東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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今回から第二章。これからもよろしくお願いします。
設定で範人の身体にCウィルスが投与されたと書きましたが、あれはあくまでCウィルスの基となったウィルスであり、Cウィルス自体ではありません。
この小説では、t-ウィルスの研究でCウィルスの基となるウィルスを範人の父親が作り出し、そのデータが政府に渡っているという設定です。
政府内でCウィルスと呼ばれているため範人もそう呼んでいます。この小説を読むときは、シモンズがそのデータを基にCウィルス自体を製作、強化したと考えてください。
スタート視点は範人。宴会の翌朝からスタートです。
では、本編をどうぞ。


第二章 咲かない桜と長い冬
第二十八話 化け物


「う、うぅ……。」

 

ふあぁ、眠い。もう朝か。窓から日の光が差し込んでいる。ここは……別館の二階か。うーん、この部屋まで来た記憶がないんだが。なんで、この部屋で寝ているんだ?

 

「うーん、範人……。」

 

「……お兄様……むにゃむにゃ。」

 

「⁉︎」

 

なんだこの状況は。妖夢とフランに左右から抱きつかれている。昨日の夜に何があったんだ?確か、三人で弾幕勝負を止めたところまでは記憶があるんだけど。うーむ、わからん。

 

「おはよう!範人。」

 

「うわ⁉︎……って、姉さんか。おはよう。朝から驚かさないでくれ。」

 

姉さんがスキマから飛び出してきた。びっくりしたー。朝だから余計に驚いた。

 

「どう、目が覚めたでしょ?」

 

「ああ、うん。ありがとう。」

 

覚めたよ。てか、覚めすぎだよ。朝からいきなり驚かすって、俺の心臓が止まりかけたよ。目が覚めるだけじゃなく、ショックで死にかけたよ。

 

「で、なんでこんな状況になっているんだ?」

 

「ああー、それはねー。」

 

姉さんの話によると、三人で弾幕勝負の沈静化の後に疲労で倒れたらしい。三人で寝ている理由は、宴会のときの話を聞いていたから姉さんがここへ運んだ結果らしい。

 

「じゃ、私は帰るわね。」

 

姉さんはスキマの中に戻っていった。よかったー、俺が部屋に連れ込んだとかじゃなくて。

 

「うーん……あっ、おはようございます。」

 

「お兄様、おはよう。」

 

「おはよう、二人とも。」

 

さーて、どうしたものか?ひとまず、朝食でも作ってくるかな。

 

「二人とも、離してくれ。朝食を作ってくる。」

 

妖夢はすんなり離してくれた。しかし、フランが離れてくれない。

 

「あのー、フラン。離してくれないかな?」

 

「嫌だ。お兄様といっしょがいい。」

 

レミリア、頼む。フランをどうにかしてくれ。まあ、念じてもどうにもならないことはわかっているんだが。

 

「仕方ないな。おんぶしてやるから、背中にしっかりとしがみつけよ。」

 

「わーい。」

 

はあ、しばらくフランといっしょなのか。あれ?ということは、ほぼずっとおんぶか?まあ、気にしても仕方ない。我慢しよう。着替えのときぐらいは降りてくれるだろう。

 

 

 

朝食を済ませると妖夢は白玉楼に帰った。俺は今日何をするかについて考える。そういえば、明後日に寺子屋に通っている子達が社会科見学に来るんだったな。寺子屋に行って、その後は人里で何かすることにしよう。

 

「フラン。俺は人里に行くけど、ついてくるか?」

 

「行く行く。」

 

「じゃあ、早速だが薬の出番だ。頭から被れ。」

 

「はーい。」

 

フランは薬品を頭の上から被る。すると、フランの身体を粒子が覆った。これで外に出ても大丈夫だ。

 

「じゃあ、出発しようか。」

 

俺とフランは人里に向かって飛び立った。

 

〜少年、少女移動中〜

 

人里に着いたらすぐに寺子屋に向かう。フランが肩車をせがんできたため、今は肩車をしている。そんな時に妹紅に出会った。

 

「範人じゃないか。その子は誰だ?」

 

「フランだよ。よろしくね。」

 

「ああ、よろしく。私は藤原 妹紅だ。そういえば、新聞見たぞ。お前って本当は化け物だったんだな。」

 

「妹紅、完全に人間じゃないことを気にしているんだからその言い方はやめてくれ。」

 

「おっと、それは悪かったな。」

 

「わかってくれればいいんだ。ところで何故人々は俺の方を見ているんだ?」

 

先程から気になっていたが、人々がすれ違う度にこちらをちらちら見てくるのだ。フランを肩車しているせいだろうか?

 

「それは新聞の影響だ。人々はお前のことを少し恐れている。」

 

「そんなことかよ。まったく、敵以外には攻撃しないってのに。」

 

「気にするな。すぐにみんなもわかってくれる。」

 

「妹紅がそう言うなら、そうなんだろうな。じゃ、俺は寺子屋に行ってくるから。」

 

「おう、またな。」

 

俺は手を振って応え、寺子屋の中に入った。

 

 

 

「おーい、来たぞー。」

 

「おお、範人か。久しぶりだな。何の用だ?」

 

慧音が出迎えてくれた。

 

「チルノが社会科見学について知らせてくれてな。それについて話をしに来たんだ。」

 

「なるほどな。その女の子は誰だ。」

 

「フランだよー。よろしく。」

 

「そうか。私はこの寺子屋で教師をしている上白沢 慧音だ。よろしくな。」

 

「話なんだが、慧音だけじゃなくて子供達にも聞いてもらいたいんだ。注意事項だからな。」

 

「わかった。じゃあ、教室に行こうか。」

 

教室に入ると子供達は俺に怯えていた。ひどいもんだ。新聞の記事だけでこんなに反応が変わってしまう。前の授業の時は俺のことを頼ってくれていたのに。

 

「これから、範人が社会科見学について説明してくれる。よく聞くように。」

 

「今から話すことは注意事項だ。社会科見学で行く研究所はかなり気持ち悪い実験が行われていた。だから、人が妖怪に食べられるところを想像しても平気なら来てくれ。途中の場所までなら特に問題は無いんだが、実験の資料を見る場合は今言ったくらいの覚悟が必要だ。話は以上だ。」

 

俺が注意事項の説明を終えると一人の子供が俺に向かって悪口を言った。

 

「気持ち悪いんだよ、化け物が。帰れ。」

 

その言葉は周りの子供達に広がって、最終的には帰れコールになった。俺はとても怒れたが我慢する。だが、フランは怒りに燃えていて、今にも子供達を破壊しそうだ。

 

「フラン、抑えろ。こうなることくらいわかっていた。」

 

「でも……。」

 

「いいから気持ちを抑えろ。俺が黙らせるから。」

 

俺はフランの頭を撫でて落ち着かせる。本当は俺だってこいつらをぶっ殺したいくらいに怒れているんだ。俺は殺気を放った。場が沈黙する。

 

「いいか、お前ら。俺は化け物だが、敵しか攻撃しない。ましてや人間なんて、滅多なことがない限り攻撃するはずがない。人やものを見かけで判断するな。家に帰ったら、今のことを親に伝えろ。自分たちのしたこともだ。わかったな。人間が最上位なんて考えは捨てろ。」

 

俺が口を閉じたところで慧音が口を開く。

 

「そうだぞ。私だって完全に人間ってわけじゃないんだ。今のはお前たちが悪い。範人に謝れ。」

 

『ごめんなさい。』

 

子供達はほぼ全員が半泣きだ。ちょっとビビらせ過ぎたかな?でも、姿だけでものを判断してはいけない。俺は正しいことを教えたはずだ。

 

「じゃあ、社会科見学のときは待っているからな。」

 

俺は教室を出て寺子屋から立ち去った。気分はあまり良くない。

 

 

 

俺が人里を歩いていると人々の話し声が聞こえてくる。

 

『漆黒の化け物ってあれじゃない?』

 

『嫌、怖いわ。』

 

『あいつは化け物だぜ。』

 

『あんな奴は死ねばいい。』

 

「……」

 

人々が話している化け物とは俺のことだろう。怒りが湧き上がってくる。きっとすぐに怒りの限界が来るだろう。元の世界でもそうだった。周りの奴らのほとんどは俺のことを信じていなかった。上辺だけは俺のことを信頼しているようなことを言って、本当は俺のことを化け物扱いしていた。

 

「……様。……お兄様。」

 

「なんだ?」

 

「どうしたの?怖い顔していたよ。」

 

どうやら感情が表情にあらわれていたらしい。悪い思い出は本当に嫌なことばかりだからな。

 

「ああ、周りの奴らが俺を化け物だと言っていたからな。昔のことを思い出しちまった。」

 

「そうだったんだ。じゃあ、どうするの?」

 

「どうもしない。我慢するだけだ。」

 

それでいい。何もしなければ、誰も傷つかずに済む。あのときも俺が動かなければよかったのに……。

 

「何か食べたい物はあるか?」

 

「別に。」

 

「なら、昼食は俺が決めていいか?」

 

「いいよ。」

 

「そうか。なら、そこのそば屋でいいかな。」

 

蕎麦屋に入ると幽々子と妖夢がいた。この店は大変だな。

 

「いらっしゃい。」

 

「天ぷらそば二人前ね。」

 

「はいよー。」

 

注文して金を渡し、妖夢の隣の席に座る。幽々子は猛スピードで食べている。大盛りのはずなのに椀子そばのようなスピードで器が増えていく。

 

「範人も人里にやって来たのですか?」

 

「ああ、寺子屋に行ってきたんだ。妖夢は?」

 

「私は見ての通り、幽々子様についてきたんです。」

 

「お姉様の膝の上に座っていい?」

 

「私は食べ終わっているのでいいですよ。」

 

フランは妖夢の膝の上に移動する。そこへ注文したものが運ばれてきた。

 

 

 

食べ終わって腹も膨れた。幽々子はまだ食べている。

 

「大丈夫ですか?表情が暗かったですよ。」

 

「里の人間が俺のことを化け物だって言ってきてな。かなり心にダメージが来ている。原因は文の新聞だと思う。」

 

「それはつらいですね。今度文さんに会ったら、斬っておきますね。」

 

妖夢、お前のその言葉は冗談に聞こえないぞ。あとその笑顔も怖い。物騒なことを言いながら笑顔になるな。

 

「じゃあ、俺は帰る。フランも食べ終わっただろ?」

 

「うん。」

 

「妖夢もいっしょに行って泊まってきてもいいわよ。」

 

「しかし、幽々子様。今日の夕食が」

 

「いいのよ。ここの三十分食べ放題で食い溜めしたから。」

 

「あ、そうですか。」

 

だから、あんなに夢中になって食べていたのか。今日の幽々子は白玉楼の財布にちょっと優しい。

 

「範人、私もいっしょに行きます。」

 

「そうか。」

 

妖夢もいっしょに来るらしい。そういえば、妖夢との会話で心がだいぶ軽くなったな。

 

「妖夢、ありがとう。妖夢との会話でだいぶ立ち直れた。」

 

「いえ、私はただ普通に会話しただけですよ。」

 

「これが愛の力ってやつだね。」

 

「「ちょ、フラン(ちゃん)⁉︎」」

 

フランが子供らしくないことを言った。フランってそんなに大人だったっけ?あ、俺よりも年上か。

 

「いいでしょー。二人は相思相愛なんだから。」

 

フランに言われて顔が赤くなる。さすがに自分と妖夢以外に言われると恥ずかしい。

 

「早く家に行くぞ。社会科見学の準備があるからな。」

 

俺たちは研究所に向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

思いがけないところで範人と妖夢がいっしょにいた。

 

「お、あれは……。いい写真が撮れたわ。ついでに取材してみよう。もしかしたら、きっかけを聞き出せるかも。」

 

フランもいっしょにいた。こうやって見ると親子に見える。はっ、もしかしたらフランって二人の子供⁉︎私は取材のために範人たちを追った。




この話を書いていて範人がかわいそうに思えました。新聞に正体を書かれて化け物扱いを受けてしまうとは……。マスメディアは怖いですね。
後の話で範人にはしっかりと人々からの信頼を取り戻してもらいます。
ではまた、次回お会いしましょう。

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