東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
スタートの視点はレミリアの話で出てきたあの人です。
では、本編をどうぞ。
レミリア「あれは確か、475年前だったか……。」
「逃げたぞ。追え!」
『おおお〜!』
俺は魔物の討伐の命を受け、山に遠征している。そして、今は魔物を見つけて追っているところだ。魔物の討伐依頼は珍しいことではない。人が魔物に襲われて、命を落とすこともよくある。
「取り囲んだぞ!」
討伐と言っても俺は命を奪うことを極力避けたい。取り囲んだときに降参して、人に危害を加えないことを誓ってくれればそれでいい。
「人間ごときが我に敵うと思うなよ。」
魔物は衝撃波を起こして、兵士を数名吹き飛ばした。やれやれ、今回も降参してくれる気はなさそうだ。
「兵士たちよ、下がっていなさい。私が戦おう。」
俺は騎士長として、魔物の前に出る。
「俺も殺しはしたくないんだがなー。」
「貴様が相手か。ひとまず、名前を聞いておこう。これから、殺す相手の名前なんて覚える必要もないがな。」
「俺はジェイド・ゴートレックだ。あんたの名前も聞かせていただきたいな。」
「ふん。貴様なんぞに教える必要はないわ。」
「そうか?まあ、そこはあんたの自由だ。」
「死ねー。人間がぁー!」
魔物は叫びながら飛び掛かってきた。俺はそれを軽く躱す。そんな真っ直ぐな攻撃に当たるはずがない。
「遅い。」
俺は魔物の首に剣を突きつける。
「まずは一つだ。」
だが、魔物は剣を払い殴りかかってきた。俺はそれを躱しながら言う。
「これが三つ。つまりあと二回首元に剣を突きつけても降参しなかったら、あんたを殺そう。」
「調子に乗るなよ、人間。」
魔物はさらに殴り続けてくるが全て躱す。全てが遅い。こんなんでよく威張っていられるものだ。今度は蹴りを入れてくるが、蹴りで返す。こちらの方が力が強いため、魔物はバランスを崩した。そこへ剣を突きつける。
「これで二つ目だ。降参してくれるか?」
「うるさい。降参するわけがないだろう。」
「そうか。」
魔物は妖力の塊を飛ばしてきた。これに当たるのはさすがにまずいため、剣で真っ二つに切り裂く。相手もこちらの行動に驚いたようで一瞬だけ表情を変えたが、さらに撃ち続けてきた。だが、そんなもの幾ら撃っても同じことだ。俺は全てを切り裂いていく。魔物は怒り狂い突っ込んできた。そろそろ、三回目の質問といこう。
「死ねぇぇー!」
拳が当たる寸前で魔物の動きが止まった。
「何故だ。身体が動かん。」
「ははは、どうした?」
俺が影を操り魔物の身体を束縛したのだ。魔物はそんなことには気づかず、身体を動かそうともがく。俺は動けなくなった魔物に質問する。
「さて、降参するか?」
「うるさい、黙れ。お前なんかに誰が降参するか!」
「そうか。なら、死ねよ。」
俺は魔物の首を斬り飛ばした。切り口から血が噴き出す。降参してくれれば殺さずに済んだだろう。俺は悲しい、本当は殺したくなかった。人間と魔物が共存していける世界はないのだろうか?そんなことを考えていると兵士たちが何かを見つけたらしい。
「騎士長、他にも魔物を見つけました。」
「そうですか、案内してください。」
「はい。」
「あ、魔物の死体は持ってきた棺桶に入れておいてください。」
「かしこまりました。」
俺が兵士についていくと洞窟があった。洞窟の中では兵士たちが何かを取り囲んでいた。そこに近づくと魔物の親子がいた。魔物たちは兵士たちに怯えている。
「私たちだけで話がしたい。兵士たちは洞窟から出てください。」
『はっ。かしこまりました。』
兵士たちが洞窟から出ていったことを確認すると俺は魔物に話しかける。
「ごめんな、驚かせちまって。あんたらを殺す気はないから安心してくれ。」
「助かった。騎士さん、ありがとうございます。」
「いいんだよ。俺はそもそも殺しが嫌いなんだ。あんたらは別に人を襲っていないだろ。殺す理由がないじゃないか。」
「はい、その通りです。なんで、わかったんですか?」
「俺は普通の人間よりも五感が優れているからな。そのくらいのことはすぐにわかる。じゃ、俺は帰るから。」
「待ってください。名前を教えてください。」
「ジェイド・ゴートレックだ。困ったことがあったら、連絡してくれ。」
「はい。ありがとうございました。」
俺が洞窟を出ると兵士たちが迎えてくれた。
「騎士長、先程の魔物は?」
「放っておいてあげなさい。あの魔物たちは人間を襲っていません。城下街に帰りましょう。」
『はっ。』
俺たちは目的を達成し、街に向かった。
『兵士たちが遠征から帰ってきたぞー。』
街では多くの人々が出迎えてくれた。俺は出迎えてくれた人々にお礼の言葉を述べる。
「出迎えありがとうございます。」
兵士たちには街に入った瞬間から自由にしていい、と言ってあるため家族のもとに向かう者、行きつけの店に向かう者、みんなが思い思いの場所へ向かう。俺は棺桶を持って城へ向かった。
城主に依頼達成の報告をする。
「さすがだな、ジェイドよ。さすがは我が城の兵士たちの頂点だ。」
「いえ、ただ命令に従って討伐してきただけです。」
「それがすごいのだ。ところで、報酬は何がいいかの?」
「しばらく、考えさせていただいてもよろしいでしょうか?今は欲しいものが特にありませんので。」
「構わないぞ。お主は本当に欲が無いのう。そういえば、バド兵長が吸血鬼を二体捕まえてきたぞ。地下牢に閉じ込めてあるから、見てきたらどうだ?」
「そうですか。では、失礼します。」
「ふぉっふぉっふぉ。いつでも報酬のことを伝えに来い。」
俺は城主の部屋を後にすると地下牢に向かった。バドは容赦が無いから悪くない魔物も捕まえてきてしまう。そのことが心配になったのだ。
私たちがあんな人間ごときに捕まるなんて。私たちが何か悪いことをしたのだろうか?おまけに両親を殺しやがって。
「お姉様ー。」
「フラン、心配しないで。私がいっしょにいるから。」
私はいっしょに捕まった妹を抱きしめる。本当は私も恐いのだ。でも、妹のためにも恐がっていてはいけない。今は妹の不安を少しでも取り除いてあげなければならない。
「捕まった吸血鬼ってのは、君たちかい?」
話しかけてきたのは、二十代前半に見える金髪の男だった。最強の騎士として名高いジェイドだ。私は彼に怒りをぶつけ、睨みつけながら言葉を返した。
「どうせ、あんたも捕まった私たちを侮辱しに来たんでしょ?」
「おいおい、そんな怖い顔をするな。別にバカにしに来たわけじゃないから。」
ジェイドは笑いながら返してきた。
地下牢に捕まっていた吸血鬼はまだ可愛らしい少女だった。全くバドの野郎、容赦なさ過ぎだろ。吸血鬼って言ってもこの二人は人を殺してはいないぞ。
「まあ、お前たちが俺をどう思ってくれても構わないがな。俺はジェイド・ゴートレックだ、よろしく。二人の名前を教えてくれないか?」
「私はレミリア・スカーレットよ。私たちをバカにすることも恐れることもないなんて、貴方面白いわね。」
「私はフランドール・スカーレットだよ。よろしく。」
「お前たち、人殺しなんてしていないだろ。なんで、捕まったんだ?」
俺は質問をする。答えによってはバドとO☆HA☆NA☆SI☆する必要がある。
「私たちは普通に生活していたわ。血液は仲の良い人間に分けてもらいながらね。でも、突然兵士たちが現れて私たちの両親を殺して、私たちを捕まえたわ。そして、今ここにいるのよ。私もなんでかはわからないわ。」
「なるほどな。お前たちは結局悪いことはしていないな。」
うん。バドとのO☆HA☆NA☆SI☆は決定だ。あの野郎、許さん。そういえば、今回の報酬を受け取っていなかったな。二人の解放にしようか。
「よし。解放を少し相談してこよう。たぶん話は通ると思うから準備しておけ。」
「えっ、いいのかしら?私たちは人間を憎んでいるのよ。」
「大丈夫だ。俺がお前たちの面倒を見るから。憎んでいても攻撃はさせねーよ。じゃ、行ってくるわ。」
俺は城主のもとに向かった。
ジェイドが行ってしまった。彼は私たちを解放すると言っていた。そんなことしていいのだろうか?私が考えているとフランが話しかけてきた。
「お姉様、あの人って悪い人?」
「別に悪い人ではないんじゃない。」
「そうだよねー。なんかあの人を見ていると安心したよ。」
「そうね。」
そういえば、何故安心したのだろうか?人間を憎んでいる今、人間を前にすれば私は敵意を剥き出しにするはずだ。ジェイドは人間のはずである。しかし、ジェイドとは普通に会話ができた。そうすると、ジェイドは人間なのだろうか?そこへジェイドが戻ってきた。
「お待たせ。話は通ったから、二人を解放する。」
「ふふふ、ありがとう。家が焼き払われてしまったのだけれど、どうすればいいのかしら?」
「ああ、俺の家に来ればいい。面倒を見るって言っただろ。」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただくわ。」
「時間も遅いし、俺は家に帰るよ。二人もついてきな。」
私たちはジェイドについていくことにした。
家に着いたため、早速夕食を作る。今までは夕食も一人だったため寂しかったが、今日からは三人での食事だ。夕食を作り終え、テーブルに並べて、三人で夕食を食べ始める。
「ねえ、ジェイド。貴方って人間なの?魔物みたいな気配がしたんだけど。」
「ああ、そのことか。俺はこれまでにたくさんの魔物と戦ってきたからな。そのときに被った魔物の血が体内に吸収されたんだ。一応、人間だぞ。」
「そうなの。納得したわ。」
「吸血鬼は夜行性なんだろ?これから出かけるならついて行くぞ。」
「今日は出かけないわ。それに完全に夜行性ってわけではないわ。」
「そうか。なら、昼間に出かけることも考えてあれを纏わせておかないとな。食事が終わったら声をかけてくれ。」
俺は食器を片付ける。
しばらくして、レミリアたちも食事を終えた。しかし、二人は少し不満そうだ。疑問に思い質問する。
「どうしたんだ?」
「なんで、血が無いのかしら。」
「ああ、悪かったな。血か、どうしようか?」
そういえば、二人は吸血鬼だった。吸血鬼なんだから、そりゃあ血が欲しいに決まっている。
「仕方がないわね。ジェイド、首をこちらにお願い。」
「あっ、なるほど。そういうことか。」
レミリアが何を考えているかがわかった。俺はレミリアが首に噛みつきやすいようにしゃがむ。首にチクリとした痛みが走った。少し痛いがそのまま我慢する。
「……ふう、ありがとね。もういいわ。」
俺は顔を上げて、立ち上がる。
「フランもー。」
「ああ、そうだったな。」
再びしゃがむ。今度も首に痛みが走る。だが、なんとか我慢する。
「……ジェイド、ありがとう。」
「どういたしまして。」
立ち上がると少しフラフラする。吸血されたのだから当然か。気になることがあったため質問する。
「吸血されると吸血鬼になるって聞いたことがあるけど、それは本当か?」
「普通はそうらしいけど、ジェイドは違うわね。魔物でもあるからでしょうね。貴方が望まなければ吸血鬼にはならないわ。」
「そうか。なら、安心だ。吸血鬼化は戦いの最終兵器だな。」
「そうね。」
「日光に当たっても平気にするからじっとしてくれ。」
俺はレミリアとフランの身体に影を纏わせる。こうすれば、日光に当たっても大丈夫だ。
「ジェイド、貴方って能力持ちなの?」
「そうだ。俺は『影を操る程度の能力』を持っている。」
「なるほど、『影の騎士』という二つ名はそこからだったのね。」
「そうなるな。でも、俺の能力を教えたのはお前たち二人だけだぞ。」
「それならこれは私たちだけの秘密になるわね。」
「そうだな。」
その夜は三人で楽しく話し合った。ずっと一人暮らしをしていたから、たとえ種族が異なっても家族ができてとても嬉しかった。
次の日、城に二人を連れて行くと兵士たちに驚かれた。中には、レミリアたちを攻撃しようとする者もいたがすぐに打ち解けた。城主も人と吸血鬼が仲良くしているところを見て、嬉しそうだった。バドとはO☆HA☆NA☆SI☆をして、レミリアたちに向けて謝罪させた。最初は怒っていたレミリアたちもしばらくすると打ち解けていた。この城は俺の求めていた人と魔物の共存する場所になった。
ジェイドさんが登場しました。レミリアが恩人と言っていた理由は解放してくれたからです。
実はレミリアの過去は一話分で投稿したかったのです。しかし、気がつけば一万二千字を上回っていたため、三話に分けました。
批判、感想、アドバイスお待ちしています。
ではまた、次回お会いしましょう。