうのは仕方がない。男の
ふと、範人はどこでこんなテクニックを覚えたのかが不思議になった。しばらく記憶の引き出しを開けていると、結局は八雲という苗字に行きついた。「さすがは天下の玉藻前だ。数々の男を相手に股を開いてきただけはある。」と感心してはいけないようなことに感心してしまう。
優が目を背けてまともに話もできないため、つまらなくなった範人は白衣を元に戻した。それに伴って、優も顔を範人に向けるが、やはり見てしまったものは意識してしまうようで目線が胸の辺りにチラチラと向けられる。さすがにこれ以上追求すると嫌われそうだったため、範人は気にしないことにした。
「で、何でこんな宴会を開いたんだ?」
「強力な化け物を退治したからよ。あれを放っておいたら幻想郷壊滅は確実だったわ。」
「何ィ⁉︎何故それを霧雨魔法店に伝えなかった⁉︎店のPRになる良いチャンスだったんだぞ⁉︎」
「依頼人の大妖精が偶々私のところに来たからね〜。仕方ないわよ。
それよりもタダで宴会に参加できていることに感謝しなさい。」
「酒は弱いんだけどなぁ……」
優はしぶしぶといった様子で引き下がる。入れ替わるように新との会話になる。
「宴会を開いてくれてありがとうございます。」
「お礼なんてしなくてもいいのよ。この宴会は化け物を退治した自分たちの慰労会っていう意味合いもあるからね。私が好きで開いたっていうのもあるしね。
ところで、成長した魔理沙を見てどう思った?」
「あ、それは……」
範人の言葉に新は顔を赤くしてうつむく。思わずそれを見て「いじめたい」と思ってしまう自分に範人は心の中で喝を入れた。
いつからSに目覚めたかはわからないが、それも性別が変わったせいと彼女は割り切る。もともとMではなかったが、性別がひっくり返ると同時に色々ひっくり返ったらしい。確かに自分から攻撃を受けることもあるが、それは勝つための作戦。範人は断じてMではないと自分に思い聞かせた。
新は顔を赤くしながら、口を開く。
「驚きましたよ。魔理沙が大人になっているんですもん。
でも、やっぱり変わっていませんでしたね。なんかオーラがほとんど同じで可愛いってところもそのまんまで……美しいっていうのも少し入ってきてました。
こっちの世界では優さんのお嫁さんになっちゃうんですよね。」
「さあ?確かに新の世界の魔理沙よりは大人だけど、優と結婚するとはまだ決まっていないわよ。人生っていうのは色々なことが起こるからまだわからないわ。
新も頑張りなさい。」
「うーん……よくわかりませんが、ありがとうございます。なんか、元気が出てきました。」
「どういたしまして♪」
気がつけば、範人は新の頭を撫でていた。いつものように新に詩穏の面影を重ねてしまっていたのだろう。範人は慌てて手を離し、背を向けて立ち去る。その背後からは魔理沙と楽しそうに会話をする新の声が聞こえてきた。範人は「ふふ♪」と笑みをこぼした。
範人が3番目に訪れたのはチルノ、大妖精、パッチの妖精組だ。
チルノが日本酒をガブ飲みしている。さすがに危険と判断した範人がそれを止めに入る。大妖精の協力もあり、チルノから酒瓶を没収することに成功した。まだ酔っていないところを見ると、もう少し放っておいても大丈夫だと思えるかもしれないが、その少しが危険だとわかっている範人はそれを許さなかった。妖精は死んでも復活するが、範人からすれば自宅で急性アルコール中毒を起こされて死なれたら困るのだ。
「なんで取り上げるのさ!」
「死なれたら困るし、お酒はゆっくりと飲むこと。OK?」
「OK!」
範人の言葉にチルノは元気良く答え、酒瓶を少々乱暴にひったくった。しかし、チビチビと飲んでいるところを見ると、範人の言葉をしっかりと飲み込んだようだ。大妖精が頭を下げているが、範人は「構わないわ」と軽く返す。「それよりも」と酒を飲まずにジュースを飲んでいるパッチに近づく。
「ジュースばかり飲んでどうしたの?お酒は嫌いかしら?」
「うわっ⁉︎……と、びっくりした。範人さんですか。」
「人を化け物みたいに扱って失礼ね。」
「あ、すみません。でも、生物兵器は化け物ですよね。」
「う⁉︎それは……」
範人に話しかけられて驚くパッチに少し文句を言ってみると、的確なカウンターが飛んできた。範人自身、予想はしていたが、本当に綺麗に返ってきたため、何も言い返せない。というか、最初から何か言い返すつもりもなかった。
「あ、質問でしたね。
答えはいいえです。お酒は好きなのですが、あまり飲みすぎるとVeronicaが暴走して頭から火が出るんです。だから、慧音さんに飲まないように言われています。」
「あ〜……それは大変ね。Veronicaでそんなことが起こるなんて知らなかったわ。そもそも、上手く感染した個体自体あまりないし……まぁ、気をつけてね。」
「はい。
僕も質問してですか?」
「いいわよ。答えられる範囲なら、答えるわ。」
「では、生物兵器になって後悔していますか?」
パッチの質問は範人にとって衝撃的なものだった。彼女は今までに生物兵器になったことをあまり深くは考えていなかったからだ。
自分の力で誰かを傷つけてもそれは自分が悪いし、原因は自分の弱さにある。食事は普通の人間と同じものが食べられるし、容姿も通常の形態ならほとんど同じ。範人はあまり生物兵器になったことについてはあまり考えていなかった。
しばらく考えた後に範人が口を開く。
「正直、後悔したこともあったわ。生物兵器ってことを知っている人には避けられるし、自分自身をネガティヴに評価する材料にもなったし……歴史に残らない恐ろしい事件も起こしたし。
でも、今は後悔していないわ。生物兵器にならなかったら私は死んでいたし、たとえ生きていたとしても五体満足ではなかった。だから、この生物兵器の身体で後悔するのはやめにしたわ。
言い方はおかしいかもしれないけど、今は安全な兵器になろうとしているの。傷つけるだけでは駄目だから、守るために傷つけるようにしているわ。
結論を言うと、後悔したことはあったけど、もう後悔していないってことね。
言ったら、何か今までに増してスッキリしたわ。完全には吹っ切れてなかったみたい。」
「そうですか。良かったです。」
「え?」
範人は自分の意見の後に出たパッチの言葉に驚いた。「良かった」とはどういうことだろうか?何が良かったのだろうか?
「範人さんが自分の身体を否定していなくて良かったです。
誰かが悲しむことも僕には辛いのですが、その悲しみを和らげることができないとなるともっと辛いんです。僕自身のためということもありますが、誰かのためになりたいんです。役に立てたようで良かったです。」
「貴方は優しすぎて生物兵器に向いてないわね。」
「最高の褒め言葉です。」
範人の言葉にパッチはにっこりと笑った。
宴会は昼の12時に始まり、終わったのは夕方の5時だった。今更ながら「昼間から酒を飲むなんて」と思った範人だったが、地底の妖怪たちのことを思い出すとなんとも言えなかったため、酒について考えることは放棄した。
今は訪問者たちが帰るということで範人が見送りに来ている。
「今日はありがとうございました。」
「いいのよ。むしろお礼を言いたいのはこっちだわ。あなたたちがいなかったら、あの粘菌は倒せなかったもの。こちらこそ、ありがとう。」
「じゃあな。」
「あのことは忘れてくれたかしら?」
「何のことだ?」
範人の問いにエレイは?マークを浮かべる。その様子がおかしくて範人は笑った。範人に心を読む能力はないが「忘れてくれたようで良かった」と一安心する。実際のところはエレイの記憶の引き出しの奥に少しだけ綿埃のように残っていたのだが……
「次に会ったときは勝負してください。」
「もちろんOKよ。生物兵器同士、戦いを楽しみましょ。」
「先輩、また会いましょう。」
「ええ、きっとね。」
別れの言葉を言いながら、紫のスキマに入っていく訪問者たちを範人は笑顔で見送った。
範人に別れを惜しむ感情はなかった。「また会える」そう思っていたからだ。
最後に1人がスキマに入った瞬間、スキマが閉じた。そこには何事もなかったかのようにいつも通りの研究所の敷地が広がっていた。
引き続き、ゲストは栗里さん。
今回も色々あったとしか言えませんね。
「そうだね〜♪
でも、これだけは言える!
フラン!そこを代われ!そのたわわに実った果実を俺にも触らせてくれ!」
放電orギブアップですよ。どうしますか?
「もちろん触って放電だ!範人お姉さんにいじめてもらうぜ!」
うわ⁉︎変態だ!
「それは作s「お、こんなところにちょうど良いミニ八卦炉が」お助けください。」
私は変態じゃない、お前が変態。いいね?
「イエッサー!」
『ではまた、次回お会いしましょう。』