東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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7月3日か、4日まで投稿できません。あいつが…テストが襲来してきました。


第五十三話 剣士と狩人

範人の剣と妖夢の刀がぶつかり合い、火花が散る。互いに生半可な攻撃は通じない相手だとわかっているために全力だ。二人は仕切りなおすために斬り下がりで後ろに飛ぶ。

妖夢の刀は範人の頬を掠め、範人の剣は妖夢の脇腹を掠める。範人の頬から赤い血が流れ出し、妖夢の服は脇腹の部分に切れ目が入る。

 

「俺に血を流させるなんて、強くなったじゃないか。」

 

「範人こそ、相変わらずの強さですね。」

 

妖夢も範人も笑顔を浮かべる。強い相手と戦うことができ、剣士として嬉しいのだ。互いに好きな人と戦うのは辛いが、それよりも戦いの喜びの方が大きいのである。

 

妖夢と範人は斬撃を飛ばす。それらは空中でぶつかり、消滅していく。妖夢は二刀、範人は剣一本。この勝負、本数の多い妖夢の方が有利なのだが、範人は妖夢の2倍の動きで互角に渡り合う。

結局、この勝負は決着がつかなかった。

 

範人と妖夢は同時に飛び出し、得物を振り回す。剣と刀がぶつかり合い、火花が飛ぶ。一本、二本と打ち合っていくが、その攻撃が互いの身体に届くことはない。そこで、剣一本では厳しいと判断した範人は妖夢の刀に剣のフルスイングを当て、妖夢を弾き飛ばした。妖夢は吹っ飛んだが、地面に刀を突き立ててブレーキをかける。

 

「変形機構、ジャベリン!」

 

範人が剣の中心を縦になぞると、剣が割れて双剣になった。さらに、それらの柄を組み合わせて槍に変形させた。そこに妖夢が刀を構えて突っ込んできたが、範人は槍を降り回して牽制しながら手ごたえを確かめる。範人は満足したように頷くと妖夢と打ち合い始めた。

二本刃の槍に変形させたことによって、範人の攻撃は手数が多くなり、妖夢は防御に徹する。

 

十数秒の打ち合いの後、妖夢は範人の突きを刀で逸らした。範人はバランスを崩して少し前のめりになる。妖夢はこれを好機と思い、範人に斬りかかる。

だが、範人もそれくらいでは攻撃を受け付けない。第一の変異をして、甲殻の隙間から噴き出す炎の火力を調節。空中でドリル回転することにより、刀を受け流した。さらに、範人の噴き出した炎が妖夢に襲いかかる。妖夢はとっさに距離を取り、炎から逃れた。

 

「楽しいなぁ……妖夢もそう思わないか?」

 

「私も同じ思いです。」

 

「そうか。やっぱり、俺たち……」

 

「「気が合うな(合いますね)!」」

 

範人たちはまた同時に飛び出した。だが、今回は先ほどまでのような真っ直ぐな動きではない。相手を惑わすような横に揺れながらの動きだ。だが、行動まで同じなのか、二人の得物は空中でぶつかり合い、互いを後ろに弾き飛ばした。

 

二人は互いの距離を保ちつつ横走りしながら、斬撃と突撃を飛ばし合う。斬撃と突撃はこれまで通りにぶつかり合うがそれぞれに工夫が施してある。

 

範人の炎を纏った突撃はぶつかり合った瞬間に爆発。周りの斬撃を巻き込み、消滅させた。さらに爆煙による目くらましの効果も期待できる。

 

範人は爆煙の中から飛び出してきた斬撃を避けてから槍を構えて妖夢の方へジャンプした。その瞬間に範人の立っていた場所を何かが通り抜けた。範人が目を凝らして見るとそれは妖夢の斬撃だった。その形はブーメランのように折り曲がっている。妖夢は刀の動かし方を工夫して斬撃を折り曲げたのだ。

 

「へぇ……すごいじゃないか。」

 

「そちらこそ、まだこんな技があったのですね。」

 

「なら、もっと驚かしてやるよ!」

 

範人は妖夢に向けて槍を降り下ろした。案の定、そんな真っ直ぐな攻撃は刀で受け止められてしまい、妖夢は刀を振って範人を上へ弾き飛ばした。しかし、これも範人の計算の内である。範人は全身を第二に変異させた。

 

「くらえ!

雷符『エレクトリックウェブ』」

 

範人は金属の粒子を放ち、それらに電気を流した。電気は粒子から粒子へと流れ、電気の網を形成した。電気の網は何層にも分かれて妖夢へと襲いかかる。妖夢はそれのわずかな隙間をぬって避けるが、さすがに部が悪いと思いスペルカードを詠唱する。

 

「冥陽剣『光晶の煌めき』」

 

妖夢の周りに刀の弾幕が現れ、回転を始めた。弾幕と言ってもこれらは飛ばすことが目的ではない。もちろん、飛ばして攻撃することも可能だが、重要なのは耐久性と威力が普通の弾幕よりも圧倒的に高いことである。

 

妖夢はそれらを網に向ける。すると、網は刀に当たった部分が消滅し、きれいな円の穴が開いた。妖夢がさらに続けると、ちょうど刀が消えたときに網の最後の層が妖夢を通り過ぎた。

 

「あまり驚きませんでしたね。」

 

「そうか?それは悪かったな。……まぁ、それだけ妖夢が強くなったってことだ。」

 

「そう言ってくれるとは、ありがとうございます。」

 

範人は地面にいる妖夢に向かって槍を突き出しながら飛び降りた。妖夢はそれをかわし、槍は地面に突き刺さった。妖夢が範人に斬りかかる。しかし、範人に当たる寸前で刀を止めた。範人の身体は先ほどよりもさらに強く青白い光を放っている。妖夢が後ろに飛ぶと範人が放電し、辺りは昼間のように明るくなった。

 

「よく気づいたな。」

 

「危ないところでした。あのまま斬りつけていたら、私は確実に感電していました。」

 

「それでも、俺には勝てない。」

 

「私は負けるわけにはいかないんですよ!」

 

範人は上空に跳躍。妖夢は刀を鞘に収めて、居合いの体勢に入った。そして、二人同時にスペルカードを詠唱した。

 

「天雷『ヴァジュラズレイン』」

 

「時空剣『輝きの残月』」

 

範人は槍に電気を込め、妖夢に向かって五月雨のように連続で突いた。槍の先から雷が発生し妖夢に向かう。

妖夢は居合い斬りを放った。妖夢と雷の間に緋色の斬撃の軌跡が発生し、範人に向かう。

 

巨大なエネルギー同士がぶつかり合う。それぞれは盾と攻撃となり放った者を守り、敵を滅しようとする。双方とも守ることはできたが、相手を滅することはかなわず、同時に消滅した。しかし、スペルカードの時間が切れたとは言っても、戦いは終わらない。

 

範人は落下して地面に足が着いたと同時に地面を蹴った。範人のあまりの力に地面が陥没する。妖夢はそれを迎え撃つべく刀を構えた。範人が5m以内まで迫った瞬間に妖夢が動いた。目にも止まらぬ速さで範人の横を通り抜けた。しかし、その一撃に手応えはなかった。

 

妖夢が不思議に思った瞬間、目の前に槍が迫った。妖夢は後ろに跳んでその一撃を回避した。槍は地面に突き刺さったが、攻撃は止まなかった。

 

範人は槍の柄を両手で掴んで、スピンした。両脚での蹴りが妖夢に迫る。しかし、範人は寸前のところで止めた。妖夢は刀を立てた状態で構えていた。あのまま、蹴りを降り抜いていたら範人の足首から先はオサラバしていただろう。

 

妖夢は範人が止まった瞬間にすかさず刀を降り下ろした。しかし、範人は槍を使って後ろに跳躍してそれをかわした。その顔には余裕の表情が見られる。妖夢はさらに斬撃を飛ばしたが、範人はバック宙を繰り返して全てかわし、距離を取った。

 

「……もう、終わりにしましょう。」

 

「……ああ、わかった。」

 

妖夢は範人に終了の提案をし、範人もそのことがわかっていたかのように返事をする。範人は槍を剣に戻し構える。妖夢も片方の刀を鞘に収め、残った片方を構える。

 

「これで終わりです。」

 

「そうだな。」

 

範人と妖夢は距離を詰めることも離すこともなく、ただ、相手の様子を見ながら横歩きをする。すさまじいまでの気の飛ばし合い。先ほどまでの激闘とは打って変わり、嘘のように静かになる。ここでは虫の羽音すらもジェット機の騒音に聞こえてしまうほどだ。空気は鉛のように重く、ナイフのように鋭い。

 

妖夢が刀を構えて駆け出した。同時に範人も剣を構えて駆け出す。妖夢の刀は気を纏って緋色に、範人の剣は電気を纏って青白く輝き出す。妖夢と範人はすれ違いざまに得物を振り抜いた。

 

緋色の閃光と青白い閃光が交わった瞬間、世界は動きを止め音が消えた。鮮血が宙を舞う。しかし、2人は何事もなかったかのようにすれ違い、互いに背中を向けた状態で停止した。

 

2人がすれ違った場所に何かが落ちる。それは範人の左手だった。範人の左手首からは血が噴き出している。だが、範人はそれを特に意識することなく変異を解除すると、剣をネックレスに戻し、首にかけた。そして、呟く。

 

「……お前の負けだ。妖夢……」

 

範人がその言葉を言い終わると同時に妖夢の服の腹の部分に切れ込みが入り、血が滲んだ。妖夢は手から刀を落とし、口から血を流して、うつ伏せに倒れた。ドサッという音の直後に妖夢は空間の外に弾き出され、範人も空間から解放される。しかし、数歩も歩かないうちに意識を失い、倒れてしまった。




この勝負、範人の勝利です。

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