東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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第104話

 霊夢たち3人が滝を越えた瞬間、その一撃は飛んできた。

 風のうなり声が優の耳元を掠めていった。

 驚いた一同が振り向けば、背後の岩に1本のクナイが深々と突き刺さっていた。

 

「散れ! 狙われているぞ!」

 

 優の叫び声がこだまし、3人がその場から飛び退いた。

 岩陰に隠れて元いた場所を見れば、そこには大量のクナイが刺さり、地面を抉っていた。

 岩陰に隠れるのがあと少しでも遅ければ、地面の役割を果たしていたのは霊夢たちだった。

 

「危ないところだった……」

 

 全員の無事を確認し、優は安堵の息を漏らす。

 岩陰からそっと顔を出して辺りの様子を伺うが、目の届く範囲内には自分たち以外に何者の姿も見当たらない。

 相手からは自分たちのだいたいの居場所がバレているのに、自分たちからは相手の居場所が全くわからない。まずい状況だった。

 しかし、その程度で諦める3人ではない。

 

「魔理沙、霊夢。俺は岩陰に隠れながら進んでみる。安全が確認できたら俺が合図するから、その時に出てきてくれ」

「えっ⁉︎ ダメだろ。相手は天狗だ。視力も聴力も私ら人間の比じゃない。一瞬でバレるぞ?」

「いや、問題ない」

 

 魔理沙の注告に対し、優は首を横に振った。

 

「おそらくだけど、今攻撃してきた相手は飛び道具を使っても一直線上以外は攻撃できない。飛び道具はクナイか弾幕程度だ」

「何故そう言い切れる?」

「隠れているところを攻撃してこないからだ。相手のだいたいの位置がわかっている時、俺だったら爆弾使ったり、爆発する弾幕を撃つ。遮蔽物ごと吹っ飛ばすからな。でも、それをしてこないってことは遮蔽物があったら攻撃しても当たらないから意味がないってことだ。それに、俺にはこれがある」

 

 優は手を広げ、半透明の霊力の塊を発生させると、両手で押し広げ、盾のように自身の前に浮遊させた。

 霊夢と魔理沙は目を見張る。2人の視界から、突如として優の姿が消えた。

 

「消えちまった……」

「いいえ、消えてないわ」

「ああ、俺はずっとここにいるぞ」

 

 声が聞こえ、何もないところから優の顔だけが飛び出した。

 

「うわぁー! 生首だー!」

「生きている首という意味では正しいけど、首から下もしっかりつながってるぞ」

「喋ったー⁉︎」

「そりゃ生首だからな」

 

 そう言いながら、優は魔理沙に近づく。

 

「こっち来んな!」

「ひどい……(´・ω・`)」

 

 一言のもとに撃沈した。

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい。優もその程度で膝をつかない」

「そうは言っても、彼女の一言ってめっちゃ重いんだからな……」

「何気ないリア充発言はやめてもらえるかしら?」

「すみませんでした!」

 

 霊夢の額に青筋が浮かんだのを見て、優は咄嗟に謝る。女の嫉妬って怖い。

 

「まぁ、いいわ。透明化ってわけじゃないだろうけど、それなら敵の目を欺くのに充分だと思うわ。先の様子を見てきて」

「仰せのままに……」

 

 霊夢をあまり刺激しないうちに、優は勢いよく岩陰から飛び出した。そのまま、一気に次の岩陰へ駆け込む。

 クナイは飛んで来なかった。

 優が手で輪っかを作ると、霊夢は手を振って「先に行け」と合図を出した。優は頷くと、岩陰に身を隠しながらさらに先へと進んで行く。

 後ろからそれを観察する霊夢と魔理沙の目には、それははっきりと見えていた。

 

「なんで飛んでこないんだ……さっきよりもだいぶ前に進んでるっていうのに……」

「簡単な話よ。敵からは優が見えてないだけ」

「どういうことだぜ?」

「さっき私たちに見せてくれたのと同じことよ。霊力で作った壁で光を屈折させて、自分の姿を消して後ろの景色を見せてるの。首だけに見えたのは壁の後ろから顔を出したから。優のいるところにはほんのちょっとだけ歪みが生じるから近くから見ればわかるけど、遠くから見ればまずわからないでしょうね」

 

 光は透明度の差の境界面を通ると、屈折を起こし、時には全反射する。優は自身の弾幕に透過性があることを利用して弾幕の壁を作り、光を屈折させて相手が見ている風景から姿を消しているのだ。

 ところが、残念なことに、優には力が足りない。姿を消すための精巧な弾幕は1つしか作れなかった。故に、正面からの視線は防げても背後から来る霊夢と魔理沙の視線を防げない。しかし、その背中は彼の存在を背後の2人に教え、安心感を与えていた。そして、姿が見えるということは、作戦の立てやすさにもつながっている。

 

「相手はそのうちしっかりと目視するために近づいてくるはずよ。気配はするのに、姿はまったくと言っていいほど見えないんだもの、直接近づいて調べるしかないわ」

「そこを私らが撃つわけか」

「その通り。こっちからは優の姿が見えてるから、誤射の心配もないわ」

「そうとわかれば、私らはただ待つだけだな」

 

 2人からの期待の眼差しを背に受けて、優は岩の間を駆け回る。走って隠れて、走って隠れて。ただ、繰り返す。そうして、100メートルほど進んだ頃だった。

 

「来たわよ……!」

 

 3人が目指している方向に、1人の白狼天狗が現れた。

 1本の巨大な刀と真っ赤なカエデの葉が描かれた白い盾を装備したその白狼天狗は、辺りをキョロキョロと見回している。明らかに、優を探していた。

 

「よし、先手必勝だ……」

「待ちなさい」

 

 攻撃を仕掛けようとミニ八卦炉を構えた魔理沙を霊夢が冷静に制する。

 

「向こうはまだ360度全方位を警戒しているわ。今撃てば、避けられる可能性は充分にある。警戒が一方のみに向いた瞬間を狙うわよ」

「……わかった。でも、どうすれば警戒を一方だけに向けられる?」

「それは、優が見つかった瞬間を狙うのが一番だと思うわ」

「優を犠牲にしろっていうのか⁉︎」

「大丈夫よ。あいつは能力2つ持ってんだから。天狗に一撃でやられるほど弱くないでしょ。惚れたんだったら、どんな時でも相手を信じてあげなさい。あいつの彼女なんでしょう?」

「……仕方ないか。わかった、信じようじゃねーか。お前が大丈夫って言うんなら問題ない」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を下ろし、再び様子を伺い始めた。

 

 

「どこに行った?」

 

 犬走椛は呟いた。が、応えは返ってこない。

 先程、人間の女2人と男1人を見かけ、咄嗟にクナイを投げた。驚いて帰ってくれれば良かった。

 今、この山の中に人間が入って来てはいけない。そう、天魔様が言っていた。

 山頂の神社を退去させるための戦いがこれから始まる。邪魔をさせないためにも、これ以上奥へ踏み込ませるわけにはいかなかった。

 

「どこだ……」

 

 ……殺してでも止める。

 椛はゆっくりと目を閉じて、意識を集中させた。目で見えないのなら、それ以外で探し出す。

 肌で空気の流れを感じ、耳で音を聞き、鼻で匂いを嗅ぎ分ける。

 ……2つの息遣い、2人分の匂い。先程見かけた女たちのものだろう。それほど近くはない。しかし、このままでは男が1人足りない。もっと集中を……。

 その時、椛の耳に微かだが足音が聞こえた。

 ハッとして足音が聞こえた方向を見れば、そこだけ景色が少し歪んで見えた。

 

「そこかぁ!」

「やべっ⁉︎」

 

 歪んだ景色から声が聞こえた。

 椛は刀を振り上げると、歪んだ景色に向かって振り下ろした。目の前の景色が砕け散り、そこに隠れていた者が姿を現す。

 

「あー、まずい……こりゃまずい……」

 

 言いながら心の中で何度も悪態を吐くが、そんなことをしてもこの状況は一切変わらない。

 自分は見つかってしまった。そして、目の前の白狼天狗は彼を斬り捨てようと、再び刀を振り上げていた。ただ、(アレ)を支えている腕がこちら側に倒れれば、それだけで自分は両断されてしまう。避けるか弾くかしなければ、人生終了である。

 

「む、小賢しい真似を……!」

 

 しかし、椛は後ろへ飛び退いた。

 直後に、優の目の前——椛の身体があった場所を光線が貫いた。

 

「ちょっ、避けられたじゃねーか! 優の方に意識が向いている間に撃てば良かったんじゃねーのかよ!」

「うっさいわねぇ。あんたのコントロールが悪かっただけでしょう……」

「なっ……! 私は霊夢の指示に従って撃ったんだぞ!」

「いくら私の指示に合わせて撃っても撃つ人が下手じゃ当たんないわよ」

「何をー……!」

 

 ……何やってんだ、あいつら。

 優のはるか後方の岩の陰で、霊夢と魔理沙の喧嘩が始まっていた。

 不意を狙った魔理沙の光線は外れてしまった。しかし、決定的な隙が生まれた。

 優は密度の高い霊力の弾を作り出して地面に叩きつけた。地面にぶつかった衝撃で割れた弾からは、弾の中で反射を繰り返し、増幅した光が、圧倒的な光量が解き放たれる。

 突然のことに、椛はその光を直視してしまった。雷にも負けないほどの光が、彼女の目に飛び込んできた。

 

「ギャアァァァ!」

 

 鋭い刃で目を貫かれたかのような感覚を覚え、椛は手で目を押さえて、地面をのたうちまわる。その間に、優はまた別の岩陰に逃げ込んだ。

 

「小癪な真似を……!」

 

 数秒後、椛は立ち上がった。先程の光を受けたせいで、目が焼かれてよく見えない。非常に煩わしい。

 椛は目の不調を振り払うかのように、刀を横薙ぎに一閃した。それを岩陰から見ていた魔理沙と霊夢は、驚きで目を見開くことになる。

 太刀筋にあった岩が、まるで柔らかいステーキ肉を切った時のように音もなく切れたのだ。静けさの中、岩の崩れる音が響き渡った。静けさが、その刀の切れ味の良さを表していた。その刀は、あまりにもよく切れすぎた。

 

「なんだ、あの切れ味は……なっ⁉︎ これは……!」

 

 足元に落ちていたクナイを見て、魔理沙はさらに驚愕する。

 

「まずいぞ霊夢!」

「どうしたのよ……?」

「これを見ろ!」

 

 魔理沙はクナイを拾い上げ、霊夢の目の前に差し出す。

 

「この材質、見たことあるだろ?」

「材質……? え、これって……⁉︎」

「わかっただろ。あの切れ味の正体が」

「ええ、これは間違いなくモノリスね……」

 

 生体金属モノリス。

 元の金属の強度や硬度をそのままに、生物としての再生能力や成長能力を付与された金属である。傷つけば傷つくほど丈夫になり、傷も勝手に塞がる。故に、道具としての寿命が非常に長い。

 しかし、便利な反面、加工が非常に難しく、それができるものは世界に1人しかいなかった。そして、それが誰なのかを、霊夢たち2人は知っていた。

 

「これ、範人の剣と同じやつだよな……。てことは、作ったのは範人か?」

「そうとしか考えられないわ。それなら、あの刀の切れ味だって納得がいくもの」

「これは……いよいよ本当にまずいぞ! 優がマジで危ねえじゃねーか!」

 

 すぐに優の方へ目を向ける。

 椛は既に、優が隠れている岩の前に立っていた。

 

「……」

 

 椛は無言で刀を振り上げる。狙うは一刀両断。岩の向こう側に人間がいるのは、匂いでわかった。

 優は椛の刀の切れ味を知らなかった。逃げるのに夢中で、見ていなかった。だから、安心しきっていた。余裕を感じていた。

 

「死ねぇい!」

 

 その言葉から殺気を感じた。

 優が頭上を見上げると、刀が岩を突き抜けているのが見えた。そして理解した。相手は岩ごと自分を叩き斬るつもりなのだと。

 急いで岩から離れようと脳が身体に命令を出す。しかし、遅かった。当たらないだけの距離をとるよりも、刃が自分に到達するまでの時間の方が近いことがなんとなくわかった。

 ……やばい!

 優はその場から動くことなく、腕を交差させて頭上に掲げた。避けることは諦め、防御を選んだ。

 しかし、岩さえも軽々と切ってしまう刀の前に、人間の腕が2本入ったところで、斬撃を防ぐことは可能なのだろうか。否、鎧を着込んでいるのならともかく、生身の肉体ならば絶対に不可能である。

 椛は真っ二つに割れていく岩の向こう側に立つ青年が、腕を交差させて防御の構えをとっているのを見た。

 確信した。次の瞬間に、自分の腕に伝わってくるのは肉を切り裂く感触なのだ。2本の腕が宙を舞うのを視界の中に思い浮かべた。

 1秒と経たずして、刀は優の腕に到達した。

 

 ガキィン!

 

 肉を切り裂く感触も、宙を舞う腕も、鮮血の赤も、何もなかった。

 鳴り響いたのは、金属同士をぶつけ合ったような、甲高い音だった。

 刀は弾かれた。わずか2本の腕に、岩をも切り裂く刀が負けた。

 その場にいた全員が目を丸くした。

 

「……いや、そんなはずはない」

 

 椛の刀は間違いなく優の腕を捉えていた。それにもかかわらず、目の前の青年には傷1つ付いていない。その事実が、椛を困惑させていた。

 ……これは何かの間違いだ。もう一度切りつければきっと。

 迷いを振り払うように、力任せに刀を振るう。

 

 ガァン!

 

 しかし、優の腕に刀がぶつかって響いた音は、またしても金属同士をぶつけ合ったような音だった。

 

「おかしい! ……おかしいだろう!」

 

 こんな結果はありえないと、何度も刀を振るい、優の腕を切りつける。だが、やはり傷1つ付かず、同じような音が鳴り響くだけ。

 岩が切れて人が切れないなんて、おかしい。

 

「あの人間、なまくらを渡したのかー!」

「もうやめろ」

 

 振るわれた刀に対し、真正面から優の拳が打ち付けられた。

 

 ゴン!

 

 重い音とともにひしゃげた刀が宙を舞った。刀が拳に負けた。

 

「鉄壁剛神を宿す、か。試したことのない最大出力だったけど、これほどなんてね……。かなりリスクの大きい賭けだったけど、まぁ、耐えれて良かったよ……」

 

 優は安堵の表情を浮かべ、ホッと一息つく。

 優の能力、『鉄壁剛神を宿す程度の能力』は彼の全身を硬く丈夫に変質させ、文字通りの鉄壁、またはそれ以上の防御力を生み出していた。

 防御は最大の攻撃である。硬く丈夫な身体で攻撃を受ければ、その衝撃を全て跳ね返して相手にダメージを負わせ、自身は無傷。攻撃に対して、瞬間的な耐久力さえ上回っていれば、正しく無敵。天狗の筋力が合わされば、その反発力でモノリスさえも破壊した。

 能力を発動させて圧倒的な耐久力と硬度を得た優に、それを上回る攻撃手段を持たぬ者が攻撃したところで、傷などつけられるはずがなかったのだ。

 しかし、椛は諦めなかった。

 

「まだまだー!」

「だからやめろって、本当に無駄なんだよ!」

 

 優は、盾を構えて飛びかかってきた椛に忠告するが、彼女は止まらない。そのまま、盾で彼の顔面を殴りつけた。しかし、倒れない。衝撃で仰け反るどころか、痛みに顔を歪めることもない。

 もうやけくそだった。何度も何度も、全身くまなく盾で殴った。しかし、優は平気な顔で立ち続けた。ただ、無抵抗で殴られ続けた。

 

「やめなさい、椛!」

 

 しばらくして、そこに声がかかる。

 手を止めて声がした方を向けば、射命丸文がいた。その背後には、範人とジェットの姿もあった。

 

「何故です? こいつは我ら天狗の領域に無断で立ち入ったのですよ。排除して何が悪いんですか?」

「無抵抗の相手を殴り続けるなんて、天狗の誇りに傷がつくわ。それに、さっきから見てれば全く効いてないじゃない」

「くっ……」

「いいからやめなさい。そうですよね、天魔様?」

『おお、その通りだ。もう()せ、椛よ』

 

 椛の頭の中に天魔の声が響き渡る。

 トップからの命令に逆らうわけにはいかず、椛は仕方なく盾を下ろした。

 

「私が用があるのはあなたですよ。霊夢さん、出てきてください。いるんでしょう?」

 

 文の言葉を受け、霊夢は溜息を吐きつつ、岩陰から姿を現す。その後ろから、魔理沙も出てくる。

 

「何よ? 帰れと言われても帰らないわよ」

「そこは問題ありません。頂上まで進んでいただいて結構です」

「あら、意外にもすんなり行かせてくれるのね」

「ええ。ただし、条件がありますが……。この先は天魔様から直々に説明してもらいましょう。私の手を握ってください」

 

 言われるままに、霊夢は文の手をとる。すると、頭の中に声が流れ込んできた。

 

『おお、繋がったようだな。聞こえておるか、博麗の巫女よ?』

 

 霊夢は思った。随分と子供っぽい声だな、と。

 

『子供っぽいとは失礼な。これでも僕は数百年生きてるんだぞ!』

 

 心の声は筒抜けらしい。

 

『コホン! ……まぁ、よい。実は頼みたいことがあってな』

 

 そして、天魔はこれまでのことを説明した。山頂に突如として神社が現れたこと。そこに住む者たちが立ち退いてくれないこと。その者たちを降参させたいこと。天狗の部隊がたった1人の力で壊滅的な状況に陥ったこと。その他諸々全て。霊夢の力を信じているからこその頼みだった。

 

『範人殿とジェット殿は既に協力することを約束してくれた。2人とも、実力は折り紙つきだ。そこに博麗の巫女も加わるとなれば、これほど頼もしいことはない。頼まれてはくれないか?』

「ちょうど私もそこに用があるから、断りはしないわ。……でも、タダじゃあ引き受けないわよ?」

『もちろん、協力してくれれば何かしらの礼は約束しよう。どうだ?』

「それなら、良いわよ。引き受けましょう」

『かたじけない。山頂まで、文と椛が付き添う。そこから後のことは任せたぞ』

 

 話はついた。

 霊夢は文の手を離し、深呼吸を一つ。

 

「ふう……。文、案内は任せるけど、魔理沙たちも連れて行くわよ?」

「それはもうご自由にどうぞ。戦力が増えるに越したことはありませんからね。お2人とも、確かな実力をお持ちのようですし」

「許可は取れたってことで。それじゃあ、連れて行ってちょうだい? あの緑色の女には仕返しをしなきゃ気が治らないわ。私に喧嘩売ったこと、後悔させてやる」

「さては、そちらでも何かありましたね? なかなか気になるところですが、今は案内が先ですね。そっちは後でたっぷりと取材させていただきましょうか。……それでは、私の後について来てください。風の道を作るので、移動はだいぶ楽になるはずです」

 

 文は黒い翼を広げて、空に飛び立った。その後に続き、霊夢たちも飛行を開始する。

 妖怪の山に自然の風は吹いていなかった。1人の烏天狗の起こした風だけが、木々も草葉も揺らすことなく上空を流れていた。山全体が、不気味なほどに静かだった。嵐の前の静けさというものが、そこにはあった。


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