東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
範人の強さは、圧倒的であった。魔理沙の実力は、トップクラスのはずだったが、範人はその魔理沙の弾幕を余裕で見切り、全てにほぼ完璧に対処した。しかも、途中までに出していた力は、全体の20%ほど、スペルをぶつけ合ったときも50%には満たなかっただろう。事実、範人の顔には、まだ余裕の表情が浮かんでいる。今、目の前には、範人と気絶した魔理沙を抱き抱えている少年が立っている。
「君か?魔理沙をこんな風にしたのは。」
その少年は範人に訊ねる。範人には境内を直してもらわなければならないため、私は話の場を移そうと提案する。
「魔理沙がこんな状態だし、中で話をしましょう」
「まあ、そうだね。そうさせてもらうよ」
「俺は境内を直したら、中に入るからな」
「ええ、頼んだわよ」
少年は案外あっさりと提案を受け入れてくれた。私は少年を神社の中へと案内する。
◇
魔理沙を布団に寝かせて、話を始める。
「わたしは、博麗 霊夢よ。貴方は?」
「俺は
「ええ、よろしく、優」
「で、一体何が起きたんだ?」
早速、飛んでくる質問。少年の目は本気だ。嘘をついて誤魔化すことなどできそうもないため、全てを話すことにする。
「魔理沙が範人に弾幕勝負を挑んだのよ。そして、負けたの」
「そうだったのか。なら、俺が怒る必要はないね」
優は魔理沙が一方的に攻撃されたと勘違いしていたらしい。まぁ、あそこまでボロボロになった姿を見れば、誰だってそう思うだろう。私自身、魔理沙があそこまで余裕で負かされるなんて驚いた。
(まあ、一方的な勝負みたいなものだったけどね。)
「優はどうやって境内に入ってきたの?」
私にはこれが一番の不思議だった。あのとき境内には結界が施してあり、出入りできない状態のはずだった。約一名、あのスキマ妖怪なら入ってこれるが……。
「俺の能力を使ったんだよ。『移し替える程度の能力』っていう能力でね。自分を位置を境内の中に移し替えたんだよ」
「なるほどね」
境内の中に入ったことの不思議は解けた。何と移し換えたのかは、この際触れないでおこう。何か大切な物と移し換えられていたら発狂する自信がある。饅頭とか煎餅とか団子とか……。
「優は何でここへ来たの?」
「魔理沙が博麗神社に行くって言ったから、着いて来たんだ」
「優と魔理沙の関係は?」
「俺は、魔理沙の家に一週間前から居候させて貰っているんだ」
「えっ、あんなところによく居候なんてできるわね」
前に魔理沙の家に行ったときは散らかっていて足の踏み場もなかった。そんな場所によくもう一人住まわせる場所があるのだろうか? ……どう考えても見つからない。
「最初のうちは掃除とか大変だったよ。ハハハ……」
「あそこが片付いていく様子が想像できないわ。掃除中の貴方の表情は想像つくけど……」
「…………う、うぅ……」
魔理沙が呻き声をあげる。気がついたようだ。目をぱっちりと開け、何が起きたのかわからないような表情をしている。
「魔理沙、気がついたみたいね」
「弾幕勝負はどうなった?」
「範人の勝ちよ。範人、全然本気じゃなかったわよ」
「でもあいつ、少し本気になるって……」
「少し力を上げただけよ。最後も
「えっ、あれでか⁉︎」
魔理沙はとても驚いている。
範人の力は50%も出されてなかったかもしれない。おまけに「あの姿の場合は」だ。
優が魔理沙に声をかける。
「おう、気がついたみたいだな」
「おう、お前も来たのか」
魔理沙と優は手を打ち合わせ、パンッと良い音が鳴った。二人共、何故かハイテンションだ。まぁ、無事なようで何よりだが……。
(これは……)
「あっ、霊夢。賽銭入れてくる」
「ええ」
(ヨッシャー! 優、ありがとう)
「霊夢、顔が気持ち悪いことになっているぜ」
今日だけで二回も賽銭を入れてもらえる。そんなことを喜んでいると、魔理沙に突っ込みを入れられた。かなりイラッとする。
「なっ…。まあ、いいわ。(少し仕返しを……)魔理沙は優のことをどう思っているの?」
「と、突然何を訊いてくるのぜ⁉︎」
そう言う魔理沙の顔は真っ赤だ。私の勘はやはり冴えているらしい。考えていたことが現実だったようだ。
「まあ、なんでもないならそれでいいんだけれど。魔理沙のことをここまで運んだの誰だと思う?」
「えっ、霊夢じゃないのか」
魔理沙は少し落ち着いたようだ。ここで追い討ちをかけると、なんとも面白いことが起こりそうだ。
「優よ。しかも、お姫様抱っこで」
魔理沙はさっきよりも顔を赤くして気絶した。魔理沙は良い
◇
俺は、能力を使用して境内の修復を始めた。合掌し、
「craft!」
俺が能力で粒子を組み立てていくと境内はみるみるうちにもとに戻っていく。しばらくすると、境内はきれいに修復された。
「おう、ご苦労さん」
先程の少年が声をかけてきた。思わず身構える。ボコしてしまったため、勘違いされても仕方がないが、攻撃されるのは勘弁だ。俺の本能が敵と認識すれば殺しかねない。
「すまなかったな。魔理沙がいきなり勝負を仕掛けちまって」
少年の言葉から戦う気がないことが分かり、警戒を解く。
「別に構わないさ。魔理沙を勝負で気絶させたのは、こっちだからな」
「どうせ、魔理沙のことだから大雑把に『相手を気絶させたほうの勝ち』とか言ったんだろ」
「ああ、その通りだ」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は、難波 優だ。優って呼んでくれ」
少年は爽やかな感じに笑いながら言った。
「俺は旅行 範人だ。よろしくな、優」
「ああ、よろしく。範人」
「優は、魔理沙とはどんな関係なんだ?」
「一週間前から居候させて貰っている」
「男女が同じ屋根の下って……魔理沙のことをどう思っているんだ?」
「友達としても好きだし、恋愛対象としても好きだよ」
——スゲェ! こいつ、好きってさらっと言いやがった。
俺は口から出そうになった言葉を慌てて飲み込む。
「あ、賽銭入れるんだった」
優は五千円札を賽銭箱に入れると、鈴を鳴らし手を合わせた。これは霊夢が喜ぶだろう。見た感じ、霊夢はどこか貧乏そうな感じがした。
「おまえすごいな。普通に誰かのことを好きだと言えるなんて」
「別にすごくはないと思うよ。むしろ、これが普通だと思う。誰であっても誰かを好きになることはあるだろうから。そういえば、魔理沙が気がついたよ」
「そうなのか、良かった」
(殺さずに済んで……)
俺はホッと息を吐く。
優の後に続き、俺は神社の中に入っていった。
新しいオリキャラ、難波 優が登場しました。さて、皆様、彼の第一印象はどうでしょうか? 最悪? 普通? 良い? 作者的には、なるべく良くなるように努めていきたいです。
優は身長168cm、体重54kg、黒髪やや童顔の少年です。 霊夢が気になる発言をしましたね。これは何を意味するのでしょうか。まあ、勘のいい読者の皆様は気づいていると思いますが。ではまた、次回お会いしましょう。