東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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ああ、もう一つの作品の執筆が進まない。こっちの方がどんどん頭に浮かぶ。


第五十六話 evolution weapon

霊夢は西行妖に近づき、封印を施そうとする。しかし、その行動は西行妖の枝に阻まれた。西行妖はその場の全員に向かって枝を伸ばした。

 

 

 

「ぐっ…うぅ……」

 

範人は目を覚ました。目は霞んでほとんど見えない。

 

どうやら、あの空間は死ななければ無傷で解放してくれないらしい。感触でわかるが、今は再生している左手首を中心に広がる血だまりがその証拠だ。さらに身体が重い。範人は思った以上に疲労を蓄積させてしまっていたようだ。

 

「早く霊夢たちのとこに行かねぇと……」

 

範人は起き上がろうとするが、何者かに頭を押さえられて起き上がれなかった。後頭部に何か柔らかい感触がある。霞んでいた視界が晴れ、くっきりと見えるようになるとそれが何かわかった。

 

「目は覚めましたか?」

 

範人は妖夢に膝枕をされていた。柔らかい感触の正体は妖夢の太腿だったのだ。範人は驚いたが、それを表情に出さず、再度起き上がる。範人からすれば、妖夢の膝枕はとても心地よく、自分から離れることは惜しいのだが、今は西行妖の方が重要である。

 

「ああ。膝枕…ありがとな。」

 

「いえいえ、恋人が気絶しているときに看病するのは当たり前ですから。」

 

「さて、行かねぇと……」

 

「待ってください!」

 

「え?」

 

妖夢は範人に向かって叫んだ。その叫びを聞いた範人はキョトンとした表情をして振り向く。妖夢の表情は真剣で、それを見た範人の表情も真剣になり、目付きが鋭くなる。エージェントの顔だ。

 

「範人はどこまで知っているんですか?」

 

「何を?」

 

「幽々子様と西行妖の関係です。」

 

範人はそれを聞いて、少し驚いたような表情をしたが、すぐに元の真剣な表情になる。そして、真剣に、だが、少し躊躇うように話し始めた。

 

「昔、姉さんから聞いたんだ。西行妖が目覚めるとそれを封印する代償になったものも目覚める、ってな。現在、西行妖は目覚めかけている。つまりは代償も目覚めかけているってことだ。そして、その代償が生前の幽々子。西行妖の下には幽々子の遺体が眠っている。」

 

「でも、それだけなら問題は……」

 

「ああ、それだけならな。ていうか、これくらいなら妖夢も知っているだろ?」

 

「はい。」

 

妖夢が答えたため、範人はさらに話を続ける。

 

「でも、問題があってな。幽々子の遺体が埋まっていてそれが目覚めるだけならまだいいんだが……幽々子の遺体は既に白骨化…いや、もう骨すらも残っていないかもしれない。こんなとき、行き場のない魂はどうなると思う?」

 

「成仏…するのでは……」

 

「成仏できればいいんだよな。残念ながら、これで成仏できる可能性はとてつもなく低い。ほとんどはまた亡霊としてやり直しだ。それどころか、記憶も失っちまう。もう……わかるよな?」

 

妖夢は非常に暗い表情をする。彼女の脳裏に浮かんでいるのはこれまで幽々子と過ごしてきた楽しい(?)思い出。幽々子はめちゃくちゃなところもあったが、従者思いの優しい主人だった。そんな思い出を失わせるわけにはいかないと決意した。

 

「範人……私も行きます。私も一緒に戦って、西行妖を止めます。」

 

「そうか、それは助かる。」

 

「では、行きましょうか。」

 

「ちょっと待て。」

 

範人が妖夢を止める。既に歩き出そうとしていた妖夢はキョトンとした可愛らしい表情を見せる。普段の範人なら、ここで表情が緩んでいただろうが、今はそんな余裕がないため真剣な表情を崩さない。

 

「ここに来た理由…まだ、言ってなかったよな。」

 

「はい……」

 

「俺は守るためにここに来たんだ。幽々子との思い出も大事だが、もしも幽々子が消えたら、妖夢が狂ってしまうと思ってな。」

 

「そ、そんなことは……」

 

「はっきり言って、お前は幽々子に執着し過ぎている。もっと自我を持った方がいい。もっと自我を押し通してもいいし、自分のやりたいことをしてもいいと思う。もっと素直になった方がいいと思う。」

 

「……それは範人も同じじゃないですか!」

 

範人はそれだけ言って西行妖の場所に向かおうとしたが、妖夢の言葉に足を止めた。ゆっくりと振り向くその顔には驚きと苦しみの表情がはっきりと見てとれた。

妖夢は範人の胸ぐらを掴み、持ち上げようとするが、範人の方が背が高いため、うまく持ち上がらない。仕方がないので範人の胸をポカポカと殴る。

 

「どうして泣きそうな顔をして戦うんですか?!どうして心を隠すんですか?!」

 

「誰かを殺すとき、苦しくないわけがないだろ!」

 

範人が叫ぶ。妖夢は驚き、手を止めて範人の顔を見る。奥歯をギリギリと噛み締め、必死に苦しみの感情を隠すその顔。しかし、その目からは涙が流れ、頰を濡らしていた。

 

「俺だって辛いんだよ!だからこそ、平気なふりをしたんだ!自分も騙せるってな!でも…やっぱり、騙せていなかった……妖夢を斬りたくなかった……」

 

「なんで……今さらそんなことを言うんですか?!私も範人を斬りたくなかった……でも」

 

「だからだ!」

 

「え⁉︎」

 

「妖夢は幽々子を守りたかったんだろ。それなら、俺が邪魔するなんてできるわけがないじゃねーか!それがお前の信念だったなら、当たり前のことだ!

……だから、斬るしかなかった。俺は最低だ。正義の味方でも、誰かを助けるヒーローでもなんでもない。結局は暴力で解決しちまう……俺は、人間の闇から生まれた化け物だ……」

 

範人が地面に崩れ落ちる。身体的ダメージからではない。自分が妖夢を斬った、その事実が範人の心に多大なるダメージを与えていたのだ。

 

最初、範人は怒った。しかし、そんな怒りをぶつけるものなどあるはずもなく、自分を責めたのだ。自分が悪い、こうなったのは自分の責任だ、と。

 

範人は地に伏せて、嗚咽を漏らす。これまでに溜め込んでいた怒り、憎しみ、悲しみ……全ての感情を吐き出すように……

 

「範人、顔を上げてください。」

 

妖夢の言葉に範人は涙を拭き、顔を上げる。妖夢の優しい表情に範人は辛い気持ちが少し和らいだような気がした。

 

「今回はさすがに無理だったと思いますが、これからはもっと頼ってください。力になりたいです。それに……」

 

妖夢は少しうつむき加減で言う。

 

「範人が自分を化け物と思っていても、私にとってはヒーローです。自分を悪く見るのはやめてください。」

 

範人はハッという表情をしたが、喜びから涙が溢れそうだったため、すぐに下を向いてしまう。

 

「妖夢…ありがとう。」

 

「もう、またそうやって下を向くんですから……

仕方ないですね。元気にしてあげます。顔を上げてください。」

 

「はぁ?うお⁉︎……⁉︎」

 

範人が再度顔を上げると目の前には妖夢の顔があった。範人は驚き仰向けに倒れてしまう。直後、範人の唇に妖夢の唇が重ねられた。範人の顔が真っ赤になり、妖夢を引き離そうとするが、突然の出来事に焦っている上に、思った以上に強い力で抱きしめられているため離せない。

普通の人間なら、理性が麻痺してその先の行為に及んでもおかしくないのだが、エージェントである範人は心の芯がそこそこしっかりしているため辛うじて持ちこたえる。

 

十数秒の口づけの後、妖夢は範人から顔を離し、自身の唇を舐める。一方の範人は驚きのあまり息ができていなかったため、ゼェゼェと荒い呼吸をしている。

 

「……突然、何のつもりだ?」

 

「何って…範人がやりたいことをしてもいいって言ったから、やってみただけですよ。」

 

「こいつ……」

 

「そういえば、これが初めての口づけでしたね。私の味…どうでした?」

 

「な…⁉︎と、突然、何言ってんだ⁉︎」

 

妖夢の問いに範人は顔をさらに赤くして言う。妖夢はその様子を見て意地悪な笑みを浮かべた。このままでは弄られると思った範人はすぐに落ち着いた表情になり、感想を述べる。

 

「……甘かった。」

 

「それだけですか?」

 

「あれだけ焦っていたときにそんなにいろいろ考えられるか?

……それと…早く退いてくれ。いかがわしいことに勘違いされ兼ねない。」

 

「別にこのまま先に進んでもいいのですよ?」

 

妖夢は範人に覆い被さり、胸を押し当てた。そのまま身体を少し揺らす。柔らかいものが範人の上でフニフニと形を変える。その感触にこのままでは理性が保たないと思った範人は静止を求める。

 

「待て待て⁉︎ストップ!ストップだ妖夢!俺はまだ年齢的にアウトだから!」

 

「あれ?思春期の男の子はいつも飢えていると聞いたことがあるのですが……」

 

「俺はそんなに飢えてないから……せめて、10月13日が過ぎるまで待ってくれ!」

 

「何故、その日を過ぎればいいのですか?」

 

「その日が俺の誕生日で今度18才だからだ。」

 

「なるほど…わかりました。」

 

妖夢が理解してくれたようで範人は安心してホッと息を吐く。妖夢が範人の上から退き、範人は立ち上がる。その直後、範人のネックレスが光り輝いた。あまりの光量に二人は目を覆う。

 

数秒後、発光が終わった。範人がネックレスを首から外して手に乗せ、妖夢はそれを覗き込む形で見る。ネックレスは形状が変化しており、元の剣のような形から、額に赤いクリスタルの着いた髑髏のような形になっていた。

 

「範人…これって……」

 

「……クリムゾンが進化した。持ち主の成長と共に武器自体も成長するからさっきの戦いでクリムゾン自体が結構成長していたんだろうな。でも、最後の一押しは何だったんだ?」

 

「もしかしたら、範人が大人の階段を上りかけたからかもしれないですよ。」

 

「そんなことで進化してもらいたくはないんだけど……まぁいい。進化したんだから、名前も変えないとな。」

 

範人は腕組みをして思考を巡らす。なるべくかっこいい名前がいいが、そう言ったものはなかなか見つからない。その様子を見て、妖夢が範人の肩を叩いた。

 

「範人、前に外界の文献を読んでかっこいいものがあったのですが、どうでしょうか?」

 

「言ってみなよ。」

 

「アルゴス……世界を救うために戦った英雄の名前らしいのですが……どうでしょう?」

 

「いいね。それにしよう。この剣の新しい名前は覇剛剣アルゴスだ。」

 

「いいのですか?」

 

「いいよ。俺もかっこいいと思ったしな。ありがとう。」

 

「えへへ…」

 

範人はネックレスを首にかけ直し、妖夢の手を取った。妖夢は少し顔を赤くしたが、範人の方を見て笑いかけた。範人は妖夢の様子を確認すると、西行妖の方に鋭い視線を向けた。

 

「さあ、行こうか。幽々子を救う。」

 

「はい、全てを救いましょう。」

 

範人と妖夢は西行妖の元に向かった。

 

 

 

範人と妖夢は西行妖の元に辿り着いた。しかし、2人が見たものは死を撒き散らし、その巨大な枝を振るう妖樹の姿であり、あるべきはずの仲間たちの姿がそこにはなかった。西行妖は目覚めてしまった。




今日のゲストは屍2人。

「どもども〜♪存山です♪」

「芳香だよ〜。貴方美味しそうだね。」

挨拶怖ェー。
どうも、四ツ葉でっす♪

「範人、それを言ったら……」

「妖夢、大胆なのだ〜。」

範人が言ってしまいましたね。従者に言ったらヤバそうだと、私的に思っている言葉です。許可を出してしまえば、主人に好意を寄せている従者はすぐに暴走すると思います。案の定ですが、範人も危ないところまでいきました。

「範人の誕生日って秋だったのか〜?」

「以外だ……」

そうですね。以外かもしれません。キャラ的には夏っぽかったかなぁ?と思っています。しかし、ここには私なりのこだわりがあるのです。

「それは何だい?」

ハロウィンがある月の13日にしたかったんです。主人公の誕生日をアメリカでは不吉な13日にあえてすることにこだわりがありました。人ならざる者であることを何かで意味させてみたかったんです。

「じゃあ、他のキャラの誕生日はいつなのだ〜?」

一応ですが、デューレスは12月8日、優は8月25日です。あまり早くし過ぎるのもどうかと思っています。

「作者って、そういうところにこだわるよね。範人たちの名前にもちゃんと意味があるんでしょ?」

はい。もちろんありますよ。オリジナルキャラクター…というか自分の小説は自分の子供みたいなものですからね。愛を注がないと……みんな大好きですよ。

「すまない、ナルシストに見える。」

Oh!


と、長くなっている!早く挿絵を載せなければ!


【挿絵表示】


自分的には大分上手くなったんじゃないかな〜♪って思っています。魔法陣が大変だった……
絵では、手に持っていますが、いつもの優は帽子を被っています。
これからは色付きの絵になりそうです。理由?色鉛筆を買ったからです。半額セール中だったけど高かった……


後書き長くなってすみません。

『ではまた、次回お会いしましょう。』

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