東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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 お久しぶりです。約2ヶ月ぶりの投稿となりました。遅れてしまい申し訳ありません。新シリーズの書き貯めとリアルに集中していました。


第101話

 妖怪の山、(ふもと)

 霊夢、魔理沙、優の3人は山頂の神社を目指して飛んでいた。

 と、

 

「そこの3人、止まりなさい!」

「ん?」

 

 どこからともなく聞こえた声に、魔理沙が立ち止まる。それに続いて優も止まるが、逆上している霊夢は止まらず、先へ行ってしまった。

 魔理沙と優が頭に?マークを浮かべていると、紅葉鮮やかな森の中から2人の少女が飛び出してきた。

 優は、またかよと頭を抱えた。

 幻想郷に飛ばされてもうそろそろ3年になる。そして、暮らしの中で優は思った。顔面偏差値が高すぎる、と。

 おばちゃんやおばあちゃん、おっさんにもなると、さすがに何も言えないが、少女や青年はほとんどが当てはまる。美少女、美少年、美女、美青年ばかりなのだ。魔理沙も霊夢もアリスも美鈴も慧音も霖之助も、果ては外の世界から来た範人まで。萌え萌えウィルスやイケメンウィルスみたいな病原体でも流行っているのだろうか、と不思議になる。

 森の中から飛び出してきた2人もまた、美少女だった。

 二人共、秋っぽい落ち着いた雰囲気のする色(茶色とか、薄い緑とか)の服を着ており、髪は明るい金髪。背格好からして、双子なのだろう。

 

「あなたたち、ここから先は通行止めよ!」

 

 と、頭に帽子を乗せている方が言った。

 

「ですよねー。お約束」

 

 優は顔を引きつらせながら、やれやれと言った感じで呟く。

 

「なんで私らにはいつも邪魔が入るんだろうな? 霊夢はポンポン進んで行くのに」

「こらこら、人に対して邪魔なんて言うものじゃないぞ」

「だってよぉ……、幽々子の時なんて、範人と一緒にスキマ使って移動してきたんだぜ。どう考えても卑怯だろ」

「霊夢はなんだかんだ言って人脈(妖怪も含む)が広いからな。あの時は、範人に便乗しただけだろ」

「ぐ……運の良いヤツめ……」

 

 魔理沙は心底悔しそうに言った。

 それもそのはず、いつも美味しいところは霊夢に持っていかれるのだ。異変解決の大半を魔理沙がしたとしても、黒幕は霊夢が倒してしまい、天狗の新聞には『博麗の巫女、またしても異変を解決!』という記事が乗るのだ。魔理沙自身、自分が実力不足であることはわかっているのだが、やはり辛いものがある。

 優は苦笑するしかなかった。

 

「あのー、お二人さん。私たちを空気にするのはやめてくれませんかね?」

「……ああ、ごめんごめん」

 

 紅葉を着けている方に言われ、優は少女たちの方に向き直る。

 

「どうよ穣子(みのりこ)。人間が私の言うことを聞いたわよ」

「姉さんが言うこと聞かせたのは1人だけじゃない。私の言うことを聞いたのは2人よ!」

「ま、負けたぁ!」

「まぁ、各1人ずつ無視されてるけど」

「それなら引き分けね」

「残念! 言うこと聞いてくれた割合は私の方が上よ!」

「うわぁぁぁぁあ!」

「どんぐりの背比べはどうでもいいから、用件を早よ言えや」

「「申し訳ありません!」」

 

 優が若干キレ気味になって言うと、少女たちはビビって背筋をピンと伸ばす。

 ランドセルのCMができそうだな、と優は思った。

 

「この先は天狗の土地よ。あなたたち、人間が入ったら、殺されてしまうわよ」

「私たちは弱いけど、それでも神。私たちを生み出した人間が命を捨てるのは見たくないの」

 

 2人の行動は優しさからくるものだった。

 しかし、行かなくてはならない。霊夢に逆らったらどうなるかわかったもんじゃない。

 優は内心冷や汗をかきながら苦笑した。

 

「悪いけど、俺たちは山頂に行かなきゃならないんだよ。友達が先に行っちゃったんだ。そんなに危険な山なら、なおさら1人になんてできない」

「博麗の巫女なら大丈夫よ。彼女の強さは私たちも知っている。天狗なんて目じゃないはずよ。でも、あなたたちは普通の人間。殺されてしまうわよ」

 

 少女の気遣い。

 しかし魔理沙は、

 

「フフッ……」

 

 鼻で笑った。

 

「私は小せえ頃からあいつと一緒に競いあってきた腐れ縁だ。いつもいつも、あいつは私の前を走っていた。私がどれだけ努力してもあいつには届かない。絶対に超えられない壁なんだよ、あいつは。私があいつより弱いことなんて痛いほど知ったんだ。だけど、あいつより弱いからって、実力が通用しないわけじゃない。現に、私はいつも異変の解決に参加してる。あいつが良いところばっかり持っていくせいで新聞には載らないけど、私だって実力はあるんだ。行かせてくれ」

「……ダメよ」

「行かせてくれ」

「ダメ」

「通してくれ」

「諦めなさい」

「いやだ!」

 

 魔理沙は叫んだ。その声に、少女たちはビクッと肩を震わせる。

 

「諦めるなんて絶対に嫌だ。私はあいつを超えたいんだ。どれだけの時間がかかるのかなんてわからないけど、諦めなんてしたら、絶対にあいつを超えることはできなくなる。これは私の決めたこと、私の決断だ。死んだって別に構わない。私の実力そこまでだったってことだ。だけど、諦めて生きていくくらいなら、私は突き進んで死んだ方がよっぽど良い!」

 

 魔理沙の声が響き渡った。

 その強い意志に、流石の神も折れた。

 

「……仕方ないわね。行きなさい」

 

 頭に紅葉を乗せている方はため息に言った。

 魔理沙は「へへっ」と笑って神たちの横を通る。優もそそくさと横を通り抜けようとした。

 が、

 

「あ、男の方はちょっと待ちなさい」

 

 帽子を被っている方に引き止められる。

 優は引きつった笑顔で冷や汗を流しながら振り向いた。

 少女はそんな優の顔をまじまじと見つめ、少し考える仕草をし、

 

「やっぱり、あなた人里で会ったわね」

「…………」

「穣子、それ本当?」

「うん。人里で会ったことあるわ。確か、あそこは——」

 

 ダッシュ。

 優は逃げ出した。

 しかし、その腕は何者かに掴まれる。

 

「そういや、最近はずっと帰りが遅いよなぁ……。お前は『仕事で遅くなった』とか言うけど、実際のところ、お前が人里で何をしているか私は知らないんだよなぁ。ちょっと気になるから、そこの神様に聞いてみようぜ……☆」

 

 黒い笑みを浮かべた魔理沙がいた。

 優は腕を振りほどこうとするが、女性とは思えない強い力で掴まれて声にならない悲鳴をあげる。

 ——俺の店、終わったかも……。

 優は若干白目をむきながら、神の前に引きずられて行くのだった。

 

「すまないが、その話詳しく聞かせてもらえないか?」

 

 魔理沙の言葉に振り向いた神たちはギョッとした。魔理沙から発せられるオーラが半端なく黒かったのだ。

 

「いいけど……大したことじゃないわよ?」

「大したことじゃなくても構わないぜ。教えてくれよ」

「は、はい……」

 

 恐怖。圧倒的恐怖。ゴゴゴゴゴとかいう効果音が聞こえてきそうな迫力。

 恐怖で唇が震えるのを我慢し、神は口を開く。

 

「その人が女の子の(しもべ)みたいになってたの」

「ほう……。優、どういうことだ……?」

 

 魔理沙の目が赤く光った。……ような錯覚を、優は覚えた。

 

「お、落ち着いて。話を最後まで聞きなさい。なんか、黒っぽい服を着てて、『おかえりなさいませ、お嬢様』って言ったり、妙に高い位置から紅茶を注いだりしてたの」

 

 何か違和感が……。

 

「その場所には同じような服装の人が他にもいて、お客さんのチェスの相手をしていたり敬語で談笑していたり……みんな落ち着いた雰囲気があってかっこよかったわ。いかにも、できる男、みたいな感じで。ちなみに、私はそこの人に相手してもらったわよ」

 

 そう言って、少女は優を指差す。

 

「……おい、優」

「は、はい……!」

「お前の仕事が何なのか、正直に答えろ」

「せ、接客業です……」

「もっと詳しく」

「し、し……じ……」

「あん? もっと大きな声で」

「執事……です。執事喫茶"雫"でオーナーをしています……」

「…………ほう」

 

 ニヤリ。

 魔理沙の口角がつり上がった。

 

「あ、あの……魔理沙さん……?」

 

 優は恐る恐る声をかける。

 

「すげえな、お前!」

 

 パアァと字幕が出そうなほど目を輝かせて、魔理沙が言った。

 

「執事喫茶と言えば、今人里で話題の店じゃねえか! え、なんでだ? なんでそんなところで働いてるんだ? しかもオーナーだと? 私、玉の輿じゃねえか! なんでそんな大事なこと教えてくれなかったんだよぉ?」

「お、落ち着け……。順を追って説明する……」

 

 胸ぐらを掴んでガクンガクンと揺さぶられ、優は泡を吹きそうになりながら話し始めた。

 

「最初は人里で普通に甘味処の手伝いをしていたんだ。そしたら、お菓子の作り方とか、美味しいお茶の入れ方を覚えちゃってね。そんな頃に、ちょうどその甘味処が潰れちゃって……。どうしようかなぁ、って悩んでいたら、身寄りのないご老人たちの家事のお手伝いをする仕事があったから、それを始めたんだよ。俺の担当はとあるお婆さんで、お爺さんには先立たれちゃったんだと。子供もいなかった。俺が手伝いに行くようになってから『孫ができたみたい』って笑っていたのを覚えているよ。『お孫さんにあげなきゃねぇ』とか冗談も言われてね。俺もお婆さんのところで手伝っていて楽しかった。でも……」

 

 優は拳をぎゅっと握りしめる。

 

「おばあさん、亡くなっちゃったんだ。老衰で……。そしたら、お婆さんの遺書が見つかって……」

 

 シリアスな空気が広がる。

 

「家の相続人が俺になっていた……最後には『ps.イケメン最高!』って書いてあった……」

 

 ……シリアスが台無しである。

 

「だから、俺はお婆さんの意思に従って、その家を少し改装して執事喫茶を……」

「執事=イケメンってか?」

「ああ……」

「お婆さん、今頃天国で笑ってるんだろうな」

「仏壇見たら、遺影がすごく良い笑顔になってたよ……」

「しっかり見てんだな」

 

 ジト目で天を見つめる魔理沙だった。

 と、

 

「そこの男、ここを通りたければ条件があるわ!」

 

 頭に紅葉をつけている方の少女が言った。

 優はジト目になって少女の方を向く。

 

「何?」

「今度あなたの喫茶店に言った時に割引して」

「はぁ⁉︎」

「いいでしょう? たったそれだけで先へ進めるのよ?」

「ぐぬぬ……」

 

 優は悩む。

 それもそのはず、いくら執事喫茶"雫"が人気の店だとは言え、開店してからあまり期間は経過していない。そのため、経営がしっかりと軌道に乗るまでは店側にとって不利益になることはあまりしたくないのである。

 そんな優の服の裾を魔理沙が引っ張る。

 

「なぁ……?」

「…………はぁー」

 

 魔理沙に不安そうな顔で見つめられ、優は長い溜息を吐いた。

 

「わかりました。では、お2人のお名前をお聞かせください」

 

 「もうどうにでもなれ」と言った感じの優。

 少女たちは不思議そうな顔になり、

 

「なんで教える必要があるの?」

「お客様を判別する材料になりますので、お名前のご提示が必要になるのです」

「なるほどね。私は(あき)静葉(しずは)よ。こっちは妹の穣子」

「静葉様と穣子様ですね。覚えさせていただきます」

 

 優はにっこりと笑った。

 その笑顔に、3人の少女はドキッとしてしまう。

 

「ねぇ、なんでいきなり敬語なんて使っているの?」

 

 と、穣子はドキドキしながら聞いた。

 優は笑顔を崩すことなく、

 

「ご予約をいただいている時点で、お2人はお客様でございます」

「そ、そう……」

「では、通していただけるとありがたいのですが?」

「え、ええ。どうぞ……」

 

 静葉と穣子は顔を赤くしながら、道を開けた。

 優は魔理沙の手を引いて、2人の間を通り抜ける。

 そのすれ違いざまに、

 

「お帰りをお待ちしております。お嬢様」

 

 優は姉妹の耳に顔を近づけ、そう言った。

 そのイケボ+イケメン+至近距離のコンボに、

 

「「ブフォッ‼︎」」

 

 秋神姉妹は鼻血を噴き出して倒れた。

 

「……チョロいですね」

 

 優は鼻で笑う。

 と、不意に魔理沙が優の腕を掴んでぎゅっと抱き寄せた。

 驚いた優が魔理沙を見ると、彼女は怯えたように身を震わせていた。

 魔理沙は伏し目がちに、

 

「優は、私だけの優なんだぜ……」

 

 顔が赤くなるのを隠して優の方に顔は向けなかったが、耳まで真っ赤になっていたため、バレバレだった。

 優は口元に微かな笑みを浮かべる。

 

「わかっているよ。俺は魔理沙だけの俺だし、魔理沙も俺だけの魔理沙だ」

 

 リア充オーラを漂わせ(というより、噴き出し)ながら、2人は霊夢の後を追うのだった。

 

 

 その頃、範人たちは天狗の里を目指して高速で飛行していた。

 

「範人さん、早く!」

「んなことわかってるよ! でも、ジェットを置いていくわけにはいかないだろうが!」

「優しいですね。まるでお父さんみたいです」

「うるせえ! ジェットも何か言ってやれよ」

「範人さんがお父さんなら大歓迎です」

「お前もかよ!」

 

 地底の緑髪の子も含め、小さい子たちからすると範人は保護者に非常に向いているらしい。




 こちら、今まで画像がなかったジェット君の見た目になります。

【挿絵表示】

 当初、フードの模様は予定になかったのですが、何もないと微妙だったため、描いたものになります。
 え? 優の画像がないって? ……上手く描けてないんです。頭の中に浮かんでいる優が上手く表せないんです……。

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