東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

76 / 124
やっと、できた。
……と言うことでクロス3話目です。今回、戦闘描写が含まれます。


第六十五話 感染者

範人たちは霧の湖を目指して飛び続ける。その間に大妖精が現れた化け物について話してくれた。

 

「現れた化け物についてですが、私の場合は実際に見たわけではないんです。ただ、私は妖精の中でも力がある大妖精ですので、みんなが頼って勝手に情報が入ってくるだけなんです。

その化け物はとても大きかったらしいです。見た目は水みたいで目も耳もなく、ただ地面を這って移動していたらしいです。他の生き物がそれに触れたときは一瞬で包み込んでいたらしいんですが、最近、木が折れる音がよく聞こえていたんです。それでも、木が倒れる音はしなかったので化け物が原因かと……」

 

「アタイが見せてもらった研究所の資料にも似ているものはなかったからね。これは新種だよ!」

 

大妖精からの情報は範人とパッチ以外の全員に衝撃を与えた。生物兵器には周りの生物を無差別に殺戮、吸収してしまうものも少なからず存在するため、2人にとってはあまり驚きではなかったのだが、他の者にはそんなに危険な生物を知っているものはいなかったため、とにかく驚いた。

化け物の話を聞いた妖夢が妖精について疑問を持ったため、大妖精に訊ねる。

 

「そういえば、妖精は死んでもまた復活するんですよね。数は減らないというのに何か大きな問題ってありましたか?」

 

「あー……一般的に妖精は死んでも生き返ると言われていますが、実は消えないわけではないんですよ。妖精はそれぞれに対応した環境がなくなると消えてしまうんです。だから、環境を無差別に破壊してしまう今回の化け物は私たちにとってとても大きな問題なんです。もちろん、死ぬときに苦しいということもありますが……」

 

「なるほど……それは困りましたね。」

 

今回の問題について納得する全員。しかし、その大妖精の言葉の最中も範人は今回の化け物について考え続けていた。生物学者として、脳内研究ノートを広げる。

 

(水のような液体に近い生物なんてそうそういない。生物兵器ならば、そんな見た目のものがいくらいても不思議じゃない……けど、今回のやつは人によって意図的に作られたものか?ありえない。今回はおそらく偶々だ。前のハンターやテイロスとは違う。自然の中にいる液体のような生物……いた。)

 

範人はある結論に辿り着いた。いたのだ。液体のような身体を持った化け物のような生物が……

 

「粘菌……ね。」

 

範人の口から飛び出した言葉。その言葉にパッチがピクリと反応する。同時に他の全員もその聞き慣れない言葉を聞き、範人の方に注目した。

 

「確かに粘菌なら、特徴が被りますね。ウィルスの影響で大きくなることも考えられます。」

 

「範人さん、パッチさん。粘菌って何ですか?」

 

「詳しく言うと長くなっちゃうから簡単に言うけど、スライムみたいな形態とキノコみたいな形態を持つ生物よ。今回のやつはスライムみたいな方ね。森に行けば、そこらへんにたくさんいるわ。」

 

範人の説明に全員が頷く。粘菌の変形体なら、大妖精の説明と一致する。

突然、大妖精が全員を止めた。人差し指を立てて静かにするように指示を出し、一人地面に降りる。その瞬間、木陰から何かが飛び出して、大妖精に襲いかかった。

 

「危ない!」

 

絆がヤマメとの絆の能力を発動し、その何かに糸を巻きつけて引っ張った。何かの軌道がずれ、地面に落ちる。絆は地面に降り、糸で何かをがんじがらめにした。

絆の糸は蜘蛛の糸。大抵の力では切ることができない。身動きが取れなくなった何かはまだ糸を引きちぎろうと筋肉を膨張させる。しかし、皮膚に糸がめり込む痛みに膨張をやめ、動きを止めた。

全員が地面に降りる。

 

「何ですか……こいつ⁉︎」

 

「こんなB.O.W.見たことないですよ⁉︎」

 

そいつの全身には目ができていた。その見た目から人型だったことが伺えるが、身体の形はだいぶ歪になり、左腕が肥大化している。妖怪の姿がどんなに不気味で不思議なものであろうと、この個体は異常だった。

生物兵器も同様である。この個体は様々な生物のパーツが組み合わさっていたと思われるが、それがここまでめちゃくちゃになっているものはそうそういない。

だとしたら、これは何か?それは……

 

「ウィルスに感染した妖怪ね。」

 

「はぁ⁉︎妖怪が人間の感染するものにかかるはずがないだろ⁉︎」

 

「それがこのウィルスの恐ろしさよ。パッチは何ウィルスだと思う?」

 

「Gウィルスですね。この眼球が特徴に当てはまります。あと、保有はしていないみたいです。」

 

「なるほど……ありがとね。

さて、お客様はまだたくさんいるようだけど……どうする?」

 

何時の間にか、範人たちの周りは感染妖怪に囲まれていた。その数32。感染妖怪たちは全て歪な形をしており、なんらかのウィルスの特徴を持っている。全員は早くも臨戦態勢を整えて、身構えていた。

 

「「「それは殺るしかないな(ですね)。」」」

 

「仕方ないですね。殺りますか……」

 

「「え?戦うんですか?」」

 

「氷漬けにしてやるぅ!」

 

「OK.Let's rock babys!

……と、いきたいところだけど無理そうね。」

 

感染妖怪たちが飛びかかると同時に殺傷能力有りの弾幕が展開される。

しかし、敵がいる場所は地上だけではなかった。範人たちがいる位置の中心から巨大なワームが現れ、全員を弾き飛ばす。感染妖怪たちは範人たち1人に対して、4匹のチームを組んで追いかけた。

幸いなことに全員ともそこまで遠くへ飛ばされなかった。味方は全員、目の届く範囲にいる。しかし、周りを感染妖怪に囲まれてしまっているために合流はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あわわ……みなさんと離れてしまいました。」

 

「まぁ、今はこいつらを潰すことを考えようぜ。」

 

2人の周りを囲むのは8匹の感染妖怪。その全てに同じ姿のものはおらず、不気味で歪な姿をしている。

試しにエレイが魔法で発生させた火と水を飛ばす。妖怪たちはそれらをその姿に似合わない俊敏な動作で躱し、2人との距離を詰める。絆は諦めたかのようにその場に片手をついて、しゃがんだ。調子に乗った妖怪たちはジリジリと距離を詰め、2人の逃げ場を狭めていく。

しかし、エレイはこのときに気づいていた、この妖怪たちは水よりも火を重点的に避けていたことに。そして、この結果からある結論に達していた。

 

「お前らの弱点……火…だな?……絆ぁ!」

 

「わかってますよ!よいしょ……っと。」

 

エレイの声の後、絆はおもむろに立ち上がる。その指には先程と同じ蜘蛛の糸がつながっていた。瞬間、地面がめくれ上がり、妖怪たちの足元をひっくり返した。

絆は既に罠をはっていたのだ。先程しゃがんだのは罠をはるため、決して諦めたわけではなく、さらに妖怪たちの行動がそれをわかり辛くしてくれた。

妖怪たちは後ろにゆっくりと倒れる。

 

「さて、お前たちは地面に背中をつける必要がない。何故だか…わかるか?……お前たちはここで消えるからだ。

紅蓮『烈火の竜巻』!」

 

エレイを中心に炎の竜巻が発生した。絆は弾幕を大量にはることでガードする。その竜巻は妖怪たちの身体を何度も焼き、組織を燃やして破壊した。

竜巻が消えたとき、そこに妖怪たちの姿はなく、ただ真っ黒な色をした炭のような灰が風に吹かれて舞っているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「囲まれちゃいましたよ⁉︎」

 

「大丈夫だよ、大ちゃん。アタイはサイキョーだから!」

 

「これは強硬突破でいいよね。」

 

大妖精は普通の、チルノは氷の弾幕を放つ。大妖精の弾幕には大した殺傷力がないため、妖怪たちにはほとんどダメージが入らない。それでも、怯ませる分には十分だった。怯んだ妖怪たちに次々とチルノの弾幕が当たり、凍りつく。

2人は妖怪たちが完全に止まったと思い近づいた。ところが、凍りついたと思った妖怪たちは表面のみしか凍っておらず、身体を覆う氷を砕いて2人に殴りかかる。あまりの恐ろしさに死を覚悟した2人は目を閉じた。

 

「真刀『氷夜』」「真刀『白乱』」

 

しかし、妖怪は爪で引き裂くことも拳で殴り飛ばすこともできなかった。チルノと大妖精が目を開けると、そこには新と白が刀を手に立っていた。2人に攻撃を仕掛けた妖怪は四肢を切り落とされた、見るも無惨な血だらけの姿で転がっていた。

 

「「俺(私)のことを忘れてもらったら、困るな(わ)。

2人とも、大丈夫?」」

 

「ありがとうございます。大丈夫ですよ。」

 

「アタイはサイキョーだからね!」

 

新と白の問いにチルノと大妖精は答える。2人の妖精が無事であることが確認できた2人はニッコリと笑い、妖怪たちの方に向き直った。その目つきは2人の妖精に向けた優しいものから一転、冷酷で恐ろしい目つきに変わっていた。

 

「さて、妖怪さん?本当の氷結で絶望を教えてあげますね。

氷夜!」

 

「おう、任せろ!」

 

新が氷夜を横に一振りすると、妖怪たちは身体の芯まで凍りついた。しかし、ご丁寧に感覚神経と感覚器官、脳だけは生かしており、妖怪たちは生きたまま冷凍される結果になった。

 

「そして、私が本当の斬撃で死を教えてあげる。

白乱!」

 

「任せて!」

 

白乱に光が宿り、白はそれを横に一振りした。白乱は凍りついた妖怪の体組織などものともせず、チーズを切るように軽く切り裂く。さらに、真っ二つになった妖怪の身体を連続で斬りつけて、マイクロ単位のとても細かな肉塊と化させた。凍りついた肉塊は地面に落ちた瞬間に一瞬で解け、土と同化してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛ばされちゃいましたね。」

 

そう呟くパッチに応えるものはいない。ただ、ウィルスに感染した妖怪たちの苦しげな声が返ってくるだけだ。パッチは右腕をC-ナパドゥ・アーマーに変異、左腕をベデム・Cに変異させた。変異してできたアーマーの穴から蒸気が噴き出す。

 

「ギュアァー!」

 

妖怪たちは蒸気噴出の音に応えるように叫び声をあげ、パッチに殴りかかった。パッチはベデム・Cで攻撃を受け止める。彼の左腕に重い衝撃が走るが、生物兵器である彼には大したものではない。すかさず、アーマーの右腕で殴り飛ばした。拳は妖怪の左頬を直撃、骨を粉砕し、脳をぐちゃぐちゃに破壊する。妖怪は顔にある穴という穴から血と体液を噴き出しながら5m先の地面に落下、絶命した。

今度は、2匹同時に殴りかかる。パッチは冷静に盾で受け止め、跳ね返しで怯んだところにシールドバッシュをかました。妖怪たちは仲良く一緒に吹っ飛んで膝をつく。パッチはそこに駆け寄ると、右腕のアーマーの蒸気噴出を利用し、妖怪たちの頭を超高速で殴って、振り抜いた。頭を失くした妖怪は地面に崩れ落ちる。

 

「あれ……もう1体いたはずですが……⁉︎」

 

パッチは周りを見渡すが、視界の中に妖怪は映らなかった。困った彼は足元に視線を落とす。すると、自分の影が見えなくなっていることに気づいた。彼は急いで上を見上げる。

 

「ギュオォー!」

 

妖怪の爪はすぐそこまで迫っていた。このままでは脳天貫通のコースだ。パッチの脳内に串刺しにされている自分の姿が映る。しかし、彼は冷静だった。

C-ナパドゥ・アーマーから蒸気を噴出させ、一瞬で数メートルを移動する。妖怪は彼が立っていた場所に爪を突き立てた。妖怪は地面に刺さった爪を抜こうとする。

しかし、悲しいことにその妖怪の爪にはかえしがついていた。攻撃が決まった場合、刺さったものを抜けにくくしたり、内臓を掻き回したりと、かなり優秀な能力を持つかえしだが、今回は前者が仇となった。かえしのついた爪は地中深くまで刺さり、なかなか抜けない。

パッチは変異を解除すると、適当な石ころを拾った。彼は弾幕を発生させ、弾幕が石ころを覆ったことを確認してから、石ころを握る。石ころの角が彼の手の平に傷をつけ、血を流させる。直後、石ころに付着した血液が発火した。

 

「さようなら。これが本当の殺球(デッドボール)です。」

 

パッチは炎に包まれて弾幕と化した石ころを妖怪に投げつけた。石ころは妖怪の頭に直撃し、大きなトンネルを造ると空中で燃え尽きた。

パッチは妖怪の屍たちに血を落とし、静かに火葬した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、やっぱり飛ばされちゃったわ。」

 

「先に教えてくださいよ。」

 

「ごめんごめん。」

 

「まったく……」

 

範人と妖夢は呑気に会話しているが、忘れてはいけない。ここは戦場であり、現に2人は8匹の妖怪に囲まれている。

範人は第二の変異を発動させ、妖夢は刀を構えた。

 

「Come on babys! 」

 

「来なさい。相手になってあげましょう。」

 

妖怪たちは挑発に乗り、2人に殴りかかる。

しかし、妖夢の方に飛びかかった4匹は一瞬で両腕を切り落とされてしまった。刀と素手とでは相性が悪すぎる。妖夢は腕を失ったことでバランスを崩して転んだ妖怪たちの首を切り落とした。

範人は電撃を混じえながら素手で格闘していた。

いつもなら、身体を覆う甲殻が存在するため拳を拳で受けられるが、今回は甲殻がないほぼ生身の状態のため攻撃を避けながらの戦いになる。

4対1となると、範人であってもかなりの苦戦を強いられ、なかなか攻撃のチャンスが見つけられない。しかし、久しぶりの苦戦を彼女は楽しんでいた。

範人は妖怪のストレートを躱した僅かな隙に一本背負い。反対側にいた妖怪に投げつけ、吹っ飛ばした。残った2匹が拳を振るってくるが、上へのジャンプで躱し、同時に顔面を蹴り飛ばした。怯んだところを正面の敵には頭へ指で刺突、背後の敵は頭に尻尾を突き立てることでとどめを刺した。

 

「ギャオォー!」

 

吹っ飛ばされた2匹が縦一列に並んで範人に駆け寄ってくる。しかし、距離があるため、彼女には構える余裕が有り余っていた。彼女は軽い電撃を放って2匹をスタンさせる。動けなくなった2匹に範人はゆっくりと近づき、ハンドスプリングしながら足で1匹の頭を挟むとそのまま回転して首をへし折り、投げ飛ばした。もう1匹は頭を握り潰して、とどめを刺した。

 

「時間かかってましたね。」

 

「慣れてないからね。」

 

範人は第一に変異すると妖怪の屍に火を放って、火葬した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの戦いが終わり、全員が無事に集合した。しかし、まだ全員は納得していない。自分たちをバラバラにした憎い敵は今、地面の中に潜って隠れているのだ。幻想郷の安全を考慮するとここで倒すのが賢明だろう。また、心に怒りの炎を燃やしているものもいる。

 

「さて、さっきのイモムシはどうしましょう?」

 

「もちろん殺すに決まっているわ♪」

 

「先輩、笑顔ですごいこと言わないでください。俺も同感ですけど……」

 

「そこにあの虫の穴がありますよ。」

 

「幻想郷の安全も考えてここで処理してしまいましょう。」

 

炎の能力が使える者は穴の淵に近づく。その彼らの笑顔は恐ろしいもので巨大ワームに対する怒りから黒いオーラを噴き出しまくっていた。範人は第一に変異、絆は妹紅の絆を発動、新は「異次元からの救世主『旅行 範人』」を発動させる。

彼らは穴に向けて片手を向けると、同時に攻撃を始めた。範人と新からは「爆散『ブレイズグレネード』」、絆からは火の鳥、エレイからは炎の魔力弾、パッチからは燃える血液が放り込まれる。

数秒後、地中で大爆発が起こり、地面のところどころに開いていた穴から火柱が上がった。残念なことに巨大ワームの焼死体は確認できなかったが、燃え尽きたということで全員が納得した。

 

「さて、少々時間を食ってしまいましたが、霧の湖はすぐそこです。急ぎましょう。」

 

飛び立つ大妖精に続き、一同は再び霧の湖を目指した。

 

 

 

 

 

この日、幻想郷全体で地震が観測されたことは言うまでもない。




やっぱり、無理矢理感が半端ないですね。困ったな……これから上手くつなげるかが心配です。本当は範人に新変異を使わせようと思ったのですが、無理っぽかったので断念しました。どうすれば、やつを追い込めるんだ?

提供していただいたオリキャラたちが無双する話みたいになってしまいました。ピンチがなくてつまらなかったかもしれないですね。今更ながら、ごめんなさい。

BOSS的存在はウィルスに感染した粘菌(変形体)です。粘菌自体は森に行くと案外よく見つかります。この小説ではウィルスに感染させて大きくしていますが、本来なら大きくても1メートルほどにしかなりません。あれ?十分大きいかも?ひとまず、粘菌(変形体)の見た目はアメーバに近いです。アメーバって、スライムっぽいよね?

ではまた、次回お会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。