東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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第四十五話 兄貴降臨

範人が観覧車から降り、フランたちのほうを見ると2人が仲良く手をつないでいた。フランの恋が実ったようで安心した。

 

「良かったな。」

 

「「えへへ……。」」

 

範人が声をかけると2人は少し顔を赤くして、照れ臭そうに笑った。

 

「それじゃあ、帰らないとな。」

 

「今日はありがとうございました。」

 

ジェットのもとから立ち去るとき、ジェットが範人たちにお礼を言う。

 

「お礼はいい。それよりもジェットのお父さんに伝えてもらいたいことがある。」

 

「何ですか?」

 

範人は自分のミスを認められるようになっていた。恋をすると人は変わると言うが、きっとその通りなのだろう。範人の口からこんな言葉が出たのだから。

 

「エージェント ハント・ゴートレックはミッションを完璧にはこなせず、ターゲットと接触した。ってな。」

 

「いいんですよ。範人さんと会わなければ、フランちゃんにも会えませんでしたし、僕はきっと死んでいましたから。」

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいんだがな。言っておいてくれ。」

 

「わかりました。」

 

「あと、これを渡す。」

 

範人はポケットから紙を取り出してジェットに渡した。ジェットはそれを不思議そうに眺める。

 

「もし、フランといっしょになりたいならそこに電話しろ。俺の電話番号だ。その後、ゴートレック生物研究所の住所の場所に行けば、迎えに行く。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ただし、それは戻れない一線だ。もうわかっていると思うが、俺たちはこの世界の者じゃない。この世界に未練を残さないように覚悟を決めてから電話しな。」

 

「わ、わかりました。」

 

範人たちは遊園地から去ろうとした。その範人たちにジェットがお礼を叫ぶ。

 

「今日は本当にありがとうございましたー!」

 

その言葉に範人は背を向けたまま、無言で右手を振って応えた。妖夢とフランは言葉で返す。

 

「またお会いしましょう。」

 

「またねー!」

 

 

 

駐車場に向かう途中で妖夢が範人に話しかける。

 

「それにしても、今日は大変でしたね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「でも、楽しかった〜♪」

 

フランは範人たちに満面の笑みを見せる。

 

本当に今日はいろんなことがあった。フランに恋人ができたし、ジェットコースターにも乗った。B.O.W.も処分した。お化け屋敷は……思い出したくないな。

そういえば、こんなに楽しかったのは何時ぶりだろうか?こんなにもあの時を忘れられたのは何時ぶりだろうか?あの悲劇を…俺が本当の化け物になったときを忘れられたのは……。

あれ?何か忘れているような気が……。確か、行きは車だったよな……それなら帰りも車って……。

 

「うわー!」

 

「ど、どうしたんですか⁉︎」

 

妖夢が驚き、範人の方を向く。その範人は顔を青くしている。

 

「ヤバイ、帰りもあの運転手だ……。」

 

その時、妖夢の脳裏に行きの悲劇が浮かんだ。スリル満点の安全な運転とか言っておきながら安全なんて言葉はどこにも見当たらない運転手。二度と乗りたくないあの車。考えただけでも吐き気を催す。

 

「ああ……また、リックさんですか?」

 

「多分……。」

 

気分が沈み込んでいる2人とは反対にフランは目を輝かせている。

 

「またあの人の運転?やったー♪」

 

「「Oh……」」

 

2人の気分はフランの喜ぶ顔を見てもあまり回復しなかった。

 

すまない、妖夢。恨むんだったら俺の交渉スキルの低さを恨んでくれ。あの運転手以外にしてくれと何度頼んだことか……。

 

「そんなにヘコんでどうしたんだ?」

 

そこにかけられた陽気な声。だが、それはリックのものではなかった。しかし、範人には聞き覚えのある声だった。自分を弟と呼び、どんなときもジョークを混じえた話し方で周りを安心させてくれた人。

 

「あ、兄貴……。」

 

レオン・S・ケネディがそこにいた。

 

「久しぶりだな、ハント。」

 

「なんで、こんなところに?それよりもリックは?」

 

「リックからお前がいるって聞いてな。それでここに来たんだ。帰りは俺の運転だぞ。」

 

その瞬間、範人と妖夢は歓喜の叫びを上げそうになったがなんとか呑み込んだ。それほどまでにリックの運転は2人にとってトラウマになっていた。

 

「まあ、早く乗れよ。」

 

4人は車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

いや〜、やっぱり安全な運転っていいよな〜。クールな運転も悪くないけど、さすがにリックの運転は勘弁だ。車両は安全第一、これ大事。

 

「それにしても驚いたな。まさか、ハントに子供がいたとは……。」

 

「そういうタチの悪い冗談はやめてもらえない?」

 

「いや、俺は本気でそう思ったぞ。」

 

なんだこれ?俺って年齢不明なの?せめて、姪ならわからないでもないけど……。この年齢で子持ちって……俺ってそんなに悪い奴に見えるのか?

 

「はあ……大人と子供で見られ方がこんなに違うとはな。」

 

本当にもうおかしいだろ。ちびっこたちから見れば、俺はお兄さん。大人たちから見れば、俺は父っつあん。訳がわからん。兄貴、笑わないでくれよ。

 

「それにしてもかわいい娘が彼女になったな。」

 

「は、はい⁉︎」

 

兄貴の言葉に妖夢が顔を赤くする。まあ、妖夢がかわいいのは俺も同感だ。ていうか、そうじゃなきゃ(多分)付き合ってないっての。

 

「弟のハントがお世話になっています。」

 

「いえいえ、こちらこそ範人がお世話になっています。」

 

あれ?俺の立場って何?俺は何時から世話をされる方になったんだ?

 

「はあ……ハントにも彼女か……。俺はまだだっていうのによ。」

 

「エイダさんがいるよね。」

 

「エイダは確かに美人だが、逃げられる気がする。最近会ってないし。」

 

いや、そんなことはないと思う。前に研究所に来ていたときなんて、兄貴の話ばかりだった。エイダさんは逃げているわけじゃなくて恥ずかしいだけだと思うんだけどな。

 

「それならクレアさんは?」

 

「ダメだ。あいつの心はあの青年に向いている。もう会えないことはわかっているはずなのにな。」

 

脳内に浮かんだのはスティーブ。実際に会ったことはないがかなりの好青年だったらしい。俺自身にも使用されたt-Veronica を打ち込まれて生物兵器になってしまったらしい。しかも、遺体をアルバート・ウェスカーに回収されたため、遺体もない。

 

「それは気の毒だな。……復活させることもできないわけじゃないんだけど。」

 

「それは望まないだろうからな。命は一つだけだからこそ美しいんだ。」

 

「その通りだよ。」

 

俺が言えたことではないが、全くその通りだと思う。命が失わればもちろん悲しい。消えてもらいたくないときだってある。でも、みんな命を燃やして生きている。それはいつか燃え尽きる。限られたときを全力で生きるからすばらしいのだ。

 

「私もそう思います。私の言えたことではないんですけどね。」

 

「俺の言えたことでもないよ。」

 

「ははは、よく考えたら俺もだ。普通の人間だったら軽く死んでいるようなミッションをこなしてきたわけだからな。そっちの娘も死にかけたのか?」

 

「いえ、半分死んでいるんです。」

 

おい、ちょっと待て!それはこの世界で言っちゃいけないことだろ!そんなこと街で言ってみろ、頭おかしいと思われるぞ!

だが、兄貴はそれを笑わなかった。もしかしたら、妖夢が何者であるか、気づいているのかもしれない。

 

「あれ?笑わないんですか?」

 

「何を言っているんだ?ハントの彼女ならそのくらいおかしくない。それに幻想郷から来たんだろ?別に不思議でもなんともないさ。」

 

ああ、そうだった。兄貴は姉さんとも仲が良かったんだった。てことは姉さん、幻想郷の話をしたんだな。

 

「知ってたんですか?」

 

「紫から聞いてな。ほら、到着するぞ。」

 

俺は車内を見回した。フランが眠ってしまっていたことに気づき、起こそうとする。だが、それを妖夢が止めて、口の前で指を当てて「起こしてはダメですよ」と伝えてきた。俺は黙って頷いてフランをおんぶした。

 

「ありがとうございました。」

 

「ありがとな。」

 

「構わないさ。それよりも今度一緒にミッション行こうか。」

 

3人で静かに話をすると俺たちはその場を後にした。スキマを開いて幻想郷に帰る。

 

 

 

 

 

範人たちが幻想郷に去り、1人になったレオンが呟く。

 

「あいつにも彼女か……。俺だって彼女とか嫁とか欲しいのにな。」

 

そんなレオンを背後の少し離れた場所から見つめるアジア系アメリカ人の女性が1人。エイダ・ウォンである。

 

「その願い、私が叶えてもいいわよ、レオン。」

 

エイダは妖しげに笑うとフックショットを使用して夜の街へ消えていった。レオンが気配に気づいて振り向いたがそこには何者の姿もなかった。

 

「また、逃げられたか……泣けるぜ。」

 

1人だけになったレオンはそう呟いた。




今回ののゲストは栗里さんです。

「エイダさんが登場だ。超エキサイティング!」

最後の方の少しだけでしたけどね。

「作者の好きなキャラは誰だ?」

ランキングをつけると

1位 レオン・S・ケネディ
2位 ビリー・コーエン
3位 アルバート・ウェスカー
4位 エイダ・ウォン
5位 ジャック・クラウザー
6位 スティーブ・バーンサイド
7位 ピアーズ・ニヴァンス
8位 シェリー・バーキン
9位 クレア・レッドフィールド
10位 クリス・レッドフィールド

となりますね。

「意外にもレッドフィールド兄妹が低いな。」

あくまで私個人ですからね。個人的にクリスはどうしても好きになれなくて……クレアはそれに伴って……。

「なんか……クレアはドンマイだよ。恨むならクリスを恨んでくれ。」

範人とレオンの関係は作品開始当初から決めていました。

「ふーん。」

『ではまた、次回お会いしましょう。』

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