東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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今回も妄想全開で走ってしまったような気がする……じゃなくて、走ってしまった。私ってこんなキャラだったっけ?
タイトルが…タイトルが浮かばない!


第六十二話

俺たちが平についていくと、そこそこ大きな焼き鳥屋があった。平はそこに躊躇なく入っていく。

ここは個室タイプの焼き鳥屋のようだ。

 

俺たちが廊下を歩いていると突然、襖が飛んできた。平は糸を張って襖を受け止める。同時に青鬼も飛び出てきたが、平の張った糸に絡め取られてしまった。今度は鬼が出てきた部屋から額に一本の角を生やした女の鬼が出てきた。

 

「ヒイィー!」

 

「負けたくせに逃げようとはいい度胸しているじゃないか?

……ん?平?」

 

「ゲッ⁉︎勇儀⁉︎」

 

女の鬼は逃げてきたらしい青鬼を睨みながら、まさに鬼の形相で近づいてきたが、平を見つけた瞬間に表情を変えた。一方の平は迷惑そうな顔をする。互いに顔見知りのようだ。他の面々はやれやれといった表情を浮かべている。

 

「はっはっは!そうかい、平も来たのかい!よっしゃ、一緒に飲もうじゃないか!」

 

「嘘だろぉ⁉︎」

 

「嘘じゃないさ!鬼は嘘を吐かないんだよ!」

 

女の鬼に首の後ろを掴まれて個室に連れていかれる平と青鬼。覆面をしている平から表情を読み取ることはできなかったが、少なくともその目は死んでいた。

俺と妖夢は唖然としていて、動くことができなかった。数秒後、驚きから解放されたときには既に平が部屋に連れていかれた後であり、地底の面々が部屋にどんどんと入っていく。俺と妖夢も急いで部屋に入った。

 

平は女の鬼の正面に座らされていた。その隣にヤマメが座り、平に寄り添う。その隣ではパルスィがパルパル言っていた。俺が平の隣に座ると、膝の上にキスメ、隣に妖夢が座った。そして、女の鬼は青鬼から金をぶんどっている。

 

「あのー……平、あの女のヒトって、誰?」

 

「彼女は星熊 勇儀だ。鬼の四天王の一人だよ。良いヒトなんだけど結構強引なところがあって……からまれると面倒なんだ。」

 

「あ、なんとなくわかる。

じゃあ、あの青鬼はなんでああなってるんだ?」

 

「多分、腕相撲に負けたんだろう。金を賭けていたんだろうな。」

 

俺と平が勇儀をチラチラ見ながら話をしていると、金のぶんどりが終わったらしい。貨幣を紐で連ねたものを片手に持っている。青鬼は逃げていった。勇儀はこちらの視線に気づき、話しかけてくる。

 

「なんだい?私の顔に何かついているのかい?」

 

「「いや、何もついてないが?」」

 

「そうかい、それならいいんだけどね。

さて、金も手に入ったし、みんなで一緒に飲もうじゃないか!」

 

俺たちが勇儀の問いに答えると、彼女は勝手に納得する。そして、何故か、勝手に宴会が始まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、この部屋はみんなが酒に酔ってしまい、軽い地獄絵図だ。地底なんだから地獄だろ、なんてことは言えないレベルの状態である。

ヤマメと平が背中に隠していた4本の蜘蛛の脚を露わにして全身全霊で抱き締めあっていたり、キスメと妖夢が俺の膝を枕にして眠ったりしている。しかし、最も驚くべきは彼らでも、酔っていない勇儀でもなかった。

 

「えへへ〜、範人と妖夢って付き合っていたのね〜。良いわね〜。この水橋 パルスィ、全力で応援するわよ〜。」

 

そう、パルスィである。俺の背中に寄りかかり、俺と妖夢の関係を肯定しているだけでなく、後押しまでしてくれている。先程までの「妬ましい妬ましい」と言っていた彼女はどこに行ったのだろうか?驚きを通り越して、もはや恐怖すら覚える。

 

「範人と妖夢が…ムフフ……」

 

「ん〜…範人〜……ああ⁉︎そこはだめですぅ!…10月14日って言っていたじゃないですか〜……でも、範人がヤるって言うなら…私は今でも全然大丈夫ですよぉ……あっ…ああっ!……いいですよ……もっと…もっとぉ……!」

 

「ほら〜、彼女も言っているよ〜。もっとつながりを深めてみたらどうなのぉ?いっちゃいなよ〜。」

ブチッ

「ざけんじゃねー!」

 

なんだこのとんでもない地獄絵図はー!カオスすぎるわー!キスメは何を考えているか知らんが、妖夢は何ちゅう夢を見とんのじゃー!パルスィも乗っかって「つながりを深める」とか言ってんじゃねー!こんな状況じゃ、変な意味にもなっちまうだろうがー!

 

「あんたも大変だねぇ。」

 

「本当だよ、まったく……

ここじゃ、あんたの今の言葉が唯一の救いだよ。」

 

「そりゃあ、良かったよ。ところで、平と一緒にいたけど、あんた誰だい?」

 

勇儀の言葉がここでの救いだということは間違いないだろう。他のみんなは今日の朝に何があったのかを知らないのだ。しかし、その出来事をピンポイントで刺激するようなことをしてくる。対して、勇儀は知らないからとそこにはあまり触れないように言葉を選んでくれている。これがありがたい以外の何だというのか?

ところで、今更気づいたのなら俺と妖夢が参加していることに違和感を覚えなかったのだろうか?

 

「俺は旅行 範人、ここで眠っているのが魂魄 妖夢で俺の彼女だ。」

 

「へぇ、あんたがあの漆黒の化け物か。なんでこんなところに来たんだい?」

 

「つい最近まで死にかけていたんだが、それを治療してくれたのが平だったんだ。そこでお礼を言いに来たら、食事に誘われて、この店に来て、今に至るってわけだ。」

 

「そうだったのかい。そりゃあ、ご苦労様。」

 

本当にこのヒトの言葉は助けだ。さっきまでのカオスで汚されて不純になってしまった俺の心を浄化してくれる。

ありがとう、勇儀。

え?恋愛感情?それは妖夢以外には向かないけど何か?

 

「さーて、そろそろ切り上げて温泉でも入るかね。」

 

「え?温泉あるの?」

 

「あるよ。ここは地底だからね。そうさね……みんなで入ろうか。もちろん、男と女は別だけどね。行くかい?」

 

「もちろん!」

 

「よし、それならみんなの酔いを覚ましてやんないとね。確か、平が酔い覚ましの薬を持っていたはずなんだけど……」

 

勇儀は平が腰につけているポーチを探る。数秒後、ポーチの中から取り出されたのは何故か元の世界でも見かけた酔い覚ましだった。

普通にあったものが何故幻想入りしているかは知らないが、まぁ、気にしたら負けってことだろう。きっと、酒好きたちに対する姉さんのささやかな気遣いだ。

勇儀は全員の口に薬を一粒ずつ入れて、水で流し込ませる。数秒後、全員が目を覚ました。パルスィがパルパル言い始めてしまったがこの方が彼女らしくて良い。

その後、全員で温泉へ向かった。当たり前だが、支払いは青鬼からぶんどった金である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い湯気に広い浴槽。温泉に入るのは久しぶりだ。今回は男だけのため隠す必要もないし、治療の上で背中の傷跡は見られているだろうということでタオルは巻いていない。平もゴーグルと覆面を外して入ってきた。

適当に全身を洗って湯船に浸かる。温度は高めの42℃くらい。まぁ、生物兵器の能力で熱いのには慣れているため、全然許容範囲内だ。

 

「さっき思ったんだけどさ、君って結構筋肉ある方じゃないかな?」

 

「どうだろうな?俺は自覚ないぞ。周りを見ると筋肉あるやつの方が多かったような気がするからだろうけど……」

 

「その身長で80kg超えるってなかなかだからな。しかも、太っているようには見えない。」

 

「体内で圧縮しているんだ。細い方がかっこいいだろ?」

 

「そうだな。」

 

兄貴も師匠も結構筋肉がついていたから、そこまで筋肉があるという自覚はない。クリスなんてほとんどゴリラだったし……そういや、冷仁も俺と同じくらいだったな。あいつどうしているんだろ?

そんなことを考えていると女湯の方から声が聞こえてきた。

 

『勇儀さんって胸大きいですね。』

 

『それで男の視線を釘付けに……妬ましいわ…パルパルパル……』

 

『見たけりゃ、勝手に見りゃいいのさ。気がつきゃ勝手にこうなっていたんだからね。

それに妖夢だってそこそこあるじゃないか?』

 

『みょんぱい……』

 

『私なんて幽々子様に比べたらまだまだですよ。……これから範人に大きくしてもらいましょうか?そのまま、寝室にでも……』

 

『おお〜、アピールするねぇ。頑張りなよ。』

 

『アッハッハ!一番盛んなヤマメが何を言っているのさ?昨日の夜も「眠らせないよ」とか言って、熱くなっていたんだろ?』

 

『妬ましいわ…fuck……』

 

『キスメもいつか……』

 

……うん。聞くんじゃなかったよ。本当に貞操の危機だ。このままだと今夜もやばくね?

俺が平の方を見ると彼はやれやれといった表情をしていた。そりゃあ、あんな会話が耳に入ってくればそんな顔になるだろう。俺もそんな顔になっているだろうし……

 

「……範人…お前も大変なんだな。」

 

「お前もな。」

 

これはもう笑えない。これで笑えるときは心のバーが振り切れて狂ったときだけだ。あの話を聞いていると「この世界でまともなのは女より男ではないのか?」と思えてくる。

ところで、地底の入り口からずっと一緒についてきている人がいるんだけど……ここにいちゃいけないと思うんだよな。

 

「あのー、君。ここは男湯なんだけど、なんで女の子が入っているのかな?」

 

俺は一見誰もいないように見える場所に話しかける。平の目には俺がおかしいやつに見えるだろう。しかし、そこには間違いなく誰かがいる。粒子の通れない場所があるのだから、この情報は確実だ。しかも、形的に女の子である。

 

「あちゃー、バレていたんだねー。」

 

「判断の基準の違いだ。」

 

「あはは、さすが生物兵器だね。」

 

「なんかもうその言葉で俺に対する全ての疑問が片付けられそうな気がしてきたよ……」

 

声が聞こえてきた直後、見た目年齢11歳前後の少女が現れた。驚くべきことにその少女、湯船に浸かっていたらしく裸である。俺も平もなるべく意識しないようにしたが、俺が言葉を言い終えると同時に少女は立ち上がった。目のやりどころがない。

 

「頼む、座っていてくれ。」

 

「え?私と一緒に入っていたいの?」

 

「いや、そういうわけじゃなくてな。立たれると、目のやりどころに困ってしょうがない。」

 

「いいよー。おまけにもっと近づいてあげる〜。」

 

俺の頼みを勘違いしたのか、わざとなのか、こちらに近づいてくる少女。そして、平は距離を取る。

おやめください。そんなサービスは要りません。妖夢に見られたらやばいです。

平のほうをチラッと見ると、目で「ドンマイ」と言われた。まぁ、こんな状況になったら、それくらいしかできないだろう。一部のやつは「そこを代われ!」とか「裸幼女キター!」とか言うかもしれないが……

 

「俺は旅行 範人っていうんだけど……君は誰だい?」

 

「こいしだよー。よろしくー。」

 

改めて、子供の純粋さはすごいと思う。こんな状況で普通に会話して、さらに自己紹介までしてしまうなんて純粋にもほどがある。気兼ねなく接してくれることが純粋なことの良いところなのだが……同時に純粋であることから問題が……

 

「君はどこを見ているんだい?」

 

「んー?男の人ってこんなのがついているんだなー、って。」

 

「な⁉︎」

 

俺は急いでスキマを開いてタオルを取り出し、身体に巻いた。

わかりきっているが、こいしが見ていたのは絶対にアレのことだろう。そう、これが純粋なことの問題点だ。色々なことに興味を持ってしまうため、やばいものですら興味の対象なのである。

 

「えー、なんで隠すのー?」

 

「いや、そこは本当に勘弁して!頼むから、マジで!」

 

「私も同じところ見せるから〜。」

 

「それもダメェ!平……いないのかよ!背中の傷跡で我慢してー!」

 

本当に純粋って怖い。ソコは本当に好きな人にだけ見せてあげなさい。そして、俺には妖夢がいるんです。

ターゲットを平になすりつけようとしたが、そこに平は既にいなかった。仕方がないので、背中の傷跡で我慢してもらう。

 

「すごい傷だねー。内臓まで丸見えだよー。」

 

どうやら、興味の対象が傷跡に変更されたようである。これなら、こいしが背中側にまわったことで視界に入らないためまだいい。

……しかし、現実はそう甘くなかった。

 

「えい!」ツン

 

「ひゃう⁉︎」ビクン

 

こいしに傷跡をつつかれた。内臓が見えるようになっているような場所のため、わかりやすいと言えばわかりやすいが、とても敏感である。そんな場所を突然つつかれようものならびっくりしないわけがない。案の定、ビクンとしてしまった。

 

「大丈夫?」

 

「た、多分……」

 

「ごめんね。

そろそろ上がったら?」

 

「そうさせてもらうよ……」

 

俺は急いで湯船から上がる。もう心が持たない。純粋って怖い。こいしが後ろをぴったりとついてくるが、もう気にしていられない。こんな場所からはさっさとおさらばしたいというのが今の心境だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が脱衣所から出ると、既に全員が集まっていた。

平はともかく、女性陣はいつの間に上がったのだろう?普通の生物よりも圧倒的に耳が良い俺にもわからなかったなんてすごい。

すぐにかけられる平の声。

 

「お疲れ!(ごめんな)」

 

「ハハハ……(逃げやがって、このやろう……)」

 

「さぁ、帰りましょう。(愛の巣へ……)」

 

「ああ。

みんな、ありがとな。今日は楽しかったよ。(思いっきり、建て前だけどな。確かに楽しかったけど……)」

 

『またね!』

 

俺は振り向くことなく、右手を振って応える。そして「今日の夜も理性との格闘なんだろうな」と考えながら、家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の仕事も終わった。暴れ者が多い地底を管理するというのはなかなか骨が折れる。今日もどこかの鬼が金をぶんどられたらしい。まぁ、賭けの上で取られたのだから別に対した問題ではないだろう。

 

「お姉ちゃん、たっだいまー!」

 

「あら、おかえりなさい。」

 

「今日ね、あの生物兵器に会ったんだよ!」

 

生物兵器。地上の新聞が偶々まわってきたときに記事で読んだ。なんでも、かなり戦闘に特化しているという。

その生物兵器に妹が会ったと言うのだ。なかなか興味深い。

 

「どうだった?」

 

「普通の人間と比べるとすごく背が高かった。でね、とても優しかったの。全然怒らないんだよ。

お姉ちゃんも優しくて好きだけど、お兄ちゃんだったら、あんなお兄ちゃんが欲しいな。」

 

「へぇ、良かったわね。」

 

妹の無茶ぶりに怒らないとはどんな男なのだろう?しかも、何があったのかがなんとなくわかってしまう。温泉に入っているところにこいしが出現したのだろう。この地底ではよくあることである。……よくあっていいことではないが……

 

「ねぇ、そのヒトをお兄ちゃんにするにはどうすればいいのかなぁ?」

 

他人を兄にするなどとすごいことを訊いてくる。まぁ、方法が無いわけではないため教えてあげよう。わからないことを教えることも姉である私の役目である。

 

「ん〜、そうねぇ……そのヒトに弟がいればだけど、こいしがその弟と結婚するか、私がそのヒトと結婚すれば、そのヒトがお兄ちゃんになるわよ。」

 

「じゃあ、私がそのヒトの弟と結婚する〜♪」

 

「弟がいるとは決まっていないわよ?」

 

「じゃあ、お姉ちゃんがそのヒトと結婚してよ。」

 

「えぇー……」

 

妹は無邪気故にすごいことを言う。結婚なんて将来を決定するとても大切なことなのに簡単に決めてしまっていいのだろうか?でも、そんな無邪気な妹がとても可愛い。

その生物兵器と結婚する気なんて全くないが、さらに興味が沸いた。妹のために少し調べてみてもいいかもしれない。




なんでこうなった?
今回含む前3話で主人公は大変だということがよくわかった気がします。
妖夢のキャラ崩壊が……タグ追加しようかな?いやでも、恋すると変わるって言うしなぁ……追加しようか。

さて、次回からクロスです。参加者の皆さんありがとうございます。既に最初辺りは考えていますが、何話編成になるかわかりません。

ではまた、次回お会いしましょう。

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